第97話 ワープ・スプリント
~アリシアside
私は周辺から複数の殺意を感じる。
それは悪寒が走ったようなゾクっとした形容しがたい何かだ。
ざっ!
危険を察知し、後ろへと跳ぶ。
ほぼ同時に、跳躍した床下から鋭い長い剣身の刃が二本ほど突き出され、刃が重なり交差する。
双方の剣身を生やしている床の表面には淡く光輝を発した二つの円枠がなぞられ、中心部が異空間へと繋がっているように思えた。
攻撃を回避し着地した私は、後方の壁によりかかろうとした瞬間、左肩部に鋭い痛みが走る。
「――
背後の壁から、同様の剣身が突き出され、私の右肩を刺したのだ。
しかも床の剣は、そのまま二本とも出現させたままである。
「こ、これは!?」
「《
右肩に刺さった剣が引き抜かれると同時に、すぐ目の前の床からフェイザーが出現した。
その手には、私の血液が付着した
「ぐっ!」
抜かれた痛みにより、私は体勢を崩し片膝を床に着く。
「但し『
「貴様ァ!」
私は
「クロック・ロウ達が駆けつけるまで、およそ残り2分か……アリシアと言ったな。このまま貴様を殺してもいい……しかし、ワタシの使命はあくまで、ソフィレナ王女の抹殺だ。貴様に構っている暇はない。王女の居場所を正直に話せば命だけは助けてやろう」
「フェイザーとやら、バカか貴様は? 私とて騎士のはしくれだ、この命ある限り任務を放棄するようなことはない! この程度の損傷で勝った気になるなよ!」
「ふん! このまま挑発に乗って嬲り殺しても構わない……だが時間がない! 問答している時間もな!」
フェイザーが言った瞬間、私が蹲っている真下の床が円で囲む形で輝き出した。
「これは――なっ!?」
円枠から異空間が発生し、私は瞬時にその中に落とされてしまう。
「その異空間は、俺達が侵入してきた屋上の外へと繋がっている。クユーサーの移動速度は約60キロほどだ。屋上から落ちても運が良ければ生き残れるか、運が悪ければ護衛している騎兵隊に踏まれて死ぬか……どうでもいいがな」
フェイザーの言葉に、落ちていく私はフッと笑みを零す。
「――なるほど、それは好都合だ」
「何だと?」
フェイザーが眉を顰めた直後、自身にも異変が起こる。
自分の意志とは関係なく、何か強い力に引っ張られる形で異空間に落されてしまった。
「バカな!? 身体が……何故、ワタシまで異空間に引き込まれる!?」
「さっき、右肩を突き刺された時に『磁力』を施しておいたのだよ。すぐに血液をふき取るべきだったな。長く付着していたことで、その剣だけでなく貴様ごと『磁力』に侵されたのだ。伝染病のようにな!」
これが《
基本、触れた物質に『磁力』を与える能力だが、例えば相手の着ている衣類から相手ごと『磁力』に変えることができるように、『磁力』効果を伝染させることができる。
フェイザーの場合、手にしていた
そして、私が異空間へ落とされる瞬間に『磁力』を発現させ、私とフェイザーを引き寄せたのだ。
全てはソフィレナ王女から、こやつを引き離すために――。
「アリシア――ッ! 貴様ァァァァァァァッ!!!?」
「先の攻撃で、私を仕留めることができなかった貴様の負けだ! フェイザー・フール!」
私はフェイザーの身体を『磁力』で引き寄せ、奴の左足首をがっしりと掴んだ。
刹那。
瞬きする間もなく風景が変わる。
気がつけば、幻獣車両の屋上へと転移されていた。
「これが転移スキルか……末恐ろしいな。まさに暗殺に打って付けの特殊スキル能力だ」
「アリシア! 貴様はアホか!? 何、呑気に言っている!? ワタシごと死ぬ気なのか!?」
フェイザーはいつの間にか
私が奴の足を掴むことで、昇ることができず互いに宙吊り状態となっている。
「種族達の天敵である『竜』を神として崇めている邪教徒の癖に命根性はあるようだな……私は仕えるクロウ様の顔に泥を塗るくらいなら、クエスト達成のため命を懸ける覚悟がある」
「貴様ぁ、それほどまで、クロック・ロウに対して妄信的とでもいうのか!? イカレている……この女、イカレているぞ! だったら、貴様だけ落ちろぉぉぉぉぉ!!!」
フェイザーは右手で
突如、自身の胸部に円枠の異空間が発生する。
フェイザーは躊躇することなく、
すると左足の脛部から新たな異空間が出現し、そこから
斬ッ!
「ぐわぁぁぁぁっ!」
「なっ!?」
その光景に、私は驚愕する。
「……ワ、《
フェイザーは激痛に耐えながら勝ち誇った。
私はどうやら、奴の覚悟を甘く見ていたようだ。
命根性が汚いのではなく、生き延びるための決意。
たとえ片足を失おうと、己の任務を達成させるための覚悟がある。
それもまた騎士道か……。
私は左足首を握ったまま、真下へと落ちていく。
「――勝った! ワタシの勝ちだ、アリシア!」
フェイザー・フールは言い放つ。
確かに奴の勝ちのようだ。
そして、先程の言葉、撤回しよう……。
貴様の決死の覚悟と強い意志、同じ騎士として尊敬に値する。
もし道を踏み外さなければ、どこかの国できっと良い
――しかしだ!
このアリシア・フェアテールは、大切な『主』であるクロウ様のため命を懸けて戦い赴いているが、悪戯に命を捨てるようなことはしない。
私は信じているのだ。
我が主、クロック・ロウ様。
そして、共に歩む『仲間』達を――。
「アリシアさーん!」
真下から私の名を呼ぶ、少女の声。
視線を向けると、巨大な翼を背に持つ人型の何かが羽ばたき、こちらへと近づいて来た。
金属のような光沢を発する、純白の右翼に漆黒の左翼。
私はそれが誰なのか、すぐに理解する。
「ユエル!」
そう、ユエル・ウェストだ。
彼女の特殊スキル、《
おそらく最下階の格納庫から、直行で来る近道として空を舞っていたのだろう。
「アリシアさん! 掴まって!」
ユエルは必死で腕を伸ばし、落ちていく私はフェイザーの左足首を放りなげ、彼女の手を握った。
フェイザーの左足首は、幻獣車の巨大な車輪に巻き込まれ、ぐしゃりと潰れている。
私もまともに落ちていたら、きっとああなっていたに違いない。
「すまない、ユエル! 助かったぞ!」
「いえ、わたしはクロウさんの指示で
そうか、やはり指示したのはクロウ様だったのか……。
流石は我が主、常に先々を見据えた判断力と先見の目、実に見事だ。
クロウ様の為にも、このクエスト必ず成し遂げてみせる!
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《特殊スキル紹介》
スキル名:特殊スキル:
能力者:フェイザー・フール
タイプ:効果型
レアリティ:SR
【能力解説】
・触れた物体(生き物も含む)から円状の異空間を発生させ歪ませて、そこから到着地点まで超光速で転移することができる。
・到達地点は事前に触れた上で設定された箇所か、10メートル以内なら任意で複数の箇所を設定することが可能である。
・異空間の大きさを自在に変化させることができ、人間が通れるくらい大きさから、より小さい円状まで作ることができる。
【応用技】
・攻撃技として多数のナイフを出発地点の異空間から投げた場合、任意で設定された複数の異空間から一斉に出現させて相手を仕留めることも可能。
・出発地点の異空間に剣を突き刺した場合、任意で設定された複数の異空間から
【弱点】
・
・必ず物体からでないと異空間を生成ことはできない。
・液状の物質から異空間を生成することはできない。
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