第100話 謎の飛行物体とトラウマ




「――大変です! 騎馬隊より、上空に『竜』の群れらしき影が見られるとのことです!」


 ソフィレナ王女の部屋にて、新人の王宮騎士テンプルナイトの一人が報告してくる。


 俺達パーティは王女とすっかり打ち解けた間柄となり、丁度紅茶を嗜みながら王女と雑談を楽しんでいた最中だった。


 その騎士は王女ではなく、学生冒険者の俺に向けて報告してきたようだ。


 二日前に『ソフィレナ王女暗殺』を未然に防いだことで、彼らの評価は一気に上がり、中には俺を『勇者様』と呼ぶ者もいる。


 流石におこがましく、そこは否定している。

 アリシア達は喜んでくれているけど……。


 俺は紅茶をテーブルに置き、王宮騎士テンプルナイトを見据える。


「竜の群れか……野生かそうでないかで対応は別れるけど……その中に、エルダードラゴンがいたら間違いなく、ヤバいっすよ」


「クロック様……ヤバイとは?」


「エルダードラゴンは俺達のような知的種族達を襲う、エンシェントドラゴンに仕える『実行部隊』であり『遊撃部隊』だ。発見された時点で見境なく襲ってくる……野生だったら、少し脅せば大抵逃げて行くけど……その群れの中にいるんっすか?」


「いえ、その報告はまだ……ただ、『竜』は移動する我らの上空を旋回しながら飛んでいる模様です」


 ってことは捕捉され、後をつけられている可能性が高い。

 思いっ切りヤバくね?


「貴方達の中で、『索敵』と『遠視』の技能スキル持っている騎士さんはいないんですか?」


「生憎、我ら騎士団はそのような技能スキルは持ち合わせておりません……」


 だろーな。

 大抵、盗賊シーフ雑用係ポイントマンの仕事だからな。


「……わかった。俺が見に行きますよ」


「クロウ様……『遠視』の技能スキルをお持ちでしたか?」


 アリシアが首を傾げる。彼女はソフィレナ王女の隣に座っていた。


「ああ、スキル・カレッジ学院に入学して間もなく身に着けたんだ。『索敵』、『暗視』、『偵察』に不随する形でね……俺、技能スキルの容量がいっぱいだから裏技ってやつ」


 通常、技能スキルは種族や個人差もあるが、大まかに15スキルまで会得することができる。

 俺の場合、五年後の未来から引きついているので、11スキルを所有しており、どれもカンストに近い技能スキルを保有していた。


 今の世界に遡及し、《時間軸タイム・アクシス》に覚醒することで『双剣術』を会得したり、戦闘系の技能スキルを身に着けるよう意識する。


 そんな感じで容量がいっぱいになった状態で、他のスキルを学びたい場合は似たような技能スキルに不随することができるのだ。

 補足の+αって形でね。


 糞未来の頃、冒険者ギルドでレジーナ姉さんから教えてもらった方法だ。


 まぁ、今の俺に必要のない技能スキル(例:両手剣術)を破棄すれば容量は確保できるんだけどね。


 それはそれで、俺の糞未来で頑張って来た遺産でもあるから破棄するにも躊躇してしまう。

 だけど最近、冒険者としてのレベルが上がったことで容量も増えたみたいではあるけど……。


「流石、我が主。常に努力を惜しまぬ姿勢、このアリシアまことに感服いたしますぞ!」


 アリシアはベタ褒めしてくれる。


「まったくだね。特殊スキルも高いのに、本当にクロウは凄い男だよ……アタイ達も見習わないとね」


「えへへ~、やっぱりクロウは凄いね~、ボクも見習おうっと~」


 感心するセイラの横で、ディネが俺に飛びついて腕に抱き着いてくる。


「ちょっとディネさん、またぁ! いちいち兄さんに抱き着かないでください!」


 さらに俺の隣に座っていた、メルフィが引き離そうと躍起になっている。

 最早、定番となった状況だ。

 つーか、いつまでも確認しに行けないんですけど……。


「クロウさんだけに負担をかけのもなんですし、わたし達も共に行きましょう」


 一番冷静なユエルが軌道修正してくれた。

 これもすっかり定番となっている。


「クスッ。貴方達、本当に見ていて飽きませんわ。わたくしも王女でなくなったら冒険者になるものありですわね」


 ソフィレナ王女も気持ちに余裕が出来たのか、柔らかい微笑を浮かべ冗談交じりで呟いている。

 元王女の冒険者か……それはそれで凄いかもな。



 幻獣車の最上階から天井の昇降口ハッチを開けて、遥か上空を確認する。


 太陽を覆い隠すように、何か群れをなして飛んでいた。


 この距離からでも、両翼を広げるシルェツトがわかる。



 ――間違いない、竜だ。



 大きな竜が1頭を中心に、中ぐらいの大きさの竜が2頭、それに小さい竜が10頭か……。


 野生化している竜も群れを成すが、やたら規則正しく連隊が組まれたような飛び方をしているのが気になった。


 早速、俺は『遠視』スキルを発動し、『竜』の群れを確認する。

 特に大きな竜に焦点を当てた。



「……黄色い竜。イエロードラゴン……間違いない、エルダードラゴン級だ」


 俺は冷静に判断する。


 それと中ぐらいの大きさなのが『スカイドラゴン(飛竜)』であり、小さいのが眷属である『ワイバーン(翼竜)』だ。


「エルダードラゴン!? それは本当ですか、クロウ様!?」


 階段下から、アリシアが叫んでいる。


「ああ、間違いない。ってことは、連中はこの幻獣車を狙う『遊撃隊』であり『刺客』ってことになる……遠回りして、見晴らしのいい平原に進路を向けて正解だったな。気づかず不意を食らっていたら、今頃大惨事だ」


 俺は昇降口ハッチを降り、パーティ達全員に向けて報告する。


「クロウ様の仰る通り、早期発見できたことで、こちらも事前に手を打つことができましょう……幻獣車にも『対竜用の攻撃装備』は搭載されておりますし……」


「でも、エルダードラゴンって『竜』の中じゃ高レベルなんだろ? 大丈夫かい……?」


 不安気なアリシアとセイラの見解と意見。


「援護目的なら、『対竜用の攻撃装備』も使える……メインは、やはり特殊スキルが有効なんだが……」


「だがってなぁに?」


 俺が言葉を詰まらせ、ディネが可愛らしく首を傾げて聞く。


「イエロードラゴンは厄介な相手だ……何せ、空戦と陸戦がどちらでも行けるからな。以前、俺も相当苦戦したことがある」


「兄さん、以前って?」


「え? ああ……いやぁ、本で調べてた知識だよ、メルフィ」


 危ない、危ない。

 つい五年後の感覚で喋っていた。


 主にエルダードラゴンには五つの種類が存在する。


 レッドドラゴン(赤竜)

 ブルードラゴン(青竜)

 ブラックドラゴン(黒竜)

 ホワイトドラゴン(白竜)

 イエロードラゴン(黄竜)


 これらの竜は色だけじゃなく属性も異なっており、種類に応じて生態が異なっている。


 イエロードラゴンは『土』属性であり、先程述べたように『空戦』と『陸戦』に特化された特色があった。

 『陸戦』になると、大翼を収納させ身体もそれ使用に変形する。


 その戦闘力は、おそらく陸に生息する『魔物モンスター』の中で最強の部類と言っても過言じゃないだろう。



 思い出すぜ、あの忌まわしき五年後の糞未来――。


 ディネが翼を攻撃して空から引きずり降ろしたのはいいが、陸戦となり何故かイエロードラゴンは雑用係ポイントマンの俺に集中して攻撃を仕掛けてきやがったんだ。


 結構、知能も高いから、まずは手頃な雑魚から食おうと思ったんだろうぜ。

 当然、食われたくない俺は必死で逃げたわ。


 なんだかんだ、それが囮役として成立し、当時のウィルヴァ達が総攻撃して斃したんだ。


 だが問題はその後だ。


 逃げた際、俺も結構な負傷したにも関わらず、パーティの女共は誰も俺のことなんて心配してくれなかった。


 唯一、ユエルだけだったな……治療してくれたの。

 ついでの後々だったけどな。


 アリシア達なんて、みんな「流石だね~、ウィル~♪」って奴ばかりチヤホヤしてよぉ!


 忘れねぇ――!


 俺がやっとの思いで足を引きずりながら、みんなに近づいた際、「あれ? お前いたの?」って感じで俺を見ていた、あの冷めたい目だけはなぁ!!


 あの蔑む眼差しをなぁ!!!



「糞があぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



「――ク、クロウ様ぁ、どうか落ち着いてください! 深呼吸!! 深呼吸!!!」


 アリシアに叫ばれ、俺はハッと現実に戻る。


 おっと……また、やってしまったのか?


 まさか絶叫しちまうとは……。

 今回のトラウマ・スイッチは、かなりヤバかったらしい……。


 おかげでパーティ女子全員が、俺を見ながらドン引きして怯えていた。






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