第81話 思わぬチャンス到来




~ソーマside



 放課後、オレはイザヨイ先生に教員室へ呼び出される。


 え? 何やらかしたんだって?

 ちげーよ。


 次期勇者の推薦候補として選ばれたから、地下の『教頭室』へ挨拶に行くことになったんだ。


 あのエドアール・フォン・ミルロードの所にな――。


 まさか、こうも早くご対面できるとは思わなかったぜ。


 前もって、期末テストの答案用紙を盗んで首位を獲得した甲斐があったってもんだ。


 早速、暗殺チャンス到来ってやつ。


 しかし、流石に今日中に殺っちまう機会はないかもな……余程の隙がなければ。

 まずは下見って所でいいだろう。


 オレがこれだけ慎重なのは同行者がいるからだ。


 学年主任教師のスコットと、担当のイザヨイの二人。

 そして、クロック・ロウとそのパーティ達も呼ばれているらしい。


 きっと、エドアールがオレとクロックの二人を並べさせて、煽りながら発破をかけるつもりなんだろうぜ。


 オレは自分のパーティを探すことと、実戦経験を積むこと。


 クロックの野郎は、劣等生のEクラスから『対竜撃科』への移動ってところか。


 このようにギャラリーが非常に多い状況だ。

 せっかくここまでこぎつけた以上、無理して動くこともねぇだろうと思っている。



 オレは教員室で待っていると、クロックとパーティ女子達とやってきた。


 特に女子達は朝の件もあり、全員が物凄い形相と眼光でオレを睨みつけている。

 メンタル最強のオレは、そんな女子達の視線などお構いなしだ。


 クロックを排除し、みんなオレの女にする――。


 その軽蔑の眼差しが、いずれ陶酔の眼差しに変わると思うと、今から興奮が抑えられない。


「よし。皆、そろったな? それじゃ『教頭室』に行き、エドアール教頭先生にご挨拶に行こう」


 スコットが点呼を取り、オレ達は教員室を出た。


 長い廊下を渡り階段をひたすら降りていく。


「――これでようやく、クロックくんとタメになるってやつっすね~?」


 オレは後ろを歩く、クロックをチラ見する。


 さっきから、いやたら無言なのが気になるけどな。

 どうせ、オレが選ばれたことが腑に落ちていないのだろう。


 そのクロウとは対照的に、奴らの反応は違っていた。


「ソーマ貴様ァ、気安くクロウ様に話し掛けるな!」


「クロウ、んな奴に返答しなくていいよ! アンタが汚れちまう!」


「お前なんかに、クロウは負けないんだからね!」


「兄さんは私達で守ります!」


「ウィルお兄様の分まで、絶対にクロウさんが勇者パラディンなるべきです!」


 ちょっとオレが声を掛けただけで、怒涛の如く女子達が非難してくる。

 

 ケッ! キャンキャン吠えてろ、雌犬共め!

 今に本当の『飼い主』が誰か教えてやんよ!

 その身に嫌ってほど叩き込んでな……ケケケッ。


「ソーマ……俺とタメって言うなら、お前も潔く覚悟を見せた方がいいぜ」


「覚悟?」


 クロックの糞が、カッコつけて意味深なことを言ってくる。

 

 この野郎……今は標的外だからって図に乗っているのか?


 ドアホが!

 エドアールが始末されりゃ、勇者を推薦するどころの話じゃなくなるんだよ!


 テメェらがもたついている間にゾディガー王は老衰し、ミルロード王国の実権はランバーグ公爵が握り、その影でオレら『竜守護教団ドレイクウェルフェア』で乗っ取ってやるぜ。



 したがって、クロック・ロウ――エドアールを殺した後は、すぐお前を殺す!



 そして、アリシア、セイラ、ディネルース、メルフィ、ユエルを俺のモノにする――。



「――教頭先生、連れて参りました」


 おっ? また妄想モードに突入してしまったか。

 気がつけば、地下にある分厚い『鉄の扉』前に立っている。


 スコットが扉に向けて話していると、鈍い音を立てて鉄の扉は開かれた。



 ギィィィ……。



 なるほど、魔法でしっかりと結界が張られている。

 セキュリティは万全ってか?

 噂通りに用心深い性格のようだ。


 イコール、それはテメェが臆病な男だって証明しているようなもんだぜ、エドアール!

 

 吸血鬼ヴァンパイアの弱点である『太陽の日差し』に晒すまでもねぇ!


 俺の特殊スキルなら絶対に殺せる!

 

 これだけのギャラリーがいたら今は無理だが、近い内に潜入して暗殺してやるよ。

 まずは情報収集だ。



 オレ達は『教頭室』に入った。


 部屋に中は広々として薄暗い。

 まったく先が見えず、ただ強烈な瘴気たけが漂っている。


「――クロック君にソーマ君、私とイザヨイ先生は別室で用事があるから、先に教頭先生に会ってきなさい。直ぐに来るよ」


「わかりました、スコット先生」


 スコットとイザヨイは、そのまま暗闇の中へ消えた。


「ほら、行くぞ、ソーマ。赤絨毯の上を真っすぐ進めば、教頭先生の所に辿り着く。ついて来いよ」


「あ、ああ……」


 クロックが、さも「俺は何度も来て慣れてるからよ~」的な余裕ぶっこいた口調で、偉そうにオレを誘導する。

 正直、イラっとしたが、今だけは素直に従うことにした。


 それはまだ我慢できる。


 しかし――。


「流石はクロウ様、あのような者にも情を寄せ、温かいお言葉を掛けられるとは……このアリシア、感服いたしましたぞ!」


「男だねぇ、クロウは……やっぱ、アタイが見込んだだけはあるよ、うん」


「ボクはクロウのそういう優しい所がだ~い好き!」


「昔からクロック兄さんは情が深い、私の自慢の兄です」


勇者パラディンは人格も問われますかれね。クロウさんなら十分に素質があると思うわ」


 女共がこれ見よがしに、クロックを持ち上げやがる。


 ケッ! ちょっと声を掛けただけじゃねぇか!?

 雌犬から発情した雌猫のようにいちいち盛ってんじゃねぇっての!

 

 チクショウ! いちいち見せつけやがって今に見てろよ! 


 クロック・ロウ、テメェの目前で女達を犯してから、ブッ殺してやるからな!



 そう思い募らせつつ、奥の方へと進むと火が灯された燭台しょくだいが置かれた書斎机が見えてきた。


 一人の男性が豪華な椅子に座り、机に両肘を立てて寄りかかっている。


 上質そうな黒いタキシードを着ており、灰色の長髪を後ろに束ねた20代前半くらいの若い男。

 真赤な瞳に右側に片目眼鏡を掛けている一見すると中性的な顔立ち。


 こいつが教頭のエドアールか?

 オレの最大の標的ターゲット……。


「――よく来たね、クロック君にパーティ諸君、それとソーマ君だっけ?」


「は、はい! Aクラスのソーマ・プロキシィです!」


 流石に教頭の前で「チョリース!」は言えない。


「私がエドアール。スキル・カレッジの教頭だ……おっ、丁度スコット先生とイザヨイ先生が来たようだ」


 後ろの方から、スコットとイザヨイが歩いてくる。

 二人は一言も会話を交わさず、エドアールの背後に立った。


「とりあえず、座りたまえ」


 気がつくと、俺達の背後にソファーが置かれている。


 いつの間に……魔法?

 それとも特殊スキル能力か?


 とりあえず、オレ達生徒達全員は、ソファーに腰を下ろした。


「それで、ソーマ君を呼んだのは他でもない。既にイザヨイ先生から聞いていると思うが、ウィルヴァ・ウエスト君が『次期勇者パラディン推薦』の候補を辞退したのは知ってるよね?」


「はい」


「本来なら、もう一人の候補であるクロック君で決めたいのだけど、彼は頑なにEクラスから『対竜撃科』への移動を拒んでいる。したがって、私はもう一人新たに成績が優秀な候補を立てることに決めたんだ」


「それがこのなんですね?」


 ガチでヤバ系の権力者には比較的敬語を使う、チャラ男としてのアイデンティティが薄いオレっち。 


「その通りだ。ソーマ君……クロック君を焚きつける目的もあるけど、キミにも勿論チャンスはある。頑張りたまえ――」


「はい! 喜んでお受けいたします!」


 ククク……どうよ、テメェら。

 ここまでは思惑通りだぜ。


 後は、どうエドアールを亡き者にするかだ――。






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