第64話 警告と胸に秘めた挑戦
翌日、俺達は王都のギルドに戻った。
受付嬢のレジーナに、スカイドラゴンの心臓である『ドラグジュエル』を見せる。
「――レジーナ姉さん。ほら、クエスト達成してきたよ」
レジーナは驚いたように目を丸くし、『ドラグジュエル』を見つめている。
艶やかなウェーブがかかったレモン色の髪を後頭部に纏めたスタイル抜群の受付嬢だ。
「……凄い。本当に6人だけでクエスト達成したのね。普通はSランク級でも可笑しくないクエストなのに……」
「みんな優秀だからね。報酬貰える?」
「ええ、今用意するわ。それと今回のクエスト達成で、クロウくんのギルドランクも上がるからね」
「どれくらい上がるの?」
「うん、クロウくんとメルフィちゃんはランク『A』で、他の子達は『B』のままだけど、この調子だと、すぐにみんなランク上がるから安心してね」
パーティで活動しているから、先に冒険者になっていた俺とメルフィが、アリシア達より早くランクが上がっていく。
まぁ、他の子達から不満が聞かれているわけじゃないからいいんだけど。
それにしても、1ヶ月で『A』ランクか……。
この調子でいけば、卒業する前には余裕で最高ランクである『SSS』が狙えそうだ。
「――受付嬢殿。食堂にある個室と調理場を借りたいのだが?」
「はい、アリシアさん。問題ありませんけど、何に使うの?」
「今日は、我が主であるクロウ様の誕生日なのだ。したがって皆で祝おうと思ってな」
「へ~え、そういえば今日誕生部だったわね。クロウくん、お誕生日おめでとう」
「い、いえ……ありがとうございます」
は、恥ずかしい……。
忘れてたけど、未来で唯一お祝いの言葉を掛けてくれたのも、レジーナ姉さんただ一人だけだった。
ギルドカードとステータスを管理する立場だから、俺の誕生日を覚えてくれていたんだ。
報酬金を貰い、俺達は2階の食堂へ行き個室へと入った。
みんな食堂と言っているが、実際は『酒場』である。
俺達は未成年なので『食堂』と呼んでいるだけだ。
特に個室は、俺達みたいな未成年者や女性冒険者に優遇して借りることができ、また他の冒険者に聞かれたくない打ち合わせの場としても使用できた。
「クロウ様、大変申し訳ございませんが、私達に二時間ほどお時間を頂けませんか?」
「わかったよ、アリシア。二時間後に戻ってくるよ」
流石に本人の目の前で、誕生日会の準備はしづらいか。
俺は空気を読み、個室から離れる。
このままギルドを出て、王都の街中をぶらつこうと思った。
その時だ。
「――クロック・ロウ殿」
騎士団の鎧をまとった少年が声を掛けてくる。
ブラウンの髪に幼さを残した整った顔立ち。
一見、可愛らしく見えるが常にドヤ顔なのが鼻につく、稀に言う『糞生意気』。
このガキは確か、アリシアの弟……。
「アウネスト君だっけ?」
「はい、覚えて頂き光栄です」
丁寧に頭を下げて見せるが、相変わらず上から目線の態度だ。
なんだか「お前みたいのが、よく僕の名前覚えていたな?」っと、言いたげに見える。
ぶっちゃけ、アリシアの弟じゃなきゃ無視だね、こいつ。
「俺になんか用? それとも姉さんか?」
「フッ。この僕から、あのような者に用事などあるわけないじゃありませんか」
「おい、仮にも姉貴だろ!? いくら弟でもアリシアを悪く言うのは、この俺が許さないからな!」
カチンとして思わず怒鳴ってしまった。
アウネストは溜息を吐き、首を左右に振った。
「……失礼。貴方を怒らせるつもりはなかったのですが……率直に言えば、父上からの伝言を受け、貴方に会いに来ました、クロック・ロウ殿」
「カストロフ伯爵が……この俺に伝言だと?」
「はい、どこか場所を移しましょう」
アウネストは言うと、事前に用意したギルド本部とは別室である『会議室』へと連れて来られた。
流石、糞ガキでも一応は騎士団長の息子か。
父親の名前を出せば、ギルドマスターも優先して別室を貸してくれるらしい。
二人っきりになった、アウネストは「では、お伝えいたしましょう」と切り出した。
そして、
「――竜聖女シェイマが複数の信者と合流しているという情報が入っております」
っと、言ってきたのだ。
「竜聖女シェイマって、
「はい。僕はあくまで父上、いえカストロフ閣下の使いであり経緯はわかりませんが、ほぼ確実な情報とのことです。おそらくは貴族達の何者かが匿っているのでしょう」
「貴族だと? どうして、この国の貴族が、あんな邪教団に加担するんだ?」
「貴族の中に『反国王派』が潜んでおり、その者が手引きしている可能性があるのです。無論、それも調査中であり明言できる段階ではありませんが……」
「けど、そんなトップシークレットっぽい情報をどうして俺に伝えるんだ? わざわざキミを使いによこしてまで?」
「父上が仰るには、竜聖女は己を追い込んだきっかけを作った貴方達を一番に目の仇にするのではないかと予想しております」
きっかけを作った俺達だと……俺とパーティのみんなってことか?
「目の仇ってことは、俺を暗殺してくるかもしれないってことか?」
「はい。あくまで可能性ですが、他国の情報や事例などから、奴ら
「んで、俺達はどうしたらいいんだ? まさか、ただ気を付けろって言いに来ただけなのか?」
冒険者とはいえ、一応は民間人であり学生だからな。
民の税金で運営している、お前ら騎士団が俺達を守ってくれよって話だ。
つーか、とっととシェイマを捕まえろっての!
「そこは父上もしっかり考えていますよ。近日中にクロック殿とそのパーティを含め、全員スキル・カレッジの寮から出てもらい、父上が用意した安全な場所に移ってもらいます」
「本当か!?」
「はい。ですがスキル・カレッジの規則上、学生寮以外からの通学など手続きしなければならない箇所があり、今すぐというわけにはいきません。手続きが終わるまでの間、ご自分の身はご自分で守って頂くしか術はないでしょう」
「騎士団で、俺達を守ってくれないのかよ?」
「無論、学生寮前など警護につくことは可能です。ただ部外者は悪戯に敷地内に入れないという規則もあり、また他の学生に知られてはいけない事情もあります。決して完璧な警護とは言えないでしょう……特に『敵』が『特殊スキル能力者』であれば尚のこと……」
確かに、アウネストの言う通りだ。
こりゃ自分の身は自分で守るしかなさそうだ。
俺はまだ『技能スキル』で索敵と暗視がカンストしてたり、危機回避能力は高い方だけどよぉ。
問題はパーティの女子達だな。
エルフ族のディネと獣人族の混血であるセイラなら気も配り様もあるかもしれないけど……。
誕生会が終わってからでも、みんな女子寮で固まって過ごすように伝えた方が良さそうだ。
あと、新しく住むところが決まるまで、長期クエストに参加するのもありだな。
皮肉な話だが、『竜』や魔物が蠢くミルロード王国外の方が、まだ安全のような気がしてならない。
特に今の俺達にとってはな。
「……わかった。自分らでなんとかするよ。教えてくれてありがとう、アウネスト君」
「いえ、僕は父の指示で伝言に来たまでのこと。それでは……」
アウネストは背を向け、部屋から出て行こうとする。
扉の前でピタッと足が止まった。
「ああ、それとクロック殿」
「なんだい?」
「――姉のことをどうかよろしくお願いします」
なんだ、やっぱり心配しているじゃないか?
素直じゃねーな、このガキ……。
「勿論だ。姉さんのこと俺が守る。どうか安心してくれ」
「……別に僕はあの人が心配で言っているわけではありません。姉は強いですからね……ただフェアテール家にドロを塗るような真似だけは避けねばなりません。ですから、クロック殿には是非に『
まるで、俺が勇者になることで、伯爵令嬢であるアリシアと帳尻が合うような言い方をしてくる。
だから貴族って輩は嫌いだ。
やれ家柄だの名前だので、他人を評価したがる。
中には才能があっても、社会や経済上活かせない奴だっているだろうに……。
まぁ、いい。
俺はそれを否定するために
そのために、劣等生扱いである『Eクラス』の在籍にこだわっているんだからな。
――これは俺にとって、国や社会に対しての挑戦でもあるんだ。
俺はその思いを胸に秘め、誕生会を準備してくれているみんなの下へと戻った。
──────────────────
お読み頂きありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、
どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。
【お知らせ】
こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!
『今から俺が魔王です~追放され命を奪われるが無敵の死霊王に転生したので、最強の部下達と共にこのまま復讐と世界征服を目指します!~』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311
【☆新作です!】
『陰キャぼっち、終末世界で救世主となる』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452220201065984
陰キャぼっちが突然バイオハザードとなった世界で目覚め、救世主として美少女達と共に人生逆転するお話です(#^^#)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます