第93話 幻獣車両内の捜索




 俺がソフィレナ王女と話し込んでいる内に、護衛に就いていた王宮騎士テンプルナイトと侍女達の随員が突如として姿をくらませたらしい。


 王女の部屋を出た俺は、ディネと共に他のパーティと合流した。


「お待たせ。本当に車内に俺達しかいないのか?」


「アタイはまだ調べてないけど、三人がそう言っているんだ。ほぼ間違いないだろうね……」


 セイラは言いながら、ディネとメルフィとユエルの三人を見据える。


「うん、間違いないよ。所々に宿っている精霊達がそう教えてくれてるもん!」


 ディネルースはエルフ族なだけに精霊使いエレメンタラーの才能もあり、金属以外の物質に宿した精霊達と交信ができるらしい。


「私も遠見魔法で確認しましたが、どなたの姿もないようです」


「念のため、わたしの特殊スキル《イクアリティ・フェイト公正なる運命》で生命反応を探ってみましたが、この幻獣車両内で人族サイズはわたし達だけよ」


 メルフィとユエルが説明してくる。


 特に、ユエルの《イクアリティ・フェイト公正なる運命》は生命力を操る能力だ。

 その精度は下手な魔法より高いだろう。


 しかしだ。


「ガチで俺達だけだって!? じゃあ、護衛だけじゃなく、運搬する兵士達もいなくなったってことか!?」


 俺の疑問に、ユエルは頷く。


 幻獣車には俺達のような護衛役と、車両を運搬し整備する乗組員の兵士が20人ほど乗車している筈である。

 っということは、王宮騎士テンプルナイト5名と専属侍女が10名の計35名が一斉に車両内から姿を消したということだ。


 どう考えても尋常な事態ではない。


「――わかった。直接探してみる必要があるな……みんな一緒に行動しよう」


「分担しないのかい? その方が効率いいんじゃないかい?」


「いや、セイラ。これは『敵』に攻撃を受けている可能性がある。単独行動をするべきじゃない。幸い、ソフィレナ王女はアリシアが護衛についているから問題ないだろう。この場合、自由に動ける俺達が全滅しちまった方が最悪なシナリオになっちまうんだ」


「なるほど、理解したよ。アタイはクロウの判断を信じるよ。それだけはアタイも唯一、ブレない判断だからね」


 セイラは拳を掲げ、ニッと笑う。

 以前は見た目によらず優柔不断なところがあった拳闘士グラップラーだったが、今は自信を持って堂々としている。

 その独特の特殊スキルも勿論だが、この子がパーティにいてくれるだけで、俺も安心して背中を預けられる頼もしい存在だ。


 他の三人も特に異論なく頷いてくれる。


「よし調べながら慎重に捜索していくぞ!」


 こうして、幻獣車両内を探ることになった。


 とはいうものの、内部は5階建てのやたら広い構造だ。

 迷宮まではいかにも、通り道が狭かったり部屋の数もやたら多い。


 俺達は5階の最上階から、まず乗組員達が常駐している1階へと降りようと階段へと向かった。

 その際、ふと窓から外を眺める。


 騎兵隊は健在であり、問題なさそうに幻獣車の周囲を取り囲み移動していた。


「敵の攻撃としたら、この大隊規模の騎馬隊を掻い潜っての幻獣車両内へ潜入か……陸からじゃ無理なような気がする」


「クロック兄さん、何が言いたいのです?」


 メルフィが首を傾げて聞いてくる。


「案外、空から侵入してきたのかもしれない……このまま下に降りるべきか、そう考えている」


「空からってことは、敵は最上階であるここから侵入して来たってことでしょうか?」


「そうだな、ユエル。そうなるな……」


「でも、ボクも耳を澄ませていたけど、誰かが降りてきた物音なんてしなかったよ?」


「アタイもだ。臭いどころか気配すら感じなかったね」


 聴力抜群のエルフ族のディネと、白狼族の混血であるセイラが異議を唱える。

 二人共、下手な人族より察知能力に高いだけあり貴重な意見だ。


「おそらくは特殊スキル能力……しかも単独でなく、複数犯の可能性がある。まずは手頃な連中から仕留め、俺達の出方を確認しているのか。こうして王女から遠ざけるための誘導か……どの道、迂闊に5階から離れるべきじゃないようだ」


「予定変更かい? アタイは別に構わないけど、捜索はどうするんだい?」


「勿論、続行だ。ただし5階内で限定する。まずは王宮騎士テンプルナイトと侍女達の痕跡を探そう。そうすればセイラ、お前の特殊スキル発動条件が満たせるだろ?」


「なるほどね……そうすりゃ、敵の正体もわかるかもしれないね。流石はクロウ、頭いいよ」


「やっぱ、ボクのクロウだね~!」


「ディネさん! 私の兄さんです!」


「わたしも最良の判断だと思うわ。クロウさん、やっぱり凄い方です」


 あんまり、おだてられると恥ずかしすぎて木に登りそうだ。


 こういう場面とて常に冷静な思考にいられるのも、糞未来で死にそうな目に合うほど、みんなが俺を鍛えあげてくれたおかげだぞ。


 なーんて、今はトラウマに浸っている場合じゃない。


 俺達は引き返して、5階内を歩き周ることにした。



「クロウ! 侍女の部屋に、それっぽいのがあるよ~!」


 ディネは手を振って呼んでくる。


「本当か? セイラ、メルフィとユエルも一緒に来てくれ!」


 全員に声を掛け、侍女用の部屋に入る。

 床に女性用の靴が片方だけ転がっており、床板にも何か擦ったような薄い傷が幾つか見られた。


「床板の傷が新しい……ほぼ間違なく、侍女達はここで襲われたようだ。セイラ、やってくれ」


「わかったよ――《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》!」


 セイラは床板の傷部分に拳を当てた。


 すると床板が柔らかくなり膨れ上がる。

 人差し指サイズの人形、いや侍女の姿へと変貌した。


 ――《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》で再現させた粘土模型である。


「どれくらいの前だ?」


「アタイらが気づいた少し前くらいだよ。少し先に進ませるよ」


 セイラは指を鳴らすと、侍女の模型は素早くちょこちょこと動き出す。


「変な動き~」


「あえて場面シーンを早送りしているのさ。待ちくたびれちまうだろ? ん? 様子が可笑しいね一旦停止するよ」


 セイラは再び指を鳴らすと、侍女の姿に変化が見られていることに気づく。


「なんか、身体が細くなってないか?」


「そうですね……前と後ろから何かに押し付けられた感じに見えます」


 俺とユエルは感想を述べる。

 侍女の模型人形が前側と後側から潰れ、歪な形となっていた。


 セイラは細い顎先に指を添えて考え込む。


「情報はあくまで、スキルで再現された『この侍女』のみだからね。外部で何が起きているかまではわからないよ……どれ、少しずつ動かしてみるよ」


 模型人形はさらに形を変えていく。


 しまいには薄っぺらい『紙』のようになってしまった。

 だが侍女は生きているようで、そのような状態でも口をぱくぱくさせたり表情を変えている。


 さらに、『紙』になった侍女の全身は真っ二つに折り曲げられ、さらに細かく折り曲げられて消えていった。


 再現を終え、床板は元の状態へと戻る。

 どうやら侍女の身体が『紙』のように細くなった際に片方の靴が脱げ、その勢いで床下が擦れたようだ。


「……これ、どういう意味?」


 ディネが問い質す。


「間違いなく、敵の特殊スキル能力による効果だな。この侍女は攻撃されて、生きたまま『紙』のようにされて持ち去られたのだろう……他の侍女、王宮騎士テンプルナイト、それと乗組員の兵士達も含めて」


「しかし疑念も残るわ。5階で待機していた侍女と王宮騎士テンプルナイトは良しとして、敵はわたし達に気づかれずに、どうやって1階で作業している乗務員達をこのような状態にできたのでしょうか?」


「考えられるのは二つ。この敵は自分の体も、このような『紙』状態にして隙間を潜ったのか。あるいは別の特殊スキルを持つ者の能力によって、俺達に気づかれず隠密に移動できるかってところだろう」


 ユエルの疑問に俺は『記憶』という経験と根拠に基づいた憶測を立てる。


 すると――。


「クロック・ロウ! テメェ、評判通りの冷静クールな野郎だな、ああ!?」


 どこからか、男の怒鳴り声が聞こえた。






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