第120話 王女と水着を買いに行ってみた




 それから、ソフィレナ王女と王都へ向かった。


 侍女が二人ほど私服姿で付き添い、俺達パーティが護衛として付き添う。

 他の騎士達はいなく、お忍びだけとはいえ、たったこれだけの人数だ。


「クロウ達の護衛で十分にこと足りますわ。信頼していますよ」


 馬車の中で、ソフィレナ王女がニッコリと微笑む。

 信用されているのは嬉しいけどね。


 でも俺達だって竜守護教団ドレイクウェルフェアに狙われている身だからな。

 まぁ、今回の冒険でレベルアップもしたことだし、このパーティ達がいれば問題ないだろう。






 王都へ到着し、馬車を降りた。


 普段通り様々な種族達で溢れている。賑やかな街並みだ。

 国境の結界を越えると、『竜』や魔物達モンスターが蠢く危険地帯とは思えない。


「こうして、お忍びで王都を歩くのは初めてですわ」


 乗馬服姿のソフィレナ王女は楽しそうに街並みを眺めている。


「え? 姫さん、王都に来たことないんですか?」


「はい……馬車に乗って通りすぎることはありますが、地に足をつけたことすらありませんの。ましてや買い物に来るなど……」


「普段の買い物は?」


「使いの者が全てやってくれますので……直接はないですわ」


 そ、そーなの?

 だったらどうして自分から俺達を誘って買い物なんて……。


「きっと数年後を見越しての社会経験ではないでしょうか?」


 首を捻る俺の後ろでアリシアが呟く。


「社会経験? ああ、ゾディガー陛下が万一何かあったら、姫さんは王女じゃなくなるんだよな?」


 あの老化する奇病のせいで余命が二年くらいだと聞く。


 次の国王も親戚の王族に継承することが決まっており、そうなった際ソフィレナ王女は王家は在籍するものの微妙な立場には違いないらしい。


 そのためのネイミア王国との縁談だったのだが、肝心の婚約者が暗殺されちまったんだ。


 しかし、実はソフィレナ王女も気乗りせず、その場で断ろうと思っていたので不謹慎だが幸いちゃ幸いだった。


 それに今回、俺達と旅を続けることで『薬学師ファーマシー』を目指しながら冒険者にもなりたいと思い始めているようだ。


「つまり、俺達とこうして出歩くことで、姫さんなりに一般社会に溶け込もうとしているのか?」


「はい……でなければ、城の者の誰かが止めに入っているでしょう。おそらく、ゾディガー王も公認だと思います」


 アリシアの言う事も最もだ。

 わりと堂々と王城から出ることができたからな。


 俺達の護衛付きなので、ゾディガー王も含めて城内の連中は黙認しているのだろう。

 つーか、俺達って国王からも凄く信頼されているんだなぁ……。

 これで勇者パラディンに選ばれなかったら逆にヤバいんじゃないか?


「……ではクロウ、早速お店を案内して頂けません?」


 ソフィレナ王女は微笑みながら聞いてくる。


「店? ああ、水着を買う店ですね? やっぱり姫さんってブランド志向ですか?」


「はい? いえ、これと言って別に……買い物自体が初めてなので、よくわかりませんの」


「じゃあ、百貨店でいいっすかね。なんでも揃っているし、選ぶ分には困りませんよ」


「はい、よろしくお願いします!」


 健気に元気よく返答してくれる、ソフィレナ王女。

 凛として毅然とするアリシアと違った魅力を感じてしまう。




 そんなわけで、俺達は百貨店へ向かう。


 ソフィレナ王女にとって初めて目の当たりにする雑然とした光景にテンションを上げている。


「クロウ! あれはなんですの!?」


 百貨店の広場で子供達が屯している中央で、道化師ピエロがコミカルな動きでパフォーマンスを披露している。


「本当だ! 面白そうだよ! 観に行こーよ!」


「なんか祭りみたいで楽しそうだね! アタイもあれくらいできるよ!」


 ディネとセイラが食いついてきた。


「つーか、お前達まで……水着、買いに行こーぜ」


 とはいうものの、三人とも瞳をキラキラさせるので見学してから行くことにした。




 ようやく水着売り場に辿り着く――。


「ここからは男女別だ。俺は自分の水着を買いにいくから、みんなは姫さんを護衛しながら、買い物を楽しんでくれ。不審な者がいれば、大騒ぎして構わない。暗殺者アサシンは目立つのを嫌うからな。但し、姫さんから絶対に離れるなよ」


 俺はパーティのみんなに指示を伝える。

 女子達は素直にうんうんと頷き聞き入れてくれている。


「ねえ、クロウ。一つ聞いてもいい?」


「どうしたディネ?」


「クロウは女の子のどんな水着が好み?」


 ディネの直球質問に、何も口に含んでないのに「ブーッ!」と吹き出てしまう。


「は、はぁ!? 何言ってんの、お前!?」


「だって~、せっかくの初めての水着だよぉ。どうせなら、可愛い姿を見てもらいたいよぉ~、特にクロウには……」


 こ、こいつ……頬を染めてなんちゅー可愛いこと言ってくるんだ。


「ディネさんには負けません! 私も兄さんに、今の私を見てもらいたいです! もう小等部の頃とは違うんですからね!」


 メルフィ、お前まで何を言ってるの!?

 まだ、14歳だろ!? 何、167歳のエルフっ子に対抗心を燃やしてんの!?


「ふむ。クロウ様に気に入って頂ける水着か……これは女子力を上げるチャンスかもしれぬな、セイラよ」


「ああ、アタイらに一番欠けているモンだったね……ここはいっちょ気合入れてやってみっか、アリシア!」


 ある意味、ナイスバディの『勝ち組』である二人が意気込んでいる。

 まさか際どい水着で俺を悩殺する気なのか!?

 ていうか、自分らに女子力が欠けているの、結構気にしていたんだな……。


「わたしは普通でいいです……」


 その隣で、ユエルが控えめにボソッと呟いている。

 きっとスタイルに自信がないのだろう。


 俺にとっては一番の目玉だけどな。

 いや、そういう目で清純なこの子を見てはいけない……自重。


「まぁ……あれだ。みんなが気に入った水着でいいんじゃないか? 海辺もほほ貸し切り状態なんだろ? 俺達しかしないからな、そう俺達しかな」


 やたら、自分達しかいないことを強調する俺。

 イコール、そこそこ露出度の高い水着を期待しているわけで……。

 やっぱ、俺も健全でノーマルな男の子だったらしい。


 俺はそう告げて男性用の水着コーナーへと行き、自分の水着を購入した。




 その後、すぐ女子達と合流する。


 丁度、彼女達も水着を購入したようだ。

 どんなモノかは当日の楽しみにしておこう。


「それじゃ、姫さん。城に戻りますか?」


「ええ……クロウ、ひとつ立ち寄りたい場所があるんですが?」


「立ち寄りたい場所? どこっすか?」


 俺が聞くと、ソフィレナ王女は恥ずかしそうに身体をもじもじとくねらせる。


「そのぅ、冒険者ギルド……ですの」


「冒険者ギルド? 姫さんが?」


 ソフィレナ王女はこくりと頷く。


「また、どうして……あんな薄汚い所なんて。むさ苦しい野郎ばっかっすよ~」


 綺麗で爽やかな人って、受付嬢のレジーナ姉さんだけだよ。


「クロウ達を見ていると、危険ですが悪くないと思えてしまって……わたくしも、いつまでも王女でいられるわけではございませんし……」


 まぁ、気持ちはわかるけどね。


 ついさっき、アリシアとの会話を思い出す。

 ソフィレナ王女なりの考えがあってのお願いのようだ。


「わかりましたよ。俺達も丁度、クエスト達成報告と報酬金の受け取りもありますし案内いたしますよ」


「はい。ありがうございます、クロウ!」


 俺の手を握り締め、ソフィレナ王女は感謝の意を示してくれる。

 とても光栄だけど、やっぱ周囲の目線が痛い……。


 そんなわけで、久しぶりに冒険者ギルドへと行くことになった。






「クロウくん達、お帰りなさい。無事にクエスト達成できて良かったわ」


 ギルドにて。


 受付情のレジーナ姉さんが自分のことのように俺達の無事を喜んでくれている。

 糞未来でも親身になってくれた本当に優しい女性だ。


「まぁ、みんなで力を合わせて頑張ったからね……」


「でもギルド始まって以来の快挙だって、ギルドマスターも驚いてたわよ~」


 そこまで称賛されているのか?

 言われてみれば、他の冒険者達の俺達を見る目が違う。


 いつも美少女達パーティに囲まれたエロ小僧だと思われて無視されているけど、あの眼差しは糞未来でウィルヴァを見つめていた頃に近いような気がする。


 ――即ち、勇者パラディンと同等。


 なんか冒険者ギルドまで、俺達の立ち位置が変わったようだ。


「ところで、クロウくん。その子達は誰? 新しい冒険者希望者?」


 レジーナ姉さんは、ソフィレナ王女と侍女達に視線を向ける。


「あ、いや……スキル・カレッジの同級生で見学者だよ。それより、報酬もらえる?」


「わかったわ。別室に行きましょ」


 危ない危ない……まさか、自国の王女様だとは言えないからな。


 俺達はレジーナ姉さんの案内で別室へと案内される。


 いつもなら、その場で受け取れるのに何か様子が変だ。






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