第139話 クロウの戸惑い
「ユエルがどうかしたんですか? まさか義理の娘である彼女もランバーグ公爵と何か関わりがあると?」
「今の所、その証拠はない。幸か不幸か、彼女はランバーグから冷遇を受けていたようだからね……実はそれもフェイクという可能性もある」
「バカな!?」
再び、俺は頭に血が上ってしまう。
ついに、エドアール教頭の机を両手でドンと叩いてしまっていた。
だが教頭も伊達に150歳長生きしているわけじゃない。
俺のいきり立つ行動など物怖じせず、じっと冷静に見つめていた。
「……あくまで可能性の話だよ、クロック君」
「正義と愛を象徴する女神フレイアを信仰する、ユエルに限ってそんな筈はありません……今まで一緒にいた時だって怪しい行動など微塵も見せたことがありません!」
「だろうね……特に彼女の場合、疑ったらキリがない。だがランバーグが『
エドアール教頭は強い意志を持って断言した。
その迫力に、俺は後ろに下がり何も言えずに沈黙してしまう。
どうやら、エドアール教頭の中でユエルは曖昧らしい。
だけど、ウィルヴァは完全に疑惑を抱いている。
最初は動揺しちまったが、こうして思考を冷静にすると、エドアール教頭の言わんとしている意味は俺にもわかる。
――あの糞未来。
ウィルヴァ・ウェストは確かに真っ当な
けど、怪しい動きもなかったとは言い切れない。
特にパーティ達、アリシア達……。
俺が雑用係として仕事をしていた時、よくみんなで姿をくらませていた。
当時やさぐれていた俺は、「英傑色を好む」と思い込み、ずっと見て見ぬ振りをしていた。
けど今の時代のアリシア達を見ていると、そんな不純なことをするような子達には見えない。
い、いや……見えないよな?
……多分。
正直、普段の俺に対しての溺愛ぶりを見ていると、あまり自信はないけど……やっぱり俺は彼女達を信じたい。
だとしたらだ。
あの未来で、ウィルヴァは彼女達に何かしていたのか?
だから、みんな俺に対して冷遇していたのか?
現に、この時代の彼女達はとてもいい子ばかりだ。
劣等生だからって、誰かを見下す言動は一切ない。
寧ろ、そういう連中に対して一緒に毛嫌いするほど……。
だとしたら、ユエルはどうなんだ?
あの子は未来も現在も変わらない……ウィルヴァの妹だから?
――いや、そんな筈はない!
ユエルこそ天使その者じゃないか!?
ウィルヴァだって、すげぇいい奴なのに……。
それに百歩譲ってそうだとして、ウィルヴァが俺を陥れて一体なんの得があるってんでだ?
――
必ずっと言っていいほど、その言葉が過っちまう……。
俺の特殊スキル
確かに自分の特殊スキルを自覚してから、俺は人生が180度変わった。
今じゃ、次期
ウィルヴァが圏外となった今じゃ、ほぼ確実に俺になるだろう……。
後は、俺が「竜撃科」に移動すりゃ、エドアール教頭は間違いなく決定する筈だ。
しかし、いいのか?
こんな勝ち方で?
そもそも勝ったと言えるのか?
俺は、どうしたらいいんだ?
「――クロック君が戸惑う気持ちは十分に理解しているつもりだ。教師である私も正直、悲しい……キミ達二人は良き
「……教頭先生。まだ、ウィルヴァがそうだと決まったわけじゃないですよね?」
俺の問いに、エドアール教頭は難色を示している。
「そうだと言いたい……だが、私なりにウィルヴァ君とユエルさんのこれまでの経歴を調べさせてもらった。怪しいどころが曇りすら何一つない、真っ白で綺麗な兄妹だ。但し出生以外はね」
「辺境の村に住む老夫婦の間に生まれたと聞いてますけど?」
五年後の未来で、ウィルヴァ本人から聞いた話だけどな。
「詳しいね、クロック君……その老夫婦と辺境の村が実在した形跡がなくてね。普通、あれだけの綺麗な双子なら辺境の村とはいえ、当時の話題くらいにはなっていたろ?」
「そうですけど……」
「まぁ、あくまで自己申告だからね……『竜』に襲われて、幼い頃の記憶が曖昧だって言えばそれまでだ。だが、今回転入してきた子達も素性や経歴やはっきりしているが、逆にはっきりしすぎて胡散臭いところもある」
「ウィルヴァのパーティですね?」
「そうだ。引き抜いたのも、紆余曲折こそしているもランバーグ伝手だしね。だとしたら、自然と『
確かにその通りだ。
次第に俺もそう思えてきた……。
クソォッ! だけど!
「エ、エドアール教頭先生は……俺にどうしろと?」
「今回の『林間実習』は言わば、ランバーグを含むウィルヴァ君達を泳がせ見極めるために用意した
「どうしてです?」
「キミは『
どうやら、エドアール教頭の中では、俺が次期
クソォ!
あれだけ真剣に目指していたのに、まるっきり嬉しくねぇ!
こんな、もやもやした形で決まったって……。
「ランバーグの件は、我ら大人達に任せてほしい。必ず追い詰めて企みを阻止してみせるよ。『
カストロフ伯爵が言ってきた。
今回の林間実習で騎士団が護衛役なのは、ウィルヴァ達の行動を監視するためのようだ。
「賢明なクロック君なら、私達の言っている意味を理解してくれたと信じている。あと、この事は他言無用で頼むよ」
誰にも言えるわけねぇっての……。
アリシアのことといい、あまりにも重すぎる内容だ。
こうして、急展開と大人達の思惑について行けないまま、俺は教頭室を後にする。
とりあえず、Eクラスへと向かった。
廊下で、アリシア達が待っていてくれている。
ユエルもいた。
ウィルヴァと奴のパーティ達の姿はない。
「クロウ様、ゾディガー王からどのような伝言を?」
アリシアが普段通りに聞いてきた。
「ああ、一応は口止めされているんだけどね……ソフィレナ王女のことさ。また王城に来てくれだとさ」
「クロック兄さんのこと気に入られたことは別にいいんですけど、所有物扱いは困りますね……私の兄さんなんですからね!」
メルフィ、お前も兄と称して所有物扱いすることが多いからな。
「王女様は好きだけど、お城とか堅苦しくて苦手だね~」
「そうだな、ディネ。俺もそう思うよ(姫さんとも、しばらく会わない方がいいな)」
「クロウ、それだけかい? にしちゃ随分と話が長かったじゃないか?」
「……まぁね、セイラ。後は『竜撃科』に異動しろって言われ続けていたんだ。んで、いつもの通り断ってひと悶着あったって感じ」
俺の嘘に、女子達が「そっか~」と頷き納得する。
基本、正直者(自画自賛)なので、信頼する彼女達への嘘は心が痛い。
「それで元気がないんですね、クロウさん」
「ユエル……うん、でもみんなの顔を見ていたら大分元気になったよ」
俺の返答に、ユエルを初めみんなが優しく微笑んでくれる。
特にユエルの慈愛が込められた優しい表情に、俺の胸が強く締め付けられた。
ユエルが悪事に加担しているなんてあり得ない。
きっと何も知らないまま、義理父に冷遇を受けて過ごしてきたんだろう。
そういやネイミア王国で、ランバーグと会った時、彼女は浮かない顔をしていた。
案外、義理父の悪事を知りながら、何も言えないのかもしれない。
ユエルは優しい子だからな。
俺はそう思い込む。
いくら疑惑があり、思い当たる節があろうと、ユエルだけは信じることにした。
放課後となり。
掃除当番だった俺は掃除を終え、一人でパーティ達と待ち合わせの場所へ向かう途中だった。
「やぁ、クロウ君」
背後から声を掛けられる。
――ウィルヴァだ。
今、最も会いたくない奴に会っちまった。
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