第84話 最大の敗因




 次第に追い詰められていく、ソーマ・プロキシィ。

 その様子から最早、チャラ男としての見下した軽い雰囲気が消失している。


 一方のウィルヴァは大剣クレイモアの切っ先をソーマの喉元に向けて威嚇していた。

 しかしゴールド・フラッシュ黄金の閃光は一度発動したら、つぎに発動できるまで1分近く掛かってしまう制限がある。

 

 あのまま確実に、ソーマを仕留めるためにも時間を稼ぎたい所だろう。


「ク、クソッタレが……テメェらいい気になるなよ! 一時的に難を逃れただけじゃないか! まだ、オレの《ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液》は、クロック達を取り囲んでいることに変わりねぇんだぜ~! 人質に変わりねぇんだ~、残念でした~!」


 ソーマは顔を強張らせながらわざとらしく悪態をついてくる。

 きっと形振り構わず、俺達パーティごとスライムに襲わせるつもりだろう。


 だが――。


「テメェの特殊スキルは全て知っているって言ったろ! 破るプランも練っているんだよ!」


 俺は左右の腰元から、二刀の片手剣ブロード・ソードを抜く。

 眼前に立ちはだかるスライムの壁に向けて、切っ先を突き刺した。



 ザッ!



「――停止ストップ!」


 スライムは動作時間を奪い、1分間動きを封じる。


「バ、バカな! まるで操作ができねー!?」


 ソーマは激しく困惑する。


「……俺の《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》は液体の時間は奪えない。しかしソーマのスライムは『粘液』であり完全な液体じゃないから問題なく奪えるんだぜ!」


 確証を得るまで結構、グレーゾーンだったけどな。

 さっき、メルフィとユエルを助けて適応できると確信したんだ。


「クソォがぁ!? しかし、どうやって脱出する!? どの道、物理的攻撃は一切通じねぇぞ~、コラァァァ!!!」


「確かに、これだけ接近された距離じゃ、魔法攻撃は難しいな……下手したら俺達まで巻き込んでしまいかねない。しかし、物理的攻撃でもよぉ、こうして固定された状態なら通じるかもしれねぇよな?」


「剣撃や拳でってか!? んなの攻撃力があっても、単発じゃ無理だって言ってんだろうが~! クロック、テメェはバカか!」


「単発じゃねぇよ! 俺のパーティじゃ、1000発も同時に撃ち込める『弓使いアーチャー』がいるんだぜ――ディネ、頼むぞ!」


 俺は可愛らしいエルフっ子に向けて指示した。


 ディネはニッと屈託のない笑顔を向ける。


「任せてよ、クロウ! 《ハンドレッド・アロー百式の矢》!!!」


 その場でスライム向け、真っすぐ右手を翳した。

 


 バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ!



 ディネの掌から、10本の矢が射出される。


 さらに矢は分裂し、その数を一気に1000本まで増やし、スライムの壁に向けて雪崩れ込む形で強襲を仕掛けた。



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……――



「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」


 ソーマは想定外の事態に絶叫した。


 時間を奪われ停止したスライムは、固定された状態で本来の持ち味である『弾力性』と『吸収性』が失った状態である。

 しかし色々な物体を吸収したことで膨張繰り返し、かなりの巨大化を成し遂げていた。

 

 俺達を覆っている『粘液の壁』はかなり分厚く、ソーマが豪語したように単発攻撃なら撃ち抜くのは困難な厚さである。


 だが特殊スキルで生成された、1000発の矢を同時に与えさせれば貫通することは容易い。

 

 しかも、ディネが本気で射る《ハンドレッド・アロー百式の矢》は鋼鉄以上の強度を誇る『竜』の鱗や翼も貫くほどの威力を持つのだ。



 ――ボゴォォォン!!!



 《ハンドレッド・アロー百式の矢》により、スライムの壁が穿通せんつうされる。

 余裕で人が通れるくらいの大きな穴がぽっかりと開いた。


「よし! みんな脱出するぞ! 脱出後、メルフィは炎系の魔法で、スライムを蒸発させてくれ! エドアール教頭からも許可を貰っている、手加減不要だ!」


「わかりました、兄さん!」


 俺達は穴を潜り、堂々と脱出した。


 指示通り、メルフィは離れた場所で炎系の魔法を使用しスライムに攻撃を与える。

 無敵と自称されていた粘液の壁は猛炎により溶解され煙を上げながら次第に蒸発されていく。


 丁度、俺のスキル効果が消えたようで、スライムはその『地獄の業火』に苦しみ足掻いているように見える。


 こうして巨大スライムは完全に消滅された。



「う、嘘だろ……オレの……オレの《ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液》が、こうもあっさりと無力化されるなんて……ヤヴァイ、ヤヴァイ、ヤヴァ―――イ!!!」


 ソーマは戦慄しつつ意味不明な絶叫を上げる。


「まだ、ふざけたことが言えるんだね……キミって奴は」


 ウィルヴァは大剣クレイモアの翳したまま呆れ口調で言う。

 普段の穏やかな表情は消え失せ、ソーマを睨んでいるようだ。

 

 五年後の未来から遡り、付き合いの長い俺には、ウィルヴァがどういう心境なのかがわかる。


 まさにブチギレ寸前――怒らせたら一番やばい男だ。


「ソーマ君……どうしてキミのスキル能力がクロウ君達によって、こうも簡単に無力化されたかわかるかい?」


「ぐっ、ぐぅ……んなの、わかるわけねぇだろ!」


「――クロウ君の凄さは、パーティみんなの実力と能力を正しく見極め信頼していることだ。そして女子達も、彼を信頼し遺憾なく己が持つ能力を発揮し、最高の連携プレーを見せている……まさに僕が理想とするパーティの形さ」


 ウィルヴァの奴、褒めてくれるのは凄く嬉しいけど、その理想とするパーティを奪う形となってしまった俺としては複雑な心境でもある。


 とりあえず心の中で、ごめんと言っておく。


「だから何だってんだよ~! オレを殺すのか~? なぁ、助けてくれよ~! オレぇ、結局誰も殺してねーじゃんか、なぁ?」


竜守護教団ドレイクウェルフェアの情報を全て話してもらうよ」


「ああ勿論だ……いえ、勿論です、ウィルヴァさん! 僕は罪を償って更生します! もう二度と道を踏み外しません! だからどうか助けてください、お願いします!」


「……わかった。約束だよ」


 ウィルヴァは大剣クレイモアを下ろした。


 直後――。


「嘘じゃボケェェェ! くらえ、《ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液》!!!」


 ソーマは口を大きく開け、ウィルヴァに向けてスライムを吐き出した。


 しかし、ウィルヴァの姿はそこになかった。


「なっ! 消えた!?」


「――そんなことだろうと思ったよ」


 ウィルヴァは、ソーマのすぐ真横に立っている。


 予め俺が《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》で施した『短縮スキップ』能力である。

 ウィルヴァに直接マーキングして『時限起動タイマー』能力で、タイミングを見計って発動できるようにしておいたのだ。


 そのウィルヴァは右拳を掲げており、拳全体が眩い光に包まれ、黄金色の輝きを放っている。


 ソーマは事態を察し、青ざめて恐慌する。


「はっ!? こ、これは……そのぅ、軽いジョークでして……チョリース、テヘッ」


「……ここまで来ると、怒りを越えて哀れにさえ感じるよ。だから、もう終わらせよう……一瞬でね――《ゴールド・フラッシュ黄金の閃光》」



 ゴォッ、ゴォッ、ゴォッ、ゴォッ、ゴォッ、ゴォォォォォォォ――ン!



 超高速に放たれた拳打の連撃が、ソーマの顔面からボディにかけて炸裂する。


「ぶっしゃあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ――…………!!!」


 ソーマは悲鳴を上げながら宙を舞う。

 顔面から身体中の骨が砕かれ、地面に叩きつけられた。


 顎の骨も折れているようで、これで特殊スキルを発揮することはできない。

 特殊スキルを奪って、尋問の時に喋れるよう回復させればいいだけのことだ。


「ぐ、ぐふっ……ぐふぅぅぅ……」


「これでもう、ふざけたことが言えないだろ? 念のため口の中に何か詰めておこう」


 ウィルヴァは、ぴくぴくと身体を痙攣させて倒れているソーマを見下ろしながら平然と言っている。

 とても普段、平和そうにニコニコ笑っている優男とは思えない冷酷な表情だ。


 ソーマ・プロキシィの最大の敗因。


 それは最も怒らせちゃいけない奴を本気でブチギレさせたことにある――。






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