第67話 ムーバル・ディスク
スタンはドア越しで倒れる。
俺の左手首同様、能力効果で出血は見られない。
ぴくぴくと身体を痙攣させているから生きている筈だが、早く手当しないと死んでしまう。
しかし、どうして俺じゃなくスタンにまで攻撃を……。
ヴォォォン、ヴォォォン、ヴォォォン、ヴォォォン――!
倒れている、スタンの上を『円盤刃』が旋回している。
が、
――ん?
俺は何か違和感を覚える。
あのガヴァチが放った具現化型の特殊スキルこと《
さっきは2枚だけだったのに対して、今は4枚に増えているぞ。
『《
窓際にへばりつく、ガヴァチが親切に説明してくる。
増殖能力だと?
ディネの《
「何だ、今の声は!? おい見ろ、スタンが倒れているぞ!」
「うわぁぁぁぁ! なんか様子が変だぞ!? 顔が切られてないか!?」
「あそこ、クロックの部屋だろ!? 一体何があったんだ!?」
まずい! さっきの呼びかけで、他の部屋の連中が出てきたぞ!
ヴォォォォォォン――!
スタンの上を浮遊していた、4枚の『円盤刃』は何かに反応したかのように一斉に廊下へと飛び出して行った。
「クソッ!」
俺はガヴァチへの攻撃を諦め、『円盤刃』を追って廊下を出る。
背後から、ガヴァチが舌打ちしているのが聞こえた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「なんなんだぁ、これえぇぇぇぇ!?」
「嫌だぁ、来るなぁぁぁぁ!」
「助けてぇ、誰かぁ、うぎゃぁぁぁあぁぁ!」
廊下から悲鳴が木霊する。
俺は倒れるスタンを飛び越え、急いで廊下へと出た。
「――ク、クソッタレ!」
その光景を見て、俺は怒りが沸騰する。
廊下に出た、生徒全員が切り刻まれ床に倒れていた。
出血は見られないが、その鋭利な傷口から容赦のない深手を負っているのは確かだ。
しかも最悪なことに『円盤刃』は4枚から16枚へと増えていた。
「野郎! よくも無関係な連中を――」
俺は《
その方が回避しながら反撃できると踏んだからだ。
ヴォォォォォォォォォォ――!!!
16枚の刃から異音が唸るように重なり発せられる。
「来いよ! 全て叩き落してやるぜ!」
俺は右手で
その時だ。
チリリリリリン!
扉が開けられた、どこかの部屋からベル音が聞こえる。
ヴォォォォォォン――!
『円盤刃』群は俺を無視し、全てその部屋へと向かった。
俺は、その後を追ってみる。
すると、『円盤刃』部屋に置いてある目覚まし時計に対して、肉食動物の如く襲いかかり斬り刻んでいた。
そして数を倍の32枚に増えている。
同時に、これまで抱いていた疑念が確認に変わる。
「まさか、この円盤――」
俺は、傍で倒れている生徒の上靴を脱がせ、部屋の壁に向けて投げつける。
ドンッと物音を立てた箇所に向けて、『円盤刃』が揃って攻撃を仕掛け始めた。
だが、今度は数が増えない。
「わかったぞ、『音』だ! この円盤は
「――ご名答。ったく、大した観察力だ。シェイマ様から話を聞いているが、本当に何者なんだ、クロック・ロウ?」
背後から男の声がした。
窓ガラス越しでのどもった感じではなく、はっきりと聞こえる。
その声の主は間違いなく、
「ガヴァチか!?」
俺は振り向くと、ガヴァッチが廊下に立っていた。
長身で筋肉質、短髪だが後ろ髪だけ長い男だ。
一見して20代後半くらいだろうか。
「クロック、きっとお前はこう思っているだろ? 『またこいつ、自分から姿をさら晒してバカなんじゃないか』とな……」
「違うのかい?」
一度、動体視力の速度を解除して移動速度を上げれば、十分に仕留められる距離にいるぞ。
「俺の《
「それで、自ら俺の前に現れたってか? しかし、俺なら『物音』がする前に、お前に斬り込むことが可能だぜ……たとえ片腕でもな!」
「――生憎だが、俺がこうしてお前と同じ空間内にいる理由は、『自動追尾モード』を解除して、自分の意志で《
ガヴァチが言い放った瞬間、壁が陥没して、そこから32枚の『円盤刃』が襲ってきた。
「野郎ッ!」
俺は右腕を振るい、
まだ動体視力の速度を向上させる《
それに、この『円盤刃』は殺傷力こそ高いが外部からの攻撃には脆く、剣を当てると簡単に消滅させることができる。
今の強化した状態なら、片腕でもなんとか対応できる範囲だ。
「こんなもんか! ガヴァチさんよ!? 全部叩き落として反撃してやるぜ!」
「……反射神経、いや動体視力を強化しているのか? あれだけの刃を見切るとは……しかし、俺が姿を見せているってことは、今までのような単純攻撃じゃない。より正確かつ巧みに操作できるようになったってことだ」
ガヴァチは不敵に微笑む。
刹那
ヴォォォ、ヴォォォ、ヴォォォン――!
残り10枚となった《
壁や床と天井を斬り刻みながら、俺の周囲をクルクルと旋回し始める。
「何だ!?」
そう思った瞬間、右足の太腿に違和感を覚えてしまう。
どうやら背後から、斬られてしまったらしい。
出血はないも、深く抉られるように傷つけられてしまった。
そのダメージで俺は立位が保てずバランスを崩し、その場で跪いてしまう。
俺を斬りつけた『円盤刃』は増殖し11枚に増えた。
「目が良くても、死角にまで行き届かないだろ!? これで終わりだ、クロック・ロウ!」
ガヴァチが喜悦の声を上げる。
同時に、《
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――!!!」
俺は剣を振るい『円盤刃』を斬りつけて消滅させるも、次々と別の『円盤刃』が襲いかかり攻撃を仕掛けてくる。
次第に防御が困難となり、背中や脇腹を斬られては、より増殖してきた。
気付けば斬り落とした数よりも『円盤刃』は多くなっている。
もう自分で確認できないくらいダメージを負い、辛うじて剣を持つのがやっとの状態だ。
だがしかし、もう力が入らない……。
「うぐぉ……ぉぉ、テ、テメェ」
俺が睨みつける先に、複数の『円盤刃』に囲まれて余裕そうに微笑を浮かべて腕を組む、ガヴァチの姿があった。
「ガキの分際で調子に乗りすぎたな……正直、その冷静で知的な判断力、殺すには惜しい男だ。だが『教団』にとっては脅威であり、ジーラスの仇には変わりない」
ヴォォォォォン――!
「――死ね、クロック・ロウ」
斬ッ!
放たれた《
「ぐっ……!」
ドサッ。
そのまま俺は仰向けで倒れてしまう。
出血はない……だが致命傷には変わりない。
せめて左手が無事なら……。
だ、駄目だ……意識が薄れていく。
完全に終わる……俺の命が……。
メルフィ……ディネ……セイラ……ユエル……アリシア。
みんな……ごめんよ
――――……。
───────────────────
《特殊スキル》
スキル名:
能力者:ガヴァチ
タイプ:具現化型
レアリティ:SR
【能力解説】
円盤状の刃を出現させ、生物を切断する能力。
この円盤刃は自動追尾型であり、『物音』を探知して切り刻む。大きな音ほど率先して攻撃を仕掛けてくる。
斬られた箇所は出血せず痛みも伴わない効果がある。
また増殖能力もあり、攻撃が成功するごとに円盤刃の枚数が一枚ずつ無限に増えていく。
狭い空間ほど効力を発揮する無差別的殲滅能力。
【応用技】
・自動追尾モードを解除することで任意に操作することができる。
・任意で操作する場合、円盤刃の枚数が増えすぎると単純な攻撃指示しか送れない。
・但し一枚の円盤刃のみなら、詳細に操作することができる。
【弱点】
・音を止められたら、探知することができない。
・能力者(術者本体)は射程50メートル以内にいないと円盤刃は自動で解除される。
・能力者が自在に操作するには同じ空間内にいなければならない。
・円盤刃の防御力はなく、反撃されるとすぐ消滅してしまう。
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