第128話 謎の存在と突如の変貌




 ダガンという謎の知的種族の正体は、『竜人リュウビト』って存在が創り出した突然変異体ミュータントらしい。


 創られた目的は不明だが少なくても、ダガンは失敗作であり、竜人リュウビトに殺されそうになった所まではわかった。


(では、ダガン。お前はその『竜人リュウビト』から逃れて、ここに迷い込んで来たっというわけか?)


〔そう、オレ……にげた。オマエたちみたいなスガタもいた……タクサンいた……オレ、めざめたチカラでにげれた……きづいたら、ここにいる、オマエいる〕


 目覚めた力、特殊スキル能力だ。

 それにどうやら『竜人リュウビト』以外にも、俺達と同じ『人族』も大勢いるらしい。

 やはり、この海には逃げ延びて偶然に迷い込んでしいまったようだな。


 したがって、俺が指示した攻撃は早まってしまったようだ。

 ダガンはただ自己防衛のために反撃したにすぎない。


(攻撃して悪かった……いやガチで。俺達にとって、見慣れないアンタは脅威に思えてしまうんだ。もう危害を加えたりしないから、どうか能力を解除してほしい。悪いようにしない、国王に報告して手厚く保護してもらうから……)


〔クロック……キガイくわえない……アイシているから……てあつくホゴしてくれる……〕


 頼むから、「愛してる」ネタやめてくれ~、恥ずかしいわ!

 なまじ、こっちが悪いからツッコむにツッコめない……。


 すると――。


 突如、目の前の豪雨と暴風が止み高波が治まる。


 元の穏やかな海岸に戻った。


 どうやら、ダガンは俺達を信用してくれたようだ。


(ありがとう、信用してくれて)


〔クロック……シンヨウする。ホゴしてくれる〕


 生まれて、そう月日が経っていないからか。

 まるで幼児とやり取りしている気分だ。


 少なくても、ダガンから邪念がないのがわかる。

 だから住民達を追い払うだけで危害を加えなかったのだろう。


 自分も殺されかけられ逃げた恐怖から、そこは一線を引くようになったのかもしれない。

 明らかに『竜』とは違う、理性があり無害な奴だ。 


 俺達は慎重に、砂浜に足を踏み入れる。

 

 もう異常気象は起きない。


「あの者、どうやら我々を受け入れてくれたようですね……クロウ様の優しさのおかげでしょう」


「そうだな、アリシア。普通ならもうちょっと警戒するのにな……見た目によらず性格が純粋無垢なんだろう」


 ダガンの性格もあるが、一番はこうして思念でやり取りできたリーゼ先生の特殊スキル能力のおかげだと思う。


 先生がいなければ戦闘に発展しても可笑しくない状況だったからな。


 にしてもだ――。


 五年後の記憶を持つ俺は、ダガンの存在を知らない。

 ましてや『竜人リュウビト』なんて種族すら初めて聞いた。


 当時やさぐれていたとはいえ、俺だって勇者パーティの雑務係ポイントマンとして後ろ指さされないよう頑張っていた男だ。


 辺境地とはいえ、自国の異変に気づかなかったのだろうか?

 それとも、今までと同様に俺が介入することで未来を変えてしまっているのか?


(ダガン、一つ聞きたい。お前を創ったとされる『竜人リュウビト』はどういう存在なんだ? お前と似たような姿なのか?」


〔ワ、ワからない……タクサンのヒトから『キョウコウサマ』とよばれていた……みたメ、にてるけどチガう……おおきさはクロックとかわらない〕


 きょうこう様……教皇様って意味か?

 見た目はダガンのように直立する『竜』っぽいが、俺と同様の人族サイズってことのようだ。


 一体何者なんだ、そいつは?


(『竜人リュウビト』って奴は、その教皇様だけなのか? 他には存在しないのか?)


〔そ、それは……ぐ、ぐおっ……ぐおおお〕


 突然、ダガンは頭を抱えて苦しみ出した。


(どうした?)


〔オ、オレのアタマ……オクからオンナのこえ……ヒビいてくる……ワガ、イダイなる『リュウジンサマ』にミをささげよ……ジャキョウトどもをたおせ……〕


(おい! 何を言っている!? ダガン、しっかりしろ!)


 俺が近づこうとすると、ダガンは片腕を伸ばし制止を呼び掛ける。


〔く、くるな、クロウ……オレ……もう、おかしくなる――我らの『竜聖女』様、万歳。邪教徒共は死を! その血を大地に染めよ!!!〕


 最後の方だけは、明らかにダガンの言語じゃない。

 何者かに強制的に言わされている言葉だ。



 ヴゥオオオォォォォン――!!!



 ダガンの双眸が煌々と紅色に輝き、仰け反りながら咆哮を放つ。


 先程までの穏やかさは皆無。

 知性を無くし、凶暴性を剥きだした野獣のようだ。


「ダガン!?」


「兄さん、ここから離れて! みんなも早急に離れてください! 私、あの現象に見覚えがあります!」


 メルフィは後ろから俺にしがみつきながら、全員に向けて呼び掛けている。


「どういうことだ、メルフィ!?」


「あれは、竜聖女シェイマの特殊スキル――《バーサーク・レクイエム狂戦士の鎮魂歌》によく似ています! 自分の配下に訴えかけて死を恐れない『狂戦士バーサーカー』へと変貌させる能力です!」


 ああ、聞いたことはある。

 実際に目の当たりにしたのは初めてだが……。


「なら、ダガンが『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の信者か使徒だと言うのか!?」


「あの者、『創られた』と言っておりました。その教皇と呼ばれる『竜人リュウビト』とやらに……だとしたら、なんらか術を施されている可能性もあるのではないでしょうか?」


 アリシアの言う通りだ。


「……確か、その《バーサーク・レクイエム狂戦士の鎮魂歌》って能力は、シェイマの声が届く範囲だったよな? だったらシェイマは近くに潜んでいるってのか!?」


 俺は周囲に視野を向けるも、見晴らしの良い砂浜からは俺達以外の存在は見当たらない。

 声だって大声で叫ばない限り、海にいるダガンまで届くことはあり得ない。


「先生と同じ、遠くからでも直接脳に思念を送っているかもしれないよ……近くに、そういう特殊スキルを持つ能力者が仲間としているのかだね」


 リーゼ先生が普段とは違う真面目な口調で言ってきた。


 これまでの経過からも十分あり得ることだ。

 奴らは自分達にとって都合の悪いワードが出てくると決まって何かを仕掛けてくる。


 ソーマ・プロキシィの時といい、イエロードラゴンの時といい……。


狂戦士バーサーカー化させるってことは、あのダガンとアタイらと戦わせるつもりじゃないの!? どうすんのさ!?」


「クロウ、戦うの!?」


 セイラとディネが指示を求めてくる。


 このまま全力で逃げる選択もある……しかし、俺達がこの場を離れたら暴走したダガンは何をしでかすかわからない。


 きっと、地元住民に被害が及ぶのは必須だろう。


 ――ここは俺達が止めるしかない!


 しかし、さっきまで打ち解けていた相手を斃すことに抵抗がある。

 何も疑わず、俺の事を信用して受け入れてくれていただけに……。


「リーゼ先生……そのゴーグル型の特殊スキルで『分析』もできるんですよね? ダガンに施された狂戦士バーサーカー化を解く方法とかってないんですか……?」


「ごめんね、クロックくん……今、調べてみたけど、施した能力者しか解除できないようだよ。しかも、あの狂戦士バーサーカー化は魂の暴走みたいなもので、仮に解除できたとしても大抵は死に至るようね……」


 つまり一度でも狂戦士バーサーカーになっちまったら死ぬ運命しか待っていないってのか?


「……クソッタレ……どうすりゃいいんだ?」


 俺は奥歯を噛みしめ、理性を失い凶暴化していくダガンを凝視する。


 何も悪いことしていない存在を……ただ利用され操られているダガンを……俺はこの手でキルできるのか?



 ぎゅっ。



 誰かが俺の手を優しく握りしめる。


 ――ユエルだ。


 長く艶やかな銀髪を靡かせ、その左右の瞳が紫色と赤色である神秘的なオッドアイで、真剣にじっと見つめていた。






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