第105話 黄竜との死闘




『黄竜』ことイエロードラゴンが最後の障害として、俺達に襲い掛かろうと向かって来る。


 大口を開け勢いよく大地を揺らす巨大な姿は明らかにロックドラゴンを上回る隆々とした巨体躯であった。


 黄色というより『黄土色』に近い黒ずんだ鱗であり、先程まで上空で自在に操っていた両翼は綺麗に折り畳まれ、背中を守る装甲のような形で収まっている。


 前あしは進路方向以外ほとんど使わず、鳥類を思わせる逆間接の後あしだけで疾走していた。


 長い首を大きく振り回して移動する姿は、『陸の暴君竜』さながらである。



「あれがイエロードラゴンの『陸戦形態モード』……見た目だけなら、俺が知る未来とほとんど変わらない姿だ」


「クロウ、未来だって?」


 俺が呟いる後ろ側で、待機していたセイラが聞いてくる。


「……いやなんでもないさ。ロックドラゴン同様、俺が奴の動きを止める。トドメの方は、みんなに任せるぞ!」


 そう言いながらも頭の片隅に違和感を覚えずにいられない。


 これまでの戦いぶりが『竜』とは思えないほど、計画的であり周到だったこと。

 エルダードラゴンは知能こそ高いが、基本は知的種族を軽んじている。

 はっきり言えば、自信過剰で舐めた奴が多いんだ。


 したがって、大抵は魔物モンスターを引き連れての強襲戦法が定番である。


 今回もきっとそうだろうと安易に思い込み、俺はイエロードラゴンを真っ先に斃すことを選択した。


 だが、それは間違っていたようだ。

 寧ろ舐めていたのは俺の方である


 もし、新しい術式に覚醒しなければ今頃、俺達は全滅して食われていたかもしれない。

 まるで俺達……いや俺個人を試すかのような『黄竜』だ。



 そのイエロードラゴンは、すぐ目の前まで迫って来る。


 首を振って移動してくる分は、まだ攻撃を仕掛けてこない。

 一度、動きを止めて首を固定しなければ、炎を吐くことはできないからだ。

 だが油断はできない。

 そのまま体当たりを仕掛けてくる可能性もある。



 ぎりぎりまで近づけてから、《タイム・シールド時間盾》を撃ってやる!


 だがこの術式は、一度の戦闘に最大『4回』までしか使えない能力だ。

 おまけに誘導性はなく、基本は真っすぐにしか飛ばせないらしい。


 スカイドラゴン戦に1回、ロックドラゴン戦に2回使っている。


 残り、1回だ――。



 俺は一人で前方へと駆け出した。


「クロウ様ーっ!」


 アリシアが呼び止めてくる。


「俺が仕掛けるまで、みんなそこで待機! 攻撃の方に集中してくれ!」


 二剣のブロードソード片手剣の刃を重ねて狙いを定める。

 できるだけ近づき、特殊スキルを当てるためだ。


 俺が近づくと、イエロードラゴンは前肢と後ろ肢を使い大地に爪を立て動きを止めた。


 奴の攻撃距離に入ったからだ。


 こちらに向けて大口を向けてくる。

 炎を吐く気だな!


「させるか――《タイム・シールド時間盾》!」


 俺は刃を重ねたブロードソード片手剣をイエロードラゴンに向けてスキル能力を発動させた。

 半透明の『時計盤』が光輝を発した状態で出現し、『黄竜』を覆うほど巨大化させる。


 そして、至近距離で放った。


「オォォォォォオオオォォォォォォオオォォォォオ――……!!!」


 イエロードラゴンは炎を吐かず、咆哮を上げた。


 いや、これは咆哮ではない。


 それは古代魔法の呪文であり、竜語で詠唱をしていた。


 考えてみれば、地上に引きずり降ろされてから一度も咆哮を上げていない。

 俺がタイミングを見計らい特殊スキルを発動した様に、奴も同じように呪文を唱えていたんだ。


 全ては、俺の《タイム・シールド時間盾》を防ぐために――!


 イエロードラゴンの前方に、幾何学模様の強力な魔法防壁の結界盾が展開される。


 タイム・シールド時間盾は、イエロードラゴンに直接触れることなく軌道を逸らされ後方へと流されていく。


「バ、バカな!? 何だ、こいつ! やっぱり普通の『竜』じゃない!?」


 俺は驚愕し立ち尽くしてしまう。


 魔法防壁が解除され、イエロードラゴンは勝ち誇ったように俺に向けて大口を開け、喉元を大きく膨らませる。



「クロウ様ぁぁぁぁ!」


「やばいよ、クロウ!」


「クロウ、逃げてぇぇぇ!」


 アリシア、セイラ、ディネの叫び声が耳へと突き刺さる。


 しかし、もう逃げられない。



 ゴオォォォォオォォォォォ――!!!



 容赦なくイエロードラゴンは、俺に向けて地獄の業火とも言える『炎』を吐き出した。


 あっという間に全身が炎で焼かれていく。


「ぐわぁぁぁぁぁ――ってよぉ、俺を舐めるなよ! 《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》、再生リプレイ発動ッ!」


 俺は自分の受けたダメージを、そのままそっくりイエロードラゴンに送り返した。


「グゥギィィヤャァァァァァァァ!」


 イエロードラゴンの全身が俺と同じように炎塗れとなり焼かれている。


 ざまぁみろ! これで少しは炎で焼かれる側の気持ちがわかったろ!

 などと呑気に思っている場合じゃない。


 このままだと俺も炎に焼かれて死んでしまう。

 はっきり言って、めちゃくちゃ熱くて痛い……マジ死ぬ。


「――削除スキップ!」


 俺は《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の能力を発動させ、炎で受けたダメージを削除し全て無かったことにした。


 危ねぇ……もう少し遅かったら完璧に焼死していたぞ。


 イエロードラゴンは首を大きく振るい、炎に耐えきったようだ。 

 流石、強靭な鱗を持っているだけはあるってか。


 だが、無防備の両目が炎で焼かれ潰れており、大きなダメージには違いない。

しかし致命傷には至らないようだ。


「周到なテメェのことだ……タイム・シールド時間盾は三度も見せた技だから、何かしらの防御策を仕掛けてくると思ってたぜ。だから、《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の射程内にまで、俺自ら近づいたんだ!」


 要は裏の裏をかいてやったってわけだ。

 糞未来の経験と図太さは伊達じゃない。


 両目を失ったイエロードラゴンは俺の姿を探している。

 どうやら鼻孔も焼かれ嗅覚も麻痺しているようだな。


「そのザマじゃ、空を飛んで逃げることもできねーわな! 俺の勝ちだ……っと言いたいが――」


 俺は膝から崩れ落ちる。


 駄目だ……精神力を使い過ぎた。


 もう特殊スキルは使えねぇ……。

 ノーダメージ状態だが、息切れが襲い次第に意識が薄れていく。


 一方で、イエロードラゴンは気配か何かで俺の場所を認識したようだ。

 こちらに向けて大口を開けてくる。


 野郎、また炎を吐くつもりか!?



「クロウ様ァァァァァッ!!!」


「クロウォォォォォォッ!!!」


 アリシアとセイラが並んで突進してきた。


「ボク達のクロウは死なせないよぉぉぉぉ!!!」


 その背後に、ディネがついて来ている。


「み、みんな……」


 俺は地面に倒れ込んでしまう。

必死で駆けてくる三人の姿をぼんやりと眺めるしか術を持たなかった。



「行くぞ! セイラ、デュネ――《マグネティック・リッター磁力騎士》!!!」


「あいよ! 《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》!!!」


「くらえぇっ! 《ハンドレット・アロー百式の矢》!!!」


 三人の特殊スキルの一体技だ。


 セイラは鋼鉄手甲ガントレッドの拳打で地面を叩きつけ、柔らかい粘土状として大きく盛り上がった。


 アリシアがバスタードソード両手剣で、その粘土を細かく切り裂く。


 ディネは10本の矢を放ち、それらを射る。


 スキルの矢は粘土をまとうことで、長く鋭い強靭な『槍状』となり、さらに磁力効果により必中の誘導性を持つことが可能となった。


 そして『槍』は1000本に増殖し、イエロードラゴンを撃ち抜いたのだ。


「ギィィィヤァァァアアァァァアアァァァァァ――……!!!」


 頭部から口の中、胴体にかけて貫かれ損傷を負う、イエロードラゴン。

 発せられた咆哮は既に断末魔の絶叫と化していた。


 その時だ。



 ヴオオオォォォォォォォ!!!



 大地を削る轟音と共に超高出力を持った魔力閃光弾が、イエロードラゴンの身体に直撃し粉砕する。


 イエロードラゴンの巨大な首だけが宙を舞っていた。


 何が起きたかわからず、俺は攻撃した方向に視野だけを向ける。


 ――メルフィだ。


 見たことのない虚ろな表情で片腕を翳している。


 その手には、彼女の特殊スキルである具現化型の魔導書 《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》が開かれた状態で握られていた。


「……最大の禁忌魔法、《冥界神破壊砲ハーデス・バスター》……私の兄さんを傷つける輩は何人たりとも許さない!!!」


 妹よ……実はお前が一番おっかないんだけど……。


 薄れ行く意識の中で、俺は義妹相手に戦慄した。






──────────────────


お読み頂きありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。



【お知らせ】


こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!


『今から俺が魔王なのです~クズ勇者に追放され命を奪われるも無敵の死霊王に転生したので、美少女魔族を従え復讐と世界征服を目指します~けど本心では引き裂かれた幼馴染達の聖女とよりを戻したいんです!』

 ↓

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311



【☆こちらも更新中です!】


『陰キャぼっち、終末世界で救世主となる』

https://kakuyomu.jp/works/16816452220201065984

陰キャぼっちが突然バイオハザードとなった世界で目覚め、救世主として美少女達と共に人生逆転するお話です(#^^#)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る