第131話 女子達の焼き餅と今の想い




「……中盤までは、流石は我が『主』らしく、実に見事な作戦であり戦いでした。ですが、終盤のアレはその必要があったのでしょうか?」


「アタイもそう思うね。ユエルが背中に抱きついた時点でムカっとしたねぇ……まさかと思うけど、クロウ……アンタ、狙ってたんじゃないだろうね?」


 アリシアとセイラが並んで両腕を組み、仁王立ちで俺を凝視している。

 二人とも背がすらりと高く迫力がある分、なんか怖い。

 まるで、五年後の未来を彷彿させる威圧感だ。


「そ、そんなわけないだろ!? 事前にちゃんと作戦を伝えただろーが!? 第一、俺じゃなきゃ誰が炎の中を潜り抜けられるってんだ!?」


 俺は身を縮め、反論して正統性を訴える。


「だからと言って、二人が何度も抱擁する必要があったのでしょうか? ユエルさんをダガンの頭上に導けば、クロック兄さんの役割はそこで終わりです。兄さんだけ撤退してもよろしかったんではないでしょうか? 炎の云々でしたら、別に私のタイミングで自由に解除できた話です」


「ボクもそう思うね。『いや、ダガンが動いて落ちそうだから、ユエルを支えた』って言いたいなら、それも可笑しな話だよ。だって、ユエルは《イクアリティ・フェイト公正なる運命》を発動中だったんだから、いざって時は自力で脱出できるよ」


「妹殿とディネの言う通りですね……寧ろ、デッドウェイトであるクロウ様がいらっしゃらない方が、ダガンが倒れた際もユエルは自分だけでも空を飛んで撤退できたのですから……クロウ様とて同様ですよね? そもそも二人が抱擁を続ける意味がわかりません」


 なんかやばい。

 みんな口調こそ、普段通りだが確実に言葉に棘があるぞ。

 俺がユエルに抱き着く目的で、この作戦を立てたと思っているようだ。


 もう、誰もダガンの死を悲しむどころか、俺への不信感と疑惑の方で思考が一杯になっている。

 元々そういう所のある子達だけどなんかもう酷くね?


「先生、思うんだぁ……クロックくん、いくらお嫁さん候補の子でも、物事には順序ってのがあるからね~。まだ勇者パラディンになってないんだから、先生にとっては浮気と変わりないからね~!」


 大人である筈のリーゼ先生が一番ストレートに指摘してきた。


 確かに、俺もユエルと抱擁できて満更じゃなかった。

 いい匂いしていたし、とても柔らかく素敵な感触だったわ。

 つーか嬉しい。ラッキーだと思ったね。

 何せ彼女は唯一糞未来のトラウマがない片想いの女子だったからな。


 けど、今はみんなの事だって大切だと思ってんだ。

 

 そこだけでも誤解を解かないと……。


「わ、悪かったよ……みんなが指摘するのも一理あると思う。俺の手際が悪かったのは認めるよ……けど、適材適所って言葉もあるからな。ユエルでなければ、ダガンを安らかに終わらせることはできなかったわけだし、俺はユエルだけを置いて自分だけ撤退することはできない。たとえ、ユエルが自力で逃げられるとしても、確実に見届けるまで安心できない……そう思ったんだ」


「わたしも、クロウさんにやましい心があるとは一切思ってないわ。勿論、わたしもです。それにクロウさん、最後の最後までダガンが正気に戻らないか頑張っていたのですから……普通、ここまで親身になる方はいらっしゃないと思います」


 俺の説明に、ユエルも加勢してくれる。

 五年後の糞未来じゃ、女子達が凶暴すぎる余り、いつもおどおとして控えめな子だった。


 けど今のユエルは胸を張って堂々と説明している。

 少なくても未来よりも相当成長したと思う。


「うむ……すまない、ユエル。それにクロウ様……そのぅ、つい二人の仲を勘繰ってしまいました」


「アタイもさ……特にユエルとは親友なのにね。許しておくれよ、クロウ」


「ごめんなさい、兄さん……それにユエルさんも」


「ボクもごめんね~。クロウも普段、ボク達とユエルの対応が違う時があるから……そのぅ、ついね~」


 ユエルの毅然とした態度に心を打たれたのか、女子達は納得し始めて謝罪している。

 けど地味に、最後の方でディネが痛いところをついてきたような気がした。

 

 確かに対応は違うかもしれない。

 でもユエルと違って、みんなには糞未来のトラウマもあるから、それはしゃーないじゃんって感じ。

 

 それも含め、俺も今後は改めていきたいと思っているんだ。


「クロックくんも素敵な子達に囲まれて幸せだね~。先生も嬉しいよ~、みんな~、一緒に頑張って、クロックくんを支えようね~、ファイト!」


 どうして俺が素敵な子に囲まれることで、リーゼ先生が幸せなんだろう?

 一緒に支えるってどういう意味なんだ?


 駄目だ……この先生が最も取扱いに困るんですけど。


「クロウ達は本当に見ていて飽きませんわ。わたくしも自立できるよう頑張りますわ!」


 ソフィレナ王女が何か決め込んだ様子で気合を入れている。

 ぶっちゃけ何を考えているか不明だ。


 まぁ、今はいいや。


「ありがとう、みんな理解してくれて嬉しいよ。それよりも、ダガンをこのまま放置させるわけにはいかない。とりあえず、ミルロード本国に報告してしかるべき対応をしてもらおう。まずは、みんなでダガンの冥福を祈ろう……」


 俺の言葉に、全員が素直に頷いてくれる。


 とりあえず、ダガンに向けてみんなで黙祷を捧げた。





 それから、リチャードを通して本国へ報告する。


 直ぐに大勢の調査団と兵士が来て、ダガンの亡骸を回収した。

 リチャードや地元住民を含め、全員がその異形な姿に驚愕する。

 

 ダガンから得た情報は俺達から日を改めて、騎士団長にしてアリシアの父親であるカストロフ伯爵に報告することになった。


 そんな感じで手続きが終わり、ダーナ村長を筆頭に地元住民達が海辺の清掃に入る。

 やたら急ぐのは、海水浴場として一般開放するのが目的らしい。


 まだ行楽シーズンだからな。

 少しでも稼いでおきたいのだろう。


 そんな中。


「クロック男爵、明後日から一般開放する前に、明日一日だけ皆さんで視察しては頂けませんか?」


 ダーナ村長が聞いてきた。

 周囲の住民達の手前、あえて俺を「男爵」と敬称をつけているらしい。

 恥ずかしいけど、爵位を与えられた以上はしゃーない。


「いいですよ。でも魔物モンスターとか危険な存在はいないと思いますよ?」


「……まぁ、それは建前という感じで。本当はこの度のお礼を兼ねて、皆さんで楽しんで頂きたいと」


 ダーナ村長はこっそりと耳打ちしてくる。


「え? つまり明日一日、俺達に貸し切ってくれるってことですか?」


「はぁい。どうかご遠慮なく」


 おお、ラッキーじゃね?

 これでようやく海で遊べるってわけだ。


 けど……ダガンの件もあり、はいそうですかってはしゃぐのもな……。

 なんか後ろ髪が引かれなくもない。


 しかし元々、それ目的で俺達はわざわざターミア領土に来たわけだし。

 この際、賑やかに遊び倒すのもダガンにとっての供養なのかな?


 俺は複雑な心境を抱えつつ、アリシア達に聞いてみる。


 全員が迷わず二つ返事で喜んで了承した。


 やっぱり、こーゆー子達なんだよ。

 俺と違って前向きって言うか、ポジティブなんだよな~。






**********



「ダガンが斃されましたね」


 ミルロード王国の王都に設置された冒険者ギルド3階から宿屋となっている。


 とある一室にて、足元まで長い黒髪を靡かせた美麗な少女が窓際で佇み、人通り溢れる街並みを眺めていた。

 真っ白な法衣服をまとった清楚感ある出で立ち、一見すると神官に見える。

 どこの宗派かは不明だが……。


「さも心を通わせたっぽかったから、もうちょっと躊躇するかと思ったですぅ。意外とあっさりとキルしちゃいましたね。やっぱ、あの醜い巨漢では大した情が湧かないようですぅ」


 黒髪少女の隣で、分厚い『魔導書』を広げる丸眼鏡を掛けた栗色髪のセミロングの少女。

 小柄な体形のハーフエルフであり魔道服ローブを着用している。


「そうですね、ロータ。奴らなど所詮は偉大なる『竜神様』の教えに背く邪教徒。いくら詭弁を並べようと、それが奴らの本質です……特にクロック・ロウっという男は――」


「……シェイマ・ ・ ・ ・様、相変わらずネチっこいですぅ。流石、竜聖女であり互いの尾を噛み合う『ウロボロス』ですぅ」


 ロータと呼ばれたハーフエルフの少女は、確かにその美しき黒髪少女のことを『シェイマ』と呼んだ。






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