第91話 わがまま王女?の受難




 俺達の護衛を拒み、部屋で一人引き籠ってしまったソフィレナ王女。


 どうやらマリッジブルーになってしまったようだ。



 仕方がないので、俺が王女を説得するため扉の前に立ち部屋をノックした。


「ソフィレナ王女様~。私は護衛役のクロック・ロウです。うちのパーティ達を護衛役としてお傍に置かせてくださ~い」


「わたくしのことは放っておいてください! 誰も入ることは許しません!」


「私達はエドアール様とゾディガー陛下のご依頼を受けて、『ネイミア王国』まで王女様をお守する使命がございます。何かあってからじゃ遅いので、どうか開けてくださ~い!」


「わたくしには関係ございません! 勝手に入ってくることは許しませんからね!」


 ムカつくわ~、この王女。一体、何様よ。

 あっ、お姫様か。


 まぁ、政略結婚で好きでもない相手と結婚させられる気持ちはわからんでもないけど、俺らに八つ当たりしたって意味ねーじゃん。


 そうか何故、車内の見張り役を新兵当然の若い騎士達にしたり、人数も最小にしたのかわかってきたぞ。


 ただ単にわがままを言いやすくするためだ。


 ゾディガー王の怒りを買おうと、隣国に嫁いでしまえば関係ないしな。

 大方、俺達を困らせて、憂さ晴らしってか(トラウマにより被害妄想癖あり)。


 クソ、こんな扉なんてブチ壊してから、俺のスキル能力でいつでも元に戻せるけどな。

 勝手に入って、強姦扱いされても厄介だ。


 そう考えている中、アリシアが近づいて来る。


「――クロウ様。ここは、私に一任させて頂けませんか?」


「アリシアが? 大丈夫か?」


「はい。身分は違いますが、一応は親戚にあたるらしいので、話し合いには応じてくれるかもしれません」


「わかった……けど、いたずらに決闘を申し込んだら駄目だからな」


「クロウ様……お言葉ですが普段、私をどのようにお思いですか?」


 いや、まんまじゃん。


 俺の時といい、普段のセイラとの絡みといい、あと前回のソーマだっけ?

 大抵、気に入らない奴には片っ端から決闘申し込んでんじゃん、お前。



 っと思っている内に、アリシアが扉の前に立つ。


「ソフィレナ王女。私はアリシア・フェアテールです。ここをお開けください。一度、私とお話いたしませんか?」


「フェアテール……貴方ですか。わかりました、貴方のみ・ ・ ・ ・お入りください」


 俺と打って変わって、アリシアには心を開く王女様。

 一応、親戚同士とはいえ、これはこれでムカつく。


 ガチャッと扉の鍵が開けられる。


「では、クロウ様。王女とお話して、なんとか説得を試みます」


「わかった頼むよ、アリシア」


 俺が言うと、アリシアは頷き部屋に入って行った。



 1時間後。



「――クロウ様。入って来て大丈夫ですよ」


 扉が開けられ、アリシアはひょっこりと顔を覗かせる。


「え? マジで……わかったよ」


 微妙な敗北感を覚えつつ、俺は部屋へと入った。



 流石、王女様専用の部屋だ。


 広々として王城を彷彿させる豪華な作りに見える。


「失礼します」


 ソフィレナ王女は一人、ソファーで座っている。


「クロック・ロウ……さっきは、そのぅ、申し訳ありませんでした」


 照れながらも謝罪してくる王女様。


「い、いえ、私の方こそ。先程は大変失礼しました」


 精神年齢が大人である俺は、己の立場を踏まえ社交辞令の謝罪をして見せる。


 ソフィレナ王女に勧められるまま、俺は向かい側のソファーに腰を下ろした。

 アリシアも王女に促され、何故か王女の隣へ座る。


 う~む、こうして二人が並んでいると、髪の色と目尻以外は本当にそっくりなんだが……。


「アリシアから色々話を聞かせて頂きました。彼女のこと、そして貴方のこと――」


「俺のことですか?」


「ええ。まぁ、随分とおモテになられるようですが、それも勇者パラディンになられる上での器なのでしょう」


 唐突に何言ってんの、この姫さん。

 つーか、アリシアは王女と、俺の何を話したんだ?


「知ってますか? 勇者パラディン竜殺しドラゴンスレイヤーの称号を得る者は、その優秀な血筋を残すために『一夫多妻』が認められていることを」


「え!? そうなんですか!?」


 嘘、初耳なんっすけど!?


 五年後の未来でも、当時勇者だったウィルヴァから聞いたことねーぞ!


 だからか……あいつに絶倫説が浮上してたのは!?


 そういやよく、パーティ女子達と姿をくらませてたよな……。

 女子共も盛りのついた猫みたいに、ウィルヴァを持ち上げていたのも、そういう思惑もあったってわけか。


 当時の俺は何も知らなくて、ただ惨めに見て見ぬフリしてよぉ……。


 あっ、やばい……また、トラウマ・スイッチが――。


「ク、クロウ様、どうか深呼吸を!」


 アリシアが必死で忠告してくれる。


「あ、ああ……ごめん」


 俺は深く息を吸って吐き、気持ちを整える。


 危ない……王女の前でブチギレるところだった。

 流石に頭がイッちゃっていると思われるよな。


「なるほど、話通りですね。過去における心の傷故に女子を敬遠しがちなのですね?」


 いえ、ソフィレナ王女。

 俺が敬遠しているのは未来のパーティ女子達限定です。


 以前よりは落ち着いたけど、つい忌々しい記憶が蘇ってしまう。


 この時代の彼女達は俺に寄り添ってくれるし可愛らしくて魅力的だし、パーティ仲間としても信頼してるけどな……。


 つーか、アリシアさん。マジで王女様に何を話したんだ?


「はぁ……色々ありまして。よくパーティにドン引かれ……いえ、迷惑をかけて申し訳なく思っております」


「まぁ、心の傷は身体と違って、そう簡単に癒えぬものですからね。時間が掛かるでしょう」


「はい……」


 何だろう? 地味に俺が王女様に諭されているような気がする。


「わたくしも、政略結婚とはいえ、顔も知らぬお方と結婚を余儀なくされ……正直、不満があり、あのような態度を取ってしまいました」


 まぁ、気持ちはわかるよ。

 無関係な本人にとっちゃ、堪ったもんじゃないけど。


「失礼ながら、ソフィレナ王女はどなたか気になる方でも?」


「……おりません。恋すらしたことがないので……だから、アリシアが羨ましくて」


「アリシアが?」


「お、王女! それは言わぬ、お約束ですぞ!」


「ごめんなさい。フフフ」


 こうして見ると、二人とも仲の良い姉妹のようだ。

 だから、わりとあっさり打ち解けたのか?


 にしても王女はアリシアの何を羨ましがってんだ?


「本心では、まだ嫁ぎたくないのですが、お父様の命令もありこればかりは……」


「私……いや、俺はよくわかりませんが、そんなにお嫌なら見送るようお願いしてもよろしいのではないですか?」


「クロック……?」


「国交がままならない今のご時世、政略結婚に意味があるとも思いませんし、そう急ぐ話でもないのであれば……」


「あと二年以内――」


 ソフィレナ王女がボソっと呟く。


「二年?」


「お父様の余命です。あのお体……もう先は長くないとのことです」


 ゾディガー王のまるで老人のような身体……やっぱりそうなのか。


「そ、そうですか……確か数ヵ月前から謎の奇病に侵されているとか?」


「はい。宮廷魔道師から『呪術』の類ではないとの見解以外、さっぱりわからなくて……それで、わたくしの結婚話も決まったようなものですから」


「王が生きてらっしゃるうちに? しかし後継者はもう決まっていると聞いてますが?」


 俺の問いに、王女は首を横に振るう。


「違います――わたくしの価値です」


「ソフィレナ王女の?」


「わたくしが王女である価値……お父様が生きてらっしゃるうちに現役の王女として嫁いだ方が相手側にも格好がつくでしょ?」


 何だよ、それ……随分と酷い話だな。


 王家ならごくありふれた話かもしれないけど、自分の娘を政略の道具としか見てないってことじゃねーか!?


 聞いていて段々と腹が立ってきた。






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