第127話 サンクチュアリ・ナビゲーター




「特殊スキルが使えるってことは『竜人リュウビト』だかも知的種族ってことだろ? なんとかこちらの意図を伝えることはできないのかな……」


「クロウ様、一体どうされるつもりで? まさかあのダガンという生物が話し合いに応じるとでも?」


「その通りだ、アリシア……今の攻撃は元を正せば俺達側に非がある。それを詫びた上で、可能であればこの領土から離れてもらうか、本当に害のない奴なら国に相談して保護してもらうかだ」


「あのような醜悪な身形にも関わらず、なんとお優しいお言葉……このアリシア、感服いたします!」


 確かにぱっと見は二足で立つ『竜』っぽいし、一目見れば「こいつ敵じゃね?」っと誰もが思うだろう。


 だけどダガンはあれから一向に攻撃してこない――。


 500メートルという特殊スキルの効果範囲を維持したまま動こうとしない。

 つまり、その領域さえ入ってこなければ何もしないという意思表示だと思える。

 現に奴は地元住民を襲ったという情報はないのだから。


「クロウさん、まさに勇者パラディンを目指す者として素晴らしい考えだわ。問題はあのダガンと言語でやり取りできるかでしょうか?」


「そこだな……ユエルはどう思う?」


「あの石柱モノリスに自ら彫り込んだとされる文字を見る限り、私達と同じ言語ではないのは明らかです。口頭でのやり取りは無理でないかと」


 だよな……困ったぞ。


 仮に武器を捨てて、平和そうな顔でしれっと近づいても奴がスキル能力を解除するとは思えない。

 それこそ、さっきの攻撃もあり警戒しまくっているだろう。


 このまま撤退して放置しても、ダガンの存在を知られたら討伐対象になり、いずれ軍も動くに違いない。

 見た目が直立した『竜』っぽいから尚更だ。



「あのぅ、クロックくん。先生の特殊スキル《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》なら、たとえ言語がわからなくてもダガンとやり取りできるかもよ~」


「リーゼ先生、マジっすか!?」


「うん、マジマンジ~。その代わり、先生が間に挟む形だけどね~。あと思念は送れるけど、必ず向こうから返答があるとは限らないからね~」


「それでも、俺達の意志くらいは伝えられの?」


「きっと野生化してなければ問題ないと思うけどぉ……」


 知的種族である以上、理性や意志くらいはあるだろう。


「先生、その能力の射程距離は?」


「本来は離れ離れになった仲間を探索するための能力だから、その人物が認識できていれば特にないよぉ」


 凄げぇな……。

 分析能力といい、非戦闘用とはいえレアリティが高い。


 流石、元勇者パーティの雑用係ポイントウーマンだな。

 でも、それだけの特殊スキル能力があれば他の職種も選べたんじゃないか?

 何故、劣等生揃いで有名なEクラスの担任になったんだろう?


「リーゼ先生、お願いします!」


「うん。わかったよ、クロックくん――《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》!」


 リーゼ先生の双眸に、白銀色のゴーグルが浮き出し装着される。

 そのまま、じっと500メートル先の海に浮かぶ、ダガンを見据えた。


「クロックくん達にチャンネルを合わせたよ。ダガンに思念を飛ばすことができるよ。相手側から返答があれば、そこから思念でやり取りできるようになるからね」


 所謂、伝言板みたいなものか?

 遠く離れても複数同士でやり取りできるなんて大した能力だ。


 俺は口を閉じたまま、試しにパーティ達とやり取りしてみる。


(あ~、テスト、テスト。みんな~聞こえるか?)


(はい。問題なく、クロウ様の声が頭に響いております。しかし、間近にいる我らは別に思念でやり取りする必要はないではありませんか?)


(試しだよ、アリシア。これから、俺がダガンに思念を飛ばしてみる。みんなは聞きながら、思う所があれば意見してくれ)


(――クロック兄さん、大好きです。愛しています)


(え? 誰だ、今の思念は?)


(やぁだ~、今の絶対にメルフィだよね~! 兄妹なのに『愛している』って変なのぅ~!)


「べ、別にいいじゃありませんか!? ディネさんには関係ないでしょ!」


 メルフィは声を出して逆ギレしている。


(……まぁ、いいじゃないかねぇ。けど場違いには変わりないよ。いくら兄妹でも不謹慎じゃないかい?)


(ごめんなさい、セイラさん……つい思っていたことが伝わってしまって『本心』といいましょうか……)


 いや、メルフィ。思念と本心は違うぞ。

 クエスト中だってのに、俺に夢中のあまりつい思念を飛ばしてしまったってのか?

 嬉しいけど……義理とはいえ、兄妹には変わりないからな。


(妹殿……前々から思っていたが、クロウ様への何気に巧妙なアプローチ……私も学ばねばなるまい)


 アリシアさん、何を感心してんの?

 そうじゃねぇだろ!?

 まず俺達の兄妹間を疑えよ!


(わたしもウィルお兄様を大好きで慕ってますけど、そこまでの感情は抱いたことはないわ……メルフィさん、よほどクロウさんが大好きなのですね?)


 ユエルまで違うよね?

 何、平和そうに女子達でトーク繰り広げているの!?

 この子達ってば緊張感がないの!?


「もう! みんなで、先生のクロックくんを独り占めしちゃ駄目だからね! まず勇者パラディンになるまで保留って話でしょ!?」


 リーゼ先生が声を出して怒っている。

 いつの間にそんな話をしていたんだ?

 俺がダーナ村長に聞き取りしている間か?


(……あのぅ、そろそろどなたか、ダガンに思念を送るべきではないですの?)


 ソフィレナ王女にツッコまれ、俺達全員が思念で(あ~あ、すみません)と謝る。


 素人の姫さんにツッコまれる、ランクSの冒険者と元勇者パーティで現役の教師って一体……。



(そ、それじゃ、さっき言った通りに俺が思念を……)


 その時だ。



〔ク……クロック、に……いさん、アイシてま……ス?〕



 地鳴りのような低い声が思念として響いてきた。


(まぁた、メルフィ! いい加減にしないと、ボクだってクロウへの想いを叫んじゃうよ~!)


(もうディネさん! 私がこんな低い唸り声なわけないじゃないですか!? ひょっとして喧嘩売ってますか!? 後、兄さんへの告白はまだ早いですからね!)


「……今のダガンだよ」


「「「「「「「え!?」」」」」」」


 リーゼ先生の言葉に、俺達全員が声をだして驚く。


 どうやら、ダガンに先程メルフィの思念が伝わってしまったようだ。


 やべぇ……未知なる種族との歴史的やり取りの第一声が、俺への愛の言葉になっちまったぞ。


(ダ、ダガン……今のは忘れてくれ。俺は、クロック・ロウっていうヒト族だ。さっきは攻撃して悪かったな)


〔クロックにいさ……ん? ア、イシてまス?〕


(クロックでいい。兄さんとか愛しているの部分はもうやめてくれ……)


〔やめる……ブブン……ワスれる〕


 まさか、このダガン……言葉は通じても単語を理解していないのか?


 やり取り無理じゃね?


 しかし向こうからコンタクトを取ってきたってことは、俺達への敵意はないように思える。


(ダガン、お前はどんな存在なんだ? 『竜人リュウビト』ってのは何だ?)


〔リュウビト……オレをツクったアイツも、そうイッていた……〕


(創ったあいつ? お前は変種として自然に誕生した突然変異体ミュータントじゃなく、人為的に創られた存在なのか!?)


〔オ、オレ……スこしマエにウマれたばかり……わからない。ホンモノがシッパイサクってヨび……オレをコワそうとした……〕


 失敗作? 本物? 壊すってことは「殺す」って意味か?


 それに、どうやらこいつは生まれたばかり……言わば赤子同然なんだ。

 だから、その本物とやらから聞いたことのない単語は理解していないらしい。


 本物とは――即ち、正真正銘の『竜人リュウビト』ってことだ。






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《特殊スキル紹介》



スキル名:サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人


能力者:リーゼ・マイン


タイプ:具現化型(ゴーグル型)


レアリティ:R(希少であるが非戦闘用のため)



【能力解説】

・対象者と戦闘状況の分析と索敵を瞬時に行い弱点の看破、あるいはダンジョンの探索に特化された能力。

・また仲間同士が離れた場合などの通信役や対象者の捜索も可能である。


【応用技】

・精密な分析を行うことで危険察知や攻撃予測も可能となる。

・口頭よりも早く思念テレパシー感覚で仲間達の脳に情報を伝えることができる。

・能力者を媒介することで、複数でも言語の異なる者同士の思念テレパシーでのやり取りができる。


【弱点】

・非戦闘用のサポート型の特殊スキルであり、直接戦闘には加われない。

・通信や伝達をするには対象者同士の容認と許可が必要である(ファーストコンタクトで片方側から思念は飛ばすことは可能)。

・対象者の性質を分析できるが、スキル鑑定能力はない。






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