第102話 初めての竜狩り
かくして『竜狩り』は始まった。
メルフィとユエルは言語魔法で外で護衛している騎兵隊の隊長に作戦を伝達する。
ディネとアリシアは特殊スキルでイエロードラゴンを引きずり下ろすため
俺とセイラも一緒に屋上に行き待機する。
「……辛うじて目視できるけど遠いなぁ。命中精度は下がると思うよ……まぁ、百発打てば、一本くらい『矢』は届くけど、致命傷は無理だね」
「ディネは『遠視スキル』持ってないのか?」
「あるよ、クロウ……でも、まだ修得したばかりで、Lv.3だから」
なるほど……彼女らは高レアリティの特殊スキル持ちだが、技能スキルは差ほど凄いわけじゃないのか。
糞未来じゃ、どんなに離れてもバンバン矢を当てていたのに、この辺が『経験の差』なのだろう。
でも、ディネお前、エルフ族だから年齢168歳だよな?
今まで何してたのよ……。
「人族と違い、エルフ族は技能スキルの容量は少ないですからね。修得にも時間がかかると聞いたことがあります。反面、身体能力は人族より高い部分もありますが……」
アリシアがディネの背後から両肩に触れ何気にフォローをする。
満更遊び惚けていたわけじゃなく、種族故ってところもあるのか。
学んだばかりで、Lv.3なら頑張っている方か……。
ディネは左手に持つ弓を構え、上空へ翳す。
「――《
右手から1本の矢が出現し射った。
ヒュン――
軌道上で1本の矢が百本100本に増殖する。
勢いを失わず、高速で飛んで行った。
俺は『遠見スキル』を発動させ、その光景を観察する。
あの百本矢全てに、アリシアの《
イエロードラゴンに一発でも当たれば、磁力効果で地上に引きずり下ろすことは可能の筈。
だが。
旋回する形で群れを成していた、竜の動きが変わる。
10頭の小さな竜が下降し、イエロードラゴンの腹部を守る形で覆ったのだ。
あの竜は、ワイバーン。
『亜竜』また『翼竜』と呼ばれ、正式には眷属の下位に当たるとか。
気性も大人しく悪戯に知的生物を襲わないため、討伐対象に上がることは滅多にない。
従って国によっては、馬代わりに使用することもある。
確か『
飼いならせば『上位竜』の影響を受けないが、野生化した状態だと兵隊として使いパシリになるケースが多い。
今のように
「どうする、クロウ!? あの状態じゃ、イエロードラゴンには当たらないよ! あと九本は放てるけど……」
「待て、ディネ。確か一度に射ったら1分ごとに一本ずつしか『矢』は生成できないんだろ? この状況で全部使うのは危険じゃないか?」
「だったら……」
「アリシア、お前の《
セイラは犬耳をピンと立て辺りを伺う。
白狼族と人族の混血である彼女は身体能力も人族より高い。
技能スキルを使わなくても、それ相応に状況の把握ができる。
「……まだ余裕はあるね。こちらも移動しているのが幸いなのか……あるいは何かの指示待ちなのか」
「指示待ちか……考えられるな。上空とのタイミングを図り、俺達を包囲するつもりなのか……どちらにせよ、大将であるイエロードラゴンを斃さなければ話にならない! アリシア、やってくれ!」
「わかりました、クロウ様!」
「ディネは体勢を維持! イエロードラゴンの腹が空いたら、もう一度アリシアと共同して『矢』を発射してくれ!」
「はい!」
俺の指示で、アリシアは《
ギュン!
空を切り、10頭のワイバーン達は急降下して来る。
そう見えたが。
「クロウ様! 様子が変です! ワイバーン達はこちらに頭部を向けております!」
「磁力効果を利用して、俺達を攻撃してくるつもりか!? 一応、ワイバーンは炎を吐けるからな……やむを得ない、ディネ、残り九本で連中を撃ち落とせるか!?」
「あそこまで近づけば問題ないよ! 行くよ――」
ディネは《
9本の矢が900本の『矢』へと増殖し、ワイバーン達を撃ち抜いた。
万全な状況なら、エルダードラゴン級の『竜』の強固な鱗も貫く威力だ。
小柄なワイバーンなら、ひとたまりもないだろう。
ボロ布のように翼と全身が引き裂かれていく、10頭のワイバーン。
多少、手間取りつつも順調と言えば順調なのだが……。
しかし、俺はある『違和感』を感じていた。
――何かが可笑しい。
それは五年後で経験した未来の記憶と照らし合わせた上だ。
まだ何かはわからない……。
「クロウ! 斃した筈のワイバーンから何かが降ってくるよ!」
セイラの声に、俺は意識を戻す。
――ドスン!
途端、幻獣車の屋上に複数の何か落ちてきた。
古びた鋼鉄を身にまとった10人の騎士達。
その手には
よく見ると、兜の双眸部分が空洞であり無人であった。
「リヴィング・アーマーだ! アンデット系の
スケルトンやゾンビのように死霊魔術などで意図的に創られた兵士だ。
エルダードラゴンは古代魔法を使うので生成ができるのだろう。
「クロウ様!?」
「ここは俺とアリシアとセイラで戦う! ディネは一端下がって
「わかったよ、みんな頑張ってね!」
しばらく特殊スキルが使えないディネは|昇降口を開けて応援を求めに行った。
実戦経験のない騎士達ばかりだが、いないよりマシだろう。
リヴィング・アーマーはアンデット系の中では、そこそこ強い部類だが俺達三人なら勝てない相手じゃない。
だが、今の戦況上では手間取っている時間もない。
長引けば、あっと言う間に包囲されちまうからな。
俺とアリシアとセイラの三人で順調にリヴィング・アーマー達を斃していく。
まず
最後に、アリシアの斬撃で磁力を与えた上で引き剥がしバラバラにする。
見事な三位一体の連携攻撃を見せつけてやった。
残り、2体くらいになった頃に、ディネと
戦ってから、まだ数分程度。
ディネの『矢』も何本が射えるまで回復しているだろうか。
「まずいよ、クロウ! 地上の連中が近づいてきたよ! このままじゃ挟み撃ちにされちまう!」
セイラが叫び知らせてくる。
なんでも、コボルトとオークとトロール達は、巨体を誇る二体のロックドラゴンの背に乗り高速に移動しているらしい。
「クソッ! こいつら時間稼ぎか!? だけど……」
また妙な『違和感』を覚える。
こいつら、やたらに連携が取れている――。
さっきから、俺の裏をかかれているような気がしてならない。
まるで先々を見通す参謀がいるかのようだ。
イエロードラゴンも知能は高いが、これほどまで緻密に行動された経験は未来でもない。
だから、きちんと手を打てば勝てると見込んでいたんだ。
しかも、イエロードラゴンは俺達の存在を警戒し、意識しているような行動を配下の
ディネの《
それに、さっきまで離れていた地上の『竜』達もタイミングを良く挟撃しようと迫ってくる。
何だ……。
この『竜』の襲撃……本当に偶然なのか?
狙われているのは……俺達知的種族全体なのか?
実は、俺達パーティを意識して仕掛けているんじゃないのか?
いや違う――。
まさか『竜』の狙いは……。
「――俺なのか?」
ついそう思えてしまった。
自意識過剰とは違う。
五年後の未来と異なる事態の数々に、俺がこの時代に遡及したこと。
これら全ての事柄が、何か裏で一本の線で繋がっているような気がしてしまう。
俺が唯一思い当たること……。
「……
いつも必ず、そのワードが出てくるんだ。
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