第77話 好敵手と共同戦線(前編)
次の日、放課後。
誰もいない聖堂にて。
ユエルの配慮で、俺はウィルヴァと二人で会うことにした。
互いのクラスだと、他の連中やソーマに聞かれてしまうからな。
おまけにウィルヴァは目立つし、俺も学年内じゃ何かと注目されている(多分、異端の問題児として)。
だから可能な限り二人っきりで話がしたい。
ここは役に立たない『鑑定祭器』があるのと、
放課後は管理する教師や用務員の職員が清掃にくるくらいだ。
後は俺達の移動用の『
「――クロウ君、僕に話って?」
俺が聖堂の中で一人待っていると、ウィルヴァがやって来る。
「呼び出して悪かったな? 最近、調子どうだい?」
「別に、まぁまぁだよ」
普段通りに微笑みを浮かべる、ウィルヴァ。
無理しているのか、それともマイペースなのかわからない。
「パーティは見つかったのかい?」
「いや、まだだけど……でも周囲には僕が求める人達がいないとわかったからね……他を当たるつもりさ」
「他って、学院外か?」
「秘密だよ。ただノープランってわけじゃないから安心してほしい……いや、
なるほど、こいつなりに何か考えがあるようだな。
少し安心したぜ。
本人がそういうなら、もう俺が心配することじゃないようだ。
「そっか。良かったよ、最近不調のような噂も聞いたからな……」
「クロウ君、まさか僕のこと心配してくれたのかい?」
「ま、まぁな……ユエルも不安そうにしていたし、俺もあんたを
五年後の未来じゃ厳かで絶対に言えなかった台詞。
何せ、本物の
それが、この時代じゃ互いに次期『勇者の称号』を得るため競い合う関係……。
本来なら、それだけでも光栄なことなんだ。
だからこそ、あのチャラ男野郎が……ソーマ・プロキシィが許せねぇ!
あんな奴にウィルヴァが負けるなんてあり得ない!
俺達の『聖戦』をソーマ如きに踏みにじられてたまるか!
「クロウ君にそう思われて嬉しいよ。僕も『
「あの転校生はどうなんだ?」
「転校生? ああ、ソーマ君だっけ? まぁ、よく僕に挑発してくるけど、別に相手にしてないよ。それだけ自分の品位を下げるだけだからね」
お、大人だな……ウィルヴァ。
俺なんて、もろ挑発に乗ってしまい、教師が見ている前でブン殴りそうになったぞ。
「――話はユエルから聞いたよ。昨日、彼に何かされたんだって?」
「ん? ああ……アリシアがな。俺、自分のことはいくらでも我慢できる自信はあるんだけど、仲間のことになると……ついな」
「だろうね。クロウ君はそういうタイプの男だ。だからこそ、彼女達は慕ってついて来るんだろう。ユエルも含めてね」
「そ、そうかな……なんか照れちまうけど」
あれ? 俺が相談を聞いてやるつもりが、逆に励まされているんじゃね?
いつの間にか、こいつのペースになってんぞ。
やっぱ、ウィルヴァは只者じゃねーわ。
「でもクロウ君じゃないけど、ソーマ君のやり方は好きじゃないね……今回の期末テストで、彼の人格がよくわかったよ」
「そうだな。たまたま、ウィルヴァに勝ったからってよぉ……」
「――たまたまじゃないよ、クロウ君」
「え? 実力ってかい?」
「それもないかもね……」
爽やかな男にしては珍しく勿体ぶった言い方をしてくる。
たまたまでも実力でもない首位ってどういう意味だ?
……あっ! まさか、こいつ……?
「ウィルヴァ、お前……まさか、わざと成績を落としたのか? ソーマを計りにかけるために!?」
俺の憶測に、ウィルヴァは爽やかな笑顔を見せる。
「僕達の
「なるほどね……しかし、それを見極めるのは俺達じゃない。エドアール教頭だぞ?」
「そうだね。だから色々調べさせてもらったよ、彼のこと――」
「調べただと? ソーマのことをか?」
ウィルヴァは無言で頷く。
「僕の実家を知ってるだろ? ミルロード王国の懐刀である公爵家、ランバーグ・フォン・ウェストの息子だよ。義理だけど影響力は多少なりとある。難民を受け入れた衛兵隊の上層部に問い合わせて情報を入手するくらいできるさ。別に衛兵隊にとって不都合のない難民の情報なら尚更ね」
義理の親父さんも、ウィルヴァには相当期待しているからな。
ある意味、喜んで力を貸してくれるか……。
しかし、まさかウィルヴァが親のコネを使ってくるとは……品性がうんたら言ってたくせに、地味にムカついてたんだな……こいつも。
「んで、何かわかったのかい?」
「まぁね……クロウ君にだけ話すけど、彼の素性には怪しい点が多い」
「怪しい点だと!?」
「まず、特殊スキル能力の覚醒だ。ソーマ君が元いたとされる国でも、中等部に入る際に『適正検査』を実地されるらしい。にも関わらず、この国に逃げ込んで保護された際に受けた検査で、初めて特殊スキル持ちだと発覚したらしいんだ」
「それは俺も聞いたことがある。前の国でたまたま見落としとかあったんじゃねぇのか? 俺の特殊スキルがいい例だろ?」
「クロウ君だって、この学院の鑑定でも『特殊スキル持ち』だってわかってたろ? けど、ソーマ君はそれすらないって可笑しくないかい?」
「特殊スキルは潜在的に備わっている、この世に生を受けた時に神が与えた
「その通りだ。当時、検査した衛兵隊も彼を不審に思ったが、身寄りのいないソーマ君はスキル・カレッジの転入を熱望したようだ。そして『竜狩り』ため、優秀な冒険者を育成するという国の視点から『特殊スキル管理委員会』に身柄を預けられて今に至っているのさ」
ってことは、ソーマもメルフィのように役員達から監視を受けているのか?
最も今のメルフィの監視者は身内である俺ってことになっているけどな。
「確かに謎はあるが、ミルロード王国もそれなりに対応して受け入れているようだな……んで、何が怪しいと思っている? 身寄りのないことか? 『竜』に襲われて逃げているなら、身内全員が『竜』に食い殺されているんじゃないか?」
そう悲惨な目に合っている風には見えないけどな。
チャラすぎて……。
「そこは今の世の中じゃ、そんなに珍しい話じゃないね。ソーマ君も保護された時、逃げるのが必死でこれといって身分証も所持してなかったって言うし、きっと掘り下げて調べるのは困難だろうね」
『竜』のせいで外交すらままならない時代だからな。
ソーマが元いた国に行って調べることは不可能に近い。
「結局、特殊スキル以外はなんとも言えないな……素性は怪しいけど、よくある話と言われちゃそれまでだ」
「だからこそ怪しいんだよ。ことわざであるだろ? 『木を隠すなら森』ってね……」
「ウィルヴァ……さっきから何が言いたいんだ?」
「一度、話を変えるよ。クロウ君は、今回『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の連中がどうやって、ミルロード王国に紛れ込むことが出来たと思う? 『竜』すら侵入が難しい、強力な結界で守られている国に……」
「『竜』と人族は別だろ? やり様は色々あるさ……商人や冒険者を装って潜入するとか、後は『難民』に紛れるとかかな……って、おい、まさか!?」
「――そう、僕はソーマ・プロキシィを『教団』の一味じゃないかと睨んでいる」
ウィルヴァは、はっきりと言い切った。
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