第132話 竜守護教団の実態




 シェイマはフッと微笑を浮かべる。


「ロータ、褒め言葉として受けとめておきましょう。まぁ、ダガンの処分は『教皇様』から密かに命じられていたことでしたので、その点では奴らには感謝しなければなりませんね。勿論、私の《バーサーク・レクイエム狂戦士の鎮魂歌》の効果を直接ダガンに送らせた貴方の特殊スキルにもね……」


「――お言葉ですが、そんな悠長なこと言っていていいんですかい?」


 ふと扉側から勝気な声が響く。

 見張り番のように、壁際で両腕を組みながら立っている赤毛のショートヘアでテンガロンハットを被った人族の少女。


「どういう意味ですか、カーラ?」


「クロック・ロウ達にキルさせたことで、ダガンの存在をおおやけに晒したようなものじゃないですか? しかもスキル・カレッジの教師による特殊スキルのせいで、『教団』との繋がりや『竜人リュウビト』の存在まで露呈されている。おまけに遺体まで綺麗なまま回収されているなら、間違いなく『教皇様』から与えられた任務は失敗したってことじゃないんですか?」


「それらも含め既に『教皇様』には報告済みです。それにミルロード王国に知られても大した問題にはなりません。きっと一般公開されることなく、ダガンの遺体と情報は機密保持扱いで半永久に保存されるか秘密裏に抹消されるでしょう」


「……ランバーグ公爵様がいるからですか?」


「そうです。事実上、ミルロード王国のNo.2ですからね。あの方からも上手く処理してくれるとのことです」


 あっさりと答えるシェイマに、カーラは眉を顰める。


「……そこまで信用していいんですか?」


「当たり前じゃないですか? 現に指名手配中のわたしが大袖を振って、こうして王都内を歩けるのも、ランバーグ公爵様が手配した戸籍のおかげですよ。あと今の私は『シェイル』という見習い神官ですから、よろしく」


 どうやら本来は水色髪であるシェイマは、変装のため黒髪に染めているようだ。


「確かによくしてくださるのはわかる……けど」


 カーラは以前から、ランバーグ公爵を胡散臭い部分が多く信用せず、何か企んでいるのではないかと睨んでいる。

 何を目的にしているのか不明だが、彼女達が本来所属している『教団』こと『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の活動に不利益をもたらすのではないかと感じていた。


 一方のシェイマは、やれやれと首を横に振るう。


「まぁ、カーラ。そういう疑り深い所も、銃術士ガンナーとしての長所だと思っています。客観的な視点を持つ方も必要でしょう……ただ表立っては無礼になりますので気を付けるのですよ」


 実は自分以外、パーティ全員がランバーグ公爵を怪しんでいるとは知らない竜聖女シェイマ。


「……わかりました、シェイマ様」


 カーラも『教皇様』に報告しているのなら、ここで噛みつく話ではないと割り切った。


「ところで、フリストとスヴァーヴの二人はどうしているのです?」


「ええ、二人はウィルヴァ様と共に1階の受付場で報酬金を受け取っております。順調にクエストを達成しているので……もうじき、こちらへ来られるでしょう」


 その報告に、シェイマは照れたように頬を染める。


「ついにお会いできるのですね――ご子息様に。貴方達が夢中になる方……初めてです、このように胸がドキドキ高鳴るのは」


「ちょい、シェイマ様! アタシらだって自重してんだ! ウィルヴァ様にこそ無礼な真似したら、たとえ竜聖女様でもただじゃ置かないよ!」


 段々と敬語から素の口調となる、カーラ。

 彼女達、パーティ四人にとってウィルヴァへの想いだけは純粋であり嘘偽りはない。


「わかってます、わかってますぅ♪ あと、カーラにロータ、今の私は『シェイル』ですからね~。『様』は不要なので気を付けてくださいねぇ、うふふふ」


 シェイマは浮かれるあまりに、身体をくるりと回転させ法衣服を靡かせる。

 

((どうでもいーわ、そんなの……))


 はしゃぐ上司である竜聖女に対して、カーラとロータは口に出さず同時にそう思った。






**********



「……ダガン、やっと死んでくれましたか?」


 男が一人、閉め切った薄暗い部屋の中で呟いた。

 身にまとう真っ白な祭服ベストメントは『竜』を模した金色の装飾が鮮やかに縫い込まれている。

 手には二頭の『竜』が絡み合う意匠の権杖ジェーズルが握られていた。


 男はデスクに置かれた燭台しょくだいの蠟燭に向け、異ともいえる細長い指を添える。



 ボウッ……。



 極微小だが何かが破裂した音が聞こえ、蝋燭に火が灯された。


 薄っすらと明るくなり、男の全身像が浮き出される。


 その男――明らかに人族ではなかった。


 一見して爬虫類のように見えたが、リザードマンのような厳つさや好戦的な獰猛さは感じられない。

 全体的にすらりと細い長身で、立ち姿に知性と気品を感じる。

 顔つきも蜥蜴トカゲというよりも、『竜』と『人族』を組み合わせた雰囲気を持ち、蝋燭の薄明りに光沢を発する真っ白な鱗は強靭な『竜』そのものだ。

 頭部に長い黒髪が背中まで流れており、二本の角が左右に生えている。



 ふと扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 異形の男が返答すると、法衣服をまとった女性神官が部屋に入ってくる。


 紫色の髪を丁寧に後ろ編み込んでおり、大人びた綺麗な顔立ちをした女神官であり、若干目尻が下がっている。

 特に左瞳の下側に泣きぼくろがあった。


「エナですか? どうされましたか?」


「はい、ドレイク教皇――ミルロード王国に潜伏するシェイマからご報告がございます」


「わかっています。ダガンのことですね?」


「はい。例の『トキの操者』とその仲間達が仕留めたそうです。遺体はミルロード王国の衛兵隊によって回収されました……これで本当に良かったのでしょうか?」


「構いませんよ。他の国ならいざ知らず、ミルロード王国ならね」


 あっさりと言い切る異形の姿の男に、エナと呼ばれた神官は眉を顰める。



「……ドレイク様は、ランバーグを信用していると?」


「まさか……あれは、ただの道化師です。ワタシと真に利害が一致しているのは、あくまで『銀の鍵』に導かれた『彼』のみです。『彼』の手足であるランバーグなど興味ありません」


「彼……ゾディガー王ですか?」


 エナは再度聞くも、ドレイクと呼ぶ異形の男は何も答えない。


「……きっと『彼』がランバーグに命じて、ダガンを記録から抹消するでしょう。ワタシの特殊スキル《ディエス・イレ怒りの日》が唯一施せない存在でしたから……」


「紛い者なりにも、竜人リュウビトとして貴方と同じ存在だったからですか?」


「はい。ダガンは、ワタシの複製として創った『試作体プロトタイプ』でしたが、見ての通り『竜』の血を濃くしすぎた失敗作です。唯一収穫があったのは、特殊スキル能力を備わっていた点だけでしょうか?」


「ドレイク様以外の竜人リュウビトは必要なのでしょうか? 手駒なら、以前のように野良の『イエロードラゴン』に命令を下せば……」


「悪戯にエルダードラゴン級と『共同』すると、エンシェントドラゴン達がうるさいですからね……奴ら記憶だけは生前のまま保持していますから……確か奴らは『人間界』から死んで、こちらの世界に来たのでしたっけ?」


「他次元からの転生者……『竜神様』がなせる奇跡とはいえ、興が過ぎると思いますが……」


「……『トキの操者』を育成するには必要な要素ファクターだと聞いています。ですが……」


「ですが?」


「クロック・ロウは危険な存在に変わりません……そこは詳細を知らないシェイマと考えが一致しています」


「しかし始末するわけにはいきません……それこそ『竜神様』の怒りに触れるでしょう」


「……わかっています。クロック・ロウは『銀の鍵』達に任せるしかないでしょう――鍵である『息子』と『娘』達にね。エナ、竜聖女の貴方は部下であるシェイマに計画通り指示を送ってください」


「わかりました、ドレイク教皇」


 エナは丁寧に頭を下げ、静かに部屋から出て行った。


 ドレイクは椅子に腰を下ろし、壁一面に描かれている壁画を眺める。


 二頭の『竜』が互いの尾を食らい合う紋章――竜守護教団ドレイクウェルフェアの証。


「――この世界で竜人リュウビトは、もうこのドレイク・クエレブレだけとなってしまった。偉大なる『竜神様』のお告げにより『トキの操者』という聖杯・ ・を手に入れるためとはいえ、歴史上どれほどの同族を失ったことか……次は最後の生き残りであるワタシが生贄となる番……そうならないための身代わりとして『ダガン』を創ったのですが……これも運命とやらですか? 『銀の鍵』よ――」


 教皇にして最後の竜人リュウビト


 ドレイク・クエレブレ。


 その異形の表情から、果たして何を思い黄昏るのか誰も読み取れない。






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