第108話 覆された価値観と揺らぎない信念
イエロードラゴンの頭部が跡形もなく爆破され、その煙だけが夕暮れの空に向けて虚しく昇っていく。
俺達全員は漠然と、その光景を眺めていた。
「……
手を離す直前に過った言葉。
何を意味するのか、肝心の『竜』がいなくなった今ではわからない。
ただ、あの爆破は特殊スキルの能力であること。
夏休みに入る前、謎の転校生だった『ソーマ・プロキシィ』が始末された同様の手口だということ。
ソーマの正体が『
それだけはわかる。
「――ってことは、『
いや違う……少なくても、イエロードラゴンは教団の存在は知っていたが、仲間とは言ってなかった。
ただ気になることも話していた。
――『
っとなぁ……。
「だとしたら、俺達人族を含む知的種族達が『竜』になるってのか? わざわざ同族を食い殺す『竜』に……?」
そもそも『竜神』って何者なんだ?
エンシェントドラゴン以上の存在だと言っていたな……。
それに、あのイエロードラゴン……話している限り、妙な親近感が沸いた。
まるで、元
今まで戦ってきたエルダードラゴンも『命令』されなければ『理性』を保っているというのか?
しかも、俺の存在だけでなく、アリシア達の存在も知っていたことも引っかかる。
まるで俺個人を試したかのような戦い。
いや……成長させるための手助けなのか?
――
「ク、クロウ様……私達の知らない所で一体何が起こっているのでしょう? 私にはよくわかりません……これまでの認識が覆されたような気分です」
アリシアは身体を震わせ酷く動揺している。
精神年齢が21歳の俺でさえ、頭の中が混乱しているんだ。
まだ一学年で経験の浅い彼女では当然だろうな。
無論、アリシアだけじゃない。
メルフィやディネ、セイラやユエルも同様だ。
これまで学んできた『竜』に関しての価値観が、ある意味覆されたんだからな。
だけど――。
「アリシア、それにみんな……俺も正直、裏で何が起きているかわからない。だが、これだけは言える。『竜』は俺達、知的種族に対する敵だ。実はどのような存在だろうと、たとえ神様だろうと、その事に変わりない。俺達は
俺は仲間の女子達、一人一人の瞳を見て持論を唱える。
「……そうでしたね。流石は我が主……このアリシア・フェアテール、目が覚めました。たとえ何が現実だろうと、我らの信念が揺らぐことはないでしょう……クロック・ロウ様、貴方と共に歩む限り」
アリシアの震えが止まる。
普段通りの凛とした口調に戻り、俺の前で騎士としての礼を見せてくれた。
「ああ、アリシア……その通りだ」
「私も兄さんと一緒にいられれば怖いモノなどありません!」
「ボクもだよ~! ずっと一緒だからね~!」
メルフィとディネの二人が正面から、俺に抱きついてきた。
「アタイ、このパーティに入れてもらって良かったよ……クロウ、アンタといると勇気が湧いてくるよ!」
「わたしも、クロウさん達と一緒に戦えて嬉しいです! 何があろうと、平和に暮らす方々のために頑張りましょうね!」
セイラとユエルが左右から、俺の両腕を組んで寄り添ってくる。
ありがとう、みんな……。
けど、超密着しすぎて恥ずかしいけどな。
なんか、俺って……。
糞未来で勇者だったウィルヴァの時より、パーティ女子達の待遇が良くないか?
溺愛されていると錯覚してしまう。
より彼女達と親密になったとはいえ、少し自惚れすぎか……。
「こ、こらーっ! お前達、クロウ様から離れろ! わ、私はクロウ様のどこに密着すれば……」
一人だけ取り残された、アリシアは半ギレしながら戸惑っていた。
色々と謎が残り悶々としてしまったが――。
とにかく、無事に『竜狩り』を終えたことに変わりない。
それから、俺達全員は『幻獣車』へと戻った。
「皆さん、よくご無事で……特にクロウ、貴方のご活躍とても勇敢で凄かったです。今からでも
ソフィレナ王女が自ら出迎え賞賛してくれる。
彼女の後ろで侍女や
王女様に直接褒められると、つい照れてしまうものがある。
「い、いえ……俺は冒険者としてクエストをこなしたまでで……みんなが協力してくれたからこそ、こうして無事に戻れたと思っております」
「ふふふ、その謙虚な姿勢も
ゾディガー陛下と教頭先生にか……。
SSSの冒険者でも困難とされるエルダードラゴンを斃したわけだからな。
また一歩、いやそれ以上にウィルヴァに差をつけてしまったかもしれない。
嬉しい反面、
「……ウィルヴァか」
そういや、俺が《
以前と違い、はっきり認識している。
俺は胸ポケットに入れている『銀色の懐中時計』を取り出し、パカっと蓋を開けた。
誕生日にウィルヴァから貰った物だ。
カチ、カチ、カチっと僅かな音を立て秒針が時を刻んでいる。
必ず、この音も聞こえるんだ。
考えてみれば、これを手にした時からか?
当のウィルヴァ本人は「何のこと?」と知らぬ存ぜぬって感じだ。
きっと俺のトラウマが
これまでの
「クロウさん、お兄様がどうかされましたか?」
双子の妹であるユエルが不思議そうに聞いてくる。
「いや、別に……あいつ何しているのかなって、確か義理父のランバーグ公爵と『ネイミア王国』にいるんだろ?」
「そうですね……どのような用事で、お義父様とご一緒なのかわかりませんが……」
ちょっぴり寂しそうに答える、ユエル。
相変わらず、ランバーグ公爵は義理娘のユエルには冷遇なのだろうか?
親子間とはいえ、向こうで会う機会があったら一言くらい言ってやるか。
ユエルはとても優しくて優秀な子だってことを――。
そう考えながら、俺はユエルに笑顔を向ける。
ユエルも儚そうな優しい微笑みを見せてくれた。
やっぱり彼女は可愛い……それに綺麗だ
唯一、五年後の未来と変わらない片想いの少女。
あの時の淡いときめきが、また蘇りそうになってしまう。
そう思うと、決まってアリシア達が邪魔してくるんだけどね……。
「ごほん! クロウ様、そろそろお食事にして、お身体を休ませましょう」
ほらな。
そんなわざとらしく咳払いするアリシアの後ろで、メルフィとディネとセイラがやばいほど、俺に向けてガン見してくる。
「……わ、わかったよ。そうしよう」
全員から、あの瞳を向けられると、潜在的に植え付けられたトラウマが蘇ってくる。
所謂――恐怖だ。
はっきり言って、『竜』よりもおっかない……。
俺は素直に従い、アリシア達について行った。
こうして各自、休息と取りつつ移動を再開する。
明日には目的地である『ネイミア王国』に辿り着くだろう。
片道だけでも、えらい苦労したよな……。
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