第94話 ペーパー・スクラップス




 俺達は声が聞こえた方へと向かった。


 部屋を出た、すぐ廊下に二人の男が堂々と姿を見せている。


 一人は痩せたモヒカン刈りで、ぱっと見は盗賊シーフっぽい装い。派手な見た目の割に精悍な顔立ちである。


 さらにもう一人は、金色のロン毛に高身長、物静かそうで整った顔立ち。背中にロング・ソード長剣を背中に装備した騎士風だ。


「お前ら、何者だ? 少なくても関係者じゃないな?」


「クロック・ロウ。つい今、お前らが予想していた『敵』だぜ。俺はダナス・ナダル。隣の奴はフェイザー・フールってんだぜ、ああ!?」


 モヒカン男はわざわざ説明してくれる。

 さっき怒鳴り声を発したのは、このダナスって野郎のようだ。


「敵……反国王派か?」


「ちげーよ。けど似たようなもんだ。『竜守護教団ドレイクウェルフェア』って言えば、もうわかるよな、ああ!?」


 ダナスって奴。どうやら、いちいちやかましく怒鳴るキャラのようだ。


「俺からすれば『またお前らか……』って感じかな? 今度は何が目的だ? 他の乗組員達はどうした?」


「質問は一つずつだ、クロック・ロウ。この車両に乗り込んだ時点で目的はわかるだろ? ゾディガーの娘、『ソフィレナ王女』の暗殺だ。乗務員達は俺の特殊スキル、《ペーパー・スクラップス紙屑》で全員『紙』にして所持している。こんな風にな――」


 説明しながら、ダナスはズボンのポケットから折り畳まれた数枚の紙を見せてくる。


「何故、そんなに丁寧に教えてくれるんだ? ただのお喋りキャラとは思えないが?」


「察しがいいな、テメェ……本当に学生のガキか? まぁ、いい。テメェらの勘がいいからだよ。本当なら、お前らが1階に降りている内に、王女を始末する予定だった。護衛している女騎士ごとな。だが、テメェらは何かを察して、この階から離れようとしねぇ……しかも俺らが空から侵入したとか、侍女達を『紙』に変えて持ち去ったこと、挙句の果てにもう一人の能力者の存在までバレているときているじゃねぇか、ああ!?」


「……おまけに貴様らは単独行動せず、常に固まって動いていた。孤立する隙を伺う方法もあるが、貴様らが幻獣車を止めて外で警備している騎馬隊に知られても厄介だ。このまま持久戦だと、逆にこちらの分が悪いと判断したまでのこと。まぁ、ダナスが短気でせっかちだってこともあるがな」


「うっせーよ、フェイザー! テメェの安っぽい作戦に乗っちまって、このザマだろうが、ああ!?」


 俺達の前だというのに急に揉めだす、ダナスとフェイザーと名乗った二人の男。


 奴らの話を聞く限り、王宮騎士テンプルナイトと侍女と乗務員達を『紙』にして拉致したのも、最初から俺達に車両内を捜索させ、孤立するソフィレナ王女を暗殺しやすい状況を作るのが目的だったようだ。


 危なかった……こちらの判断ミス一つで、ソフィレナ王女どころかアリシアさえ危険に晒すところだった。


「クロウ……今のうちに、あいつらやっちゃおうよ」


 ディネが後ろで囁いてくる。


 確かに隙だらけだな……しかし。


「やはり迂闊には向かってこないか……自分達が置かれている状況がわかっているようだな?」


 二人はピタッと動きを止め、フェイザーが双眸を細めて俺達を凝視してくる。


「状況って何を言ってんだ、こいつら? アタイ達の方が人数も多いじゃないか? クロウ、アリシアも呼んで、こいつらをボコ殴りにしてやろうよ!」


「いや、駄目だセイラ……向こうには35名の人質がいる」


 俺の言葉に、後ろで身構えるパーティ女子達は「うぐっ」と言葉を詰まらせる。

 その様子を見て、ダナスはニヤッと不敵に微笑んだ。


「見た目によらず察しがいいな、クロック・ロウ。てっきり人質そっちのけで俺達を襲ってくると思ったぜ!」


「その為に、わざわざ俺達の前に姿を晒したんだろうが? ご丁寧に説明して自分の能力を明かしてまでな」


「俺の特殊スキル能力は『強化型+効果型』だが、どちらかと言うと暗殺向きであり真正面からの戦闘向きじゃねぇ。作戦変更したまでだぜ!」


「何が目的だ?」


「まずはテメェら全員、俺達について来てもらう。話はそれからだ――」


 ダナスは後退りしながら、顎先で俺達に指示してくる。

 俺は舌打ちしてパーティ達と共について行く。


「お前らの外に仲間はいるのか?」


「いや、我ら二人だけだ。安心してついて来い」


 フェイザーが静かな口調で答えてくる。


 何が安心しろだ。


 俺達を、ソフィレナ王女から引き離す気満々じゃねーか。




 気付けば、1階の格納庫まで連れて来させられた。


 緊急時の脱出用で乗り込む、馬車や馬が配備されている場所である。

 離れた距離で、俺達は互いに対峙する。


「俺達をこんな所に連れて来て、どうするつもりだ?」


「まずは、テメェらに『紙』になってもらうぜ、ああ!」


 ダナスは腰元から小剣ナイフを抜き、俺に向けて投げつけた。


「――ふん。《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》、短縮スキップ!」


 俺の姿は消え、1メートルばかり前進する。

 時間短縮により、先送りしたのだ。


 通り過ぎたナイフは、パーティ達をすり抜け、後方の柱に突き刺さる。


「なんだ、こいつのスキル能力は!?」


「事前にリサーチしとけ!」


 驚愕するダナスを前に、俺は右手で片手剣ブロードソードを抜き駆け寄ろうとした。


 その時だ。



 グサッ!



「うぐわぁ!」


 背後から悲鳴が聞こえた。


 俺は振り返ると、セイラが蹲っている。

 よく見ると、背中にナイフが刺さっていた。


「セイラ!?」


「おっと、クロック。テメェはもう動くなよ! そいつも人質だ!」


 ダナスは言った途端、セイラの身体が歪に変化されていく。

 前と後ろが強引に圧迫されたように薄っぺらくなり、『紙』くらいの薄さにまで変化した。

 それは見覚えのある光景である。


「侍女を『紙』化させた能力か!?」


「そっ、それが俺の《ペーパー・スクラップス紙屑》だ。触れるか攻撃を与えた物質を『紙』にすることができる」


 ダナスの説明と同時に、『紙』となったセイラは立位が保てず、ひらりと床に滑り落ちてしまう。


 その瞬間、さらに異変が起きた。


 落ちた床下から薄っすらと白い光輝を放つ円状の枠が出現し、そこから人族の右腕らしく物体が生えたのだ。

 腕は『紙のセイラ』を掴み、そのまま円の中へ引きずり入れ、円枠ごと消滅する。


「セイラ!?」


「動くなって言ってんだろ! バカかテメェら、ああ!?」


 俺とパーティ達は駆け寄ろうするところを、ダナスが大声で制止してくる。


 そんなダナスを睨みつけると、奴の隣でフェイザーという金髪のロン毛男が奇妙な行動を取っていた。

 先程の光輝を発する円枠に右腕を突っ込んでいたのだ。

 円から右腕引き抜くと、その手には『紙のセイラ』が握られている。


「おい、そこの金髪! あの奇妙な『円』はテメェの能力か!?」


「如何にも、ワタシの特殊スキル――《ワープ・スプリント歪曲空間疾走》だ。そこら中に仕掛けてあるぞ」


「そこら中だと!?」


「ワタシは触れた物に『異空間』を発生させ、今のように自由に出入りさせることができるのだ。事前に触れてない場所でも10メートル以内なら、自在に『異空間』を設置させることができる」


 なんだって!? ってことは、ダナスが投げたナイフの軌道をこのフェイザーの能力で転移させたってのか!?


「この半獣の拳闘士グラップラーの女……真っ先に、ダナスの特殊スキルを見破ったからな。おまけに、シェイマ様の姿がミルロード国内中に指名手配されたのも、この女の能力による物らしい。最も厄介な能力者から始末する」


 だから、セイラを狙ったのか? 俺がナイフを躱すと想定して――。


「したがってよぉ! 次は黒髪の女、テメェだからな! テメェの持つ竜牙兵スパルトイが一番ヤバイらしいからな! ああ!?」


「最もワタシとダナスの能力が合わされば意図も容易く『紙』にさせて、この幻獣車両から追い出せるがな」


 何だ、こいつら……能力の相性なのか?


 やばい! やたら連携が取れているぞ!?






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《特殊スキル紹介》


スキル名:ペーパー・スクラップス紙屑


能力者:ダナス・ナダル


タイプ:強化型 +効果型


レアリティ:SR


【能力解説】 

・自分の身体を薄い紙状態に変化させ狭い隙間からの潜入や移動を行うことができる。

・また効果型のように攻撃した生物や物質を紙状にして携帯することが可能。

・紙にしたモノはどんなに折り曲げても外傷にはならない。

・能力者以外、紙にした生物は移動したり自力で解除することはできない。


【弱点】

・自身が紙になった状態で物理的攻撃をすることはできない。(但しトラップなど、自分の攻撃としてカウントされた場合は相手を紙に変えることができる)

・紙を破られたり燃やされたりするとダメージを負い死に至る場合もある。






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