第122話 調査志願と思わぬ再会
夜が更けてきた頃、俺達はターミア領土に入り『ズーイ』という町に到着した。
ここに領主邸があり、しばらくそこで寝泊まりすることになる。
「ようこそ、ソフィレナ王女様にクロック卿。私がターミアの領土を管理しております、リチャード・コルサでございます」
すらりとした初老で貴族服を着た男性が出迎えてきた。
白髪で白髭を綺麗に揃えた、如何にも品性に溢れた老紳士だ。
「リチャードは平民で多額の資金をスキル・カレッジに寄付したことで、エドアール叔父様の配慮により『
つまり平民でありながら経済的に豊かな士族ってわけだな。
元商人とかに多いと聞く。
きっと商人を引退して、その資金をスキル・カレッジに投資したんだろう。
老後を考えて爵位を得るためか?
子爵の手が届かない、このターミアのような辺境地で代行管理しながら余生を送る目的かもしれない。
まさに今のご時世にあった最良の再就職先ってわけだ。
「本日より、クロック卿がこのターミアを治める領主となり、わたくしが管理補佐という形で就任いたしましたのでどうかよろしくお願いいたします」
リチャードさんは俺に向けて丁寧にお辞儀をして見せる。
凄い年配の方に頭を下げられてしまい、俺は思わず戸惑ってしまう。
「あ、いや……リチャードさん、その『卿』って呼ぶのやめてくれません? 俺、まだ学生だし……それに、ソフィレナ王女から『領主のフリでいい』って言われているからね」
「はい、王女様から伺っております。ですが法的には、ターミアの領主はクロック男爵ですから……わたくしはあくまで補佐という身分です。管理等は、これまで通りわたくしに一任して頂けるとのことですが、貴族としての立場は互いのため明確にしておいた方がよろしいでしょう」
う~む、ソフィレナ王女を「姫さん」と呼んでいる俺からすれば耳の痛い話だ。
まぁ、領土の管理はリチャードさんがやってくれるって言うし、この人が俺を勝手に呼ぶ分には問題ないだろう。
「わかりました……だけど、俺はリチャードさんを『さん』付けで呼びますからね。人生の先輩を呼び捨てにするのは気が引けますので……」
「承知いたしました、クロック卿。では皆様、お部屋と夕食のご用意いたしましたので、どうかおくつろぎくださいませ」
リチャードさんが指示すると、使用人達が俺達の荷物を預かり部屋まで持って行ってくれる。
無論、ソフィレナ王女は一番良質のVIP部屋らしい。
夕食後でも遊びにでも行ってみるか……。
それから清潔感のある食堂にて、豪華な料理の数々に舌鼓を打つ。
なんでも、リチャードさんの奥さんが腕によりをかけてくれたとか。
料理スキルLv.10の俺でさえ教わりたいくらいの腕前だと思う。
楽しい食事も終わり、ソフィレナ王女は丁寧に唇を拭きながら、同席するリチャードさんに話しかけた。
「――明日、わたくし達は海岸に行きたいのですが構いませんよね?」
「え? 海岸に行かれるのですか? 正直、あまりお勧めできませんが……」
リチャードさんは表情を曇らせる。
「何故です? 昨年まで貴族達が利用されておりましたよね? 今年はまだ手入れをされてないからですか?」
「それもあります。ですが、ただ放置していたわけではございません。シーズン前に何度か視察して清掃を試みました。今年から一般人にも解放して、少しでも収益を得られればと思いまして……ですが、まともに立ち入ることが困難な状況が続きまして」
「困難とはどういう意味でしょう? はっきりと申していただけません?」
「……はい。異常気象と言うのでしょうか……わたくし達が海岸に踏み込むと、突如として海は高波で荒れ、暴風と豪雨に見舞われてしまうのです。常時、必ずでございます……」
リチャードさんの話に、ソフィレナ王女だけでなく俺達も首を傾げる。
「あのぅ、口を挟むようですけど……まるで、リチャードさん達が海岸に行くと異常気象が起こるって聞こえるんですけど?」
「はい、クロック卿その通りです。どんな晴天の日に向かおうと、足を踏み入れた瞬間に異常気象が起こってしまうのです……しかも、その海岸の一帯だけでございます。奇妙なことに他のターミア領地は晴れたまま……そして、わたくし達が海岸から離れると異常気象は治まりを見せます」
「まるで、誰かが意図的に操作しているみたいっすね? その異常気象とやらを……」
「ええ……ですから、すっかり海岸に視察に行くのが遠のいてしまいまして」
リチャードさんは申し訳なさそうに言っている。
聞く限りでは、まるで怪奇現象だ。
ソフィレナ王女は頷きつつも渋い表情を見せる。
「代理とはいえ領土の管理を任されている者として、誰かに相談しなかったのですか?」
「勿論、近辺の子爵様や冒険者ギルドにも問い合わせておりますが一時的な異常気象っというだけで、ターミア領土を脅かすような災害や被害はなく派遣して調査するまで至っておりません……」
調査するにも資金はかかるからな。
特に大事件に発展していない以上、辺境の地ではやりくりが大変なのだろう。
しかし、いくら誰も使用してない海岸とはいえ、このまま放置して大丈夫なのだろうか?
以前の『古代遺跡調査』みたいに、気がつけば
調査だけでも必要じゃないか?
俺は、パーティの女子達へ視野を向ける。
アリシア達みんなが瞳を合わせ頷いてくれた。
フッと微笑み、リチャードさん視線を戻す。
「リチャードさん、俺達で良ければ調査してみますか?」
「クロック卿、自ら……よろしいのですか?」
「ええ。一応は俺の領土ですし、このままじゃみんなが楽しみにしていた海水浴もできないっすからね……勿論、依頼料はいりませんけど、解決後の清掃はお願いできます?」
「はい、勿論です。では、どうかよろしくお願いいたします」
こうして急遽、海岸調査のクエストが決まった。
翌日の朝。
俺達は馬車に乗り、早速ターミア領土の海岸へと向かう。
天気は良好であり、青々とした空と眩しい太陽に照らされている。
「どうして、姫さんまでついて来るんっすか?」
俺は向かい席側で、アリシアの隣でしれっと座るソフィレナ王女を見据えた。
「あら、クロウ。いけませんの?」
「別にいけなくはないっすけど……何かあったら危ないですよ」
何せ侍女を置いてまで、俺達に来ているからな。
誰が身の回りの世話するんだよ……。
「安心してください。わたくしも装備を整えていますわ。自分の身は自分で守りますの」
自慢げに言いながら、ソフィレナ王女は所持する肩さげの鞄をポンポンと軽く叩いて見せる。
やべぇ……超不安なんですけど。
万一、怪我でもされたら処罰されるんじゃね?
まぁ、俺とユエルがいりゃ回復させれるけど……。
「まあまあ、クロウ様。ソフィレナ王女はこの私が責任を持ってお守りしましょう。これも王女が独り立ちされるための訓練だと思えばよろしいのではないでしょうか?」
「アリシアがそこまで言うのならいいんだけどね……」
そもそも、その独り立ちの訓練に俺らを巻き込まないでくれよって話だ。
絶対に本人の前では言えないけどね……。
「クロック兄さん、このまま真っすぐ海岸に行くんですか?」
隣で密着するメルフィが聞いてくる。
「いや、近場の『サーミガ』って村に立ち寄ろうと思っている。直接、調査に入る前に現地の住民達から情報収集した方が仕事もはかどるだろ?」
「なるほど……流石、クロウだね。アンタ、本当に頭いいよ」
セイラが褒めてくれる。嬉しいけど基本だと思う。
そんなこんなで、サーミガ村に辿り着いた。
馬車から下りて情報収集目的のため、村長宅に早速行ってみる。
村長は「ダーナ・マイン」という名前で女性らしい。
女性の村長とは珍しいな。
ん? マインだと……?
あれ? どこかで聞いたことがある苗字だぞ?
「あ~れ~? クロックくんにみんなじゃな~い? こんなところで何しているのぅ? まさか先生に会いにきたぁ、きゃ♡」
村長宅の玄関先で、とても大きな両胸を揺らしながら間延びした口調の女性が近づいてきた。
背が低く亜麻色の長髪に丸眼鏡を掛けた童顔で可愛らしい大人の女性である。
――俺の担任である、リーゼ・マイン先生だ。
ってことは、ここ先生の実家だったの!?
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