第142話 二学期、林間実習開始




 ついに二学期の林間実習が始まろうとしていた。


 競い合う舞台ステージは、『闇光あんこうの樹海』っという森だ。


 ミルロード王国の領土であり、最も外れにある場所だが、結界も張られてなく長年放置されている区域である。

 その名の通り光を閉ざすほど険しい木々で覆われており、あらゆる魔物モンスター達が蠢いているという危険地帯だ。


 噂によると、エルダードラゴン級の『竜』の巣があるのではないかといわれている。


 本来なら、S~SSS級の冒険者か現役の勇者パーティが狩場としてクエストに挑むのが妥当だろう。

 参加する俺達全員がS級の冒険者であるとはいえ、学生が林間実習をするような場所に相応しいとは思えない。


 おそらく、俺達を窮地に追い込むことで実力を見極めようとしているのか。

 

 あるいは、疑惑のあるウィルヴァとそのパーティ達の尻尾を掴もうとしているのか。


 真相を知る俺は、この『闇光あんこうの樹海』をチョイスしたエドアール教頭の思惑が強く感じられていた。




 スタート地点にて。


 俺達パーティは、ウィルヴァのパーティ達を共に横一列に並ばされている。


 整列している前に、学年主任のスコット先生と支援役でリーゼ先生が立っており、少しはなれた場所でカストロフ伯爵率いる騎士団が待機していた。


「アリシア、どうした?」


 俺は隣の立つ、女騎士を気に掛ける。


「い、いえ……なんでも。大丈夫です」


 アリシアは柔らかい微笑を浮かべる。


 最近、彼女の様子が何か可笑しい。

 時折だが妙に余所余所しく見えてしまう。


 特に俺がウィルヴァの話をするとだ。


 今もそうだ。

 

 ウィルヴァが普通に挨拶をしているのに、彼女は奴と目を合わせようとしない。

 何か引け目を感じた様子を見せている。


 二人の間で何かあったのか?


 それとも、ウィルヴァが俺達の戦力を裂くために、アリシアになんらかの布石を踏んだのか?


 まさか、あの真っすぐなウィルヴァに限って……。


 しかし、ソーマ・プロキシィの件で手を結んだ時に感じたが、野郎は他人を欺く術に長けていると感じた。

 自分の成績をあえて落とし、そいつを推しはかったり、一端優位に立たせて調子に乗らせて正体を炙り出そうと仕掛けたりする。

 

 戦闘能力だけでなく心理戦も得意とする男……。


 出だしから負けるわけにはいかない。


 ――俺はアリシアの手を握りしめた。


「ク、クロウ様?」


 切れ長の双眸を見開き、彼女は俺を見つめた。


「俺はアリシアを信じている。だからアリシアも俺を信じてほしい」


「はい、勿論です! 我が主よ!」


 アリシアは晴々とした表情になり、元気よく頷いてくれる。

 どうやらいつもの調子を取り戻してくれたようだ。


 しかし、何か変なのはアリシアだけじゃないかもしれない……。


 最近、俺もなんだか可笑しいんだ。


 特にアリシア……。


 実は彼女の手を握りしめているだけで、ドキドキしてしまう。


 きっと、彼女が俺の初恋である『黄金色髪の少女』だと思えてしまっているから……。

 

 よく見れば、髪の色以外にも藍色の瞳や綺麗な顔立ちなど、よく特徴を残している。

 あれから、今日の林間実習に備えてタイミングを逃してしまったが、終わった後にでも聞いてみるのもいいかもしれない。


 もし、そうだったら、俺はアリシアとどう向き合ったらいいのだろうか?

 

 いや、仮に違っていたとしても……俺のアリシアには違わない。


 ただ、このまま主従関係ってのも、アレかなっと思い始めているわけで。



「んん! ちょっと、クロウくん! 何、先生達の前で堂々とイチャコラしているのぅ! そういうの、最初は先生にしてくれるかな!?」


 リーゼ先生が咳払いをして、大きな両乳を揺らしながら指摘する。

 つーか、何気に指摘内容が間違ってますよ。


 俺とアリシアは「すみません……」っと謝罪し、すぐ手を離した。

 そして案の定、他のパーティ女子達に凄く睨まれてしまう。


「ごほん! リーゼ先生も教師として公平にお願いします」


「……すみません」


 スコット先生に厳しく窘められ、身を縮こめてしまうリーゼ先生。

 なんか申し訳ない気分だ。


 そのスコット先生が一歩前へと近づいた。


「これから林間実習を開始する。期間は2泊3日、どちらがより多くの魔物モンスター、また強力な『竜』を狩れるのかのポイント制だ。今回は『証』を残さなくていい。全て、護衛兼監視約である騎士団が回収してくれるからだ。またリーゼ先生もスキル能力で支援してくれるだろう。困ったことがあれば、先生と通信でやり取りしてほしい」


 説明を受け、俺達は一斉に「はい!」と返答する。


 スコット先生は説明を続けた。


「それと諸君らも知っての通り、この『闇光あんこうの樹海』は長年放置されているだけあり、どれだけの強力な魔物モンスターや『竜』が潜んでいるかわからない! 諸君らは栄えある次期勇者パラディンとパーティ候補であり、実力も他生徒を凌ぐ才能もある! しかし教師の立場として言わせてもらうが、競い合うあまり決して無茶をしないでほしい! 無事に生きて戻ってくることも勇者パラディンとしての責務であることを忘れるな!」


 檄を飛ばしてくれる先生に、俺達は再び大きな声で返事をした。


「では林間実習、初めーっ!!!」


 スコット先生の号令が口火を切り、俺達は『闇光あんこうの樹海』へと入って行った。



 思いの外、険しく茂った木々である。

 その名の通り、光を遮った薄暗く不気味な森だ。


「こりゃ、暗視スキルが必要だな。まぁ俺は問題ないけど~♪」


 俺は余裕そうに、カンストした技能スキルを発動する。

 なんら問題なく周囲を見渡した。


「流石、クロウだね。アタイもこれくらいなら問題ないね」


 五感に優れた半獣のセイラも余裕そうだ。


「ボクも森の精霊達が教えてくれるから大丈夫だよ~」


 エルフ族のディネルースにとって、ここは専用領域フィールドだ。

 前回の林間実習でも、その有能性は発揮されている。


 アリシアやメルフィそれにユエルも、俺達が先導することで迷わず進むことができる。



 一方のウィルヴァ達は、まだ俺達の近くで並ぶように歩いていた。


「……マスター、こっち」


 暗殺者アサシンであり悪魔族デーモンである、スヴァーヴというジト目の少女が中心に先導していた。


 他、ハーフエルフの付与魔術師エンチャンターである丸眼鏡をかけたロータという少女も森に詳しく、褐色の肌でがっしりした体形の女部族戦士アマゾネスのフリストも職種スキルで地形を把握するスキルがあるようだ。


 そんな彼女らの後を、ウィルヴァと赤毛の銃術士ガンナーのカーラがついて来ている。


 さらにその背後では――。


「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと、貴女達、私を置いてかないでくれますぅ?」


 糞生意気なシェイルが息を切らしながら、遅れをとって歩いている。


 なんだこいつ、もうバテているのか?


「本当、シェイ……ルは体力ないっすね~! アタシらの足を引っ張らないでくださいよ~!」


 カーラが手招きしながら叫んでいる。

 勝気そうなイメージの彼女だが、何故かシェイルには敬語口調っぽい。


「私は貴女達と違って、温室育ちなんです! ウィルヴァ様のためとはいえ、どうして私がこんな疲れる目に……」


 挙句の果てに文句まで言い出した。


「仕方ない。僕が手を引いてあげるから、こっちにおいてシェイル」


「はい、ウィルヴァ様~♡」


 シェイルはダッシュして、ウィルヴァの手を握る。


 十分に元気じゃねーか。


「ちょい汚ねぇ! シェイル、いい加減にしなよ!」


「ウィルヴァ様の手が汚れてしまいますぅ! わたしが付与魔術エンチャントで足腰を強化してあげますぅ!」


 カーラとロータは、現金なシェイルを責め立てる。


「まぁまぁ、まだ実習は始まったばかりじゃないか? ロータも無駄な魔力を消費するものじゃないよ。今なら大した魔物モンスターも現れないだろう」


 ウィルヴァに窘められ、二人の少女は「は~い」と従う。

 

 シェイルだけは状況を満喫し嬉しそうだ。


 しかしこいつらも、糞未来の女子達を彷彿させるほど、ウィルヴァに夢中だな。


 それに気になることもある――。


「なぁ、ウィルヴァ。そのシェイルって子、本当に冒険者なのか?」






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