第90話 暗躍と護衛クエスト開始
その日は特別に静寂な夜だったのかもしれない。
ミルロード王城にて――。
ゾディガー王は老体を引きずり、寝室のベランダ側へと向う。
窓の鍵を開け、ベランダに入る。
頭上からひらりと羽根が舞い落ちる。
薄っすらとした半透明であり、月明りに照らされることで金属のような光沢を発する不思議な羽根だ。
ゾディガーは手を翳し羽根に触れると、フッと消滅する。
〔――夜風はお体に障りますよ、陛下〕
どこからか声が聞こえてくる。
耳ではなく、脳に直接語り掛ける声だ。
明らかに加工された不自然な響き、したがって男女不明である。
ただ、イントネーションは優しくてとても柔らかい。
「その口振り……今回は『息子』の方ではないか? 『娘』か?」
〔……はい〕
「娘の方が自ら出向くとは珍しい……いや、こうして話すのは始めてだ。それで何用だ? 息子の許可なく、クロック・ロウと謁見させたことへの注意勧告か?」
〔……はい〕
「前々から興味があったからな……『
〔その問いには答えてはならないと言われています〕
「息子にか……まぁいい。だが、娘が言いたいのはそれだけではあるまい?」
〔このまま突き進んでもよろしいのですか? 彼女も危険に晒すのではありませんか……〕
「彼女……
ゾディガーの表情がふと緩む。
温かみがあり、愛しい者を愛でるような眼差し。
〔今からでも遅くありません。『教団側の
「まさか、『娘』の方から忠告を受けるとはな……ソフィレナの件では、一応奴ら夫婦の了解を得ている。ネイミアは決して悪い国ではないからな。下手な貴族に嫁がせるよりは遥かにマシな筈だろ?」
〔……されどです〕
「『娘』が言わんとしていることも理解している……しかし、これはクロック・ロウの《
〔ワタシ達が一巡目で失敗したばかりに陛下の身を削ってしまって……〕
「心優しき『娘』よ……だが大義には犠牲はつきのもだ。たとえ『実娘』を巻き込もうとな……歴史上においても、そう物語れておる。貴様が気にすることではないぞ」
〔はい……〕
「この肉体は余の《
〔その為に『息子』が動いております。もう時期、
「期待してるぞ、親愛なる『娘』よ。貴様ら『銀の鍵』の存在が余の希望でもあるのだ……余を神聖なる
〔……御意〕
次第に声は小さくなる。
ふと満月と重なる形で、大きな翼を広げ飛び立つ歪な人影らしき姿を、ゾディガーは目の当たりにする。
ゾディガーが『娘』と呼んでいた人物だろうか。
それにしては異形であり、とても女性の姿とは思えない禍々しき存在。
一見して人の大きさと同等であるも、どこか『竜』にも似ていた。
ゾディガーは何も事なかったかのように、背を向けて部屋へと戻る。
「……アリシアか。ソフィレナと同様に美しく成長してくれたものだ。どの道、この世界もそう長くはない……次はこそは、
**********
次の日、早朝。
俺達は馬車に乗り、ソフィレナ王女を護衛しつつ国境の砦へと向かった。
砦に移動するための巨大幻獣の牡牛こと『クユーサー』と牽引される『幻獣車』が用意されているからだ。
国境砦に到着後、砦の騎士達に案内され幻獣車へと乗り込んだ。
そして早々に隣国である『ネイミア王国』に向けて出発する。
幻獣車は『動く城』と呼ばれているだけに、城塞や大船を思わせる頑丈そうな構築物に相応の大きさの車輪がついた運搬車両である。
おまけに外壁の各所に防御フィールドとして魔法結界が重合に施されているため、『竜』とてそう易々と破れる代物ではない。
また周囲には、一個大隊の騎兵隊が300騎ほど車両を囲むように守ってくれている。
『竜』対策としては万全だろう。
「ボク~! 国外から離れるのって初めてだよ~!」
ディネが窓から顔を出しながら興奮気味に言ってくる。
「アタイも初めてだね。外の世界ってどうなっているか、教科書でしか学んでないから、どうなっているのか楽しみだよ」
「セイラ、大体は教科書通りだよ。隣国に行くだけとはいえ、森とか見晴らしの悪い所に入ると、『竜』に遭遇する危険性がある。きっと可能な限り見晴らしのいい平原を走るため、迂回しながら進むことになるだろう」
俺が何気答えると、パーティ達が一斉に注目してくる。
「……クロウ、アンタまるで一度外の世界に行ったことがあるような言い方だね?」
「ねぇ、行ったことがあるの~?」
「え? い、いや……ギルドの冒険者から、そう聞いただけさ」
危ねぇ! またぶっちゃける所だったぜ。
俺が変えてしまった身近な部分ならともかく、五年後の未来における世界全体の環境がそう簡単に変わるとも思えないしな。
「では、下手をしたら三日以上かかってしまうかもしれませんね」
アリシアが聞いてくる。
「そうだな……その事も想定しながら、俺達も護衛任務に当たらなければな。まぁ、幸い俺以外のパーティのみんなは女の子だし、交代で姫さんの傍についてりゃいいだろう」
そのため、メルフィとユエルの二人がソフィレナ王女の部屋で待機している筈だ。
「……クロック兄さん」
メルフィとユエルがバツの悪そうな顔をして、部屋から出てくる。
中に入って、また数分程度しか経ってない筈だが……。
「ん? 二人共どうした? 何か問題でもあったか?」
「いえ、違います……そのぅ、ソフィレナ王女が『一人になりたいから出て行って』って言われ、追い出されてしまったの」
「何だって?」
ユエルからの説明で、俺は顔を顰める。
「では、ユエルよ。今お部屋には侍女達しかおらぬのか?」
「いえ、アリシアさん……部屋には王女だけです。わたし達が部屋に入る前に追い出されたみたいね」
「エドアール教頭から、極度の人見知りとは聞いていたけど……評判通りってやつか?」
「兄さん、人見知りっていうより苛立ってピリピリしているって感じでしょうか? 私もユエルさんも居づらくなってしまい……つい言われるがまま出てきてしまいました」
「マリッジブルーってやつだね。まぁ顔を知らない男と結婚させられりゃ、嫌にもなるんじゃないかい?」
「ボクなら絶対に嫌だね~! ねぇ、クロウ!?」
セイラの言う通り、本当にマリッジブルーなのか?
それより、ディネ。どうして、わざわざ俺に聞くんだ?
「この厳重な幻獣車の中で何かあるとは思えないけど、俺達も一応は任務だしずっと単独で居られても困るな。俺が扉越しで護衛についてもらうよう交渉しよう」
「え? クロウ様が?」
「アリシア、え? ってなんだよ? 俺が行くと問題でもあるのか?」
「い、いえ……クロウ様、そういうのが苦手そうなイメージがありまして」
何言ってんの、この子?
誰彼構わずブチギレて決闘を申し込んでくる、女騎士と一緒にするなよ。
「大丈夫だ。わがまま言えないくらいの正論で論破してやるよ」
一応、パーティのリーダーだし、エドアール教頭やゾディガー王にも直接依頼を受けているからな。
彼らの名前を出せば、嫌だとも言うまい。
そう楽観視しながら自信満々で歩き、王女がいる部屋へと向かった。
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《特殊スキル紹介》
スキル:
能力者:ゾディガー・フォン・ミルロード
タイプ:効果型
レアリティ:
【能力】
・能力者を含めた「対象者」を軸(中心)に世界全体を遡及(時間の逆行)する能力。
・軸として指定された者は、遡及前の時代の記憶と経験を受け継ぐことができる。
・但し肉体は当時に戻ってしまうため、レベルもその時代に戻る。
・巻き戻す時間(時代)は能力者の任意で決めることができるが、タイミングは軸になった者の意志やきっかけを『設定』しないと発動条件にならない。
【応用】
・本来は絶対的な防御能力であり、敵が攻撃する前に時間を戻して回避したり、先読みしてカウンターを仕掛けることができる。
・また戻す時間が長ければ、その事実すら揉み消すことができる(起り得る歴史を変えることができる)。
【弱点】
・時間を遡及させた分、能力者の寿命に反映し老化を進めさせてしまう。
(大よそだが、1日の時間を遡る度に約1ヶ月の老化が進むことになる)
・スキル能力により進行した老化は、たとえ《
・時間が遡及したと認識できるのは、ゾディガーと軸にした「対象者」のみである。
※但し例外者も存在する。
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