第113話 語られる事件の真相
「新たに私達が調べた所、イサルコ王太子殿下の本当の死因は『毒殺』だと判明いたしました」
ウィルヴァは凛とした口調で経過を説明する。
ハーライト王とザビネ王妃は、きょとんと目を見開く。
「毒殺だと? しかし遺体には毒物など検出されなかったと聞くぞ? それにどうやって、あのドリィが密室で、イサルコの体内に毒物を混入できるのだ? 彼女はそのような、特殊スキル能力は備わってない筈だ……」
まぁ、確かに隠していても特殊スキルの鑑定でバレるわな。
俺のようにレアリティが
「いえ、特殊スキルによる毒殺ではございません。やり方は至極単純な方法でした――王太子専属の侍女が、イサルコ殿下がいる部屋まで紅茶を持って行く際に声をかけ、隙をみて毒を混入させたようようです……丁度、ソフィレナ王女様が王都に入られた時を見越して上での犯行です」
その紅茶を飲んでしまったばかりに、イサルコ王太子はキルされちまったのか。
言われてみれば、王都内も他国の婚約者である王女が来たとかで結構賑わっていたからな。
無論、このネイミア王城内も出迎えの準備とかで慌ただしかっただろう。
そのタイミングで犯行に及んだようだ。
「しかし、ウィルヴァよ。疑問が残るぞ……何故、体内に毒物が検出されぬのだ?」
「ハッ、陛下。毒には『呪殺術』が施されておりました。服用した数分後に心肺を停止させ、毒は体内で跡形もなく浄化されてしまう作用があるようです。ドリィ令嬢の自供で、繁華街の闇ルートで入手したまでわかっています。後の捜査は、親衛騎士団と衛兵団に移行しております」
「そうか……しかし、ウィルヴァよ。其方はよく、ドリィの犯行だとわかったな……?」
「いえ……私ではなく、全て協力してくれた彼女達のおかげです。彼女達の特殊スキル能力で判明に至ったようなものでして」
ウィルヴァは言いながら、左右で跪いているネイミア王国の冒険者パーティを一瞥する。
「けど、アタシら、ウィルヴァ様の指示に従っただけだよ!」
「はいですぅ。この方の聡明な判断と指示が無ければ、解決には至らなかったでしょう」
ハーフエルフで
「それに、ドリィって娘……犯行がバレた際、自分も毒を飲んで自害しようとしたんだ。それをいち早く気づいて引き止め、説得して自首させたのもウィルヴァ様の優しさによる功績だね……オレ達じゃ、そこまでの配慮はできない。大したもんさ」
「……マスター、有能」
最後に、
そんな女子達全員に褒め称えられ、ウィルヴァは恥ずかしそうに頬を染めている。
何だ? デジャヴか?
この状況、どっかで見覚えがあるぞ?
「ですから陛下……どうか、ドリィ令嬢に生きる
ウィルヴァは、ハーライト王とザビネ王妃に向けて深々と頭を下げて見せる。
他人の、しかも重罪を犯した娘にも関わらず。
元は他国との政略結婚目的で無理矢理に婚約を破棄させた、ハーライト王側にも原因はあるしな。
しかし、どんな理由だろうと、一国の王太子をキルしたら問答無用で処刑だろうな。
ハーライト王はしばらく考え込む。
そして、ザビネ王妃と瞳を合わせて二人の夫婦は頷いた。
「……わかった、ウィルヴァよ。イサルコの件は、わしらにも落ち度はある……其方に免じて、ドリィの極刑はしないでおく。法的に罪を償った後、修道院に入るようにいたそう……生涯を掛けて、イサルコの死と向き合ってもらうためにもな」
「ハッ! ハーライト王、それにザビネ王妃の寛大なご慈悲、このウィルヴァ・ウエスト! 大変感謝いたします!」
やべぇ、ウィルヴァ、めちゃカッコいいんだけど……。
そりゃ、こいつモテて当然だわ~。
だけど、ハーライト国王とザビネ王妃の人柄も大したもんだと思う。
普通、息子が毒殺されて、あそこまで潔く割り切れるものじゃない。
「……ウィルヴァよ、どうか面を上げてくれ。それにしても、ランバーグ公爵、其方も良い息子を持たれたな」
「ハッ、陛下からのお言葉、ありがたき幸せでごじざいます」
ランバーグ公爵は嬉しそうに頭を下げる。
義理とはいえ自慢の息子に違いないからな。
「ウィルヴァよ。この度の活躍は、わしからゾディガー王に伝えようぞ。ソフィレナ王女との縁談は白紙になってしまったが、今後もミルロード王国とは友好な関係を続けていきたい……其方のような
「い、いえ……ハーライト陛下、私はまだ
ウィルヴァは恥ずかしそうに言いながら、俺をチラ見する。
どうリアクションしていいかわからないので、とりあえず微笑を浮かべてみた。
しかし、今回のウィルヴァの活躍は、当然ながら『勇者推薦権』を持つ、エドアール教頭の耳にも入るだろう。
隣国の暗殺事件を解決した英雄として――。
身内より他人の評価の方が良く見られる傾向があるからな。
前回のソーマの件も含め、ウィルヴァも上手く点数を稼いだってことだ。
こうして、『イサルコ王太子殿下暗殺事件』は幕を閉じた。
事件も解決し、ハーライト王からソフィレナ王女へ、もう夜更けなので本日は泊まるように言われたが速攻で断った。
好き好んで、殺人が起こった王城で宿泊したいと思わない。
それなら城砦で待機している幻獣車で寝泊りしたほうが気も楽だろう。
あそこも十分に広いしな。
そんなわけで、ソフィレナ王女と侍女達が『客間』で帰宅準備を整えている中、俺達パーティと
ウィルヴァが近づいて来る。
奴の後ろに、例のネイミア王国の冒険者少女達がついて来ていた。
「やぁ、クロウ君。キミ達はこれからミルロード王国に戻るのかい?」
「まぁな。幻獣車で一晩泊まってから、明日の朝にネイミアを出ようと思っている……ウィルヴァはどうするつもりだ?」
「この国で手続き事があってね。明日はそれに追われてしまう……帰国するのは次の日になりそうだよ」
「そうか……」
「クロウ君達にだけ、本当の真相を話したいんだけど、ちょっといいかな?」
「本当の真相? なんの?」
「ドリィ令嬢のこと。ここじゃなんだから……」
ウィルヴァがそう言うと、俺達パーティは別室に案内される。
そこも『客間』であり、造りはほぼ変わらない。
ウィルヴァ達が招かれた部屋のようで、義理父のランバーグ公爵は不在のようだ。
俺達はソファーに座る。
「んで、ウィルヴァ話って?」
「ドリィ令嬢の本当の標的さ」
「本当の標的?」
「ああ、彼女の本当は標的は、イサルコ王太子殿下じゃない。婚約者である、ソフィレナ王女を暗殺しようとしていたんだ」
「ソフィレナ王女か……確かに考えられるけど、それがどうしてイサルコ殿下に移行したんだ?」
「ドリィ令嬢に直接尋問した時……クロウ君、キミ達の存在が大きかったと話していた」
「俺達の存在?」
「そうだ。キミ達がネイミア王国まで来るまでの武勇は、こちらにも伝わっていたからね……クロウ君パーティに四六時中守られていたら、暗殺は成功しないのだろうと考えたらしい」
「なるほどね……本当は片道だけの護衛だったんだけど、ついて来て正解だったわけだ」
婚約を断る目的でな。
それを知っていたら、ドリィ令嬢もバカな真似はしなかったのかもしれない。
なんとも皮肉な話だ。
「しかし、愛する者を毒殺とは……私なら理解できない思考ですね……」
アリシアは呟くながら、俺の方をチラ見してくる。
糞未来を経験している俺としては、毒殺まではされないにしても、パーティ女子達にそれに近い仕打ちを受けそうな気がする。
どちらにせよ、明日は我が身か……。
トラウマを過らせながら身震いする俺に、ウィルヴァは微笑を浮かべる。
「実は真相はそれだけじゃないんだよ――」
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