第69話 タイム・アクシス・クロニクル
損傷した足を復活させ、俺はすっくと立ちあがる。
ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォォォン――……
目の前には、未だ『円盤刃』群が蠅のように飛び交っている。
ったく、うざいったらありゃしない。
「これ全部、打ち落とすのは面倒だな……だが俺が受けた攻撃は、全てテメェに
俺は、右足を失い地面に寝そべるガヴァチを見据える。
「ならば、そうなる前に貴様の頭部を完全に斬り刻んで破壊する。それならスキルは発動できまい」
「そりゃそうだ」
「フン! 何、余裕ぶってんだ!? クロック・ロウ! 貴様を取り囲んでいる俺の《
「俺も言ったよな、ガヴァチ……テメェはもう絶体絶命だってな――」
「なんだと!?」
ガヴァチがいきり立ち、起き上がって身を乗り出した。
その時、
ザッ!
俺が投げた
「ぐはっ――こ、これは!?」
ガヴァチは血を吐いた。
剣長は背中を貫き、心臓にまで達している。
己の身に何が起こったのかわからず、問いかけるように俺を睨んでいた。
「進化した最後の能力――『
「ク、クゾォォォ! お、俺がこんなガキにぃぃいぃぃ――ガハッ!」
ガヴァチは再び血塊を吐いた。
ふらりと横に倒れ込み、生命活動は終息した。
俺の周囲を飛び交っていた、ガヴァチの《
「……終わったな。地獄に落ちて、万一生まれ変わったら……いや、なんでもない」
強敵ではあったが個人的に恨みがあった相手でもない。
これ以上、殺めた命を冒涜することはやめようと思った。
別に博愛主義を唱えるつもりはないが、この時代で初めてこの手で人族の命を奪ったことには変わりない。
だが俺がガヴァチを斃さなければ、アリシア達や寮の女子達が皆殺しにあっていたのも事実だ。
あくまで、みんなを守るための戦い……そう割り切ることにする。
そして、俺の進化した特殊スキル能力を『歴史に刻む』という意味を込め……。
「――《
っと、改名することにした。
俺は胸の内ポケットから銀の『懐中時計』を取り出して眺める。
蓋を開けると、カチッ、カチッと秒針が動き微かな音を鳴らしていた。
あの死に際の中、この音が何故か俺の耳に届いていた。
それに、ウィルヴァの声――。
あれは何だったのだろう?
走馬灯? だったら何故ウィルヴァなんだ?
どうせなら妹のユエルにしてくれよ……俺、そっちの趣味ねーし。
まさか、ウィルヴァ本人が俺に語り掛けたのか?
なわけないか……だったら真っ先に助けに来いよって話だ。
それと男子学生寮で巻き添えを受けた班長のスタンや他の生徒達も、俺がその場で『時間』を戻して傷を回復させている。
なんとか一命を取りとめられて良かった。
しかし今回俺がガヴァチを返り討ちにしたことで、今後は竜守護教団ドレイクウェルフェアと幹部である竜聖女シェイマから、より狙われることになるだろう。
いくら特殊スキル能力が進化を遂げたって、丸一日中狙われるのはきついな……。
「――まずは、アリシアの親父さん……カストロフ伯爵に相談だな」
ようやく長き死闘の夜に終止符を打った。
あれから。
騎士団が駆けつけ、ガヴァチの亡骸は回収された。
俺は被害者として、専用の保護施設で朝まで過ごす羽目となってしまう。
おかげで安心して眠ることはできたがな。
特殊スキルが進化してパワーアップした分、以前より疲労が増したような気がする。
早朝、騎士団長のカフトロフ伯爵と息子のアウネストが訪れた。
「クロック君、部下から報告は聞いた。大変だったね?」
相変わらず威厳オーラたっぷりの親父さんだ。
「いえ……こちらこそ、情報ありがとうございます。アウネスト君が教えてくれたから、用心して撃退することができました」
「そうか……見た所、怪我がないようだし、巻き込まれた生徒達も無事のようで何よりだ」
いえ閣下、俺思いっきり死にかけたので……それと虫の息だったスタン達を治したのも、俺ですからね。
「アウネストから既に聞いていると思うが、直ぐにでもキミ達を保護していきたいと思っている」
「キミ達……アリシア達も?」
「そうだ。女子寮で警護していた部下達も、ガヴァチという男に暗殺されてしまったからな。
「確か俺達に安全な場所を用意して下さるとか?」
「ああ、その通りだ。実は既に用意してある。本来は『対竜専用』に強力な結界が施された要人用の屋敷だ。私の権限で卒業するまで、キミ達をそこで住んでもらうよう考えてはいるが……」
寮以外の通学は、スキル・カレッジの規則に反するんだっけ?
「しかし、父上。実際にクロック殿は連中に襲われ、こうして騎士団が匿っているわけですし、学院側に理解を得られないのでしょうか?」
アウネストが珍しく言ってくれている。
つーか初めてじゃね?
生意気な糞ガキだと思っていたけど、根はいい奴なのかもな……なんだかんだ、アリシアの弟だし。
「うむ、『あの方』には話を通してある……それで、クロック君。我々も警護するから、一度寮に戻って学院の制服に着替えてほしいのだ」
「制服に着替える? スキル・カレッジに行くのですか?」
「そうだ。『あの方』の許可を頂くためにな。既に学年主任のスコット殿とアリシア達にも説明し、一緒に来るよう伝えている。さぁ準備したまえ――」
それから制服に着替えた俺は、カストロフ伯爵とアウネストの護衛でスキル・カレッジへ登校した。
教室にはよらず、教員室へ行くと学年主任教師であるスコット先生が出迎えてくれる。
「カストロフ騎士団長自ら来られるとは申し訳ございません……クロック君も大変だったね」
「は、はい……なんとか無事にやり過ごせました」
「スコット殿、これから『あの方』にお会いしたいのだが宜しいですかな?」
カストロフ伯爵は凛としたやんわりとした口調で促している。
そういやスコット先生も王族に仕える現役の
顔見知りなのは当然として、こうして二人並ぶと威厳オーラが眩しい。
間に挟まれているだけなのに、何故か俺まで騎士になったような誇り高い気分になる。
「わかりました。他の生徒達は既に別の先生達の誘導で向かっております。早速参りましょう」
スコット先生の誘導で、俺達は地下室にある『教頭室』へと向かった。
厳重な鉄の扉の前に、Aクラスの担任イザヨイ先生と、Eクラスの担任リーゼ先生が立っている。
そして、アリシア達の姿もあった。
ん? ウィルヴァもいるぞ……ユエルの身内として呼ばれたのか?
「クロウ様! ご無事で何よりです!」
「兄さん! クロック兄さん、良かった! 本当に良かったです!」
アリシアが駆け付け、メルフィが真っ先に俺に抱きいてくる。
「メルフィ……心配かけてごめん。見ての通り大丈夫だよ。アリシアもサンキュな」
俺はメルフィを抱擁し、黒髪を優しく撫でた。
「クロウ~! ボクだって心配したんだよぉ!」
「本当無事でよかったよ! アンタがピンチだって知ってればねぇ、クロウ!」
「話を聞いた時、心臓が止まるかと思ったわ……密かに、わたし達を助けてくれてありがとう、クロウさん」
ディネとセイラ、それにユエルが俺の安否を気遣いながら感謝してくれる。
「みんな……すっかり心配掛けたな。何度も言うが、俺はこうして無事だし、みんなを守ることができた……だからもう安心してほしい」
俺の言葉に女子達は安堵し微笑を浮かべる。
今思えば、彼女達が傍にいてくれるから、俺の特殊スキルが進化したのかもしれない。
――《
「クロウくん、命懸けでみんなを守ってくれて、僕からも感謝するよ」
ウィルヴァは爽やかに微笑み話し掛けてくる。
丁度いい……俺もこいつに聞きたいことがあったんだ。
───────────────────
《特殊スキル紹介》
スキル名:
能力者:クロック・ロウ
タイプ:効果型
レアリティ:
【能力解説】
・対象者と物体に触れる、あるいは攻撃することで何か一つの『時間』を奪い操る能力。
・
【追加能力】
・左右両手関係なくスキル効果を与えられることができるようになった。
・触れた『物質』にマーキングして、好きなタイミングで発動できる『
・自分が受けた攻撃を相手にもそのまま送り返す『
(但し有効射程距離あり、送り返す相手が10メートル範囲にいることに限る)
・自分や触れた『物質』の時間を数秒ほど『
(例:歩き始める→ゴールしている。殴りかかる→殴っている)
尚、この能力を発動することで、特に対人戦闘において絶対的な攻防力を得ることが可能となった。
【弱点】
・対象に対して一度の攻撃で一回しか時間を奪う効力を与えられない。
・自身を含め一つの個体で、同時に別々の効力を与えることはできない。
(但し効力が解除、あるいは消失した状態であれば、もう一度別の効力を与えられる)
・既に生命活動を終えた者(完全に死んだ者)には効力を与えられない。
・液体に効力を与えることはできない。
(血液を失った場合、肉体が戻っても失ったままである)
──────────────────
お読み頂きありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、
どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。
【お知らせ】
こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!
『今から俺が魔王です~追放され命を奪われるが無敵の死霊王に転生したので、最強の部下達と共にこのまま復讐と世界征服を目指します!~』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311
【☆こちらも更新中です!】
『陰キャぼっち、終末世界で救世主となる』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452220201065984
陰キャぼっちが突然バイオハザードとなった世界で目覚め、救世主として美少女達と共に人生逆転するお話です(#^^#)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます