第149話 クロウの疑惑
地表に打ち付けられた、スカイドラゴン達は藻掻き苦しみ、のたうち回っている。
飛行能力は失っても、その巨体からの突進力や牙による攻撃、また炎を吐くことが可能だ。
まだ油断できない状況は続いている。
「よくやった二人共! 次はスヴァーヴの特殊スキルで『竜』の意識を奪い、最後は僕とフリストで止めを刺すよ!」
「「承知」」
ウィルヴァと共に、
「……能力発動――《
スヴァーヴの背後から真っ白な濃霧が発生し、地べたで暴れるスカイドラゴン達へと覆われていく。
瞬間、『竜』は長い首を左右に振り咆哮を上げるも、突然糸が切れかのように頭部を地面に叩きつけた。
そのまま動かなくなり、唸るような重低音が響いている。
まさか寝息を立てているのか?
にしては、時折巨漢を何度も大きく痙攣させている。
「流石はスヴァーヴだ! たとえ『竜』相手でも即効で眠らせ悪夢を見させることができる! オレも行くぞ――《
疾走するフリストという
身体から陽炎のように、ぼんやりと何かが浮き出てきた。
――もう一人のフリストだ。
しかも一体でなく、泡のように増えて増殖していく。
その数、目測で50体はいるのではないだろうか。
淡い存在だった、フリスト達はより立体的な姿となり、最終的には誰が本体なのか判別ができないくらい鮮明となった。
みにつけている衣服から武器に至るまで完璧に再現されているように見える。
いや再現ではなく分裂、あるいは
50体のフリストは、動かなくスカイドラゴンに向けて一斉に飛び掛かり、専用武器であり巨大な刃を持つ
その光景は蝗害の如く、まさに「数の暴力」と言えた。
破竹の勢いで、1頭のスカイドラゴンを無惨に斬り刻むと、次の1頭へと群がり攻撃を与えていく。
一見してシンプルな戦法だが、対人戦闘を考慮した場合、これほどヤバイ相手はいないだろう。
何せ一度に50人を相手にしなければならないのだから。
「最後は僕が決める――
ウィルヴァの全身が眩い光輝を発し黄金色の閃光と化した。
特殊スキル能力で身体を光熱と変え、移動速度を
一筋の光が線を帯びながら、3頭のスカイドラゴンの強靭な鱗ごと頭蓋骨を貫き、その光熱効果により炎に包まれていく。
ウィルヴァはいつの間にか、俺達の前に立ち
濃霧が晴れていき、俺達が斃した
先程まで50体ほど存在していたフリストって
こうして1分も経過しない内に、5頭のスカイドラゴンは斃されてしまった。
うん。
悔しいが抜群のチームワークのようだ。
ウィルヴァの指示があってこそかもしれないがな。
それに詳細は不明だがパーティ女子達も高レアリティの特殊スキルを持っているようだし、実力ならSランク以上の腕前だと思った。
「やっぱ、ウィルヴァは凄いね。的確な指示といい、アタシらの特徴をよく把握してくれているよ」
カーラは言いながら、二丁の
「その通りですぅ! 信頼できる
ロータは丸眼鏡のレンズをキラッと光らせている。
「まったくだ。オレもウィルヴァ様と共に戦えて誇りに思えるよ」
フリストは仲間達と合流し、ニッと白い歯を見せて笑っている。
「……マスター、天才」
スヴァーヴは仲間達の背後でぼそっと呟いていた。
相変わらず女子達の全員がウィルヴァに絶対の信頼を寄せているようだ。
なんか、自分達のパーティを見ているようで恥ずかしい。
そういや一人だけ、戦闘に参加していない奴がいたっけ。
「――様、尊き命を奪ったこの者達の罪を赦したまえ」
シェイルは両手組んで祈りを捧げていた。
信仰する神だろうか?
他の女子達は平然と勝利を称えているのに、彼女だけは神妙な表情で命を捧げているように見える。
天敵である竜に対して祈りとは、これまでただの残念なネェちゃんだと思っていたけど、意外と優しい所もあるようだ。
「洞窟で斃した
ウィルヴァは表情を緩ませ、俺に向けてやたらと爽やかな微笑を浮かべてくる。
「あ、ああ……そうだな」
俺は目を反らし頷いて見せた。
何も知らないウィルヴァは、純粋に俺との勝負にこだわっている。
俺もそのつもりで挑んでいるが……この林間実習自体が、こいつらを黒か白かを見定めるための作為的なイベントだけに、どう向き合っていいか戸惑ってしまう。
……クソォッ。
こういう時に限って、ウィルヴァの笑顔が眩しく見えて仕方ない。
つーか、なんで俺が罪悪感に苛まれているんだよ!
もし、ウィルヴァが何も知らされず、ただ利用されているだけなら、俺が義理父のランバーグをこの手でぶん殴ってやる!
あいつの都合で、ウィルヴァの未来を棒に振りやがったんだからな!
「クロウ君、どうしたんだい? さっきから様子が可笑しいよ?」
ウィルヴァは首を傾げて聞いてくる。
「え? いや……流石だなって思ってよ。ちょっとばかり、びびっちまったところさ」
「またまたぁ、先にクロウ君達の戦いを目の当たりにしたから、僕らが奮起して頑張ったんだ。キミ達の戦いは本当に参考になるよ。だから、キミが謙遜することじゃない」
「お前こそ……いや、なんでもない。それより他の『竜』は出てこないようだな。打ち止めってやつか?」
俺は話題を変えると、再びウィルヴァは真剣な表情になった。
「……きっとそうだろうね。残りは、
「夜行性だからな。それに俺達が無傷で手駒を全て斃したから、巣の中で警戒しているのかもしれない。このまま乗り込む手もあるが……」
「さっき戦った身としてはやめておいた方がいいよ。暗闇こそ、
ウィルヴァの言葉に俺も同調して頷く。
また発せられる咆哮は冒険者達の意識を錯乱させるだけでなく、幻覚を見せて仲間同士を戦わせて共倒れさせる効力もあった。
きっと、ウィルヴァ達が逃げてきたのも、それを警戒したからもあるだろう。
パーティ全員が一撃必殺の能力を持っているほど逆に危ないからな。
今さっき拝見した限りじゃ、みんなシャレになっていない。
俺のパーティも似たようなもんだ。
「ではクロウ様、如何いたしましょう? このまま出て来るのを待っていても埒が明かないかと思います」
アリシアが不安そうに意見してくる。
「問題ない。俺は
俺は言いながら、ベルトポーチの中から一枚の真っ赤な葉を取り出し広げて見せた。
「あっ、クロウ、それって前に
ディネが笑顔で尋ねてくる。
この子は前回の実習で間近で見ていたからな。
カラレシの葉は、燃やしたり炙ったりすると煙が出て、目や舌など粘膜を染みらせる効果を持つ。
洞窟から引きずり出すのに最適のアイテムでもある。
まぁ、巨漢の『竜』にでも効果があるんだから、俺達ヒト族が煙を吸ったり浴びたりすると、かなりヤバイことになるけどな。
「ちょっと、クロック・ロウ! まさか貴方、そんな酷いことをするつもりなの!?」
いきなり、シェイルが噛みついてきた。
しかも、やたらと憤った表情だ。
さも『竜』に対して酷い真似すんなよ的な。
先程の祈る姿といい。
この女……やっぱ、シェイマじゃね?
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《スキル紹介》
〇スキル:
能力者:フリスト
タイプ:強化型
レアリティ:SR
【能力】
・自分の分身を50体まで創り自在に連携して攻撃することができる。
・能力者が身につけている装備や武器も分身能力の対象となる。
・分身しても攻撃力が低下することはない。
・1体でも生きていれば、その者が「本体」となり死ぬことはない。
【弱点】
・使用時間あり、5分間しか発動できず強制解除される。
・発動後、魂力が回復するまで使用できない。
〇スキル:
能力者:スヴァーヴ
タイプ:放出型
レアリティ:SR
【能力】
・霧を発生させ浴びた者を一瞬で相手を眠らせ、悪夢を見ながら精神を崩壊させる。
・複数でも同じ効果が得られる。また視覚を奪い幻術のように見せることも可能。
・知的種族~竜に至るまで、夢を見る程度の知能がある生物なら該当する。
・有効射程距離も長く、約1キロは届く範囲である。
【弱点】
・知能の低い生物、屍系には効果を得られない。
・風系の魔法に弱い。
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