第78話 好敵手と共同戦線(後編)




 ウィルヴァから転校生であるソーマ・プロキシィは、あの『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の信者であり構成員じゃないかと憶測が立てられた。


 しかし俺は腑に落ちず双眸を細める。


「そう思う根拠は?」


「まず、時期が重なっていること。『竜守護教団』の存在が明るみになり始めた頃と、彼が難民達の一人として保護された時期だ。そして、先日クロウ君が連中に襲われて撃退してから、彼はスキル・カレッジに転入している」


「それだけじゃな……俺だったら、魔法か魔道具で自分の特殊スキルを隠して潜入するね。その方が一般庶民として、より警戒されず自由に動くことができる。わざわざ、自分がスキル持ちを明かして監視を付けられてまで、スキル・カレッジに転入してくる意味がわからないね」


「『竜守護教団』の目的はなんだい? 信者を増やし、自分らの教えを世界に広めるためだろ? その為には何が必要なのか、これまでの連中の行動を踏まえながら、僕なりに推察を組み立ててみたんだ。まず連中にとってクロウ君達が邪魔だろうね……キミ達が活躍したおかげで自分達の存在が明るみになり、部下を大勢失って『竜聖女シェイマ』は身を隠し国内の警備が強化された。暗躍を阻止した元凶だからね」


「それで、俺が狙われたって感じだろ? それで?」


「クロウ君の暗殺も失敗し、キミ達は絶対に安全な場所からスキル・カレッジやギルドへ通えるようになった。おかげで連中の十八番オハコである暗殺が容易ではなくなったと思うよ。まぁ、クエスト参加中に狙うって手もあるけど、万全にメンバーが揃った中で優秀揃いのパーティ相手に、暗殺や強襲をしかける方が余程リスクが高いんじゃないか?」


「んで、生徒の振りして俺達に近づいたか……特殊スキル能力者は優遇される体制を逆手にとった上でか? なくはない推理だが、何か引っ掛かるぜ」


 にしちゃ目立ちすぎるだろ?

 普通、暗殺するのにチャラ男はないだろ?


 それに転校初日で、「俺は勇者パラディンになる!」って豪語している男だ。

 どうして、わざわざ周囲の注目を集める必要がある?


「僕も初めはそう思ったよ。だから、今回僕はわざと自分の成績をワンランク下げてみたんだ。ソーマ君をより目立たせ注目させるためにね……そして、彼の標的は勇者パラディン推薦候補の僕から、もう一人のクロウ君へと移った。きっと彼の中で、僕は対象外となったんだろうね……黙っていても勝てる相手だとね」


「確かに、ソーマはそう言ってたぜ。んで、俺にちょっかいかけるようになったってか? しかし俺の暗殺を目論むのなら、もう少し大人しくするのがベストだろ? しかも俺に接近しにくいAクラスに転入した動機も引っ掛かる。邪魔な俺達を蹴落として、勇者パラディンになることがソーマと『教団』の目的なのか?」


「多分違う……それじゃ、後二年はかかっちゃうからね。今の『竜守護教団』の現状を踏まえ、もっと手短な目的だと思う」


「手短ねぇ……今の連中の現状か? 教団と名乗っているけど、ぶっちゃけるとテロリストだからな。国の体制をブッ潰して自分達の望む通り信者を増やして変えたいんだろ? だったら国盗りなんだから、普通は『国王』を狙ったりするよな?」


「そうか、クロウ君はミルロード王国の現状を知らないんだね……これは義父ちちから聞いた話だけど、現国王のゾディガー・フォン・ミルロード陛下は数ヵ月前に謎の奇病に侵され一気に老化が進んでいるようなんだ……余命もそう長くないと言われているらしい」


 え? そうなのか?

 初耳だぜ。

 未来じゃ至って健康的な国王だったのにな……。


 だからか?


 『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の動きが活発になっているのは……。

 もうじき国王が死ぬとわかっていれば、あえて暗殺する必要もないしな。


 それに現国王って一人娘しかいなく、跡継ぎは別の血筋の者が受け継ぐことに決まっていると学んだことがある。


「けど、スキル・カレッジの生徒に国王とゆかりのある生徒なんているのか?」


「生徒はいないよ。でも教師ならいるだろ? 特に僕とキミがよく知る人物――」


 ウィルヴァの言葉に、俺はあの教師の顔が浮かぶ。


 いつも地下室に潜んでいる吸血鬼ヴァンパイア


「――エドアール教頭か!?」


「そう。あの人に王位継承権はない……けど、王家から国内に至るまでの影響力は絶大なんだ。だから、スキル・カレッジの学院長は頭が上がらない。貴族や重鎮だって、エドアール教頭の名を出せば無茶が通せるわけだよ」


 その通りだ。


 現に、アリシアの親父さんのカストロフ伯爵も、『竜聖女シェイマ』を匿っている貴族を探すために、わざわざエドアール教頭の名を借りて自分より爵位が上の貴族邸に捜査をしている真っ最中なんだからな。


 だとしたら――。


 ソーマ・プロキシィの目的は、エドアール教頭の暗殺なのか?


 その為に、勇者パラディン推薦候補にこだわっているのか?


 一般の生徒で、エドアール教頭に謁見できる者はほとんどいない。


 唯一できるのは、勇者パラディンの推薦候補とそのパーティ達のみ。

 しかも決まって、学年主任のスコット先生や担当の教師が傍で見守る中でだ。


 ウィルヴァと俺を失脚させることで、単身で謁見しやすい状況を作るのが目的なのか?


 あのチャラ男キャラや、自分から勇者を目指すっていう言動も派手に目立せることで、教頭や教師達の目に留まりやすくするため……そう考えれば合点もいく。


 未来の記憶がある俺が、何故ソーマの存在を覚えてないのかも納得できる話だ。

 何せ、俺が未来を変えたことが起因して、奴が生徒として潜入することに繋がったんだからな。


 しかし、そうは思っても、まだ決めつけるのは早すぎる――。


「ウィルヴァが言いたいことはわかるよ。今思い返せば、そういう雰囲気もあったと思う……けど、何一つ証拠がない。あくまで推察の範囲だ。仮に事実だとして、ソーマに問い詰めても、しらばっくれるのがオチだろうぜ」


 俺は懸念して意見する。

 特にああいう、のらりくらりした野郎を相手にするのは絶対的な証拠が必要だ。


「クロウ君、あの手の連中に正攻法で探っても、そう簡単に証拠は見つからないよ。敵の虚をつき、自分からさらけ出させる状況を演出することが必要さ」


「自分からさらけ出させるだって?」


「当然、僕一人じゃ無理な話だよ……その為に、クロウ君にこうして僕の考えを全て話しているんだ。キミを信頼した上でね」


「ウィルヴァが俺を信頼している?」


「そうさ。キミは笑わないで、僕の話を真剣に聞いてくれた。また真剣に意見もくれた。だから信頼に値すると確信したんだ」


 信頼か……雲の上の存在だと思っていた奴に面を向かって言われると、なんとも気恥ずかしい。

 今俺達は間違いなく対等のポジなんだと思った。


 だったら、やるべきことは――


「つまり、俺とウィルヴァが組んで、ソーマの化けの皮を剥いでやろうってことだろ?」


「流石、クロウ君。その通りだ。僕達が手を組めば大丈夫、きっと上手くいくさ――」


 ウィルヴァは微笑みながら、スッと手を差し出してきた。


 俺は一瞬だが躊躇する。


 元々、ウィルヴァと手を組む気はあったが、握手してまで慣れ合うつもりはなかった。

 互いに利益のため、一時的な休戦と協力――そういったドライな関係で良いと思ったからだ。


 別に、こいつのことが嫌いとか信用してないとかじゃない。


 ずっと目標にしていたウィルヴァと手を組むことで、俺自身の意欲や勢いが低下してしまうんじゃないかと思ったからだ。


 そして、パーティ女子達のこと……いずれ奪い返されるんじゃないかという不安。

 まぁ、それこそ今の彼女達は信頼できる仲間だし、あくまで俺の妄想なんだけど……。


 どちらにせよ、ソーマを放置しておくのは危険だ。


 たとえ、あのチャラ男が『潔白』だとしても、昨日みたいにアリシアに手を出してくるなら戦うしかない。


 俺は力強く、ウィルヴァの手を握る。


「――わかった、ウィルヴァ! 手を組もうぜ! それから、また二人の勝負を再開だ!」


「勿論だよ、クロウ君!」


 こうして、ウィルヴァと共同戦線を組むことになった。


 見てろよ、ソーマ。


 今度は俺達のターンだ――。






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