第143話 クロウの迷走
「どういう意味だい、クロウ君?」
ウィルヴァが普段通りに微笑を浮かべて聞いてくる。
「いや……そっちも全員、S級の冒険者だと聞いているからよぉ。見たところ、そのシェイルって子が一番浮いているような気がしてな」
冒険者にしちゃ体力がなさすぎる。
現に同じ聖職者であるユエルだって、息を乱すことなく俺達について歩いているからな。
「ああ、なんでもシェイルは格式の高い貴族出の子らしいからね。冒険者となって、まだ日浅いと聞いているんだ」
「聞いている? ウィルヴァ、お前が引き抜いたんじゃないのか?」
「違うよ、
なんだって?
じゃあ、エドアール教頭が話ていた通り、このパーティ全員があの腹黒いランバーグが手引きした子達ってわけなのか?
なんだかキナ臭せぇぞ。
「
「公爵である親の力を借りた僕に幻滅したのかい? けど仲間探しは実力とか関係ないからね……時間や運も必要だし、利用できることは利用していかないとね」
まぁ、一理はあるけどな。
ウィルヴァも仲間が見つからなくて悩んでいた時期もあった。
言っていることは、何一つ間違っていない。
そもそも未来の記憶と経験を武器にしている俺に、ウィルヴァを咎める資格もないけどな。
「しかし、今回の過酷な林間実習の内容じゃ、その子は持て余してしまうんじゃないか?」
「クロック・ロウ! 黙ってきいていれば、貴方、この私がウィルヴァ様の足手まといだと言いたいの!」
「アタシもクロックに一票だね」
「まったくもってその通りですぅ!」
「ズバリ、そのままじゃないか? ええ?」
「……シェイル、邪魔」
「はぁ!? 揃いも揃って、貴女達ィ! 後で覚えてなさいよぉ!!!」
仲間パーティ達にもウザがられ、シェイルは激昂する。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。確かにシェイルは体力がないけど、
ウィルヴァだけが、やたら彼女を庇い持ち上げている。
その言動に、シェイルは頬を染め益々メロメロになり今にもとろけそうになっていた。
満更、数合わせやおまけの子じゃないと言いたそうだ。
だけど、このシェイル。
やっぱりどっかで見覚えがあるぞ。
もう少し探りを入れて……
「――クロウ君、僕達のことよりも、今は実習に集中しないかい? キミのパーティの子達も心配しているよ」
ウィルヴァに指摘され、俺は後ろを振り返る。
アリシア達が不安そうな表情で、俺の方を見つめていた。
「あ、ああ……そうだな。すまない。それじゃ、お互い健闘を尽くそうぜ」
「勿論だよ、クロウ君」
ウィルヴァに笑顔で見送られ、俺は自分のパーティ達がいる場所へと戻った。
「みんな、勝手に離れてしまってすまない。日が暮れる前に、見晴らしのよい場所で野営をするぞ。狩りは明日から開始する」
「わかりました、クロウ様」
アリシアが返答し、他のパーティ女子達も頷いた。
なんだかんだ、俺達はチームワークが良いからな。
対して向こうはウィルヴァを中心にまとまってそうだけど、明らかにシェイルが足枷になるのは目に見えている。
今の段階では、俺達の方が有利っぽく見える。
だが他のパーティ達の特殊スキルは不明であり未知数だ。
シェイル以外は、間違いなく高ランクの冒険者だと見ているから気を付けなければならない。
つまり舐めても油断しちゃいけないってやつだな。
そう考えつつ、俺はチラっと後ろを振り返る。
ウィルヴァ達は別ルートへ向かったのか姿がみえなくなり、その代わり少し離れた所で鎧を纏った10名の騎士達が後をついて来ていた。
カストロフ伯爵の配慮で選抜された騎士達である。
彼らは護衛役として、双方のパーティに配置されている。
したがって、つかず離れずにああしてついて来ているのだ。
きっと俺達について来ているのは建前上のフェイク。
本命はウィルヴァ達について行った騎士達だろう。
彼らこそ、見張るために使わせた監視役なのだ。
ウィルヴァが義理父であるランバーグの悪事に加担していないか見定めるために――。
……クソォッ、なんて嫌な感じなんだ。
そんなこと関係ない。
考えないようにしよう。
いくらそう思っても、つい思考が過っちまう。
あのシェイルに関してもそうだ。
ウィルヴァを含む全員が『
だから勘繰って探りを入れようとしちまった。
どの道、ウィルヴァはもう『
本当ならこんな林間実習なんて、やる意味なんてないのに……。
「――兄さん、クロック兄さん!」
「あ、メルフィどうした?」
野営をしながら、俺はずっとその事ばかりを考えていた。
それでも
夕食を食べながら、ぼーっとしている俺に、メルフィは密着し小顔を覗かせてきたのだ。
「さっきからどうしたんです? 疲れていますの?」
「いや、そういうわけじゃ……ごめん」
「ならいいんですけど……兄さん、後で二人っきりでお話しがあるんですけどよろしいですか?」
「ん? ああ……いいけど、わかったよ」
俺は返答し、みんなの顔色を伺った。
アリシア、セイラ、ディネ、ユエルは複雑な表情を浮かべるも、メルフィは俺の妹だと思い口を出せないでいる。
これぞ妹特権ってやつだな。
義理だけど……。
食後、みんなから見える大樹の裏で、俺はメルフィと二人っきりになる。
「話ってなんだい?」
「少し待ってくださいね」
メルフィは言いながら、
すると、一瞬で周りの音が消えた。
「これで、皆さんには会話が聞かれないでしょ? ディネさんとセイラさんは地獄耳なので」
にっこりと微笑む、メルフィ。
確かの彼女達の聴力は半端ないけど、もう少し言い方があると思う。
「そこまでして聞かせたくない話か?」
「私は構いませんが、聞かせると傷つく方もいます……特にユエルさん」
「ユエルだと?」
俺が聞き返すと、メルフィはこくりと頷いた。
彼女はユエルと同じCクラスなだけあり、ディネと同様に普段から割と仲がいい方だ。
「ユエルが傷つく話って……ウィルヴァのことか?」
「……いえ、正確にはウィルヴァさんが連れて来たパーティの子、シェイルに関してです」
「シェイル? ああ、少し、いや大分変った奴だな……俺のこと随分毛嫌いしているし」
「兄さん、気づきませんか? 彼女が誰かに似ているって?」
「ああ、それな。俺もどこかで会った気がするんだが……ずっと、どっかで引っ掛かっているんだよな……」
「――竜聖女シェイマ」
メルフィの言葉に、俺は引っ掛かっていた感覚が一気に解き放たれた。
「あ!? そうだ! シェイマか!?」
何で今まで気付かなかったんだ。
「まぁ、思い出せないのも無理はないかもしれませんね……私と違って、兄さんが直接会ったのは、ほんの束の間でしたから、まともに声すら覚えてないでしょ?」
メルフィに問い掛けられ、俺は素直に頷いた。
実際にシェイマと会ったのは、わずかな間でしかない。
あとは、セイラの《
けど、メルフィは違う。
シェイマ率いる狂戦士達と死闘を繰り広げ、あと一歩まで追い込んでいる。
きっと俺達の中で、誰よりも鮮明に覚えているに違いない。
ましてや優秀な
記憶系は誰よりも得意とするところ。
「チクショウ! そうとわかっていれば、もう少し探りを入れたのによぉ! はっ、そうだ! 今からでもリーゼ先生に頼んでサーチしてもらえば――」
「クロック兄さんはそれでいいの?」
「どういう意味だ、メルフィ?」
「シェイルって人が、本物のシェイマなら間違いなく他のパーティの人達も『
メルフィなりに俺の気持ちを汲んで助言してきた。
なまじ俺がウィルヴァを良き
だからこそ、このまま失脚させていいのか、彼女なりに考えてくれているようだ。
確かにそうなんだが……。
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