第99話 事件解決と新たな事態
俺達が駆けつけた時、既に決着がついていた。
アリシアはソフィレナ王女を抱きしめたまま佇んでいる。
ユエルは跪いて、床に落ちているフェイザーの衣服に向けて祈りを捧げていた。
なんでも彼女の特殊スキル能力で、フェイザーは葬られ肉体ごと消滅させてしまったらしい。
「――親愛なる女神フレイア様。あの者の魂を浄化し、正しき道へと導きたまえ。願わくば平等なる永劫の安らぎを与えたもう……」
愛と正義を司る女神フレイアを崇拝する、ユエルらしい清らかで優しい祈りの言葉。
五年後の未来で、唯一変わってないのも彼女だけだ。
その清楚感漂う姿に、あの頃抱いた甘酸っぱい記憶が蘇ってくる。
「……助けに入ってくれたユエルには大変感謝しておりますが、当事者の私からすればクロウ様が想い描くような展開では決してありませぬぞ」
ポーッと見惚れる俺に対して、アリシアが嫉妬するわけでもなく何故かドン引きしたような眼差しを向けてきた。
あからさまに「見た目だけで靡く、男ってバカだな~」っと言いたげだ。
俺は咳払いをして、その場を誤魔化した。
「そういや、アリシアも右肩に怪我しているじゃないか? 俺が治してやるよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
アリシアは、ソフィレナ王女から離れる。
俺は彼女に近づき、《
「ごめんなさい、クロウさん。回復はわたしの役目なのに……」
祈りを終えた、ユエルが柔らかく微笑んで見つめている。
「いや、別に構わないよ。敵とはいえ、そういう情けは必要だと思うからね」
「はい、魂は皆平等ですから……」
うん、ユエルはやっぱり優しいなぁ。
また惚れてしまいそうだ。
「クロウ……それにアリシア、刺客からわたくしを守ってくれてありがとう」
ソフィレナ王女が丁寧に頭を下げ、お礼を言ってくれる。
「いえ、王女こそご無事で何よりです。お怪我はありませんか?」
「はい、アリシアがしっかりと守ってくれましたから」
笑顔で言いながら、アリシアの腕にしがみつく、ソフィレナ王女。
すっかり気に入られたようだな。
しかし、こうしてみると二人は本当によく似ている。
まるで双子のようだ。
「しかし、王女の部屋がこんなに荒れてしまって申し訳ございません」
アリシアは深刻な表情で謝罪する。
「いえ、形ある物いつか壊れてしまうものです。それに、こうして無事に生きているだけで十分ですわ」
流石、王女ならではの余裕ってやつか。
それとも元々温厚な人柄なのか。
これだけの高級家具を破壊し尽くしても、何も動じてない懐の大きさだ。
まぁ、俺の特殊スキル能力で全部元の状態に戻せるけどな。
「クロウ、どうやら
セイラが部屋に入って来る。
彼女の特殊スキル、《
やはり、ダナスが相棒ごと
とはいえ、こうして
「わかった、セイラありがとう。敵はもういないと判断しよう」
「そうだね……しかし、アリシア……どうしたんだい、アンタ?」
「ん? 何のことだ?」
セイラは両目を細め表情を強張らせながら、軽く引いた様子を見せている。
「兄さん、紙にされた乗務員の皆さんは無事に元に戻りました……おや?」
「これで全部解決だね~、ってあれ?」
今度はメルフィとディネが部屋へと入り報告してくる。
二人はアリシアに視線を向け、セイラと同じように首を傾げていた。
「どうした、二人とも?」
「いや、アリシアのその格好、何?」
ディネが本人に向けて指を差し問い質す。
「私の格好だと? ああ、刺客を欺くのに、ソフィレナ王女と衣装を交換したのだ。それがどうした?」
アリシアは純白のドレス姿でも「何か文句あるか?」と言わんばかりに、フンと鼻を鳴らし両腕を組んでいる。
「……別に~」
「何だ、言いたいことがあるのなら、はっきり言え」
「なら、アタイから言わせてもらうよ――アンタのその格好、超似合わねぇ! アハハハハ!」
セイラが横から口を挟み、腹を抱えて笑った。
「なんだと貴様!?」
「セ、セイラさん……そんな、はっきり言ってはいけませんよ。ねぇ、ディネさん……ぷぷぷ」
「メルフィだって笑ってるじゃん~! アリシアって伯爵家の令嬢なのに、ドレスとか無縁そうだもんね~、にしし♪」
「当たり前だろ! 私は騎士だぞ! 普段からドレスなんぞ着ているわけがなかろう!? っというか、貴様ら全員普段から私をどういう目で見ているのだ!?」
アリシアは女子としての尊厳を嘲笑され憤慨している。
言われてみりゃ、俺も彼女のドレス姿を見たのは初めてだ。
だけど、俺的にはみんなが言うような違和感はないけどな……。
「俺はアリシアのドレス姿は似合うと思うぞ……なんか気品あるお嬢様って感じで素敵じゃないか? (糞未来のお前なら間違いなく悪役令嬢だけどな)」
「クロウ様……」
俺の言葉に、怒っていたアリシアは頬を染めてデレ始める。
その様子に、他の女子達の目つきが変わった。
「クロウ! アタイだって、ボディラインには自信があるんだ! その気になれば結構凄いと思うよ!」
「ボクだって、エルフ族なんだからイケる筈だよ!」
急に根拠のない虚勢を張りだす、セイラとディネ。
「兄さんが
何故か、義妹であるメルフィまで威勢よく言ってくる。
「ああ、わかった……その時が来るまで、みんな楽しみにしてるよ」
彼女達の迫力に押され、一応話を合わせてみた。
つーか、三人ともなんか必死で怖いんだけど……。
「フフフ、クロウって本当に面白い殿方ですね。アリシアも気苦労は絶えないようですが……」
俺達のやり取りを眺めていた、ソフィレナ王女が楽しそうに笑っている。
一体、アリシアとどんな話をしたのか知らないけど、王女もそろそろ着替えた方がいいですよ。
その後、俺は《
アリシアとソフィレナ王女も着替えを終える。
無事に全て元の状態となった。
「しかし腑に落ちませんね……」
俺が窓を眺めていると、女騎士姿のアリシアが近づいてくる。
「何がだ?」
「先程の刺客、
「あくまで俺の憶測だが、今回の連中は教団の意志とは関係なく動いていたような気がする」
「教団の意志とは関係なくですか?」
「ああ、そうだ。本来、連中の目的は各国に自分達の教えを広めることだ。どんな卑怯で強引な手を使ってもな。だから、ミルロード王国内で暗躍し邪魔になりそうな人物の暗殺も平気でこなす。これまでだってそうだろ?」
「ええ、エドアール教頭の件でもそうでしたね?」
「あの人は王家の末端でありながら、国王すら一目置く程の影響力があるだろ? だけど、ソフィレナ王女にはそれはない」
「嫁ぎ先である『ネイミア王国』に対してでしょうか?」
「それならネイミア王国の王族か重鎮達を始末したほうが手っ取り早いんじゃないか? 嫁さんを葬ったって一国が揺ぐことはない。ましてや顔も合わせたこともない政略結婚相手だ。先方の花婿だって情なんてないだろ?」
「では、やはりゾディガー国王に対してでしょうか? だとしたら連中を匿っている反国王派からの依頼とか?」
「多分、その辺りだな……ダナスも俺が探りを入れた時、『似たようなもんだ』って言ってたからな」
「反国王派と
「だな……しかし、俺はもう腹を括っている。
「クロウ様……きっと父も喜ばれるでしょう」
アリシアは、とても優しい微笑を浮かべて見せる。
気持ちがほっと安堵してしまう自然体の笑顔だ。
五年前の未来じゃ、いつも俺を見下していた大嫌いだった女騎士と同一人物と思えない。
一体どうしてああなってしまったのだろうか?
そして二日が経過した。
あれから何事もなく順調に進路通りに『ネイミア王国』に向かっている。
「ようやく落ち着いたな……このまま無事に『ネイミア王国』に到着すればいいんだが」
そう考えていた矢先。
――再び事態は動いた。
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