第103話 目覚めし、タイム・シールド




「クロウ様! 上空から、スカイドラゴンが向かって来ます!」


 アリシアの声で、考え込んでいた俺はハッと現実に引き戻された。


 2頭の竜が大口を開け、こちらに向かってくる。

 大翼を広げる『飛竜』ことスカイドラゴンだ。


「『竜』達がが向かってくるぞーっ! もうじき挟まれるぅ!!!」


 同時に幻獣車の真下が騒然となる。


 左右両側から、ロックドラゴン率いる軍団が移動速度を上げ、今にも近づきつつあったのだ。


 まさに上空と地上から押し迫る勢い。



 最悪だ――!


 何一つミスはなかった筈なのに、やる事が全て裏目に出てしまっている。


 クソォ! こんな筈じゃ……。


 いや……俺のせいだ。


 これは俺の自惚れが招いたことだ。


 未来の記憶と技能スキル、それに特殊スキルに目覚め、他者より有利だといい気になってたから……。


 女子達みんなが褒めてくれるから、俺は本当はやれる奴だとイキってたんだ……。


 何が、次期勇者パラディン候補だ。


 ウィルヴァ・ウエストの好敵手ライバルだ。


 あいつは、こんな無様な醜態はさらさない。


 俺の扱いが悪いってだけで、パーティを危険に晒すような真似はさせなかった。

 常に冷静で采配を振るい、正しくみんなを導いていたんだ。


 こうして実際、同じ位置に立つことでわかる。


 ウィルヴァはどれだけ優秀だってことを。

 とても俺なんかじゃ張り合えないってことを。


 現に威勢のいいことばかり言って、次第に自分の限界を理解しメッキが剝がれ落ちていく。


 結局みんなを守れないじゃないか……。



 ――それはキミが完全に目覚めてないからだよ。



 何だ?


 ふと、ウィルヴァの声が響く。

 カチッ、カチッっと秒針を刻む音と共に。


 これは『あの時』と同じ現象?


 《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》に目覚めた時と――。


 周囲を見渡すと、アリシア達の動きが停止しているように見える。


 何なんだ一体……まさか時間が止まっているのか!?


 それにどういう意味だ? 俺が完全に目覚めてないだと?



 ――ああ、そうさ。キミはまだ真のEXRエクストラに辿りついてないんだ。



 EXRエクストラ? お前はウィルヴァなのか?



 ――そこは重要じゃない。重要なのは、キミが自覚すること。自分の力に自信を持て。



 俺の力……だけど、こんなザマじゃ……。



 ――また、そうやって塞ぎ込むつもりかい?



 何んだと?



 ――あの未来のように何もせず、劣等感を抱いたまま塞ぎ込んで逃げ出すつもりなのか?



 ウィルヴァ……お前は何を言っているんだ?



 ――キミならできるさ。クロック・ロウ、キミならね……だって、キミは『トキの操者』だろ?



 刻の操者、またそれか? 何なんだ、それは!?



 ――自信を持て。自分の力を……自分の才能を……キミは既に、その領域に到達しているんだ。



 ウィルヴァの声が遠のいていく。


 秒針の音と共に消失した。



「ウィルヴァ!?」


 俺が叫んだと同時に、周囲は喧騒に包まれる。

 止まっていた時が動き出したようだ。


「クロウ様、一端、幻獣車に戻りましょう!」


「……アリシア?」


 俺がふと上空に視線を向ける。


 スカイドラゴンの2頭がすぐ傍まで迫っていた。

 大口を開け、こちらに向けて炎を吐こうとしている。


 幻獣車の装甲には複数の結界が施されているが、耐えられても一度や二度くらいだろうか?


 俺の《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》で時間短縮スキップするにも、おそらく炎の範囲が広すぎて逃れられない。


 アリシアの言う通り、幻獣車内に戻って……


 だけど。


 俺は両手に握られたブロードソード片手剣の柄を握りしめる。


「奴らは俺が止める! 俺は『トキの操者』だ!」


「クロウ様?」


「俺がみんなを守る! だから信じてくれ!」


 そう言い切った。

 根拠はない。


 だけど自信だけは何故か漲っている。

 何か喉の奥につっかえているモノが取れそうな感覚と奮い起つ勇気に満ち溢れていた。


「わかりました、このアリシア、クロウ様を信じます!」


「アタイも信じるよ、クロウ!」


「ボクだって信じているからね!」


 アリシア、セイラ、ディネが信じてくれる。

 それだけでも勇気が湧いてくる。



 スカイドラゴンは2頭同時に炎を吐いた。

 炎は重なり業火と化す。


 迫りくる猛威に、俺は一人で立ち尽くし、両手に握りしめたブロードソード片手剣を翳して刃を重ねた。


 特に誰かに指示されたわけではなく、自然……いや俺の本能がそうさせたのだ。


 そして――



「《タイム・シールド時間盾》!」



 気がつくとそう叫んでいた。


 すると、重ねられた刃から眩いほど光輝く半透明の『時計盤』が出現する。

 円盤のようなそれは、次第に膨張し幻獣車を覆うほど巨大化した。


「行けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 俺の裂帛の気鋭と共に、『時計盤』は発射され、迫り来る炎に接触し通り過ぎる。

 さらに、上空で炎を吐いた2頭のスカイドラゴンに接触して『時計盤』は消えた。


 刹那。


 ――炎とスカイドラゴンの動きが止る。


 ピタリと微動だにせず、その場で停止したのだ。

 幻獣車が通り過ぎても、一切動く気配はない。


 炎も直線を帯びたまま形を変えないでいる状態。


「あ、あれは!?」


 アリシアが驚愕する。


 俺はブロードソード片手剣を下ろし、ディネルースを見つめる。


「ディネ! 回復したありったけの『矢』で、スカイドラゴンの頭部に目掛けて射ってくれ! 2頭でも、それで斃せる筈だ! 急げ!」


「わ、わかったよ――《ハンドレット・アロー百式の矢》!!!」


 ディネはすぐに行動を開始する。

 弓を構え、同時に五本の矢を放つ。



 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン――!



 五本から五百本に増殖した『スキルの矢』は、正確にスカイドラゴンの頭部へと命中した。

 停止した状態なので、特に狙いが定めやすい筈である。



 ボウッ! ボウッ!



 炸裂するかのように顔面が粉砕される、2頭のスカイドラゴン。


 だが奇妙なことに、破損部分ごと上空で停止したままだ。



「――タイム・アップ」


 俺が呟くと同時に、スカイドラゴンの『時間』が戻る。


 吐かれた炎は消失し、頭部を破壊されたスカイドラゴンは地響きを起こし地上に落ちた。


「す、凄いよ……クロウ」


「クロウ、アンタ……一体、何をしたんだい?」


 ディネは呆然とその光景を眺めており、セイラは恐る恐る聞いてくる。


「向かってくる『炎』ごと、スカイドラゴンの『時』を止めたんだ」


「炎ごとですか……クロウ様、これまでにない絶大な力を感じました」


 アリシアの感想に、俺は力強く頷いて見せる。


「《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の術式――《タイム・シールド時間盾》。もう自分でも理解できる……真のEXRエクストラだ!」


EXRエクストラ級の特殊スキル……はは、アタイの師匠が言ったことは本当だったんだね! けどクロウ、アンタが一番凄いよ!」


「本当だよ! もうクロウってば無敵じゃない!?」


 セイラとディネが褒め称えてくれる。


「いいや、効果型だが放射系のように飛ばす『技』だからな……みんなが思うような絶対じゃないと思う。おまけに、これまで以上の精神力が消費してしまう……そう乱用はできない」


「しかし、難を凌いだのは事実! 紛れもないクロウ様のお力です! 私も含め誰もがそう思うでしょう!」


「ありがとう、アリシア……」


 思わず目頭が熱くなる。


 彼女達を守りたいが一心でレベルアップしたようなもんだからな……。


 そう感傷に浸っていると、昇降口ハッチが開かれる。


 出入口から、メルフィとユエルが顔を出してきた。

 彼女達は言語魔法で、幻獣車の周りを護衛する騎兵隊とやり取りしていたのだ。


「兄さん、大丈夫ですか!? 今のは!?」


「メルフィ、みんな無事だ。後で説明するよ。それよりどうした?」


「騎兵隊の隊長から、もうじき地上を走るロックドラゴンに追いつかれそうって言っています! 全員、クロウさんの指示を頂きたいと!」


 ユエルが報告し、俺はごくりと生唾を呑み込む。


 先の戦いで味方の士気は上がっているのか……みんなが俺を頼ってくる。


 緊張というより責任という重圧を感じてしまう。

 事実上、俺が300名以上の命を預かっているようなものだからだ。


 だがやるしかない――!


 俺達は全員が生きて、『ネイミア王国』へ行んだ!






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《スキル紹介》


術式:タイム・シールド時間盾


スキル:タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記


タイプ:効果型+放射型


【効果】

・両腕(あるいは双剣)を重ねることで光輝く『時計盤』を創り出して放つことで、対象者あるいは対象物に触れさせることで、その者の全ての時間を停止させる。

・『時計盤』はクロックの意志で自在に巨大化させることができる。

・触れてしまえば、複数の物体を同時に停止させることができる。

(したがって対象者以外でも触れてしまえば停止してしまう)

・炎から霊体に至り停止させることが可能であり、これまで不可能だった『液体』も対象となる。

・停止時間は最長5分まで。但しクロックの任意で解除することができる。


【弱点】

・相手に触れて効果を発動する『停止ストップ』と違い、狙って発射させる『放射型』となる技なので相手のスキルや高レベルの魔法によって軌道を逸らされ回避される可能性がある。

・相当な『魂力』が消費されるので、一度の戦闘に四回までしか使用できない。


【備考】

・この能力に覚醒したことで、タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記は真のレアリティEXRエクストラとなった。






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