第114話 女子同士の妙な張り合い




「真相はそれだけじゃないって?」


「そうさ、クロウ君……これは、被害者であるイサルコ王太子殿下の残留思念から読み取った真相なんだけどね……彼は『毒入りの紅茶』だとわかっていた上で、自分の意志で飲んでしまったようなんだ」


「……自分の意志ってマジかよ?」


 俺の問いに、ウィルヴァは頷く。


 にしても他人の残留思念を読むって……ウィルヴァの能力じゃない。

 奴と組んだネイミア王国の冒険者パーティの誰かの特殊スキルか?


「イサルコ殿下もドリィ令嬢を愛していたのさ……彼女と結ばれないのであればと、理解し覚悟した上で自ら命を絶ったようだ。それと、無関係なソフィレナ王女を守る目的もあったようだ」


「自分が死ぬことで標的から外させたのか? どっちも早まった真似を……」


 せめて俺達が王城に入るまで犯行を待ってくれればな……。


 まぁ、ソフィレナ王女もゾディガー王の顔に泥を塗らずに無事に帰国できることに変わりない。

 なんとも複雑な心境だぜ。

 今のご時世、政略結婚なんてするもんじゃないってことだろう。


「それで、どうしてその話をわざわざ俺達に?」


 俺はウィルヴァに聞いてみる。


「僕だけの胸に止めておくのは辛くてね。かと言って、ハーライト王やソフィレナ王女には聞かせられない話でもある……クロウ君達なら受け止めてくれると思ったからだよ」


 何も俺達を巻き込まなくても良くね?

 お前の胸だけで大切に保管しておけよ。

 いや、別にいいんだけどさ……。


「まぁ、これで事件解決ってことで割り切った方がいいんじゃないか? じゃないと、冒険者なんてやってられねーよ」


「……そうだね。やっぽり、クロウ君は大人だね」


 ああ、まぁ。一応、精神年齢は21歳だからな。

 そうか……今のウィルヴァもなんだかんだ、まだ16歳か。

 なら、こういう人間の『愛憎劇』展開には慣れてないのも仕方ないか……。


 俺なんか、糞未来のトラウマまでフィードバックしちまうから、パーティ内から精神病んでいる扱いだけどな。


「もう、この話は終わりでいいんじゃないか? それより、ウィルヴァ。そこにいるネイミア王国の彼女達のことなんだけど……」


 ずっと気になっている、ウィルヴァに付き従っている女子冒険者達を見据えた。


「ああ、彼女達のことだね。そういや言いそびれたね……さっき言っていた『手続き』ってのは、彼女達をミルロード王国へ移住させるための手続きだよ」


「移住だと? じゃあ、やっぱりその子達は、一時的に組んだパーティじゃなく……」


「そうさ。僕の新たなパーティだ」


 ウィルヴァの周りを囲む少女達はドヤ顔している。


「ソーマの件で休学していた時に、ネイミア王国に来ていたのか?」


「そうさ、父の護衛役でね。僕も丁度パーティを探していた頃だったから、冒険者ギルドに立ち寄ってみたんだ。その時に彼女達と出会って声を掛けたら、すぐ意気投合してね……彼女達も国土が広く規模もある、ミルロード王国に移住したい想いもあって、こうしてパーティを組むに至ったってわけさ」


 こいつにしては随分とチャライ経過だな。

 まるで危険を冒してまで、隣国へナンパしに行ったようなもんじゃね?


 隣国にせよ、スキル・カレッジに在籍して冒険者ギルドに所属しているってことは、この娘達の身元は十分にしっかりしているってことだ。

 ミルロード王国に行っても移住手続きは早いだろう。


 きっと、ウィルヴァは二学期に入るまで、彼女らと冒険者として活動するに違いない。

 不足だった実戦経験を積むために。


 どの道、ウィルヴァもようやく念願のパーティも手に入れたようだ。


「今回、しっかり手柄も立てれたし、デビューとしては最高の出だしじゃないか?」


「クロウ君に言われると自信が持てるよ。エドアール教頭に、どこまで評価されるかわからないけど、手土産くらいにはなったかな? 不足分はギリギリまで冒険者クエストで補うつもりさ」


 思った通りか。

 俺にとって、こいつとは糞未来での五年間の付き合いがあるだけに思考と行動もなんとなくだがわかる。

 普段は平和そうにのほほんとしている癖に、周到な一面がある男だ。


 だから油断できない。


「そうか……こりゃ、俺も頑張らないとな」


「流石、クロウ君はいいね。軽視せず侮らず、僕を高めてくれる……キミとは二学期からの勝負だと思っているよ」


「ああ、楽しみにしてるよ」


「実は、もう一人仲間の子がいるんだけど、今は不在でね。今度紹介するよ」


 まだいるのかよ……。

 しかも、その口調だと女子っぽいな。

 こいつは相当モテる男だからな……。


 まぁ、どうでもいーわ(笑)


 そう思っていると、カーラという赤毛の銃術士ガンナー少女が大きな瞳で、俺の方をじっと見つめてくる。

 思わず目が合ってしまった。


「ねぇ、キミが、ウィルヴァ様が好敵手ライバルだと話していた、もう一人の勇者パラディン候補の男子なのかい?」


「ああ、そうだけど……」


「ふ~ん、見た目は悪くないけど……やっぱりウィルヴァ様が一番かなぁ」


「はい、ですぅ! ウィルヴァ様が一番カッコイイですぅ!」


「オレも嫌いなタイプじゃないが……カーラとロータに賛同だな」


「……マスター、イケメン」


 向こうの女子達は、やたらウィルヴァを持ち上げている。

 つーか、見た目だけで比べられても困るけどな。


「フッ、笑止千万だな。そんなモノで勇者パラディンの称号が決まってたまるか!」


 アリシアが両腕を組み鼻で笑う。


「なんだって?」


 カーラは眉を顰めて聞き返す。


「クロウ様の凄さは内面にこそ溢れている。それに、沢山の難解なクエストに挑みいずれも見事なまでに完遂されているのだ。ウィル殿に申し訳ないが、今では実力も実績もクロウ様は一番だろう。無論、容姿とて……わ、私の中では一番だがな」


 最後の方だけ小声でデレてしまう、アリシア。


「その通りです! クロック兄さんは誰にも負けません!」


 相変わらず俺の腕に抱き着く、べったりで義理の妹メルフィ。


「クロウのこと、何も知らない癖に勝手なこと言わないでくれる!?」


「ディネの言う通りだね。そもそも一番とする物差しが違うんじゃないかい? 顔で勇者パラディンになれるわけないだろ?」


 セイラが珍しく正論を述べている。


「ウィルお兄様がお決めになられた方達に意見するつもりはありませんが……些かズレているのではないでしょうか?」


 一番、言わなそうなユエルがトドメを刺してきた。

 冷めた眼差しでカーラ達を見入っており、尊敬する兄にミーハーな感覚で付きまとう『害虫』と認識したようだ。


 向こうの女子達はムスっとした表情を浮かべる。


 対して、こちらの女子達は論破したとドヤ顔だ。


 なんだろ、これ?


 一体なんの論争なの?

 俺とウィルヴァの何を競った争いなの?

 見栄の張り合いなの?


「まあまあ、みんな落ち着いて。僕とクロウ君が競うのは二学期からだよ……それ以外は、僕は彼を好敵手ライバルであり親友だと思っているんだ。クロウ君はどう思っているかわからないけどね」


「え? ああ、そ、そうだな……俺はアンタを越えるべき男だと思っている」


 親友とか言われて戸惑ってしまう。

 まさか、こいつにそこまで思われているとはな……。

 複雑な気分だ。


 それこそ糞未来の記憶がなければ、俺もウィルヴァのことそう思っているのだろう。


「だから、カーラもロータもフリストもスヴーヴも、普段はクロウ君達と仲良くしてほしい……みんな、スキル・カレッジの同級生になるんだからね」


「「「「は~い、ウィルヴァ様♡」」」」


 ウィルヴァに諭され、パーティの女子達は甘え声で返答をする。


 う~ん、やっぱりアリシア達にとって反面教師みたいな子達だ。


「……ああ、そういや、俺……ウィルヴァに聞きたいことがあったんだ」


「なんだい、クロウ君?」


 俺は胸ポケットから『銀色の懐中時計』を取り出して見せる。


「イエロードラゴンと戦ってピンチな時、またこの懐中時計の音とアンタの声が聞こえたんだが……やっぱり何か『術』を施しているのか?」


「また可笑しなことを言うね、キミは……僕は、ずっとネイミア王国にたんだよ? 過大評価してくれるのは嬉しいけど、そんな器用なことできないさ」


「そ、そうだよな……すまん」


 やっぱ、俺が無意識で創り出した虚像のようだ。






──────────────────


次話で事件の首謀者や背景が判明してきます(^^)/


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