第116話 新たな決起と挑戦




 次の日、早朝。


 俺達はソフィレナ王女と共に幻獣車に乗り込み、ミルロード王国へ帰国することにした。


 他国なんて滅多に行けないから、本当は少しだけ観光もしたかったが、あんな事件もあり長居するべきじゃないと思った。


 なんだかんだ、ソフィレナ王女を狙う『反国王派』の存在も気になるしな。

 早々に帰った方が安全だろうという配慮でもある。

 


「――クロウ、アンタの言った通りだったね」


 ソフィレナ王女の部屋にて。


 移動する景色を眺めていた、セイラが嬉しそうに言ってくる。


「何がだい?」


「ウィルのことさ。アタイとユエルに向けて、クロウは言ったろ? 『このまま大人しく終わるような男じゃない』って。昨日、本当にその通りだと実感しちまったよ」


「だろ? だから奴の心配は不要なのさ。油断すると、簡単に逆転されちまう……ったく、恐ろしい野郎だぜ」


 ウィルヴァの奴、自分のパーティを探すため、隣国のネイミア王国でナンパ……じゃなく、スカウトに行ってやがったとはな。


 しかも『イサルコ王太子の暗殺事件』の解決に大きく貢献して手柄を立てるとは、さぞいい手土産になっただろう。


 このまま二学期まで高ランクのクエストをこなしていけば、学科の成績のいい奴なら案外、俺と並ぶかもしれない。

 

 ウィルヴァが言っていた「二学期から勝負」って言葉も、あながちハッタリじゃないって意味だ。


 面白れぇ……。


 やっぱり、ウィルヴァ・ウエストは本物の勇者だ。


 こうでなきゃ挑戦する俺も面白くない。



「――クロウ様、随分と嬉しそうですね」


「え?」


 アリシアに聞かれ、俺はハッと我に返る。


 言われてみればそうだよな……普通、脅威を覚えて悔しがるところなのに、何故か心が弾んじまう。


 考えてみりゃ、なんでウィルヴァの凄さを目の当たりにしてテンションが上がるんだ?


 ウィルヴァへの挑戦か……。


 いつか超えたいと思っているのに、簡単に超えたくないと心のどこかで思っているのか?


 俺にとってウィルヴァは、五年後の未来では最も苦手とする男であり毛嫌いすらしていた。

 優秀さを見せつけられ、パーティ女子達の称賛と信頼を得ていた真の勇者。

 奴の何が悪いわけではない。ウィルヴァは誰に対しても平等で正しく優しかった。


 そんなウィルヴァに、俺も憧れつつ一方的に嫉妬もしていた。


 ただそれだけだ……。


 しかし俺が五年前の過去に遡及したことで、今の逆転人生に至っている。


 気がつけば、ウィルヴァと『次期勇者パラディン候補』の推薦を懸けて肩を並べるほどまで成り上がってしまった。


 奇妙なもんだな……。


 あれだけ勝って奪ってやろうと思ったのに、いざ手が届きそうになると躊躇しちまう。

 

 俺が知っている、ウィルヴァはこんなもんじゃない筈だってな……。


 アリシア、メルフィ、ディネ、セイラ、ユエル……パーティ達のこともそうだ。


 みんな五年後の未来では、あれほどまでウィルヴァを慕っていたのに、この時代じゃ全員が俺について来てくれている。


 しかも、あの時代でウィルヴァにしてきた以上に、パーティ全員から溺愛される形で……。

 

 どこか引け目も感じつつ、ウィルヴァに勝って超えたい切望する俺がいる。


 だけど今じゃないんだ。


 お互いが万全の状態で競い全力を出し切った上で勝ちたいんだ――。



「……きっと、それが好敵手ライバルってやつなんだろうな」


「いいね、そういう関係……アタイは嬉しいよ。これで、アタイも遠慮なくウィルに挑むことができるよ。クロウ、アンタを支えながらね」


「セイラの言う通りですね。純粋にお互いを高め合うのが真の好敵手ライバルですからね。無論、我ら全員がクロウ様を全力で支えていく限りでありますが」


 セイラとアリシアは嬉しそうに優しく微笑んでくれる。


「だから兄さんは自分が思う通りに前に進んでください」


「ボク達がいつでも、クロウの背中を守ってあげるからね~」


 メルフィとディネも俺を応援してくれる。


 素直に嬉しい……。

 俺だって彼女達の期待を裏切るつもりは毛頭ない。


「……ウィルお兄様とクロウさん。本当に微笑ましい関係です。わたしも、クロウさんと共に遠慮なく、お兄様に挑戦していきたいと思います」


「ユエル……ありがとう。それに、みんなも……俺、頑張るよ。そして、必ずウィルヴァに勝つ! みんなが傍にいてくれれば怖いものなしだ!」


 俺は拳を握り締め意欲と決意を見せる。


「「「「「はい」」」」」


 パーティ全員が声を揃え、微笑を浮かべながら頷いてくれる。


 ウィルヴァの凄さを目の当たりにして臆するどころか、逆に士気力が上がったような気がする。

 ちょっとした決起集会になって良かった。



「冒険者……いいですわね。わたくしも王女でなくなったら薬学師ファーマシーと同時に目指してみようかしら」


 黙って聞いていた、ソフィレナ王女が呟いている。

 すっかり俺達に感化されてしまったようだ。


 薬学師ファーマシーも怪我や病気を治す薬を調合するだけでなく、竜や魔物モンスターを斃す『毒』を作ったりするからな。

 レア職なだけに、冒険者としては重宝されるだろう。


 てか、元王女の冒険者ってだけでも、超レアに違いないけど。


「にしても、ユエル。久しぶりにランバーグ公爵にお会いしたが、随分と身形と雰囲気がお変わりになられたような気がする」


 アリシアが話題を変えて話し掛けてきた。


「アリシアはユエルの親父さんを知っているのか?」


「ええ、父に王城に連れられた際、何度かお会いしたことがあります。っと言っても中等部に入ってからはお会いしておりませんが」


「そ、そうですね。お年もお年ですから……」


 ユエルは戸惑いながら俯いている。

 どうも義理父であるランバーグ公爵の話になると表情が暗くなる。


「そういや、ニコニコと愛想の良い優しそうな人だったな。ゾディガー王の側近中の側近である『懐刀』って聞いたから、厳しそうな人だと思ったけど……」


「クロウ様の仰る通りです。とても厳格なお方だと、父カストロフからもそうだと聞いておりました。それにもう少し、スマートで人に愛嬌を振りまくような方ではなかった印象もあります」


「それこそ、年齢も重なってってことだろ? ねぇ、姫さん?」


 俺は、すっかり親しくなったソフィレナ王女に話を振ってみる。


「アリシアの仰る通り、わたくしもランバーグは部下や周囲に対して厳格な心象しか抱いたことはありませんね。会う度に恰幅がよろしくなっているのは事実ですが……」


 それこそ年齢じゃないかって話だろ?

 メタボ的な……。


「……きっと、クロウさんがウィルお兄様と並ぶ『勇者パラディン候補』だったからだと思います。それに随分と機嫌もよろしかったようですし……」


 ユエルは言葉を選びながら説明している。

 

 まぁ、義理息子も新しいパーティを結成できて、華々しい活躍もしたしな。

 機嫌よくて当たり前と言えばそれまでだ。


 しかし、俺も一つだけランバーグ公爵の様子が気になっていた。


 あれだけニコニコ笑っていた癖に、目が一切笑ってなかったんだ。


 一応、精神年齢が21歳の経験上、ああいう目をした奴は大抵裏で何か企んでいることが多い。


 まぁ、腹黒い貴族社会を生き抜くには、それくらいしたたかでないと『公爵』なんてやってられないのだろうけど。

 それもあって優秀なウィルヴァを養子にしたんだろうしな。


「もう、その話はいいだろ? ゾディガー王を支えている大黒柱のような人には違いないんだからさ……ユエルも、これからもっと活躍して、妹も負けないで優秀なところを親父さんに見せつけてやろうな」


「はい、クロウさん」


 俺の言葉に、ユエルはニッコリと微笑んでくれる。


 五年後の未来ではいつも控えめで、どこか儚そうな雰囲気だっただけに、とても新鮮に見える貴重な笑顔だ。


 あの時代の俺にとって唯一変わらず、恋心を抱いていた片想いの少女。


 そんなユエルにとっても、これからは兄であるウィルヴァを超える挑戦のようだ。






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