第112話 好敵手の新たなパーティ
終始、笑顔であるランバーグ公爵に対して、表情を曇らせる義理娘のユエル。
俺は違和感を覚えてしまう。
余計な詮索だろうか?
あくまで親子間の関係だし、とりあえず俺の意志は伝わったと思っている。
俺のトラウマのように、少しずつでもいいから改善できることを願うしかないだろう。
それと、ランバーグ公爵から他に聞きたいこともあるしな。
「公爵様。ウィルヴァ、君もご一緒に、このネイミア王国に来られていると聞いておりますが? さっきも『息子』にソフィレナ王女様の護衛を任せるつもりだったとか?」
「ああ、その通りだよ、クロウ君。私と共に、ウィルヴァもこの城にいるよ」
やっぱりそうか……。
こんな事態になって、さぞ肩を透かしているだろうな。
「今、奴……いえ、彼は何をなさっているんです?」
「ハーライト王の許可を頂いて、捜査に協力しているんだよ」
え? 捜査協力だと……イサルコ王太子殿下の暗殺について?
「ウィルヴァ君、お一人で?」
「いや違うよ。パーティと共にさ」
「パーティ?」
俺が聞き返した瞬間、誰かが扉を開けて入ってくる。
――ウィルヴァ・ウエストだ。
純白の装甲に鮮やかな黄金色の装飾が施された鎧をまとい、背中には
相変わらず、爽やかで眩しい男だ。
そんなウィルヴァは、すぐ俺と目を合わせる。
存在を知っていた様子で、差ほど驚いた様子もなく、普段通りに笑って見せた。
「やあ、クロウ君。それにみんなも久しぶりだね」
「ああ、アンタも元気そうで何よりだ」
お偉いさんの義理父であるランバーグ公爵の前で、つい日常通りの口調で喋ってしまうが、学生同士だし別に構わないだろうと思った。
ウィルヴァは頷く。
「ありがとう。僕もキミ達の話は聞いているよ。王女様の護衛を任せられ、『
そう言う割には悔しそうに見えない。
俺はニッと歯を見せて微笑む。
「その落ち着いた様子……アンタも何か『収穫あり』って顔つきだぜ?」
「フフフ……まぁね。しかしクロウ君には何もかもお見通しのようだ」
伊達に糞未来で五年間も一緒にいねーよ。
こいつはノープランで強がったりブラフをかましたりするような安っぽい男じゃない。
ウィルヴァの余裕とニヤつきは、自分に自信がある表れだ。
何せ、その糞未来じゃ正真正銘の『勇者様』だった男なんだからな。
「そういや、パーティを組んだって聞いたけど……」
「ああ、そうだ。紹介するよ、みんな入って来てくれ――」
ウィルヴァの呼び掛けで、冒険者風の人族が四人ほど部屋に入ってくる。
全員、俺達と同じ年代風で美しい女子達だ。
一人は、癖のある赤毛のショートヘアにテンガロンハットを被った人族の少女。
スレンダーな体形にホルスターベルトには『
ウィルヴァの紹介で、この子は「カーラ」という名で『
整った容貌だが、挑発的でどこか勝気な印象を受ける。
もう一人は、栗色のセミロングヘアで丸眼鏡をかけた少女。
両耳の先端が若干尖っており、どうやら人間とエルフ族の混血であるハーフエルフらしい。
彼女は「ロータ」という『
四人の中で一番小柄で可愛らしく大人しそうな雰囲気だ。
中でも一番背が大きく、がっしりとした体形の少女。
腰元まで無造作に伸ばされたアッシュグレー髪、日焼けした褐色の肌には白い模様が鮮やかに書き込まれている。
動物の皮と布を組み合わせた露出ある部族衣装をまとい、手には巨大な刃を持つ
彼女は「フリスト」という『
如何にも男勝りという雰囲気であり、高身長と巨乳具合はセイラに匹敵するナイスバディである。
最後に紺色の長髪を後ろで束ね、紫のマフラーを口元まで覆うように巻いた少女。
薄い青紫色の肌だが綺麗な容貌。切れ長の瞳であるが目尻が垂れ下がったジト目である。
よく見ると頭に両角が生えており、
密着した
彼女は「スヴァーヴ」という
その職だけに、
こうして見ると、四人ともミルロード王国の冒険者ギルドでは、あまり見かけることの少ない職種ばかりである。
「――この子達は、ネイミア王国のスキル・カレッジに通いつつ、ギルドにも所属する冒険者でもある。全員がランクSの少女達だよ」
ネイミア王国の冒険者?
全員がランクSだと?
「へ~え、俺達と同じくらいなのに凄いな……それでウィルヴァ、どうして他国の冒険者と組んでいるんだ?」
「それはね……」
「――クロック君、すまない。その話は後にしてくれないかい?」
ウィルヴァが言いかけた時、ランバーグ公爵が口を挟んでくる。
「はい、すみません」
「いや、こちらも二人の会話を遮ってしまって失礼するよ。ところでウィルヴァ、みんなで私のところに戻って来たってことは、『そっち』の方も収穫があったということか?」
「ええ、
なんだと? 解決したって?
「もう、イサルコ殿下を暗殺した犯人を見つけたってことか?」
「そうだよ、クロウ君。犯人はもう僕達が捕まえちゃったけどね。今、地下牢に放り込んで騎士達から尋問を受けているよ。全て自供しているし、事件解決でいいんじゃないかな」
あっさりとした口調でいってくる、ウィルヴァ。
相変わらず場の空気を読まない飄々とした野郎だが……。
「犯人、誰よ?」
「……ここで説明するのもね。まだハーライト王に経過報告していないんだ。これから『謁見の間』で説明するから、皆さんも一緒に来てほしい。その呼び掛けに立ち寄ったんだよ」
みんな集めて推理ショーでもするつもりなのか?
まあ、面白そうだな。
こうして俺達全員は、再び『謁見の間』へと向かった。
「――では、ウィルヴァ・ウエスト。早速、キミ達の報告を聞かせてもらおうか?」
玉座にハーライト王が催促してくる。
国王の前で、ウィルヴァを真ん中に、奴と組んだパーティの少女達が跪いていた。
その後ろに、俺達パーティとランバーグ公爵が膝をついている。
ソフィレナ王女は、ハーライト王とザビネ王妃に並ぶ形で、簡易の玉座に腰を下ろしている。
他国とはいえ、もろ国王の娘なので挨拶以外の場で跪く必要はないからだ。
ウィルヴァは悠然と顔を上げて、ハーライト王を見つめる。
「ハッ、陛下。まずイサルコ殿下を暗殺した犯人についてですが――『ドリィ』という娘でした」
その発言に、ハーライト王を含む周囲の者達は一斉にどよめく。
つーか、誰よそれ?
他国の俺達は黙って首を捻るだけだった。
「ドリィとは、どのような方ですの?」
ソフィレナ王女が代弁して聞いてくれる。
「……わしの側近である公爵の娘だ。実は以前より、イサルコとは相違相愛の間柄で婚約話も浮上したことがある」
マジで? じゃ、その令嬢は元婚約者ってことか?
ハーライト王は話を続ける。
「ミルロード王国のゾディガー王から、ソフィレナ王女との結婚話が浮上し、わしらの都合で婚約を破談させてしまった経過があったのだ……しかし当人同士は納得していた上であり、この度は祝い目的で来訪したと聞くぞ」
ところがどっこい。
ドリィ令嬢は納得なんてしちゃいなかったのだろう……。
動機は十分じゃないか。
しかし問題はそこじゃない。
――そんな箱入り娘っぽい令嬢が、どうやって誰にも気付かれず証拠も残さないまま、密室でイサルコ王太子をキルしたかだ。
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