第123話 振り回す先生と謎の和解




 まさか、ゾディガー王から貰った、このターミア領土にリーゼ先生の実家があったとは……。


 しかもサーミガ村の村長の娘だってのか!?


 糞未来の記憶を持つ俺でさえ知らなかったぞ!



「リーゼ先生!? どうしてここに!? 学院は!?」


「何言ってるの~、クロックくん? 今、夏休み中でしょ? 先生だって生徒いないと実家くらい戻るわよぉ」


 そりゃそうだ。

 つーか、ガチでリーゼ先生の実家なのかよ……。


「クロックくんこそ、パーティのみんなを連れてどうしてウチに? まさかもう先生のこと迎えに来てくれたの? でも約束が……」


 迎えにって何よ?

 例の「勇者パラディンになったら、リーゼ先生と結婚する」っていうアレか?

 この面子を引き連れてそんな真似するわけねーじゃん。

 絶対に死ぬわ……。


「違いますよ……クエストというか、調査に来たんです。この村の海岸沿いでの怪奇現象のね……それで村長さんにお話しを聞こうかと……」


「村長? ああ、お母さんのことだね。まぁ、立ち話もなんだから、みんなぁ上がって~♪」


 リーゼ先生に勧められるまま、俺達は家の中に入る。


 屋敷ほどじゃないが割と広めの家だ。

 中流家庭って雰囲気だろうか。


 客間に案内され、それぞれ席へと座った。


「あら、その方は? 新しいパーティメンバーの方? スキル・カレッジじゃ見ない生徒ね? でもアリシアさんにそっくりだね~、ご姉妹?」


 リーゼ先生は紅茶を差し出しながら、ソフィレナ王女に視線を置く。

 一見、笑顔だが丸眼鏡の奥にある瞳は笑っていない。

 何か勘違いしているのか……?


「ああ、この方は……」


「ミルロード王国の王女、ソフィレナ様です」


 アリシアがぶっちゃける。

 まぁ、隠す理由もないわけだしな……。


「え? お、王女様……嘘、本当!? ねぇ、クロックくん! 先生、跪いた方がいい!?」


 何故、俺に聞くの先生?


「いえ、わたくしはお忍びで来ておりますし王城外でもありますので結構ですわ」


「そ、そぉ……良かったぁ。先生、無礼打ちで首ちょんぱされるかと思ったよ~」


 王女様をなんだと思っているのだろう……。

 そんなタメ口で聞いただけで首ちょんぱされるなら、俺なんてとっくの前にこの世に存在しないと思う。


「でも、どうしてクロックくん達は王女様とご一緒にいるの?」


 当然、リーゼ先生はエドアール教頭から依頼を受けた『王女護衛クエスト』のことは知らない。

 一応、もう終わったことだし、いずれ知れ渡るだろうから話しても構わないだろう。



 俺はリーゼ先生にこれまでのことを一通り説明する。

 ゾディガー国王から爵位を貰って、ここターミア領土の領主になったことだけは伏せておいた。



「……へ~え。クロックくん、順調だね~。先生のために嬉しいよ~、エヘッ」


 リーゼ先生は何か勘違いし始める。

 俺が結婚のために必死で頑張っていると思ったようだ。


 案の定、パーティ女子達は首を傾げる一方、不審な瞳を俺に向けてくる。

 ソフィレナ王女だけは呑気に紅茶をすすっていた。


「まぁ、ぼちぼちです……でも、ウィルヴァも相当頑張っているみたいで……多分、二学期から勝負ですね」


「大丈夫だよ、クロックくんなら! 先生、応援しちゃうからね~!」


 相変わらず豊すぎる両胸を揺らしてソファーの上を飛び跳ねて見せてくる、ハイテンション先生。

 その様子にメルフィとディネとユエルの「控えめな三人娘」の表情が引きつっている。 


 色々な意味でやばい……そろそろ本題に入らないと――。


「ところで、リーゼ先生。お母さん、いえ村長さんは?」


「ん? 今、買い物に出かけているんだけど、さっき『言霊の鳩ラグ・ピジョン』で連絡しておいたから、もうすぐ戻って来ると思うよ」


 流石、劣等生担当のEクラス担当とはいえ、スキル・カレッジの教師だけある。

 最低限の必要な魔法と技能スキルはカンストしているからな。


 俺の雑用係ポイントマンとしての技能スキルは、ほぼこの先生から学んだっと言っても過言じゃない。

 そういう面では感謝しているし尊敬もしているんだ。



「――ごめんなさい、リーゼ。領主様、もう来ているんだって? 昨日、リチャードさんから尋ねに来るって聞いていたのにね~」


 両手に買い物袋を持った、大人の女性が慌てて入ってきた。

 童顔のリーゼ先生をより大人っぽくしたような婦人だ。

 身長と聳え立つ連峰のような両胸は、ほぼ一緒である。


 この婦人がリーゼ先生の母親で、サーミガ村の村長である、ダーナ・マインさんか……。

 先生のお母さんとは思えない若々しさだと思った。


「……お母さん、私の生徒だよ~。領主様ってなぁに~?」


「だって、その方が新しくターミアの領主になられた、クロック・ロウ男爵でしょ? 初めまして、私がこのサーミガ村で村長を務めております、ダーナ・マインです。こんな格好で申し訳ございません。どうかゆっくりとお寛ぎください」


 ダーナさんは買い物袋を持ったまま、丁寧にお辞儀をして見せる。

 やっぱりリーゼ先生の母親っぽく、何処かそそっかしそうだ。


 にしても、このお母さん……先生の前で思いっきりぶちまけてしまったぞ。


 やっぱり、リーゼ先生の様子が可笑しくなっている。

 俺をじっと見つめたまま微動にしなくなった。

 まるで、《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》で時を奪われたようだ。


「クロウくん……領主様ってどういうこと?」


 まるで浮気がバレた彼氏のような心境。

 つーか付き合ってもいないんだけど……。

 ただ面倒になるだけだから黙っていただけだし……。


 しょーがないので、俺は全てを話した。


 すると、


「……そっか。クロックくんってば、先生のためにそこまで頑張ってくれて……もう合格だよ、うん」


 リーゼ先生は涙を零し、指で拭いながら呟き納得している。


 いや、どうして泣くの?

 合格って何?


「「「「「「はぁ?」」」」」」


 まずい!

 パーティ女子達が眉間に皺を寄せて、俺を睨んでいる。

 普段、加わらない筈のユエルまでもが……。


 なんでここに来て修羅場が巻き起こるの!?


 言っておくけど全部、リーゼ先生の誤解だからね!

 俺は糞未来で彼女が離婚した夫の肩代わりで娼婦館で働くルートを回避させようとしただけだからな、勘違いすんなよ!


 ピリピリとした静寂な空気が漂う中。


 唯一冷静だった、ソフィレナ王女は飲んだ紅茶カップを静かにテーブルの上に置いた。


「……まぁ、確かにクロウにも些か問題はあるようですが……英傑色を好むと言いますし、この際良いのではないでしょうか?」


 この姫さんまで、なんか突然変なことを言い出したぞ。

 俺の問題って何よ?


「ちょい、姫さん……アンタ、いきなり何を言い出すんだ?」


「要は、クロウが勇者パラディンになればいいだけのこと。『勇者パラディン』と『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得た者は『一夫多妻制』が認められているではありませんか?」


 やっぱり、とんでもないことを口走ってきた。


 確かこの姫さん、『幻獣車』で護衛した初日でもんなこと言ってたな……。

 それで糞未来において勇者パラディンだったウィルヴァの絶倫説がほぼ確定したんだ。

 

 当時、あの場に居合わせたアリシアは知っているが、他のパーティ女子達は知らなかったようで、全員が「え? え?」と互いに顔を見合わせている。

 ついでに、リーゼ先生も知らなかったようだ。


 あの後、俺が密かに調べた話だと、どうやらその制度を周知しているのは『勇者パラディン』と『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得た者と一部の王族の者に限られるらしい。


 知的種族を代表する『竜狩り』の名誉職を目指す者の中に、それ目的だけで志願する輩がいたら極めて不届きな話だからだ。



「へ、へーっ……先生、知らなかったよ。う、うん……クロックくん、優しいし、人気あるし、責任感あるし……先生ね、浮気以外なら増員ありだからね」


 頬を染めて妙な理解を示す、大人のリーゼ先生。


「な、何言ってんの……先生ってば。俺、まだ勇者パラディンじゃないし、気が早いちゅーの。なぁ、みんな……」


 困り果てた、俺はパーティ達に振ってみる。


「……まぁ、問題は誰が『初婚』かつ『正妻』の地位ですかね」


「私は兄さんと一緒なら特にこだわりはありませんので……」


 アリシアが瞳を反らして考え込み、メルフィが妥協して譲っている。


「じゃんけんでいいんじゃない? (ボク強いし~、えへへ)」


「ディネ、アンタいくらなんでも、それで決めるのはねぇ……アタイはクロウ次第だと思うよ。なぁ、ユエル……」


「そ、そうですね。セイラの言う通りだわ……そういうのは、まずクロウさんのお気持ちが優先されるものだと思います……はい」


 あれ? 何これ?

 つい今まで殺気立って修羅場っていた癖に、みんな順応に理解を示しているんですけど……。


 つーか調査は!?






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