第75話 好敵手の不調




 どうやら俺は、転校生であるAクラスのソーマ・プロキィに『次期勇者候補』として脅威を抱かれているらしい。

 この男も『勇者パラディン』を目指すと豪語しているからだ。


「ぶっちゃけ、ウィルヴァは眼中にねぇけどよぉ。クロック・ロウ……アンタはガチで好敵手ライバルだと、オレは思っているっすからね」


 おまけに、俺に対して好敵手ライバル宣言までしてきた。


 う~ん……。

 俺が舐められているわけじゃないから別にいいけど、でもウィルヴァを見くびられると、何かカチンとくるものがある……。


 ウィルヴァの強さと凄さは、この俺が一番よく理解しているからだ。


 俺にとって目標であり最大の好敵手ライバルが、こんなチャライ野郎にバカにされると何か腹が立ってくる。



「フッ、笑っちまうな……」


 ぼそっと呟き、ソーマを嘲笑する。


「何ですと?」


「ソーマ君よぉ。ウィルヴァ・ウェストの力量を見極められねぇようじゃ、とてもこの国の『勇者パラディン』の推薦どころか、教頭先生に名前すら挙げて貰えないぜ。俺にとって、ライバルと呼べる男は唯一ウィルヴァだけだからな」


 俺の方こそ、テメェなんぞ眼中にねぇよっと言ってやった。


 ソーマはムカついたのか、さっきまでのニヤケ顔が消失する。


「何よ~テンション、ダダ下がるわ……こいつぅ」


「自称ライバルって言うなら、俺と無理に仲良くすることもないだろ? せいぜい頑張れよ」


 どうせクラスも違うし気を遣う理由もない。

 俺は「もう、あっちに行け」っと、手を振って追っ払う。


 ソーマは軽く舌打ちして俺達から離れると再びチャラ男キャラに戻り、他の女子達と喋りながら別の席に座った。



「……クロウさん、ありがとうございます」


 ユエルが瞳を潤ませ微笑んでいる。


「ん? どうしてユエルが礼を言うんだ? 俺、何かしたか?」


「いえ。あの人の前で、お兄様のこと立てて頂いて……わたし、とても嬉しかったわ」


「そんなこと……俺は思ったことを正直に言ったまでさ」


 急に恥ずかしくなり目を反らしてしまう。

 同時に、ユエルにとってウィルヴァは大切で誇りに思う兄なのだと思った。


 そんな兄が不調な今、心優しいユエルも本当は傍にいてやりたいのかもしれない。


 けど、ユエルも『竜守護教団ドレイクウェルフェア』に命を狙われている身である。

 俺のパーティに加わったのも、彼女なりに完璧なウィルヴァを超えて、冷遇を受けている義理父に認めてもらいたいと決心したからだ。


「クロウ、アタイからもお礼を言わせてくれよ。アタイにとって、ウィルは大切な友達だし導いてくれた恩人でもあるからね……アンタの対応、スカッとしたよ」


 セイラも感謝して、俺を褒め称えてくれる。


「俺も内心じゃ、ウィルヴァに感謝しているんだ……あいつがいるから、俺も超えたいと躍起になっているところもある。今ようやく、同じ舞台ステージに立てたとさえ思っているんだ」


「うむ、その殊勝な態度。このアリシア、感服いたします。ですがクロウ様とて決して引けを取らないと思っておりますぞ」


「……ありがとう。でもさっきも言ったけど、パーティのみんながこうして俺の傍にいてくれるから、きっとそう見えているだけだと思う。とても俺一人の実力じゃ、ここまで順調に事が運べなかったさ」


 当初の俺は関わらないよう逃げるため躍起になってたからな……。


 ウィルヴァから、そしてパーティの女子達から――。


 お情けとはいえ、あの『林間実習』で初めてウィルヴァに勝った以来、俺の中で何かが変わったのも事実だ。


 こうして因縁深き女子達とも信頼関係も芽生え、良好な関係も築いているわけだし。

 ウィルヴァとも良好な好敵手ライバルとして親交も深まったんだ。


「兄さん、私達はいつまでも一緒です」


「そっだよ、クロウ! たとえ勇者パラディンじゃなくたって、ボクはずっと傍にいるからね!」


「これからもよろしくお願いしますね、クロウさん」


 メルフィ、ディネ、ユエルも優しい笑みを浮かべ同調してくれる。


「こちらこそ。ああ、そうだ。もうじき夏休みだよな……きっと、ギルドのクエスト活動がメインになると思うから、みんな今のうちに装備とか整えてくれよ」


 照れ隠しの号令に、みんな素直に頷いてくれた。


 こうしてパーティ女子達の好感度を上げつつ、俺は普段通りの学院生活を送ることになる。






 それから数日が経ち。


 少しずつ変化が生じ始める。


 ソーマ・プロキィが頭角を現し成績が上位に食い込む勢いらしい。

 チャラ男だが目標のため、奴なりに努力しているってことなのか?


 反面、ウィルヴァの影が次第に薄くなってきているという噂が流れた。

 特に不調というわけではないようだが、ソーマの挑発をスルーしたり、最近じゃ一人でいることが多く見られるとのことだ。


 親友のセイラが声をかけても「大丈夫、一人で考えたいんだ」と、どこか無理したような微笑を浮かべているらしい。

 

 やはり、理想とするパーティ仲間が中々作れないことに悩んでいるのだろうか。


 以前に誕生会の時、メルフィがチラっと言っていたが、いくら個人が優秀でも単独では冒険者として活動することは困難だ。


 高ランクの冒険者ならソロで活動している者もいるが、それでもクエストは限られる。

 ましてや冒険者の成り立てでは、いくら才能があろうと話にならない。


 エドアール教頭からの課題である「実戦経験」を積むのには程遠い筈だ。


 次回スキル・カレッジの『林間実習』も2学期から始まるだろうし……ウィルヴァとしては、今学期中に目処や成果を残したいところだろう。


 杞憂かもしれないが、一度俺が相談に乗ってやるべきか?


 五年後の雑用係ポイントマン勇者パラディンの関係じゃ、絶対にあり得ないことだが、今は同じ位置に立つ好敵手ライバル関係。


 ウィルヴァのプライドもあるだろうが、俺的には好敵手ライバルだからこそ、あんなチャラ男のソーマなんぞに舐められて欲しくない。



 放課後、そう考えながら俺は転移用『ゲート』がある聖堂の扉前で、みんなが来るのを待っていた。


「クロウ様、お待たせいたしました」


 アリシアが一人でやって来る。


「あれ? 他のみんなは?」


「セイラは掃除当番です。もう少しで来ますよ。他のメンバーも同じ理由で遅くなるようです。私はクロウ様がお一人でお待ちなっているだろうと思い、先に来た次第です」


「そっか……それなら、もう少し待ち合わせ場所を考えた方が良かったかな? 聖堂じゃ祈る所しかねーし」


「私はクロウ様とご一緒なら……どこでも」


「え?」


「いえ、なんでもありません……」


 急にかしこまる、アリシア。


 そんな中、遠くで誰かが駆け足で向かって来る。

 男子生徒のようだが?


 あの目立つ姿は間違いない、ソーマだ。


「――アリシアたん、オレと一緒にパーティ組まね?」


 来た早々、俺の前で堂々と言ってきた。


「またその話か……くどいぞ! 私は既にクロウ様にお仕えしているのだ! ずっとそう言っているだろ!?」


 アリシアは不快そうに顔を顰め怒鳴っている。

 その口調だと、随分前からしつこく誘われているようだ。


「別に抜けろって言っているわけじゃないから、いいしょー? ちょっとだけでいいからさぁ! オレにワンチャンくれよー!」


「仮にフリーだとしても誰が貴様のような軽薄な男などと! それに何だ、ワンチャンとは!? 貴様は犬か!?」


 一切靡かず、真っ向から叩き斬るかのように断る、アリシア。

 まぁ、俺が彼女でもウィルヴァみたいな奴ならともかく、こんなチャラ男じゃ傾きもしねぇな。


「おい、ソーマく……いやソーマって呼ばせてもらうぜ。アリシアはもう俺とパーティを組んでいるんだ。本人だって嫌がっているのに、しつこく言い寄ってくるんじゃねーよ」


「クロックくんには言ってねーし。なんっすか~? 俺が今、Aクラスのトップを取っちゃったもんだから焦っちゃった系?」


「Aクラスのトップだと? お前が?」


 俺は不審な眼差しをアリシアに向ける。


 彼女は頷き、「今回の期末テストでは確か首位だったようです。ウィルヴァ殿とは僅差ですが……」と教えてくれる。


 ふ~ん、まんざら口先だけじゃないってか?


 けど、どうでもいいわ。






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