第66話 楽しかった余韻と刺客
「やぁ、ウィル。相変わらず爽やかな男だねぇ」
「ああ、セイラ。キミも新しいパーティに馴染んで何よりだ。調子も良さそうだね?」
セイラとウィルヴァは旧友同士、仲良く話し込んでいる。
未来なら一緒にパーティを組んでいる筈なだけに、やっぱり違和感を覚えてしまう。
他の子達もウィルヴァに簡単な挨拶をして料理を嗜み、隙あれば俺にべったりくっついて互いに取り合うなど相変わらずだ。
ウィルヴァは何も気にせず、その光景を微笑ましく見つめている。
前にも思ったけど、なんかこれ……俺がウィルヴァから女子達を奪ってしまった構図になっているようだ。
まぁ、五年後の未来の記憶がある俺が勝手にそう思っているだけで、当然彼女らは無自覚なんだろうけどね……。
「ウィルヴァ殿。良かったら、私が作ったケーキを食べてくれ」
「へえ、アリシアさんって、お菓子作りが上手なんだね?」
「うむ……っと、言っても8割は其方の妹君であるユエルだがな。私はイチゴをトッピングしただけだ」
アリシア、おま……それって、ほとんど作ってないよね!?
よくそれで、セイラのこと言えたな!?
わかった。お前も俺が料理を教えたるわ!
「そういえば、ウィル。アンタ、誰かとパーティを組まないのかい?」
セイラは何気に聞いてくる。
俺もずっと気になっていたが、後ろめたさから絶対に聞けない内容だ。
「うん、他から色々と声を掛けてくれるんだけど、まだこれといって中々ね……スキル・カレッジの学科は問題ないけどね。でも『
「いくらウィルヴァさんが凄い方でも、お一人では冒険に行けませんからね……お可哀想に」
「頑張ってね~」
メルフィとディネがあっさりと言ってのける。
この二人も未来じゃ「ウィルさ~ん」「ウィル~」って懐いていた分、普通に喋っている筈なのに、なんだか冷遇をしているような態度に見えて複雑な気分だ。
歯車が少し変わっただけで、人ってこうも変わるものなのだろうか……そう思えた。
元凶を作った俺としては、あまりにも申し訳ないので同じパーティに入れてやっても良いと過ってしまうが、次期『勇者候補』を競い合う以上は出来ないルールがある。
いや、それ以前にウィルヴァをパーティに入れたら、逆に乗っ取られる可能性大だ。
それだけはやめておこう。
「学年主任のスコット先生に相談してみたらどうだ? 『
「いや、やめておくよ。自分のパーティは自分で探してみるよ……それも『
相変わらず
それにウィルヴァは不可能を可能にしちまう所もあるから侮れない。
ある意味、神に愛された男だからな。
俺なんてあくまで五年後の未来から遡及し《
だから、少しも油断しちゃいけないんだ。
俺とて、もっと成長しないと……。
それから一時の歓談を終え、俺の誕生日会は楽しく終わった。
――結局。
アウネストからの情報である『竜聖女シェイマ』の件、みんなに話すことが出来なかった。
とても言える雰囲気じゃなかったし、今日の今日で狙われることもないだろうと考えた
明日、学院に登校した時に伝えればいいだろう……そう楽観視する。
その後、俺はみんなと別れて『学生寮』に戻った。
何だか疲れてしまい、とっとと自分の部屋に戻って寝ようかと考えながら廊下を歩いていた時だ。
「――クロック、お前宛に小包が届いているぞ」
班長のスタンが話し掛けてくる。
俺が住む学生寮は生徒一人ずつ部屋が割り当てられるが、6部屋ごとに班長が存在する。
スタンは俺の隣部屋に住むDクラスの同級生だ。
「俺に? 誰からだ?」
「さぁ……差出人は書いてないようだ。とりあえず渡しておくよ」
俺はスタンから、掌くらいの正方形の小包を受け取る。
部屋に戻り、椅子に座ってもたれかかる。
「なんか怪しいな……」
真っ先にそう思った。
小包はさも俺の誕生日に合わせたプレゼントっぽく受け取れる。
そもそも、メルフィ以外に身内のいない俺が誰かから郵送される覚えはない。
アウネストの警告もあったからな……。
俺は不審に思い開封しないまま、『鑑定スキル』を発動する。
視野内で、小包全体が赤い光のようなエネルギーをまとい溢れていた。
これは『危険』であることを示している。
「どうやら、お約束通りの
『――チッ!
不意に聞こえた男の声。
窓際からだ。
俺は視野を向けると、窓にへばりつく男の姿があった。
外は夜で暗く影になっており男の顔は見えない……。
しかし、ここは三階だぞ!? 足場もない箇所でどうやって登っているんだ!?
「誰だ、テメェは!?」
『俺はガヴァチ――
男こと、ガヴァチは堂々と言い切った。
「
『あのなぁ。
「なんだと――!?」
俺は二剣の
その時――!
ズバァ!
俺の左手首に違和感が走る。
ズルっと
――左手首ごとだ。
「何ィッ!?」
『それが俺の特殊スキル能力――《
机の上に置いた、小包が裂かれた形で破られている。
ヴォォォォォン
耳に響く異音。
天井を見ると、七色に光る二つの奇妙な物体が浮いている。
「何だ……あれは!?」
円い形をした掌サイズの『円盤』が高速に回転し、部屋の光に反射して浮いていた。
――異音の正体は『円盤』の回転音だ。
『《
クソッ! あの『円盤』みたいな物体が刃になって、俺の左手首を切断したってのか!?
にしても、切断されているのに出血もなければ痛みもない……スキル能力効果か?
それに、左手を失ったのはマズイ……俺の《
このガヴァチって野郎をブッ飛ばして、ユエルの回復魔法でくっつけてもらうしかない。
『……なんだ、こいつ? 左手首が切断されたってのに、どうして、物怖じせずに落ち着いていられるんだ? 普通、あたふたして喚き散らすだろ? その風格と冷静な態度……まるで修羅場を潜った冒険者じゃないか。本当に精神が未熟な16歳のガキなのか?』
フン。
こちとら、糞未来で死にそうな目には何度も遭っている。
未だにトラウマが残るほど、精神力だけは鍛えられてんだよ!
幸いなことに、右手が無事なのと、ガヴァチがああして窓際から姿を晒している。
右手の『
俺がタイミングを見計らい踏み込もうと身を屈めた。
バン!
大きな物音をたて、扉が開く。
「――クロック! 今の物音はなんだ!? ああ!? お、お前その左手はどうしたんだ!? だ、誰かぁ、誰かぁぁぁ、来てくれぇぇぇぇぇ!!!」
班長のスタンが俺の異変に気づき、ドアを開けて叫んだ。
「駄目だ、スタン! 部屋に入ってくるな!」
ヴォォォォォォン――斬ッ!
瞬間、異音と共に2枚の『円盤刃』がスタンの顔面を切り裂いた。
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