第82話 ヴァミトゥ・スライム




~ソーマside



「――エドアール教頭先生。俺から聞いてよろしいですか?」


 クロックが口を開く。


「なんだい、クロック君?」


「どうして、ソーマが勇者パラディン推薦候補に選ばれたんですか? 特殊スキル持ちで今回たまたま成績が良いだけってだけですよね? 人格はとても褒められたもんじゃないと思いますけどね」


 この糞野郎……随分と大人しいと思ったら、教頭の前でオレのことをブチまけて降格させる算段ってか?


「教頭殿。私からも言わせていただきます。このソーマなる者、とても勇者パラディンとして相応しい者とは思えません。万一、推薦されでもしたら、必ずやミルロード王国の歴史上の『恥』となりましょう」


 アリシアまで便乗して失礼なことを言い出した。

 他の雌犬達も揃って「そーだ、そーだ!」っと意見する始末。


 よく、本人を前にして、そこまで言えるわ。

 オレっち、ガチで傷つくっーの(反省なし)。


勇者パラディンの人格ね。私としては、そこは重要じゃないと思っている。要は『竜狩り』ができる最も優秀なエキスパートを選出するのが目的だからね。それが、スキル・スキルカレッジの存在意義じゃないのかね?」


「そ、それは……」


 エドアールの言葉に、アリシア達は言葉を詰まらせる。


 ほう、噂通りの教頭だな。


 こういう利益優先の冷めた性格だから、他の教師から疎まれているらしい。

 オレも好きなタイプじゃないが、今だけは便乗させてもらうぜ。


 すると、クロックがソファーから立ち上がった。


「……そうですか。なら、俺は勇者パラディンにはなりません。辞退させていただきます」


 え? 何言ってんの、こいつ?


「クロウ様!?」


 突然のぶちゃけに、当然パーティの女子達は困惑する。


 クロックはそれ以上、何も喋らず最後のエドアール教頭に頭だけ下げて、部屋から出ようと足早に歩いて行った。


「お待ちを、クロウ様!」


「クロウ、アンタ何考えているんだい!?」


「待ってよ~、クロウ~!」


「兄さん! 置いてかないで!」


「クロウさん! 待ってください!」


 パーティ女子達も立ち上がり、クロックの後を追った。



 ギィィィ――バタン。



 鉄の扉が開かれ、閉められた音。


 どうやら、ガチで部屋から出て行っちまったようだ……。


 バカな男め。


 変なところにムキになってブチギレやがって。


 オレが候補になっただけで、決まったわけじゃねぇだろが?


 クロック、テメェは成績は一応悪くない。

 おまけに実戦経験も豊富で、しかも有能な美少女ばかりのパーティ達がいる。


 普通に考えたってオレより遥かに有利じゃねぇか。


 ただ『対竜撃科』に移動すりゃいいだけの話なのによぉ、トラウマでも抱えて精神が病んでいるんじゃねーの、あいつ?


 まぁ、オレとて勇者にこだわっているわけじゃねぇ。


 本来の目的を果たせば――……って。



 あれ?


 この状況って……。


「クロック君にも困ったもんだ。まぁ、Eクラスのリーゼ先生に説得してもらうか……ソーマ君は変わらず頑張ってくれたまえ。キミもクリアしなければならない課題が多いからね」


「は、はい……エドアール教頭先生」


 そう。


 俺とこいつ、それに後ろに教師が二人しかいない。



 ――最高の『暗殺キル』シチュエーション!



 本来なら、エドアールとの二人っきりが望ましいが、これだけの防衛設備と体制では不可能だ。

 こっそり忍び込むにしても、一人じゃ難しい気もする……実際に『教頭室』に入って、より確信した。


 他の『使徒』が来るまで待つべきかと考えていたんだ。


 だが、今ならいける。


 後ろで立っている、スコットとイザヨイも相当な手練れかもしれないが、オレの特殊スキルなら十分に対処できるぞ!


 ――いや皆殺しだ!


 オレはソファーから立ち上がる。


「……ソーマ君、どうしたのかね?」


「――《ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液》」


 ニヤッと微笑を浮かべ、オレは大口を開ける。


 口の中から『粘液スライム』が二つ発射され、スコットとイザヨイの顔面を覆いつくした。


 スライムに鼻と口を塞がれ、二人はもがき苦しみその場に倒れて込む。


「スコット先生!? イザヨイ先生!? こ、これは!?」


 エドアールは立ち上がり、二人に駆け寄っている。


 オレはチャンスと思い、座っていたソファーに向けてスライムを吐き出した。


 スライムはソファーを取り込み、質量を増して大きくなっていく。


 更に近くにある、他のソファーや装飾品なども吸収し、拳大だった大きさが成人男性の三倍くらいの大きさまで成長した。


「おっし! これだけ育ちゃ十分だろ」


「ソ、ソーマ君……キミは一体……」


「エドアール・フォン・ミルロード。あんたに怨みはねぇけどよぉ……『竜守護教団』の『使徒』として始末させてもらうぜ」


「り、竜守護教団? ドレイクウェルフェア!?」


「気づくのが遅せーよ! 行けぇ、《ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液》!!!」


 オレの指示で、成長したスライムがエドアールを襲い、体内へと取り込ませた。

 辛うじて、顔だけは残した状態でだ。


「何なんだ、これは!?」


「これがオレの特殊スキルだ。スキル鑑定で、あんたも知っているだろ? 『具現化』のスキル能力に見えるが正確には『放射型』だ。但し成長するエネルギーの塊。そいつは本物のスライムと同じ性質を持つが、取り込む速さと増殖性は御覧の通り比較になれねぇよ~、チョリース!」


「た、助けてくれ!」


「無理だね、教頭先生。あんたを始末するのが、オレっちが潜入した一番の目的なんだからよ~! いくら不死身の吸血鬼ヴァンパイアでも、全身を消化吸収されちゃ生きていけるわけねーよなぁ! ヤベェ、ウケる~!」


 オレが嘲笑う中、スライムはエドアールを体内へと完全に取り込んだ。


 奴は滑稽に、粘液の中でもがき苦しんでいる。

 この様子だと消化する前に窒息して死ぬわ、こいつ。


 ――ミッション・コンプリート。


 まさか、こんなに早くキルできるとな。


 オレってラッキーじゃね?


 シェイマ様もきっと喜ばれるだろうぜ。

 他の『使徒』パイセン共の悔しがる顔が目に浮かぶわ。


 エドアールは苦しそうが、まだ生きている。


 流石、吸血鬼ヴァンパイア、そう簡単に死なないってか?


 しかし、それも時間の問題……って。



 ん?


 あれ、待てよ?


 吸血鬼ヴァンパイアって所謂、屍鬼系アンデットだよな?

 そもそも、普段から息しているのか?


 すると、エドアールの身体に変化が生じる。

 初めは消化され溶けていると思ったが何か違う。


 別の形へと変わっているのだ。


 エドアールだけじゃない。


 その後ろで窒息死している筈の、スコットとイザヨイの教師達も同様だ。


 何だこれ?


 これは……美術のデッサンで使う石膏像だ。

 教師達を取り込んだと思っていたのは偽物だっていうのか!?



「――《勇敢な粘土ブレイブ・クレイ》。アタイの特殊スキル能力さ」


 オレの背後から誰かが近づいてくる。


 背の高いグラマーな女子生徒。

 拳闘士グラップラーが着る長衣姿である。


「お前は、セイラ・シュレイン!?」


「アンタのスライムが取り込んだのは、先生達の姿に模して作った模型だよ。アタイの能力で石膏像を粘土に変えて『再現』させたんだ」


「何だと!?」


「貴方は、クロック兄さん達の罠にハマったのです」


 セイラに続き、魔道服ローブ姿の黒髪の少女も近づいてくる。

 クロックの妹である、メルフィ・ロウだ。


「模型を喋らせたのは、私の《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》の禁忌魔法の一種です。一時期に魂を宿らせただけにリアルだったでしょ?」


「バ、バカな!? どうしてだ!? どうして、オレの正体がわかったんだ!? しかもこんな手の込んだことを――」


「――テメェが大したことねぇチャラ男だってことじゃねぇか? ソーマ・プロキシィ」


 暗闇の奥から、クロックが悠然と歩いて来る。

 制服姿ではなく、漆黒の革コート型防具を着込んだ武装した格好だ。


 奴の背後には、アリシアとディネルースとユエルも続いていた。

 みんな制服でなく、それぞれ武装をしている。


「……クロック・ロウ! どういうことだ!?」


「キミは目立ち過ぎたんだよ。何もかもね……だから予め僕とクロウ君が結託して『網』を張ったのさ。パーティの子達と先生達の協力を得られた上でね。そして見事なほど、引っ掛かってくれたよ。滑稽なほどにね」


 どこからか鎧を身にまとった銀髪の男が現れ、クロックと並び立つ。


「お前は――ウィルヴァ・ウエスト!?」


 オレが『勇者推薦候補』枠を奪ってやった男の姿だった。




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《特殊スキル紹介》


スキル名:ヴァミトゥ・スライム吐瀉物の粘液


能力者:ソーマ・プロキィ


タイプ:放射型


レアリティ:SR


【能力解説】 

・口から特殊スライムを吐き出し、相手に絡みつかせたり、内部に取り込ませて消化させたりする。

・一度、絡みついたら能力者の意志がないと離れることはなく、特に物理的攻撃では無敵の防御力を誇る


【応用技】

・周囲の物質を取り込ませ、また合体することでスライムを大きく成長させることができる。

・能力者には影響を受けないので、自分の身体にまとわせ防御したり、ロープ代わりとして使用したり攻撃することもできる。


【弱点】

・基本、炎系か氷凍系の魔法で斃すことができる。また光魔法の燃焼系でも溶かすことが可能。

・能力者の意識がなくなるか死亡することで消滅する。

・一回に吐き出すスライムは拳大くらいのサイズであり、物を取り込むか合体させるかで巨大化できるが、その分時間が掛かってしまう。






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