第119話 爵位を与えらえた思惑




「男爵って俺が!? 嘘だろ!?」


「嘘ではありませんわ。今、手続き中です。明日には、クロック卿と呼ばれる立場になるでしょう」


 しれっと答える、ソフィレナ王女。


 下級にせよ、明日から貴族の仲間入りってことじゃん!


「領土だけじゃなく、爵位まで……どうして?」


「小規模とはいえ、ターミアの領土なら子爵の地位でも可笑しくないのですが……クロウはまだ学生ですし、領主としての実績がありません。体面上、男爵からスタートするのが望ましいですわ、ごめんなさいね」


 この姫さん、何申し訳なさそうに言ってんの!?

 そういう問題じゃないよね!?


「いや可笑しいでしょ!? 領土も爵位もいらねーから金くれよ、金!」


 仲良くなったとはいえ、とても王女に対しての言葉遣いじゃない。

 けどムカついてきたので素が出てしまう。


「だって、クロウは賞金はいらないと仰ったではありませんか? 本当は『勇者パラディンの称号》を差し上げたいのですが、エドアール叔父様の管轄なので、わたくしでもどうにもならないですの。それにお父様の申しつけは絶対ですわ、もう取り消せませんわ」 


「取り消せないって……そういえば、姫さん。さっき、ゾディガー陛下に耳打ちしていたっすね? 一体、何を吹き込んだんですか!?」


「ええ、クロウはパーティのみんなで海に行きたいと話しておりましたと、お伝えしただけですわ」


 まぁ、確かにそんな話もしたわ。

 でも言い出したのはメルフィで保留中の話だからな。


 つーか、聞いてたのかよ……。


 でも、それだけの理由で簡単に領土をあげちゃう国王ってどーよ。


「……姫さんとゾディガー陛下のお心遣いは嬉しいですけど……俺、貴族には……」


 正直なりたくない。


 別に貴族に何かされた記憶はないけど、元々いい印象を持たない連中ばかりだからだ。

 アリシアの家みたいに、やれ家柄とか世間体とか気にするのもウザいだけだし。


 そもそも俺はスローライフを目指していたんだよ!


 勇者パラディンの称号はウィルヴァに勝ための通過点に過ぎないんだ!

 あっでも、勇者パラディンになったら、引退するまで本気で頑張るつもりだけどね。


「まぁ、領地の運営に関しては、これまで他の者がやっておりましたので、そのまま継続させますわ。とりあえず、所有権利を貴方に譲渡する形になるでしょう。それには爵位は必須ですの……我慢してね、クロウ。貴方はこれまで通り、スキル・カレッジで勇者パラディンを目指してね」


「……ソフィレナ王女。何やら意図があるように聞こえてしまうのですが?」


 アリシアが首を傾げて聞いてくる。


 王女は頷いて見せた。


「はい、アリシア……これもクロウを勇者パラディンにするための、わたくしなりの『支援策』と言ったところでしょうか?」


「姫さんの支援策?」


「ええ。相手は公爵であるランバーグのご子息。義理とはいえ、将来は公爵の地位を与えられる立場でしょう。一方のクロウはいち平民です。勇者パラディンになる条件では爵位は関係のない話ですが、元々推薦候補が二人置いている時点で前例のないケース。わたくしとお父様はクロウを推しているとはいえ、あのエドアール叔父様のこと、どう転がるかわかりません」


「確かに癖のある教頭先生ですけど……家柄まで評価対象にするとは思えません」


「そうですね。あの叔父様もお父様と同様、実力主義なところもありますが、スキル・カレッジの運営や体裁に関しては貴族制思想があるのも事実ですわ」


 言われてみれば、そうかもしれない。


 俺が劣等生クラスであるEクラスに在籍していることを良しとしていないようだ。

 はっきり言って、それが理由でウィルヴァと天秤に掛けられているからな……。


 そのウィルヴァも念願の高レベルのパーティを手に入れて、頭角を現わし始めている。

 今は俺が有利っぽいけど、このバランスが均等に並んだ場合、エドアール教頭はどちらを選ぶのだろうか?


 実力に差がなければ、案外そっち側も評価対象になるかもしれないわけだ。

 以前、教頭の口から伝統や世間体も気にしている言動も聞かれていたしな。


「俺が爵位を得ることで、そういった面でウィルヴァとの差がなくなると?」


「はい、勿論ですわ。考えてみなさい、そのお歳で『卿』と敬称がつくのですわ。勇者パラディンだけでなく、貴族としても有能だと証明しているようなものでしょう」


 なるほど……話だけ聞くと悪い案ではないのか?

 同じ土台であれば、後は実力で勝負ってことになるわけだし……。


 ――俺が望む展開にもなるわけだ。


「わかりました、姫さん。すみません、暴言吐いて……でも『男爵』の件はフリだけでいいですよね? 俺、貴族になるつもりはないですからね」


「はい、フリでいいですよ。それに貴方に爵位がつけば、わたくしもクエスト以外で貴方と会いやすくなるでしょ?」


「え?」


 俺が聞き返した瞬間、ソフィレナ王女は頬を真っ赤に染めて口元を押さえる。


「い、いえ……決して変な意味では……せっかくお友達になれたのにって意味ですわ!」


 妙に慌てる姫さんだが、ここは指摘しない方がいいだろう。

 何故なら、またアリシア達の目つきが変わったからだ。


「それと姫さん、もう一つ聞いていいっすか?」


「なんです、クロウ?」


「さっきから姫さんの格好が気になりまして……どこか行かれるのですか?」


 まるで乗馬服のような動きやすい姿である、ソフィレナ王女。


「ええ、これからお忍びで王都に行こうと思いまして……」


 お忍びで王都に行くだと?


「姫さん、お一人で? いや、侍女さん達と一緒にですか?」


「勿論、侍女も何人か連れていきますが、護衛はクロウ達にお願いしたいなっと……いけませんか?」


 いや別にいいけど……今日は帰ろうと思ったんだけど。


 俺は、アリシア達を一瞥すると、みんな快く頷いてくれる。

 彼女達もソフィレナ王女と仲良くなったからな。


 帰っても休むだけだし、満場一致でいいだろう。


「わかりました。俺達でよければ付き合いますよ。その代わり、宿と食事はお願いしますね」


 俺の返答に、ソフィレナ王女の表情が明るくなり柔らかく微笑む。

 うん、アリシアのお淑やか版って感じで可愛い。


「はい、勿論ですわ。それと早速、明日の朝一番でターミアに行きませんか?」


「ええ、いいですよ」


「良かったぁ、それではアリシア達も準備をしなければなりませんね。費用は、わたくしが全て負担いたしますわ~!」


「ソフィレナ王女、私達の準備とは?」


「水着ですよ、水着! 明日、わたくし達で海水浴とやらに行くのですわ!」


「「「「「「ええ!?」」」」」」


 ソフィレナ王女の発言に、俺達全員が驚愕する。


「ひ、姫さん……本気で言っているんっすか!?」


「はい! 嘗て行楽地だったターミアの海岸は、今では誰もおりません! わたくし達だけで満喫できますの!」


 やたらテンションを上げて、はしゃぐソフィレナ王女。


 とても嬉しい提案だが、こんなんでいいのかなっと思えてしまう複雑な心境の俺がいる。


「いいですね、海水浴! 兄さん、楽しみですね!」


 メルフィは喜んでくれる。


「海か……海中戦闘の訓練にはなるか」


「アタイも水の中じゃ思うように攻撃ができないからね、アリシアの訓練に付き合うよ!」


 アリシアとセイラは何か勘違いしているようだ。


「海ね……ボク、直射日光に弱いんだよね。エルフ族って肌が白いから」


「わたしもです。ディネさん、一緒に日焼け止め買いましょうね?」


 ディネとユエルがギャルトークしている。

 二人の真っ白な肌を想像するとドキドキしてしまう。


 どうやらパーティ達は乗り気ではいるようだ。

 んじゃ、俺も適当な水着でも買っておくか……。


 にしても俺達、何かすっかり、ソフィレナ王女の『策』にハマってしまったような気がする。


 つーか待てよ?


 姫さん、まさか……それ目的で俺に領土をくれて爵位まで与えたのか?


 王族パワー、どんだけなんだよ……。







───────────────────

【うんちくメモ】


■爵位

 貴族制に基づく、君主制国家における名誉称号でありヒエラルキーのランクである。

 血統による世襲や国への功労者への恩賞で授与される場合がある。


 国王 > 公爵 > 侯爵 > 伯爵 > 子爵 > 男爵 > 準男爵 > 騎士爵


 >の順序が前であるほど等級が上という意味。

 ※ちなみに「国王」は爵位ではないが爵位等級制をわかりやすくするため記載した。


 尚、爵位によって地位や役職が異なり、国内の管理や運営を行っていくことになる。


◆爵位を持つ者の役割。


国王キング:君主制の王国で一番の権力を持つ者、敬称で「陛下」と呼ばれる。

 ちなみに国王以外の王族(血族)を『大公爵グランドデューク』の称号を得た地位であり、王族の末端であるスキル・カレッジの「エドアール教頭」がこの身分にあたる。



公爵デューク:王族に匹敵する大貴族であり、爵位では一番上の地位である。

 敬称は「閣下」と呼ばれ、国王の懐刀と呼んでもいい身分である。

 ランバーグ公爵のように懐刀故に暗躍する特殊な地位や立場を与えられている者もいる。



侯爵マーキス:別名で辺境伯とも呼ばれる。貴族制度上、重鎮として大きな領土と高身分の官職が与えられている。

 軍事上、指揮官の権限を有している場合が多い。

 尚、この身分から下の爵位は全員敬称が「卿」と呼ばれることになる。



伯爵アール:王族の側近であり、また地方へ派遣された地を治める地方領主。

 また「宮中伯」と呼ばれ、中央行政を担う大臣としての役割を持つ。

 アリシアの義理父であるカストロフは妻が王家に嫁いだ王妃と双子の姉妹であるため、唯一国王に意見できる権力を持っている。

 だが聡明なカストロフは他の貴族に妬まれないため、何かと王族のオブザーバー的なポジであるエドアールを巻き込む傾向があるようだ。



子爵バイカウント:伯爵の補佐であり副官の地位にあたる。

 伯爵に任された小都市や城砦の管理を担い、地方行政の官僚としての役割を持つ中間管理職でもある。



男爵バロン:伯に列せられない小貴族達の爵位。辺境の領地や村や町を治めるその他大勢の貴族である。

 今回、クロック・ロウが与えられた称号であり貴族としての身分である。



準男爵バロネット:爵位では事実上の最下位であり、実際は貴族でなく平民である。したがって貴族院では発言権すら持たない一代限りの称号である。

 平民でありながら王国に対して大きく貢献した者が褒美として与えられる爵位である。

 役職はあってないようなものだが、希望する者また有能な者には「男爵の補佐」として領地の管理を任されることもある。



騎士爵ナイト:王国や国王に尽した褒美として与えられる騎士として名誉的な称号である。

 自分より身分が上である貴族に仕えている場合が多い。






──────────────────


お読み頂きありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。



【お知らせ】


こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!


『今から俺が魔王なのです~クズ勇者に追放され命を奪われるも無敵の死霊王に転生したので、美少女魔族を従え復讐と世界征服を目指します~けど本心では引き裂かれた幼馴染達の聖女とよりを戻したいんです!』

 ↓

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311



【☆こちらも更新中です!】


『陰キャぼっち、終末世界で救世主となる』

https://kakuyomu.jp/works/16816452220201065984

陰キャぼっちが突然バイオハザードとなった世界で目覚め、救世主として美少女達と共に人生逆転するお話です(#^^#)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る