第118話 えらいモノを貰う、俺




 ゾディガー王は微笑んだまま話を続ける。


「報告は聞いている。『反国王派』が雇った刺客からソフィレナを守り、エルダードラゴンを率いる大群を打ち斃したとな。しかも、騎士団を含め全員無事に生還できたのも、クロック・ロウ其方の手腕によるものだと聞いている。流石、エドアールに見込まれた勇者パラディン候補の一人だ。ソフィレナではないが、余としても次期勇者パラディンは、もう其方で良いと思っておるぞ。エドアールにもそう言っておく」


 やべぇ。

 国王にまで直々に言われると、その気になってしまう。


 オークもおだてれば木に登るじゃないが、マジで登ってしまいそうだ。


 けど、エドアール教頭には、俺が『対竜撃科』に異動するのが条件と言われているからな。

 その辺で渋られているんだけど……。


 しかし、ゾディガー王の後ろ盾があれば、案外Eクラスのままでも勇者パラディンになれるかもしれない。

 それはそれで、これまでの歴史を変える凄いことだけどな……。


 だけど、その前に『奴』との決着もある――。


「ハッ、ゾディガー陛下のお気持ち、大変嬉しく思っております。しかし、この度ネイミア王国にて、もう一人の『勇者パラディン候補』も活躍を見せております。わたくしと致しましても、その者と競いあった上でお決めになられるのが最善ベストだと思う次第でもございます」


「もう一人の勇者パラディン候補? ああ、ランバーグの息子か? 確かにネイミア王国のハーライト王から賞賛を受けておる。しかし余からすれば、それはそれ、これはこれだ。確かに『神童』と呼ばれるだけあり有能であるが、余としては他国ではなく、このミルロード王国にとって貢献した者こそ、この国の勇者パラディンになる資格があると思っておる。そうであるな、ソフィレナよ」


「はい、お父様。真にその通りですわ」


 ソフィレナ王女は良しとして、ゾディガー王は割とドライな感性をお持ちであるようだ。


 実力主義というか……もろ、この国のスキル・カレッジに反映しているような気がする。


 ネイミア王国のハーライト国王は、俺達にも配慮した良心的な人格者だっただけにギャップを感じてしまう。


 まぁミルロード王国も世界有数の国家と呼ばれる大国だからな。

 それらを束ねる国王となると、こういう人柄が望まれるのかもしれない。  


「しかし、ネイミア王国の件はソフィレナを含み、其方らを振り回してしまい申し訳ないことをした。まさか、あのような理由で破談になるとはな……しかし、今後の国交は良好に続けられることに違いない。そういう意味では、ランバーグの息子にも礼と褒美をやらねばあるまい」


「……はい。ですがお父様、勇者パラディン候補の件は別ですわ」


「そうだな。そこは余も譲る気はない」


 すっかり仲良くなり気に入られてしまったとはいえ、ソフィレナ王女はあくまで俺を推してくれる。

 ゾディガー王まで巻き込む形で照れてしまう。


 このまま大きなヘマをしなければ、ほぼ俺になるのかな?


 いいや、その油断が危ないんだよ……特にウィルヴァが相手の場合。



「――クロックよ。早速、其方らに褒美を取らせたいと思うのだが何が良い? 賞金か、城か?」


 ゾディガー王が不意に委ねてくる。


 ん? 決めてないのか?

 褒美ってセルフサービス制なの?

 いきなり言われても困るんだけど……。


 それに『城』って……俺、まだ16歳になったばかりの学生っすよ。

 もうすっかり勇者パラディン扱いじゃないか?


「はぁ……賞金は冒険者ギルドで働きクエストに見合う分を頂けることになっておりますので……住まいに関しては、カストロフ伯爵様のご配慮で卒業までお屋敷に住まわせて頂いておりますので……はい」


 ついこないだまで金欠だったけど、今は多くのクエストをこなして懐は温かいほうだ。

 特に今の住んでいる屋敷だと、物に満たされて使う機会がほとんどないからな。


 せいぜい、冒険者用の装備品くらいか……。

 でも、早々に買い替えることはないし。


 俺の返答に、ゾディガー王は頬杖をつき「ふ~む」と考え込んでいる。

 奇病により見た目は90歳の老人だが、仕草が若々しいので奇妙な違和感を覚えてしまう。


 そんな国王の隣に座る、ソフィレナ王女は父親の耳元で何か小声で話し掛けている。


 ゾディガー王は「なるほど、そうか……」と理解を示した。


「クロックよ。では領土をやろう――ターミア辺りはどうだ?」


「タ、ターミア?」


「王都から南に位置する、昨年まで貴族達の行楽地リゾートとして栄えていた海沿いの領土だ。今年から別の領土に移ったので現在は所有者はおらん。小さな規模だが村や町も幾つか点在しておる。そこも含めて、今回の褒美として其方に差し上げようではないか」


「は、はぁ……領土ですか」


 突拍子もない褒美に、俺は曖昧な返答をした。


 が――待てよ?


 はっと我に返る。


「へ、陛下! お言葉ですが、領土って土地ですね!? しかも村とか町って……え!? この俺に頂けると!?」


「クロックよ、そうだと言っているではないか? 不満か?」


「い、いえ……そんなことは、ありがたく頂戴いたします」


 ええ!?

 嘘だろ!?


 ってことは『領主』になれってことじゃん!?


 俺、16歳で領主になっちゃったよ!

 爵位とかどうなるの!?

 平民の勇者パラディン候補の一人でいいわけ!?


 それに、ターミアって海沿いの領土だと言ってたな。


 領土ということは、土地だけじゃなく『空域』と『海域』も含まれる筈だ。

 つまり、嘗て行楽地だったターミアの海岸も含まれるってことだろ?

 

 やべぇ……海水浴に行く予定が、海ごともらっちゃった。



 俺は隣で跪く、アリシア達を恐る恐るチラ見する。


 全員が「マジかよ……」って瞳で、こちらをガン見していた。

 俺は「だよな……」と心の声で呟き苦笑いを浮かべる。




 こうしてゾディガー王との謁見が終わり、俺達は『客間』へと案内される。


 本当は、このまま屋敷に帰る予定だったけど、なんかそれどころじゃなかった。



「ど、どうしょう、みんな……なんか、俺ぇ……えらいモノもらっちゃったんですけど……」


「はい、まさか褒美に領土とは……確かにクロウ様はソフィレナ王女のお命を二度お救いし、戦死者も出さず『竜狩り』を成功させた功労者です。それに見合ったご活躍はされているかと思いますが……まるで本物の勇者パラディン並みの厚遇ですね」


 ソファーに座り頭を抱える俺に、アリシアが同調してくれる。


「だろ? これならいっそ賞金にすりゃ良かったよ……」


「クロウ、国王から凄いモノを貰ったのはアタイでも理解できるよ。けど、どうしてそんなに悩んでいるんだい? アタイなら病気以外なら何でも貰っちまうけどね~」


 セイラは気楽そうに言ってくる。

 如何にも脳筋娘の発言だが、この際ツッコんでられない。


「俺は、まだ16歳だぞ? 爵位だってないんだし、領地の運営とかどうするのよ?」


「そうですね。小さな領地と聞きましたが、まだ学生じゃ手に余る代物には変わりありませんね……」


 ユエルも同調してくれる。


 そもそもなんで、俺だけに褒美なんだ?

 冒険者パーティなんだから、仲間内で均等じゃなきゃ可笑しいじゃんか!


「そうだ。俺だけの活躍じゃないんだし、いっそみんなで領土を六等分にしないか?」


「兄さん……ケーキじゃないんだから、それは不可能かと?」


「う~ん。ボクも森なら、ありがたくもらっちゃうんだけどね~。海はね……」


 妹のメルフィに指摘され、森の妖精族であるディネに不満めいたことを言われる。


 だよな……っと思っていた時、誰かが扉をノックする。



「あら、皆さん。お取込み中ですか?」


 ソフィレナ王女が入ってきた。

 着替えたようで、何か普段のドレス姿と違う。

 動きやすく乗馬服のような格好だ。


「ひ、姫さん……俺、どうしたらいいのかなって……」


「クロウ、どうするとは?」


「いや、さっきゾディガー陛下から頂いた、ターミアという領土について……だって、俺ぇ、平民っすよ?」


「ああ、そのことですわね。ご安心なさい、クロック・ロウ。お父様が貴方に爵位を与えるそうよ。明日から、男爵バロンになるわ」


 そうか……なら安心だわ。


 って、おい!?






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