第152話 黒竜との戦い
まず俺は、セイラに抱きかかえられているユエルを見つめた。
彼女は、双子の兄であるウィルヴァが忽然と姿を消したことにショックを受けて気を失ってしまったのだ。
「セイラ、ユエルを安全な場所まで誘導して、一緒に待機していてくれ」
「ああ、いいけど……アタイもウィルが心配だから戦いたいよ、クロウ」
「気持ちは痛いほどわかるが、ユエルのことも心配なんだ。俺達に護衛してついて来ている騎士達もなんか怪しいし、ユエルだけを放置するわけにはいかない」
「騎士達ね……確かに胡散臭いね。これだけの事態なのに、ちっとも動かないよ。アリシア、どうなっているんだい? アンタの親父さんがよこした部下だろ!?」
「私が知るわけがないだろ。しかし不審なのには変わりない。戻った暁には、父上に強く抗議し言及するつもりだ」
「アリシアもセイラも、今はそんな話をしている場合じゃない。俺達だけで、エルダードラゴン級の
しかも、セイラとユエルが不在となる中で……。
その
こちらの出方を伺っているように見える。
普段の『竜』なら果敢に襲い掛かってくるのに、この
やはり戦略を練ってくるタイプか……一番、厄介な相手だ。
しかし、まだ勝機はある。
幸い、彼女達は無事だったからだ。
あとは、きちんと協力してくれるのか……それが問題なのだが。
チクショウ!
早くしないと、3分経っちまう。
もし、ウィルヴァとシェイルが『竜』に呑み込まれてしまったら、胃の中で消化されてしまう時間だ。
残り2分。
俺は、カーラ達を凝視する。
「おい、あんたら! 時間がないが、一応確認するぜ! ウィルヴァとシェイルを助けるため、俺達に協力するよな!?」
「勿論だ、クロック・ロウ。ウィルヴァ様を救うためなら力を貸すよ!」
「はい、ですぅ!」
「ここは休戦ってやつだろ?」
「……承知」
カーラ、ロータ、フリスト、スヴァーヴの四人の女子達が素直に了承する。
「なら、全員俺と握手しろ! 触れるだけでいい! それが仲間の誓いってやつだ!」
言いながら俺はチラッと
ずっと威嚇した状態で動かないでいる。
「クロック……こんな時にふざけた男だな? まぁ、いいわ」
カーラ達は愚痴を零しながらも、俺の手に触れていく。
シェイルはあんなんだが、この子達は割と素直な性格だと思う。
不思議にアリシア達と重なる部分もあるしな。
それに、さっき見せた彼女達の特殊スキル能力は非常に強力だ。
なんとか戦える目処ができたぞ。
全員と握手を終え、俺は次の指示を送ることにした。
「まずはセイラ、ユエルと安全な場所で待機していてくれ!」
「わかった、気を付けなよ!」
セイラはユエルを抱きかかえたまま遠くへと離れていく。
彼女が護ってくれるのなら、ユエルは大丈夫だろう。
「よし、今度は俺達全員で――うおっ!」
身構えた途端、
怒涛の如く大地を踏み揺らしながら疾走し、その地響きが重々しく俺達の身体を揺らしていく。
土煙が砂嵐のように舞い上がり、迫り来る巨体から醸し出す圧倒的な迫力に誰もが畏怖した。
俺も思わず声が裏返ってしまう。
不意を突くトリッキーな攻撃も、この
ならば――!
俺は両手に握りしめていた
「いつまでも、びびってばかりだと思うなよ――《
特殊スキルの術式を発動させた。
光輝を纏う円型の『時計盤』を出現させ、瞬時に巨大化させる。
これほどまで膨張させてしまうと、スキルの源である『魂力』を大幅に消費してしまうが、その分回避されることはまずあり得ない。
使用回数も限られている技だし、いっきに決めるつもりで放った。
「くらえ!」
その名の通り、半透明の《
強襲を仕掛けて向かって来る、
よし、奴の動きさえ封じれば、後はパーティ達でフルボッコだ。
しかし――
フッ
「馬鹿な!? どうなっている!?」
よく見ると、巻き上げられた土煙も消え、地響きも消失していた。
「……おそらく闇魔法による幻影。
「幻影だと!?」
まさか俺がカンストしている自慢の技能スキル、「索敵」や「鑑定」を見誤るほどの幻影魔法で惑わされたっていうのか!?
これが
だとしたら、本物の『竜』はどこだ?
「クロウ! 頭上だよ――」
ディネが長い両耳をぴーんと張りながら上空を眺めていた。
俺も上を見上げると、その光景に驚愕する。
「なっ!
そう、奴は俺達の上空を飛んでいたのだ。
正確には浮いているという表現が正しいだろうか。
あの巨漢にしては小さい両翼を必死で羽ばたかせながら、頭上を浮いていたのだ。
しかし奇妙だ。
俺達全員は陽射しを浴びているし、足元にはきちんと影がある。
だが太陽は、俺達の頭上に浮く、
「これも全て『竜』が施した幻影魔法ですぅ! このままだと、私達は踏みつけられてしまいますぅ! 皆さん、気をつけてください!」
途端、
「クソォッ! 全員、逃げるぞ――《
俺は特殊スキルを発動させ、その場にいる全員を数秒後の「逃げた結果」まで
ドゴォォォォン!
無事に逃げ切ったのに、その衝撃は地面を伝って俺達にまで響き渡った。
今度こそ幻影ではなく本物だと理解する。
あ、危ねぇ……。
前もって、アリシア達には触れておいて正解だった。
カーラ達も嫌がらず触ってくれた良かったと思う。
「……これが、クロックの能力。凄いね……」
「はい、噂以上ですぅ」
「やるじゃないか、アンタ」
「……感服」
カーラ、ロータ、フロスト、スヴァーヴの四人は、俺の能力を体感して褒め称えてくれる。
なんか照れ臭い……。
それに思いの外、いい子ばかりじゃないか?
一応、この子達も『
胡散臭いシェイルなんかと違って、とてもそうは思えないんだが……。
い、いや、それよりも――。
「う、うぐぅ……」
俺は膝を崩し、その場で蹲る。
「クロウ様!? 如何なされましたか!?」
アリシアが駆け寄ってくる。
「……なぁに、ちょっと『魂力』を消費しただけさ」
二度も《
相当な『魂力』を消費しちまっている……。
このままじゃ、みんなの足手まといだ。
「まだ追撃はある……いざとなったら、俺を置いてみんな逃げてくれ」
「何を仰いますか!? 貴方様を置いてくなどあり得ません!」
「そうです、兄さん! 私達はずっと一緒です!」
「簡単に諦めちゃ駄目だよ、クロウ!」
アリシア、メルフィ、ディネの三人が、俺の両脇を支え寄り添ってくれる。
彼女達の健気な姿に、俺の目頭が熱くなる。
「ありがとう三人共……最後まで諦めないよ」
そうだ。
あの投げ遣りだった、糞未来とは違う!
今の俺には信頼できる仲間がいるんだ!
必ず勝って、ウィルヴァを救い出す!
――俺がそう強く念じた瞬間だった。
突然、ふわっと身体が軽くなった。
温かな旋風が、足元から頭部にかけて、優しく包むように纏わりついている。
俺だけじゃなく、アリシア達全員の身体にも。
「――《ストーム・ストーム《嵐×嵐》》。皆さんの身体能力を大幅に向上させました。『魂力』も同様ですぅ。クロックさんも、あと一撃くらいなら大技を繰り出せるでしょう」
ロータが特殊スキルで、俺の『魂力』ごと向上させてくれたのだ。
「す、すまない」
まさか、敵かもしれない子に支援されるとは思わなかった。
どう反応していいのか戸惑ってしまう。
「気にするな、クロック。アタシらにだって流儀ってのがあるさ」
「特に受けた恩は返すのが道理」
「……至極当然」
他の子達も、俺を庇う形で『竜』と対峙しようと前に出ている。
フッ。
気付けば、俺は笑っていた。
彼女達の誠意を目の当たりにして、何かが吹っ切れた気分だ。
「――よし! これからは俺達のターンだ!」
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