第95話 上手×上手の戦い




 セイラが『紙』にされ、人質に取られてしまった。

 次は、メルフィだと宣言する。


「んなこと、俺がさせるわけねーだろうが!」


「吠えるな、クロック・ロウ。貴様の能力は未知数だが、触れて発動させる『効果型』だと聞く。我らに触れてない状態ではスキル能力は発動できまい。仮に今のように、一瞬でも姿を消すならば、この半獣女から破いて殺すぞ」


 フェイザーは言いながら『紙』となったセイラをダナスに渡した。

 受け取ったダナスはニヤつきながら、『紙』のセイラの身体を折り曲げようとする。


 俺は慌てて身を乗り出す。


「おい、大事な人質だろ! その子に手荒なことするなよ!」


「安心しろや。この状態じゃ、いくら細かく折っても問題ねーよ。但し燃やしたり破いたりしたら、あの世行きだからな、ああ!?」


 ダナスは喋りながら『紙』を細かく畳み、再びフェイザーに渡した。

 今度は胸のポケットから数枚の細かく折り曲げられた『紙』取り出してみせる。


 その『紙』広げると、クロスボウ弩弓を象った『紙』が立体の形へと変化していく。

 また同時に『紙の矢』を本物の弓へと変化させ、クロスボウへとセットする。


 そのままメルフィに向けて標準を定めた。


「やめろ!」


「動くな、クロック・ロウ! この場で仲間を殺すぞ!」


 フェイザーは右手の指先で摘まんだ『紙のセイラ』をチラつかせてくる。


 俺は奥歯を噛みしめ、右手に握られたブロードソード片手剣ごと震わせた。


「や、やめてくれ……その子は俺にとって大切な妹なんだ。あんたら、仮にも神様に仕える『使徒』なんだろ? 慈悲はないのか? そんな惨いことはやめてくれよ……」


「クロック兄さん……」


 メルフィは俺の懇願に黒瞳を潤ませている。


「うるせーっ、アホか!? こちとら、テメェとその妹に仲間を二人も殺されてんたぞ! もう忘れたのか!? おまけにその大切な妹は、信者である信仰騎士達100人も消しているんだぞ! よくもまぁ、んな慈悲を与えて欲しいみたいなこと言えたもんだなぁ、あああ!?」


「我らの任務は、あくまでソフィレナ王女の抹殺……本来、貴様らの相手は別の連中がする予定だった。しかし、こうしてのこのこ出会ってしまったのだから仕方ない。一人ずつ始末してやる……クロック・ロウ、貴様は最後だ。自分の非力さを絶望しながら死んでいくがいい」


 フェイザーは口調こそ丁寧だが、要はこの二人、俺とメルフィに相当な怨みがあるらしい。


 ……自分の非力さを絶望しろだと?


 生憎だな!


 もうとっくの前に散々味わってきてるんだぜ!


「糞未来でな――時限起動タイマー時間を巻き戻すリワインドッ!」


 俺のニヤリとほくそ笑み、気鋭の声を上げる。


 ――《タイム・アクシス・クロニクル《時間軸年代記》》を発動させた。


「何だと!?」


 驚愕したのは、フェイザーだ。

 指先で摘まんでいた『紙』のセイラが勝手に広がり、元の大きさと形に戻っていく。


 そして、セイラに施された『紙化』が解除された。


「おい、嘘だろ!?」


 ダナスも驚くのも無理もない。


 復活したセイラは丁度、二人の男が立つ、真ん中の位置へと降り立ったのだから。


 俺の特殊スキル、《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の『時限起動タイマー』でセイラを紙化される前に巻き戻リワインドしたのだ。


 5階から1階に移動した際、メルフィの《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》に書き記された《魔眼の精密鑑定デビルアイ・ハイアプレーズ》魔法で、ダナスの特殊スキルを鑑定させるよう指示した。


 《魔眼の精密鑑定デビルアイ・ハイアプレーズ》は、対象者の名前と特殊スキル名がわかればどのようなスキル能力も詳細に鑑定することが可能である。

 これでダナスが嘘をついてないことが判明した。


 そして、敵の能力さえ判明すれば、こっちのものだ。


 俺は万一、パーティの女子達が攻撃を受けてもいいよう、奴らの死角でみんなに触れておき『時限起動タイマー』をセットしておく。

 後は臭い演技を交えつつ、ダナス達がいい気になって油断した所を見計らって発動させたのだ。


 したがって、今のセイラはナイフ攻撃を受ける前の状態であり無傷でもある。


「アンタら、随分と舐めた真似してくれたね――!」



 バギィィィ!!!



 復活したセイラは飛び跳ね、拳に装着した鋼鉄手甲ガントレッドと脛部分に装着した鋼鉄甲掛けソルレットで、ダナスとフェイザーのそれぞれの顔面を殴り蹴りを食らわせる。


「「ぶべぼぉ!」」


 フェイザーはそのまま吹き飛ばされ床を滑って転がっていった。

 一方のダナスは飛ばされる寸前で、セイラに胸ぐらを掴まれその場に留まる。


「勝手に飛んで行くんじゃないよ! アンタにはまだ用があるんだ!」


 セイラは言いながらダナスのズボンのポケットから、沢山の『紙』を抜き出して放りだしていく。

 それは、人質となった王宮騎士テンプルナイトと侍女、そして乗組員達であった。


「よくやった、セイラ! ユエルとメルフィは紙を回収してくれ! ディネは俺について来くるんだ!」


 俺は的確にパーティ達に指示を送り、女子達は的確に動いてくれる。


 ダナスは気を失っているらしく、セイラが胸ぐらを離した瞬間、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


 飛ばされた、フェイザーも床に倒れたまま微動だにしてないようだ。


 俺とディネは丁度、連中から真ん中辺りの位置に立つ。


「ディネはこの位置で弓矢を構えて、二人の男を監視してくれ! 俺はフェイザーという男を拘束する! 気絶したフリをしている可能性があるから油断するなよ!」


「わかったよ、クロウ!」


 ディネが頷き、俺がフェイザーの下へ走って行っていく。


 その間際。


「――死ねぇ! クロック・ロウォォォォ、ああ!!!?」


 ダナスがむくっと起き上がり、俺に向けてクロスボウ弩弓の矢を撃とうと翳した。

 しかしだ。


 ぐにゃり――っと、クロスボウ弩弓引金トリガー台座ティラー、さらに矢までもが柔らかく折れ曲がる。


 それは、まるで粘土状の柔らかさであった。


「なんだ、これは!?」


 驚愕するダナスの前に、セイラが拳をバキバキ鳴らしながら立ち見下ろしている。


「アタイの特殊スキル《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》さ。触れた物質を粘土状に変える能力……さっき、アンタをブン殴ったと同時に触れておいたのさ。もう、しょーもない小細工は通じないよ!」


「クソ女がぁ! どこまでも俺の邪魔ばかりしやがってぇ! ああ!?」


 ダナスは顔を歪ませ吠える。

 だが、どこか演技臭さを感じてしまう。


 セイラが「はっ!?」っと何かに気づき、俺を一瞥する。


「クロウ! 早く、もう一人の奴を仕留めな!」


 そう言った一瞬の出来事だ


 俺が向かう先の方で、気を失っていたフェイザーに異変が起こる。

 寝そべっている床に円状の白い光輝を発した輪が生じたのだ。


 その現象には見覚えがあった。


「《ワープ・スプリント歪曲空間疾走》。仕掛けをセットしていたのは、貴様達だけではないんだよ! このまま5階まで転移して、ソフィレナ王女を始末する……果たして、お前達が追いつくまで何分かかるかな?」


 フェイザーは、むくりと起き上がり唇を吊り上げる。

 どうやら気を失ったフリをして、ダナスと能力発動のタイミングを計っていたようだ。

 この二人、見た目は真逆のタイプなのに妙な連携力を見せてくる。


 いや、それよりも――。


「こいつら、その為にわざわざ1階まで誘導したのか!?」


「1階に降りるまで、ワタシは自分の特殊スキル能力を知られてないからな。クロック・ロウ、時間を奪う能力を持つ貴様とて未来予知まではできまい!」


「仲間を見捨てるってのか!?」


「フン! 貴様らの価値観で物事を言うなよ……我々『使徒』は仲良しごっこの集まりじゃない! 信仰と大義の為、全ては『竜神様』に命を捧げる覚悟でここにいるのだ!」


 フェイザーの全身が円状の輪に吸い込まれて行く。


 俺の射程内では間に合わない。


「クソッ! させるか!」


 苦し紛れにブロード・ソード片手剣を投げるも、床に突き刺さる寸前でフェイザーは完全に輪の中に入り、フッと円枠ごと消滅した。


「しまった、逃げられた!?」


 このままフェイザーを行かせてしまったら、ソフィレナ王女が危ない!






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