第九章 未知なる所有地
第117話 褒め称えられ、その気になる俺
四日後、俺達は無事にミルロード王国に帰還した。
行きがトラブル続きだっただけに、帰りはほとんど何事もなかった。
時折、
『竜』でも現れたら、すぐさま俺に声が掛かるんだけどね。
そういや、イエロードラゴンの言葉を思い出した。
確か奴は誰かに命じられて俺達を襲ったような言い方をしていたよな?
大陸を支配するエンシェントドラゴン以外の何者か?
竜神――
そして教団は、『竜と対等の存在』になることが目的らしい……。
五年後の記憶を持つ俺ですら、さっぱりわからないことだらけだ。
――裏で何かが動きつつあるのは確かなんだろうけど。
「やっと着いた~!」
「やっぱ、祖国はいいね~!」
幻獣車に設置された長い昇降階段にて。
ディネとセイラは城砦に降りた瞬間、声を上げて背伸びをする。
「まったくだ……連戦続きだから、少しゆっくりしたいな。まだ夏休みもあるしな」
「では、クロウ様。しばらくクエストに参加せぬと?」
「そうだな、アリシア。けど、せいぜい二~三日かな……リフレッシュしたら、すぐ再開さ。じゃないと、すぐウィルヴァ達に抜かれてしまうからな」
ウィルヴァは自分の遅れを取り戻すため、夏休み中はずっと冒険者として活動するって言ってたからな。
なりたてである奴のギルドランクはまだEかDとして、本来なら高ランクのクエストは受けることはできない。
だけど、新しいパーティ仲間である少女達全員はランクSらしい。
したがって、ウィルヴァは彼女達に便乗する形で高ランクのクエストが受けられるのだ。
俺達とてうかうかしていたら、あっという間に抜かれ兼ねない。
油断禁物ってところだな。
「リフレッシュですか……クロウ様は何かなされる予定でも?」
「え? 特にないけど、あの豪邸屋敷でゆっくり羽根でも伸ばしたいと思っているくらいだよ」
セキュリティ万全で、頼もしいメイドさん達に囲まれてるし、なんちゃって貴族風で満喫できるだろう。
「クロック兄さん、いっそ海に行きません?」
「海?」
珍しいメルフィの提案に、俺は首を傾げる。
「ええ。昔、よく海水浴の連れて行ってくれたじゃありませんか?」
「ああ、そうだったな。確かに中等部から行ってないな」
海水浴か。
久しぶりに悪くないかもな。
だけど、国内の海水浴場はこの時季だと混んでいそうだ。
果たして羽根が伸ばせるかどうかも疑問だし……。
そう思いながら、俺はチラッとパーティ達を一瞥する。
行くとしても、メルフィと二人っきりってことはないだろう。
みんな誘うべきだ。
ってことは、アリシアやセイラの水着姿が見れるのか拝めるのか……。
トラウマで想像したことがないが、パーティ内では特にナイスバディを誇る二人。
さぞ魅力的だろうな……。
メルフィも小さい頃よりも女性として発育しているだろうし、ディネもエルフ族ならではの神秘的な清楚感が堪らない。
清楚系といえば、ユエルだって……。
ユエルの水着姿。
想像できない……つーか、やばくね?
考えてみりゃ、こんな魅力的な美少女ばかりのパーティで男は俺だけだからな。
少し前までトラウマのせいで、俺は「あっち系」疑惑があったから、お互い丁度いい距離感が保てたけど……。
こうして客観的に見ていると、俺もよく自制していたよな。
いや、変なことを考えると、トラウマが蘇って彼女達にドン引きされていたんだ。
俺自身も冷めていたこともあったし……。
改めて考えると、俺は彼女達をどう思っているんだろう。
特に異性として――。
「クロック様、それにパーティの皆様! この度はご一緒に旅をさせて頂き、我ら騎士団一同、光栄の至りでありました!」
先に降りていた
彼らとも今回の護衛クエストで共に死線を潜り抜けた同士って奴だ。
「いえ、俺達は依頼通り、ソフィレナ王女様をお守りしただけです。皆さんも、こんな学生の俺達を受け入れてくれて感謝いたします」
「何をおっしゃいます! クロック様の知識と判断に基づく指揮能力の高さ、それに万能な特殊スキル! 我ら一同、次期
そ、そーなの。
改めて言われてしまうと照れてしまう。
「――わたくしも皆と同じ意見ですわ」
ソフィレナ王女がユエルに手を引かれ、ゆったりとした足取りで昇降階段から降りてきた。
「姫さん……あっ、いえ、ソフィレナ王女様?」
仲良くなったとはいえ、流石に配下の前ではタメ口で話せない、身の程を知る俺。
「わたくしも次の
マジで?
王女様の直々となると割と現実味になってきたんだけど……。
今回それだけの功績を上げたってことか。
けど、ここで調子に乗ったらいけない。
そこは俺も精神年齢21歳の大人だ。
「ありがとうございます、王女様。俺も皆さんの期待に見合うよう、これからも精進していきます。この最高の仲間達と共に――」
俺が頭を下げると、アリシア達を含む全員が拍手喝采してくれる。
こういう場合、胸を張っていいのだろうか?
まだ、はっきり言えないけど、俺もそれっぽく成長しているのかな?
――初めてだ。
俺は
ウィルヴァとの勝負関係なしに、この国を知的種族達を守る英雄を目指そうと心から望んでいるんだ。
この時代の……今の俺なら、それが出来るかもしれない。
パーティのみんなが傍にいてくれれば不可能じゃないと思えている。
もう糞未来の俺じゃないんだ――。
こうして俺達は馬車に乗り移り、ミルロード王城へと向かう。
ひとつは、ソフィレナ王女を最後まで送り届けるため。
そして、ゾディガー国王に謁見するためだ。
なんでも今回の功績で国王陛下直々に、俺達へ褒美を取らせたいようである。
報奨金なら冒険者ギルドでも貰えるのに、随分と気前のいい国王だ。
ミルロード王城へ着いた途端、城内から大歓声が沸き起こった。
「え? な、何これ!?」
俺は馬車の窓から覗き込み、その異様な盛り上がりに見入ってしまう。
「皆が、クロウ達の凱旋を祝っているのですわ」
ソフィレナ王女は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「そりゃハッスルして頑張りましたけど……少し大袈裟すぎじゃありません?」
「しかし、クロウ達はエルダードラゴンを斃しておりますし、わたくしを刺客から守ってもくれましたわ」
「私達はそれだけの大義を成し遂げたということですね」
「そうですよ、アリシア。貴女のおかげで、フェアテール家も鼻が高いでしょう」
ソフィレナ王女様が隣に座るアリシアの手をぎゅっと握り締める。
髪の色と目つき意外はそっくりなので、こうして二人並んでいると仲の良い双子姉妹見えてしまう。
実際は母親方が双子で親戚らしいけどな。
そして『謁見の間』に招かれた、俺達。
以前の通り、大勢の重鎮達が壁際に沿って並ぶ中、奥側の玉座に腰を下ろす老人がいた。
――ゾディガー・フォン・ミルロード。
ミルロード王国の現国王様だ。
前回と違い、ゾディガー王の隣には別の玉座が設けられており、そこに娘のソフィレナ王女が座っていた。
俺達は赤絨毯の上を歩き、いい感じの距離で跪く。
ネイミア王国でも学び、かれこれ三度目なのですっかり慣れたもんだ。
「クロック・ロウ、それにパーティの面々も、どうか面を上げてほしい。この度は娘の危機を救ってもらった恩人として招いたのだからな」
奇病を患っているにも関わらず相変わらず威厳のオーラに満ちた国王だが、以前とは少し異なった柔らかい口調でもある。
俺は顔上げると、以前と同様にゾディガー王は俺だけをじっとガン見していた。
唯一違っていたのは、皺くちゃな表情を歪ませ微笑んでいたことだ。
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