第147話 因縁深き成竜




 洞窟から、見覚えのある6人の男女がこっちに向かって走ってくる。


 間違いなく、ウィルヴァとそのパーティ達だ。

 だけど、やたら必死な形相に見えるぞ。


 一応、声を掛けてみるか。


「おい、ウィルヴァ!」


「やぁ、クロウ君! やっぱりキミもここに来たんだね!?」


 切羽詰まった感じの癖に、爽やかに微笑を見せる、ウィルヴァ。


 他の女子パーティ達も息を切らしながら近づいてくる。


 あのシェイルって女子もだ。

 一番体力が無さそうだが、意外と他の女子達に遅れを取った様子もない。


 にしては激しく息を切らしており、顔立ちは美少女なのに酷い形相だった。

 なんか追い詰められ、火事場の馬鹿力を発揮したぞって感じに見える。



「どうした? 洞窟の中で何があったんだ?」


「『竜』さ――エルダードラゴンと戦っていたけど、このままだと不利だと判断して撤退していたんだよ」


「やはりエルダードラゴンがいるのか!? 他にも『竜』はいるのか!?」


「ああ、従っていた『ソイル・ドラゴン土竜』が5頭ほどいたけど、全て僕らで斃したよ」


 あの猛毒を持つ、ソイル・ドラゴン土竜を斃しただと?

 しかも5頭も? これだけの人数で?

 

 俺達パーティも、俺がEXTRAの術式 《タイム・シールド時間盾》を発動すれば、不可能じゃないけど……凄すぎないか?

 全員、疲労は見られるがダメージらしき損傷は見られない。


 S級どころかSSS級の冒険者さながらだ。


 それに配下が、ソイル・ドラゴン土竜ってことは……まさか、正体は。


「――相手は、ブラックドラゴン黒竜か?」


「ああ、そうだよ。良く分かったね、クロック君」


ブラックドラゴン黒竜は夜行性だ。暗い場所を好み、このような日差しを遮る巣を造る習性がある。だから似たような習性を持つ、ソイル・ドラゴン土竜と相性がよく配下として従えているんだ」


「流石だね……大正解だ。竜学士さながらの知識だよ」


 まぁな。

 これ全部、未来でお前が俺に説明したことだけどな。


 にしても……ブラックドラゴンか。



 ギリッ!



 俺は奥歯を噛みしめ、拳に力を入れる。


「クロウ様、どうされましたか?」


「い、いや……別に相手にとって不足はないって感じさ」


「クロック兄さんが生まれ育った村を襲い、ご両親を食い殺したのが、そのブラックドラゴンなのです」


 事情の知るメルフィが、俺に代わって説明してきた。


「なんと……」


「そうかい……じゃあ、クロウ、アンタの仇ってわけだね、その『竜』は?」


 セイラが拳をバキバキ鳴らし聞いてきた。


「いや……そいつが俺の両親を殺した『竜』とは限らない。たまたま、ここに生息しているただけかもしれないしな」


 確認する術はある。

 イエロードラゴンで行ったように斃す寸前まで追い詰めて、思念でやり取りすればいい。


 どの道、ここで決着をつけてやる!


「でも、メルフィ? 今の言い方だと、まるで他人事だよね? だって妹のメルフィにとっても仇かもしれないんでしょ?」


 ディネが珍しく鋭い指摘をしてきた。


「あっ、いえ、勿論です! 私にとっても討ち斃すべき敵です!」


「妹殿の仰る通り、ここにいる全員が『竜』とはなんらかの因縁を抱えている! あんなおぞましい存在など、この世にあってはならぬのだ! ましてや『竜』を守護する教団など、阿呆としか言えぬ!」


「なんですってぇ! 金髪の女騎士! もう一度言ってご覧なさい!」


 アリシアの鼓舞に、シェイルがいきなり大声を上げる。


 こいつ……やっぱり竜聖女じゃね?


「シェイルって言ったな。アリシアの言う事に何か文句でもあんのか?」


 俺に指摘され、シェイルは一瞬気まずい表情を浮かべる。


「文句があるわけないでしょ! まさしくその通りだから、もう一度言ってとお願いしたんです!」


 若干苦しい言い訳にも感じるが、そう言われちゃそれまでか。

 考えてみりゃ、顔立ちが「シェイマ」に似ているだけで他は何一つ証拠はないんだからな。


 あくまで今は、ランバーグ伝手の先入観での疑惑だ。


「ウィルヴァ様――そろそろブラックドラゴンが姿を見せるよ、どうします?」


 銃術士ガンナーのカーラが両手に握り締めた『魔拳銃ハンドガン』の銃口を洞窟に向けて指示を仰いできた。

 回転式六連の『魔拳銃ハンドガン』であり、魔法が込められた弾丸ブレッドを装填し、敵に向けて遠距離からでも攻撃を与えることができる武器だ。


 弾丸ブレッドによって、その効果が異なり中には、仲間を回復したり補助して支援する効果を持つ弾丸ブレッドも存在する。


「僕達の大半は、あまり狭い洞窟だと思うように戦いにくい特殊スキル能力ばかりだからね……それで、こうして外へと逃げてきたんだ。ここで迎え撃とうじゃないか!」


 ウィルヴァの指示で、パーティ達は頷き臨戦態勢を取り始める。

 連携も図れているようだ。


「勿論、クロウ君達も戦うだろ?」


 白々しく片目をつぶり、ウィルヴァが尋ねてくる。


「そのつもりだけどいいのか? お前の得物だろ?」


「相手はエルダードラゴンだからね。勝負に勝つことも大事だけど、第一に生き残ることを優先しなければならない。僕らとキミらで戦った方が無難だろ?」


「確かにその通りだ」


「それに僕らは、ソイルドラゴンを6体斃しているから、まぁまぁのポイントを稼いでいるからね」


 なるほど、全て計算済みってわけか。

 流石だと言いたいが……。


 いや、やめておこう。


 今は戦いに集中するべきだ。


 ん? 待てよ?


「ウィルヴァ、お前達についていた、護衛役の騎士達はどうした?」


「ん? 洞窟前に待たせたんだけどね……いつの間にか姿が見えないね」


 どうやら、ウィルヴァ達についていた騎士団達が姿を消したようだ。

 一方で俺達について来ている騎士団達は、遠くに離れているが視界内にはいる。


 しかし奇妙な連中には変わりない。

 もし俺達がピンチになっても助けてくれるか胡散臭く感じるぞ。



 ゴゴゴゴゴゴ――――!!!



 大地を揺らす程の地響きが鳴り響き何かが近づいてくる。


 やばい。


 そうこうしている内に、ブラックドラゴンが迫ってきたぞ。


「みんな、戦闘態勢を取ってくれ! 姿を見せた途端、俺が『竜』の動きを止める! 後は定番のボコ殴りだ!」


「「「「「「はい!」」」」」」


 俺の指示に、パーティ女子達が威勢よく返答する。

 みんな俺を信頼してくれている証だ。


「竜の動きと止めるって……そんな簡単に出来るのかい、クロウ君?」


「他所のチームに、ちゃちゃ入れてんじゃねーぜ。ウィルヴァ、お前も戦いに集中しろ」


 呑気に言ってくる好敵手ライバルに、俺は塩対応で注意を呼び掛けた。

 こいつは大抵の事態に陥ってもマイペースだからな。


 洞窟から巨大な物体が見えてきた。


 ん? 複数だと!?


 背中と手足に幾つもの鋭い棘の突起物が生えた甲羅を持つ、巨大なワニのような姿をしたドラゴン達。


 あれは、ブラックドラゴンじゃない!


「――ソイルドラゴンだと!? 地中にいる奴らが地上に現れるなんて嘘だろ!?」


 しかも、目測で10頭もいるぞ!


 まるでブラックドラゴンが送り込んだ刺客のように、俺達へと向かって襲い掛ろうとしている。


 そうか、こいつらイエロードラゴンと同じなんだ。


 『竜』は自分より、上位の『竜』から命令が下れば、本来の生態や習性を関係なく忠実に従うらしい。


 つまり低級であるソイルドラゴンは、上位級のブラックドラゴンに強制的に指示され手駒として動いているのだろう。



 俺は先頭に立ち、両腰の鞘からブロードソード片手剣を引き抜いた。


「――上等だ! 一気に決めてやるぜ――《タイム・シールド時間盾》!!」


 刃を重ね、特殊スキルを発動する。


 重ねられた刃から眩く光輝を発した半透明の『時計盤』が出現した。

 円盤状のそれを瞬時に膨張させ、高台の洞窟を覆うほど巨大化させる。


「うおおおっ!」


 気鋭の叫びと同時に『時計盤』は発射され、洞窟から出てきた全てのソイルドラゴンに接触しながら通過され消滅した。



 ――そして、時が止められる。



 10体のソイルドラゴン達の動きは停止された。

 

 意識は勿論、体内に流れる血液や猛毒である牙や棘でさえ、放たれた『時計盤』に触れたもの全てが対象である。


 これが、俺の《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の術式、《タイム・シールド時間盾》の効力だ!



「後は持てる最大の力で一斉に始末する! みんな行くぞ!」


 俺は駆け出し、その後を最も信頼のおけるパーティ達が続いて行った。

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