第106話 勝利後の疑念




 メルフィが放った最大の禁忌魔法こと、《冥界神破壊砲ハーデス・バスター》。


 彼女の特殊スキル、《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》に記憶された禁忌魔法の類である。


 何でも冥界の神と契約により与えられた魔力を術者の身体で媒介し、超破壊粒子力として放射させる攻撃魔法らしい。


 古代、封印された禁忌魔法の類で最大級に位置する威力だ。


 特に今の時代、単独で使いこなす魔道師ウィザードはいないだろう。

 わずか14歳であるメルフィの若さなら尚のこと。


 それを可能にするのも、《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》の脅威的な能力と言える。






 ――あれから、俺は意識を戻した。


 傍にユエルが膝枕をしてくれて、回復魔法を施してくれている。


 後頭部が柔らかさで包まれ夢心地、おまけにいい匂い。


 何これ?


 とても幸せな状況なんですけど……。

 元片想いの女子の膝枕って、おい。



「クロウさん、大丈夫ですか?」


 ユエルは顔を近づけ微笑を浮かべる。

 糞未来にもなかった接近具合だ。


 俺は顔中が火照り真赤になる。


「あっ、いや……大丈夫、おかげで精神力が回復したよ」


「気をつけてください……いくら特殊スキルで肉体は元に戻せても、精神力を消費しきったら意味がありません。精神力は『魂力』と連動する部分もあります。下手をすれば死に至る場合もあるのですから……」


「う、うん……ごめん。ユエルがいるから多少無茶しても大丈夫って期待もあったりなかったり……」


「まぁ、そういう考えは駄目よ。わたしだって万能じゃないんですからね」


 ユエルは乳白色の頬をピンクに染めてはにかむ。

 少し仲良くなると、丁寧な言葉と年齢相応の口調を交えて話してくれる。

 一見、清楚で大人しい印象だが、芯が強く明るくはつらつとした部分もある子だ。


「……ユエルよ。クロウ様を回復してくれたことは感謝するが、お目覚めになられたのなら、そろそろ離れても良いと思うのだが?」


 アリシアが仏頂面で言ってくる。

 その後ろで、セイラとディネも冷めた眼差しでデレる俺を凝視していた。


「ごめんなさい。では、次はメルフィちゃんの回復に向かいますね」


 ユエルはそっと俺から離れると、遠くで倒れているメルフィの下へ走って行った。

 メルフィもどうやら魔力を使い切り、気を失ったようだ。

 まぁ、最上級クラスの禁忌魔法を使用したのだから仕方ないだろう。


 起きた俺はそのまま立ち上がり、アリシア達を見つめる。


「みんなありがとう、おかげで助かったよ……にしても、三人とも特殊スキルを活かした凄い合体技っというか、連携攻撃だったな? いつの間に練習したんだ?」


「いえ、クロウ様。特には……咄嗟にやったまでです。ご無事で何よりです」


「アンタがピンチだったからねぇ……アタイの本能が疼いちまったのさ」


「ボクはアリシアとセイラの能力を信じていたからね。何となく合わせただけ~。勿論、クロウのために頑張ったよ~」


 アリシアとセイラとディネが恥ずかしそうに答えた。

 どうやら俺を守るために必死だったようだ。


 あの糞未来……五年後では彼女達は今ほど打ち解けてなく、互いの特殊スキル能力を隠していたからな。

 勇者だったウィルヴァの指示で共同することはあるが、スキルを連携し合って戦うことはなかった。


 この時代で共に過ごし共に戦い、互いを深く知ることで彼女らなりに芽生えたのかもしれない。


 今回の戦いは、俺だけでなくパーティ全体にも収穫があったようだ。


「……ところで、イエロードラゴンはどうした? 首から下はメルフィがぶっ飛ばしたまで見ていたが……他の魔物モンスターは?」


「ええ、『黄竜』の頭部は、あそこに落ちてますよ。操っていた『竜』を斃したことで、魔物モンスターは野生に戻っており、騎兵隊が討っております。中には逃げて行く者もいますが深追いせず、戦死者を出さずに戦いは完勝に終わっています。これも全て、クロウ様のおかげですよ」


 アリシアが優しく微笑を浮かべ説明してくれる。


 そうか、無事に終わって何よりだ。

 命懸けで頑張った甲斐があったな。


 ――それはそうと。


 俺は地面に転がっているイエロードラゴンの頭部へと近づいた。


 アリシア達も心配してくれてついて後ろから来てくれる。


「クロウ様、如何なされました?」


「アリシア、セイラにディネも、お前達は『竜撃科』だろ? 『竜学士』ほどじゃないにせよ、それなりに『竜狩り』を行う上で竜の生態は学んでいる筈だよな?」


「ええ、まぁ……一応は」


「ごめん、クロウ。アタイ、学科は苦手なんだよ」


「ボクも~、授業はお昼寝タイムだと思っているから~」


 アリシア以外の子に、聞いた俺が馬鹿野郎だった。

 特に白狼族の混血であるセイラとエルフ族のディネは、「脳筋+直感+本能」で戦うタイプなのを忘れていたぜ。


 俺は咳払いをして誤魔化す。


「まぁ、それはいい……きっと教科書でも、エルダードラゴン級の『竜』がこれほどまで連隊を組み、策略や戦術を駆使して戦うなんて事例は載ってない筈だ」


「そうですね……大抵は巨漢と戦闘能力を活かしたゴリ押しだと記憶しております。中には邪魔な配下を知的種族ごと葬って食らう『竜』もいるとか?」


「ああ、その通りだ。俺の記憶や経験でも、エルダードラゴンはそういう奴らが大半だ。自分達以外の存在は歯牙にもかけないというか、そういう印象を持っている」


「クロウ様の記憶?」


 俺の言葉にアリシアは首を傾げる。


 おお、ヤバい……またポロっちまった。

 再び強く咳払いをして誤魔化す。


「……だが、このイエロードラゴンはそうじゃなかった。常に俺の思考の先を読み、裏をかいてきたんだ。それに『竜』や『魔物モンスター』を編成し、攻撃を凌ぐ盾にしたり、挟撃を仕掛けるなど一流の軍師さながらにな」


「仰る通りです。それこそ、クロウ様が目覚められた特殊スキルがなければどうなっていたことか……」


 アリシアは顔を顰め懸念する一方で、セイラとディネは「???」っと意味がよくわかってない様子だ。


「クロウ、アンタさっきから何が言いたいんだい?」


「ボクゥ、わかんな~い。勝ったからいいしょ~?」


 楽観的な女子コンビだな。

 まぁ、シンプルで可愛い子達なんだけどね。


「俺が言いたいのは、このイエロードラゴンは俺達、知的種族が遭遇したことのない未知の『竜』かもしれないってことさ……今からそれを調べたい」


 言いながら、俺はイエロードラゴンの大岩のような頭部に近づき触れる。


 まだ温かい。


 流石は上位級の『竜』、辛うじてだが生きている。


 首だけの状態にも関わらず、まだ生きているとは大した生命力だ。

 どちらにせよ、もうじき死ぬだろうが……。


「――《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》、リワインド巻き戻る。少しだけ、時間を戻す」


 俺の特殊スキル効果で、イエロードラゴンの生命が復活する。

 巨大な頭部が、もそもそと動き始めた。


「クロウ様、何を!?」


「大丈夫だ、アリシア。ちょっとだけ戻しただけさ。この状態で反撃されることはない」


 しても逆襲してやるけどな。

 俺もすっかり全回復したし問題ない。


「クロウどうして、そんな『竜』を回復させるんだい?」


「これから、こいつを尋問するためだよ、セイラ」


「尋問って?」


 ディネがきょとんとした表情で聞き直すと、俺はフッと微笑を浮かべた。






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