第76話 アリシアへの想い
俺は、アリシアに言い寄って来るソーマ・プロキィと対峙する。
「おい、ソーマ。たまたま一位になったからって、イキってんじゃねーぞ。それに『
「なんすか、それぇ? まるでアリシアたんは俺の彼女だ気取り? やべぇんですけどぉ。んなの先を見据えりゃ、もう誰がピークかわかるっしょー、クロックく~ん」
「ピークだと、どういう意味だ?」
「ウィルヴァ・ウェストっすよ。クロックくんほどの実戦経験もねぇ、成績もオレの方が上……ってなれば『
確かに一理はあるか……。
現に、ウィルヴァは教頭から釘を刺されている。
それに俺がEクラスへ在籍していることを良しとしていない部分もある。
あの策士的なエドアール教頭のこと。
意欲向上とかぬかして、次に成績のよさそうなソーマを候補として名前を挙げるかもしれない。
「だからと言って、俺のパーティ達を引き抜こうって行為は見過ごせねぇ。俺への挑戦だと受け止めるぜ、ソーマ・プロキィ!」
「なぁに? キレちゃった系? いやだな~、今クロックくんと争ったって、オレに勝ち目があるわけねーしょ? アンタ……ウィルヴァほど、チョロくなさそうだしね……わかったよ。アリシアたんをパーティに入れるのは諦めるよ~ん」
「だったら、とっとと消えろ。テメェみたいな他人を見下す野郎は虫唾が走る」
「わかったよ……その変わり――」
ソーマは何を思ったのか、傍に立つアリシアの手を引っ張り、強引に肩を抱き寄せた。
「アリシアたんの彼氏になっちゃお~ん♡」
「なっ!?」
「別にいいしょー? クロックくんと付き合っているわけじゃないしー?」
俺に見せつけるかのように、長い舌を出して嘲笑う。
その瞬間、心臓がバクっとうねり、頭の中がカァッと熱くなる。
「俺のアリシアに触るなぁ!」
アリシアから引き離し、俺はソーマの胸ぐらを掴み掛かった。
「あれ~、やばいわ。まさかガチでキレちゃった系? いいぜぇ、殴れよ~。無抵抗なオレっちをボコったら、アンタの評価が下がるだけじゃねぇのかぁ? 下手すりゃ退学かな~?」
「んなのバレなきゃ問題ねぇだろうが!? その気になりゃ、俺にはそれが出来るんだよ! ああ!?」
「クロウ様、私は大丈夫です! どうかお怒りを収めてください!」
アリシアが必死で止めにはいる。
俺はそんな彼女を一瞥すると、その視線から少し離れた場所で『聖堂』を管理している教師が清掃をしていた。
丁度、こちらの様子に気づいたところだ。
俺は慌てて、ソーマから手を離した。
こいつ……まさか、これを狙ってわざと俺を挑発したのか?
俺の《
それを計算して……煽りやがったんだ。
アリシアが、それに気づいて必死で止めてくれなきゃ危なかった。
「やっぱ、アリシアたんはいいね~。オレやばいわ、本気になりそうだよぉ。じゃね~!」
ソーマはおどけた口調で足取り軽く、俺達の前から去っ行った。
教師は何も気づくことなく、扉を開けて聖堂の中に入る。
俺とアリシアは、その場で佇み動けないでいた。
何か重い空気が流れているような気がする。
お互い別にやましいことはない筈なのに、妙なわだかまりが残ってしまったようだ。
と、とにかく何か言わなきゃ――。
「……アリシアありがとう。止めてくれなきゃ、今頃問題になっていたと思う」
「い、いえ……私の方こそ、隙を見せてしまい……申し訳ございません」
「そんなこと……あの状況だと仕方ないと思うし」
「――わ、私は嬉しかったです」
「え?」
「さっきのクロウ様のお言葉……私は貴方様のアリシアですから……」
「アリシア……」
白い頬をピンク色に染めて、藍色の瞳を潤ませながら見つめてくるアリシアに、俺は目が離せなかった。
つい感情が高ぶって口に出してしまった。
正直、自分でもどういうつもりで言ったのかはわからない。
ただ、これまでずっと胸の奥にしまい込んでいた感情が爆発した……そう思えてしまっている。
――俺はアリシアのこと、どう思っているんだ?
未来では大嫌いで苦手だった女騎士。
一方でその強さに憧れを抱いていた。
なんだかんだ、俺の危機を救ってくれていたから感謝の念もある。
今は違う印象を抱いている……。
相変わらず強く、頼りになる忠誠心の高い女騎士。
けど、俺は知っている。
本当はか弱い部分もあったり、女の子らしいところもあることを。
現在の関係性に至り、それが良くわかった。
同時にある感情も抱いている。
未来でユエルに抱いていた想いとは違う……何か因縁めいたモノ。
きっと、アリシアが俺に『隠している事』と関係しているのだろうか?
それがわかった時……俺達の主従関係が変わるのだろうか?
俺はさりげない仕草で、アリシアの肩に触れる。
さっき、ソーマに触れられた部分を払拭して清めたい思いを過らせながら……。
「クロウ様?」
「アリシア、俺は……」
昂っていた気持ちが緩み、同時にとても大切な言葉を言うとした。
その時だ。
「――兄さん。どうされたのです?」
教室の掃除を終わらせたメルフィがやって来た。
隣にユエルもいる。
俺は慌てて、アリシアの肩から手を離した。
「い、いや……これは色々あってさ」
「私が不甲斐ないばかりに、クロウ様に迷惑をかけてしまったのだ。妹殿にユエルよ、申し訳ない。後で説明しよう」
「そうですか……クロウさん、他の二人は?」
「セイラとディネも、掃除当番だそうだ。今に来るよ」
言っているそばから、二人が手を振って近づいて来る。
「クロウ~、お待たせ~!」
「すまないねぇ、待たせて……アリシア、どうしたんだい? 珍しく縮こまって?」
「色々あったのだ……また、ソーマ・プロキィに迫られてな」
「ソーマぁ? あのチャラ男……また言い寄っているのかい? 今度、アタイがぶっ飛ばしてやるよ!」
セイラは勇ましく拳をバキバキ鳴らしている。
「あいつ……何故、アリシアに目を付けているんだ?」
「きっと、クロウのパーティに入っているからじゃない? 現に、アリシアが拒否したら、必ずアタイにも声を掛けてくるからねぇ、アイツ……」
「何だって? セイラにもか?」
「それだけじゃないよぉ。隣のクラスである、ボクの所にも来るからね……ウザいったらありゃしないよ~」
セイラだけじゃなく、ディネまでか……。
「メルフィとユエルは?」
「私の所には来ないわ……きっと、兄さんの妹だと思っているからじゃない?」
「わたしもよ。あの人、ウィル兄さんを敵視しているようだから」
なるほど……じゃ、やっぱり俺に対する挑発か。
ウィルヴァに勝てると見込んで、少しずつ揺さぶりをかけているってところか?
どっちにしても許せねぇ!
そういう姑息な手で勝とうとする奴が一番嫌いなんだ。
特に、正々堂々と競っている俺とウィルヴァの中に土足で割り込んできやがって……。
しかし――ソーマ・プロキィ。
まるで未来の記憶にない男だ。
いくら当時、精神的に滅入っていて塞ぎ込んでいた次期だからって、あのウィルヴァと『次期勇者候補』争いができる程の実力者を覚えてないなんてあるだろうか?
ましてや、あんな目立つチャラ男のことを……。
それだけ当時、俺の
いずれにせよ、このまま放置しておくわけにはいかねぇな……。
「なぁ、ユエル……明日にでも、ウィルヴァと話しがしたいんだけど協力してくれるかい?」
「ええ、別に構わないわ……けど、お兄様になんの用?」
「なぁに、同じ
俺はウィルヴァと違い、事なかれ主義者じゃない。
そっちがやる気なら、こっちも徹底抗戦だ。
このまま、あんな奴の好きにはさせねぇぜ。
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