第121話 ランク昇格と好敵手の動向




 別室の会議室で、設備された椅子に座る俺達。

 ソフィレナ王女と侍女さんらも一緒だ。


 テーブル越しで、レジーナ姉さんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「ごめんね……報酬金額が金額だったから……他の冒険者に見られて、やっかまれても嫌でしょ?」


「ああ、そういう配慮だね。俺達、まだ学生だし、ありがとう姉さん」


「うふふ、いいわよ、クロウくん。本当、キミって不思議ね……本当の弟みたい」


 ほんのりと頬を染めて、レジーナ姉さんは丈夫な革製のアタッシェケースをテーブルに置き、開けて見せた。


 眩い光沢を発した『白金貨』が12枚ほど入っている――。

 (一枚、日本円にして100万円の価値)


 は、初めて目にする硬貨だ……。


「持ち運びには便利だけど、店によっては使えない硬貨でもあるから使用するときはギルドで両替して頂戴ね」


 レジーナ姉さんの説明が頭に入らないほど、俺は銀貨よりも白く、金貨よりも眩く輝く硬貨を見入っている。

 12枚ってことは、山分けすると俺達は2枚ずつ受け取れるってことか……。


 報酬金は、12,000,000Gだったのかよ。


 そいういや今回の依頼料って聞いてなかったよな。


 まぁ、王女の護衛だと見合った金額に違いないだろう。

 学生の立場からして貰いすぎだけど……。



 報奨金は、一応パーティのリーダーである俺が責任をもって鞄ごと預かることにした。


 ゾディガー王から賞金を受け取らないで良かったかもしれない。

 この報酬金だけでも凄すぎて眩暈がしてくるぜ……。


 つーか、俺……国王から領土と爵位を貰ったんだっけ。

 そっちの方が非現実的で実感がわかねーや。


「あと、クロウくん達は今回のクエストで、全員がランクSに昇格したからね。ギルドカードを書き換えておくから」


「ありがとう……ついにランクSか」


 思った以上に早期の高ランク入りだ。


 今回のクエストを達成したことで、何から何までってやつだよな。

 五年後の記憶でもミルロード王国のスキル・カレッジで在籍する一学年でランクSになったパーティはいない。


 特に、アリシア、ディネ、セイラ、ユエルの四人は冒険者になってから、僅か3カ月経つかどうかだから、相当なハイスピード昇格だぞ。


「やったな、みんな。これからは遠慮なく、高ランクのクエストに挑むことが出来るぜ!」


「これも、クロウ様について来たからこそです。このアリシア・フェアテール、心から感謝しております」


「アリシアの言う通りだね~! クロウに出会えて良かったよ~!」


 ディネが便乗して、俺の腕に抱き着いてきた。

 それを見て、メルフィが「あ~っ、またぁ!」と声を荒げる。


「もう、私の兄さんなんですからね! 指定席を取らないでください!」


 俺の腕はいつの間にか義理の妹の指定席になったようだ。


「アンタと一緒だと、アタイ達もより高められるからね……これからも一緒だよ、クロウ」


「……本当ですね。クロウさんは凄い人ですよ……わたしも含めて皆さんが感謝しているわ」


 セイラとユエルが俺を褒め称えてくれる。


 あの糞未来では、ウィルヴァの一人勝ちだったからな……。

 特に戦闘面では、なんでもこなしちまう奴に、女子達がついていく形が多かった。

 俺を囮にした上でな……(密かにトラウマスイッチ、オン)。


 だが、この時代は違う――。


 俺が中心になる事が多いが、基本はパーティの特殊スキルを活かし、全員で挑む戦法を重んじることにしている。


 それだけ俺が彼女達を信頼しているからだ。

 また彼女達も俺を信頼してくれる。


 これが俺達パーティの結束であり強さでもあるのだ。

 その成果が、こうして確かに形となって表れているに違いない。


 ――俺は、この奇跡のような逆転劇をその結果だと思っている。


「ありがとう、みんな……俺もみんなについて来てもらって、一緒に戦ってくれて心から感謝しているよ」


 嘘偽りのない言葉であり心境である。


 この時代に戻ったばっかりの頃は、みんなから避けてやろうと必死だったけど、いまじゃまるでその逆だと思う。


 ――ずっと彼女達と一緒に過ごしたい。


 今なら迷わずそう言える。


 俺の想いに、パーティのみんなが柔らかく微笑んで頷いてくれた。


 そんな俺達をソフィレナ王女は羨ましそうに見入っている。

 この姫さんも今回の旅で自分なりに思うところがあり、こうして俺達に興味を示しているようだ。

 まぁ、仲良くなったことだし、これからも友達として応援をしてあげたいけどな。



「――そうそう。クロウくんって、ウィルヴァくんと仲が良いんだっけ?」


 不意にレジーナ姉さんが聞いてくる。

 まさか彼女の口から、奴の名が出てくるとは……。


「知り合いってだけで別に仲がいいわけじゃ……どうして聞くの?」


「彼、二日前にパーティを連れてギルドに来てね。クエストを引き受ける際に、クロウくんの話をしていたのよ。『僕の親友であり、負けられない好敵手ライバル』だって話していたわ」


 二日前だと? 俺達より遅くネイミア王国を出たのに、随分と早くミルロード王国に着いたな?


 まぁ、幻獣のクエーサーは移動速度が遅いし、行きと同様に帰りも大きく迂回してきたからな。

 馬を飛ばしてショートカットして行けば、一日半くらいで帰国することは可能か。


 にしても、レジーナ姉さんの前で『親友』とは……相変わらずウィルヴァから言われると違和感でしかない。

 素直に嬉しいんだけどね……。


「レジーナ姉さん、ウィルヴァのギルドランクはどれくらいなの?」


「ランクDよ。でもステータスは群を抜いて高いし、特殊スキルもSRのレアリティだから、すぐ上のランクになれると思うわ。それにウィルヴァくんがネイミア王国から連れてきたパーティの子達は全員ランクSだから、彼女達に便乗する形で高ランクのクエストが受けられるしね」


 思った通りだな、ウィルヴァの奴め。

 あのカーラ達を連れていることで、自分のランクより上のクエストに挑みまくるつもりだ。

 ランクS以上のクエストをこなしまくったら、上手く行けば夏休みの終わり頃には、ランクAかひょっとしたらランクSになれるかも……。


 いや、流石にそこまではないか……。

 でも、あのウィルヴァのことだ。

 油断しちゃ絶対にいけない。


 っとは言っても、明日はみんなで海水浴だからな。

 休ませてリフレッシュくらいしないと身体も持たないだろう。


「レジーナ姉さん、教えてくれてありがとう。ウィルヴァも性格はいい奴なんでよろしく頼むよ」


「わかったわ……でもクロウくん、本当にウィルヴァくんと仲良いのね?」


「え? どしてさ?」


「だって、ウィルヴァくんも同じようなことを言っていたからね。『クロウ君、共々よろしく』って」


「そ、そお?」


 これまた奇妙な感覚だ。

 まるでタイプが違うのに変なところで、奴と似ているのだろうか?


 しかし、お互い切磋琢磨して並びつつあるのは確かだな。


 このまま行けば、二学期の『林間実習』から勝負は始まるだろう。


 以前のようにお情けでなく、真剣勝負で確実に勝たなければ――。



 こうして用事を済ませた俺達は冒険ギルドを出て、ミルロード王城へと戻る。



 王城で一泊して、次の日の早朝から馬車に乗って、ターミア領土へと向かった。


 最南端にある辺境の領地なだけに、思いの外時間がかかる。


 馬車だと到着するのが夜になってしまうらしい。

 途中で休みながら行くことにした。


「ターミアって、今後は俺の所有地になるんだろ? 今住んでいる屋敷みたいに『ゲート』とか使えるようにできないのかな?」


 なんちゃって男爵とはいえ、時々にでも視察くらいした方がいいだろうし。


「そうですわね、お父様に頼んでみましょう」


 ソフィレナ王女はあっさりと解決案を出してくる。

 この姫さん、味方にすると本当に頼もしいな……。


 王族パワーでなんでもありじゃないか?



 そして、ようやくターミア領土に入り、これから待ちに待った『海水浴』を楽しむ筈だったのだが……。






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