第89話 国王との邂逅




 何故かゾディガー王は俺だけをじっと見つめているような気がする。


 パーティに男は俺だけだからか?


 それとも、エドアール教頭から紹介を受けた男で、次期勇者パラディンの推薦される候補者の一人だと察しているからか?


 推薦を受けて最終的に決定するのは国王の役目だからな。

 今のうちに見定めようとしているのかもしれない。


「紹介を受けたエドアールより其方らは全員、王立学院スキル・カレッジの生徒であり、高ランクの特殊スキルと実践経験が豊富なパーティ達と聞く。特に、クロック・ロウ……其方は技能スキルも豊富であり、次期勇者パラディンの推薦にも名が挙がっているとか?」


「は、はい……恐縮です」


「あのエドアールが推すほどだ。其方らの活躍に期待しているぞ」


「はい、必ずやお役に立てましょう」


 俺は言葉を選びながら返答する。

 やっぱり、勇者推薦の件で俺を見ていたようだ。


「そうそう、其方らに我が娘を紹介しておこう――ソフィレナ、入って参れ」


「はい、お父様。只今」


 奥側から綺麗な声が聞こえ、一人の女性が入ってきた。

 純白のドレスと鮮やかな装飾に身を包んだ少女。

 ブラウン色の絹髪が背中まで真っすぐ流れ、藍色の大きな瞳を持ち、息を呑むほどの美貌。

 真っ白な肌にスタイルも良く、ゆっくりと歩く姿に凛とした品性を感じる。


 あれ? でもこの少女どこかで……。


 俺は後ろで跪いている、仲間の一人を見据えた。


 間違いない……そっくりだ。


「アリシア……」


 思わず呟いた言葉に、本人は「ん?」と目を合わせてくる。


 俺は目を反らし、他の女子達の反応を窺う。


 どうやら、そう思ったのは俺だけじゃないようだ。

 パーティ誰もが、不思議そうにアリシアと王女を見比べている。


「紹介しよう。我が娘、ソフィレナだ」


 ゾディガー王から紹介を受け、王女は丁寧にお辞儀して見せる。


「ソフィレナです。どうか護衛の件、よろしくお願いします」


 声も似ている。

 唯一違うのは髪の色と喋り方、それと若干だが王女の方が、目尻が垂れ下がっている事くらいだろうか……。


 ソフィレナ王女は、俺達を一瞥してアリシアと瞳を合わせた。


「あら? 貴方はフェアテール家の者ですね?」


「はい。カストロフの娘、アリシアと申します」


「なるほど通りで……」


 自分と瓜二つの女騎士を見つめ、ソフィレナ王女は妙に納得している。


「ソフィレナ王女、どのような意味でしょうか?」


 アリシアが聞いてきた。


「何も聞かされてないのですか? 貴方の母君とわたくしの母は双子の姉妹なのですよ。だから、お互い似ている所が多いのでしょう」


「なるほど……だから私があの家に選ばれたのか……」


 アリシアは妙に納得しつつ意味ありげなことを呟く。


「貴方の髪色は、わたくしのお母様にそっくりなくらい綺麗ですわね? 地毛ですの?」


「はい、その通りです……それが何か?」


「いえ、お父様から、フェアテール家に嫁いだ叔母の『テレシア』は私と同じブラウン系の髪質だと聞いたもので……そうですよね、お父様?」


「はて、そうだったかな? 最近、物忘れが酷くてな……」


 何故か、ゾディガー王は見た目相応に年寄りぶっている。

 ボケているのか、ただ単にすっとぼけているのか、その外見だけに何とも言えない。


 国王は乾いた声で笑った。


「まぁ、良いではないか。其方ら冒険者には、クエスト通りにソフィレナを隣国の『ネイミア王国』まで護衛してほしい」


 俺達全員が頭を下げ「承知いたしました」と返答する。


 一方で、ソフィレナ王女はどこか浮かない表情だった。



 こうして国王との謁見を無事に終れるかと思った時だ。


 俺達が立ち去ろうとした瞬間、ゾディガー王が声を掛けてくる。


「クロックよ」


「はい、なんでしょうか?」


「エドアールから其方の特殊スキルは、王立学院スキル・カレッジの鑑定祭器では測定できない異質の能力だと聞く」


「ええ、そのようです。しかしギルドの鑑定祭器も同様なので……一般の祭器では判別が難しいのかもしれません」


 現に、メルフィの禁断魔法|魔眼の精密鑑定《デビルアイ・ハイアプレーズ》では鑑定できるからな。


 セイラが前に話てくれた、俺の《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》がレアリティEXRエクストラのスキルなら、一般の鑑定祭器じゃ正しく表記できないのかもしれない。


 深く考えても仕方ないので、そう思うようにしたんだ。


「なるほどな……とても気になるスキルだ。仮に勇者パラディンの推薦に選ばれた暁には、余に其方のスキルを見せてほしい」


「わかりました。その時には是非に――」


 俺は一礼し、パーティ達と共に『謁見の間』を出た。


 しかし、ゾディガー王は何故、俺のスキルが気になるんだ?




 それから俺達は客間へと案内される。


 予定通り一晩、王城へ泊まり、明日一番に出発する予定となった。


 同じ幻獣車の護衛に当たる、5名の王宮騎士テンプルナイトが挨拶と打合せにくる。

 みんな若い風貌で、なんでもつい最近に昇格した者ばかりらしい。

 つまり実戦経験は俺達より皆無とのことだ。


「お噂によると、クロック様方は、あの『竜守護教団』の暗躍を何度も阻止されているとか? この度の護衛任務、是非ご指南のほどお願い申し上げます」


 隊長格の騎士を中心に全員が頭を下げて見せる。

 若いと言っても、18歳か20歳くらいで、全員が俺達より年上のようだ。


 けど王女の護衛にしては頼りない気もする。

 こんなんで大丈夫なのか?


「他の熟練した騎士とかは護衛なさらないのですか?」


 俺は違和感を覚え聞いてみる。


「はぁ……ソフィレナ王女のご要望もございまして。それで我らのような騎士成りたての者ばかり配置されております。しかし、我ら全員、陛下と王女への忠誠心は誰にも負けません」


 あの王女様の要望だと? 確か人見知りが激しんだっけ?


 謁見した際は、気楽にアリシアに声を掛けていたし、そんな風には見えなかったけどな。


 それに、あの王女様も隣国へ嫁ぐこと浮かない表情だった。

 政略結婚だからか?


 別に差し障りのない範囲だけど、あの国王といい何か妙だ。

 まるで、護衛任務事態がどうでもよく、別な『意図』を感じてしまう。


 そういや、五年後の未来でソフィレナ王女ってどうなってたっけ?

 王宮騎士テンプルナイト達が去った後、しばらく思い返すもその辺が曖昧で思い出せない。

 前回の『ソーマ・プロキシィ』もそうだったが、五年後の未来で起きなかったことが目立ってきている。


 きっと、現代の俺が未来へ繋がる歯車を狂わせた影響で、身の回りでも微妙な変化を生じさせてしまったのかもしれない。


 案外、俺は未来の歴史そのものを変えてしまったのか?



「――にしても奇妙だね」


 ふと、鋼鉄手甲ガントレッドを整備していたセイラが口を開く。


「セイラ、何がだ?」


「あの王女のことさ……アリシア、アンタ何か隠し事をしているのかい?」


「私に似ているからか? 確かに母親方は元々下級貴族出で、双子の姉がいたと聞いたことがある……だが王族に、しかも現国王に嫁いでいたとは初めて聞いた。あの王女にも今回、初めて対面したからな」


 アリシアは淡々と答える。聞く限りでは別に隠すような内容でもない。


 しかし。


「謁見の間で『私があの家に選ばれた』って言っていたけど、どういう意味だ? それに髪の色が違うって?」


「クロウ様、それは……特に大した意味はございません。髪の色も、王妃側の血縁が関係しているかもしれません」


 さらりと流す、アリシア。


 以前から俺の事を知っていたことと何か関係しているのか?


 俺にはわからない……。


 まぁ、こうして一緒にいる限り、いずれ話してくれる日がくるだろう。

 今はそう割り切ろう。


 明日から、俺達の今後を左右する重要なクエストが待ち構えているのだから――。






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