第138話 好敵手への疑惑




「……アリシアがそんな酷い目に遭っていたなんて……俺は何も知らなかった。それだもん、あいつも家族の話をしたがらないのも頷ける」


 もろ、カストロフ伯爵の前だってのに、思わず口を滑らしてしまう。


 俺にとっても、それくらいショックな事実だ。


 未来で超最悪なムカつく女騎士だったけど、そんな目にあっていれば性格が捻じ曲がってしまうのも頷けるかもしれない。


 ましてや、当時の俺のように不貞腐れ、やる気のない飄々と態度をしていれば、イラっともするか……。


 いや、でも、あの未来は酷過ぎだったよな?

 それを差し引いても何か納得いかねー。



「クロック君の言う通り、アリシアが……あの子が一番不憫な思いをしているだろう。あの子を養女として受け入れた時、ブリットも最初は愛情を注いでいたが、アウネストが生まれてから人が変わってしまったからな」


「アウネスト? 弟さんですよね? どうして?」


「――無能力者だからだよ、彼は」


 エドアール教頭が答え、カストロフ伯爵は黙って頷いた。


「無能力者……つまり、特殊スキルのない一般人」


「そういうことだ。伯爵家で将来は騎士団長の地位を引き継ぐ長男が、無能力者だと世間からバツが悪いだろ? 一方で、アリシア君はSR級の高スキルを持つ能力者だ。ましてや養女なら、余計に面白い筈がないさ」


「……確かにそうかもしれません。俺もスキル鑑定で、レアリティの低い『E』扱いで嫌な思いしていましたから」


「それを言われると、私も耳が痛いね……けど、アウネスト君だって高等部に入れば、スキルを身につけることはできるんだよ」


「そ、そうなんですか?」


「私の裏技だけどね……クロック君だから話すけど、退学になり奪った生徒の特殊スキルを移植させるんだ。それが、私の特殊スキル能力でもあるからね」


 マジかよ……。


 そんなことが出来るのか、エドアール教頭。

 他人に別のスキルを与えるなんて、一体どんな能力なんだ?


 ああ、だからか。


 前にアウネストは「姉と個人で会うのは高等部に入ってから」だって言ってたのは……。


 きっと、特殊スキルを身につけて一人前になってから、アリシアと腹を割って話そうとしているのだろう。

 勝手な憶測だけど、あの時のアウネストの表情から、俺にはそう思えた。


「ゾディガー王は、アリシアのこと知っているんですよね? 俺と一緒に何度か謁見していますけど、そんな素振りはなかったような気もするんですけど……」


「あの子から聞いてないかい? 私は何度か、アリシアをミルロード王城に連れて行っているんだ。遠くからでも、陛下にあの子の姿を見せるためにね」


 カストロフ伯爵に問われ、俺は最初にミルロード王城に訪れた際のアリシアとの会話を思い出した。


「確かに言っていましたね……まさか、そういう意図があったとは……」


「ゾディガー王も、実は今でもアリシアのことを愛している。だがブリッタ王妃の意向を組みソフィレナ王女を娘として引き取った。アリシアを私に預ける形でね」


 なるほど。

 ゾディガー王も本心では、アリシアを返して欲しいけど、王妃の手前何も言えなかったんだな。


 カストロフ伯爵も複雑な胸中はあるも、忠誠を誓うゾディガー王に配慮して、アリシアの姿を見させていたのだろう。


 だけども……ってやつだな。


「……結局は双子であるブリッタ王妃とブリット奥様の確執も、話が複雑化した原因だったんですね?」


「お恥ずかしながら、そういうことだよ、クロック君」


「うむ、流石は次期勇者パラディンだね……大人の事情をそこまで汲み取れるとは、まだ16歳とは思えないよ」


 エドアール教頭に褒められ、思わず俺は絶句してしまう。

 久しぶりの自分の精神年齢が21歳であることを自覚した。


 しかし待てよ?


 アリシアが5歳まで孤児院にいたんだよな?

 

 これまで、あいつが俺に執着する理由って……何度か言いかけた、高等部に入学する以前から俺に会っていたって話って……。


 ――おいおい!


 あの黄金色の艶髪といい、俺の思い出にある『初恋の金髪少女』?


 ひょっとして、アリシアが?


 い、いや……そんな偶然あるわけない。



「――カストロフ伯爵から、キミに伝えることは終わったところで、ここからは本題なんだけどね、クロック君」


 エドアール教頭はキリっと表情を変えて言ってきた。


「はい」


「ランバーグについては、さっきの話でキミも理解した筈だ。表向きは温和な懐刀であり、裏の顔はゾディガー王の私兵であること。また時にその地位と保身を守るため、主の娘ですら拉致するような非情な面を持ち合わせた奴であるということをね」


「はい。俺には正直、信じられないですけど……」


 戸惑いを見せる俺に、エドアール教頭は片眼鏡を外した。

その吸血鬼ヴァンパイアならではの、紅の瞳で凝視してくる。


「だからこそ、ウィルヴァ君も怪しいんだよ……特に今回の件だ」


「今回の件? 竜守護教団ドレイクウェルフェアですか? ウィルヴァが怪しいって何がです!?」


 俺はカッと頭が熱くなる。

 エドアール教頭に迫り、責め立てるように問い詰めてしまっていた。


「落ち着きたまえ、クロック君。よく考えて見たまえ、ウィルヴァはとても優秀な男だ。まるで神に愛されているのではと思える程、どれをとっても完璧な逸材だと言えよう」


「そこは俺も嫌になるほど理解しています!」


 5年後の未来でも十分すぎるほどにな!

 きっとウィルヴァに関しては、エドアール教頭なんかよりも遥かに詳しいだろーぜ!


「……そんな優秀すぎる男が、義父であるランバーグの正体に気付かないと思うかね?」


「うっ、な、何が言いたいのですか……教頭先生は?」


「これは私の憶測だが、ウィルヴァ君も一枚、いやそれ以上にランバーグと結託し、以前のように『国王反対派』をでっち上げ、竜守護教団ドレイクウェルフェアと繋がっている可能性がある――そうですね、カストロフ伯爵?」


「はい。エドアール殿下のご協力を得られ、ミルロード王国中の貴族邸を調べましたが、案の定『反対派』など存在せず、見事なまでに痕跡が消されていました」


「じゃあ、繋がっている可能性なんて……」


「まぁ、クロック君、聞きたまえ。確かにミルロード王国では痕跡を消されてしまったが、隣国であるネイミア王国ではそうはいかない。特に『イサルコ王太子殿下、毒殺事件』ではな……」


「どういうことですか?」


「隠密任務に特化した私の部下が、主犯格であるドリィ令嬢の証言を頼りに、彼女に薬を売ったとされる闇商人を探し当てたのだ……それが、ランバーグ公、いやランバーグで間違いない」


「え!?」


 マジか!?

 あのウィルヴァが見せた鮮やかなまでの推理ショーが……。


 その黒幕が、義理父であるランバーグ公爵だってのか?


 カストロフ伯爵は力強く頷く。


「――『呪殺術毒カースポイズン』。呪術とスキル能力を混合させた呪殺魔法だ。ランバーグはその任務上、闇魔法系に長けているようだ」


「今だから言えるが、きっと本来の目的はソフィレナ王女を毒殺するつもりだったのではないかと考えている。しかし、彼女には常に優秀な勇者パラディン候補のパーティが張り付きその隙は無い。しかもリーダーであるクロック君なら、毒を服用する前の状態に時を戻すこともできるだろ?」


 エドアール教頭に問われ、俺は首を縦に振って見せた。


「はい……失った液体は元には戻せないですが取り込んだ液体なら、その前の状態に戻すことはできます」


「だから標的を変更したのだ。ソフィレナ王女からイサルコ殿下にな。そして、ドリィ令嬢を誘導して実行させたのだろう」


「その上でウィルヴァ君が謎を解き、見事彼の手柄としてミルロード王国に持ち帰る。筋書としては見事だと思わないかい?」


「……全て、あの親子の自作自演だと?」


「真実はわからない。だが疑いは十分にある。理由はさっき言った通り、優秀なウィルヴァ君が何も気づかないのは怪しいと思っても仕方ない。それだけ、私も彼を評価していたからね」


 ましてや、ネイミア王国では、ずっと義理父と共に行動していたとなれば……か。


 なまじ優秀すぎるが故に――。


 しかし、わからない!


 仮にランバーグが悪人として、あのウィルヴァがそれに加担するとは思えない!


 奴こと、五年後はちゃんとした勇者パラディンだったんだ!

 そこは紛れもない事実だ!


 ……勇者、してたのか?


 俺の脳裏にある疑念が過り始める。


 五年後の未来、あの糞みたいな勇者パーティ……。


 アリシアやメルフィ……他の子達の冷遇……。



「それと、クロウ君と同じパーティであり、ランバーグの義娘である『ユエル・ウェスト』さんのことなんだけどね」


「……ユエル?」


 エドアール教頭が何を言わんとしているか。


 俺は耳を塞ぎたくなる思いで聞き入っていた。






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