第63話 抜けきれない関係
「そういえば、クロウ。どうして、スカイドラゴンにトドメを刺すのをアリシアに譲ったんだい? アンタでも十分だったろ?」
セイラは不満そうに問い詰めてくる。
相変わらず背が高く、健康そうな褐色肌に大きく揺らす両胸、何より白狼族の混血らしく三角の両耳と尻尾は生えた魅力的な少女の
「スカイドラゴンの動きを止めるのにスキルを使ったからな。俺の《
「前のように心臓の動きを止めたりは? あと歳を取らせて斃すこともできるんだろ?」
「できなくはないけど、『竜』って長寿だろ? 老化させて寿命を迎えさせる前に何かしらの反撃くらいそうじゃないか……それに、俺達はパーティで戦っているんだから、何でもかんでも俺が仕留めなきゃいけないわけでもないだろ?」
「アンタは
「フン! セイラよ。この私にクロウ様が手柄を譲られたことが、そんなに不服なのか……っと言いたいが、確かにクロウ様は些か控えめな所があるのは否めませんな……
なんだか、アリシアまで諭してきたぞ。
「う~ん、欲ねぇ。あるつもりなんだけどなぁ……」
少し前は、糞未来のトラウマもあり彼女達への当てつけで、あの『勇者ウィルヴァ』がしてきたように美味しい部分ばかりをかっさらっていたけど。
今はみんなで力を合わせて勝ことに意味があると思えてしまっているんだよねぇ。
平等でいいじゃんって感じ。
「ボクは、クロウは今のままでいいよ。優しいクロウが大好きなんだも~ん」
ふわっと癖っ毛の長い
「ありがとう、ディネ」
「兄さん、あまりディネさんを甘やかさないでください! それに、兄さんに抱きついていいのは、妹である私だけです!」
メルフィは相変わらず『お兄ちゃん大好き』っ子だ。
長く艶やかなストレートの黒髪、一見して物静かな知的クールな美少女
義理だけど俺にとっては可愛い妹に違いない。
「メルフィも魔法で支援してくれてありがとうな。だから俺達は安心して突っ込んでいけるからな」
「いえ、私はクロック兄さんが
「わかっている。それと、ユエルもパーティに入ってくれて心強いよ」
「いえ、自分で望んだことですから……それに皆さんと一緒に活動できて、わたしも楽しいわ」
俺に言葉を投げかけられ、控えめなユエルは頬を染めて柔らかく微笑みを浮かべる。
右目が赤色で左目が紫色であるオッドアイに少しウェーブが入った長い銀髪、乳白色の肌に可愛らしく美しい容貌の聖女。
見習い
そして、未来と今においても変わりなく優しい女子でもあり、あの『ウィルヴァ』の双子の妹でもある。
さらに、嘗て俺が『心のオアシス』として恋心を抱いていた女子であった。
「それじゃ、俺は『竜』の解体しながら食材の確保と『ドラグジュエル』を抜き取るから、どこかで待機してくれ」
「またクロウ様お一人で? 私達も手伝いますぞ」
「いいよ、アリシア……これは、
俺は素っ気なく言うと、
心なしか、女子達は不満そうな雰囲気に見える。
みんな口には出さないが、俺の態度というよりも『雑用係』ポジにこだわる姿勢に違和感を覚えているようだ。
まぁ、さっきのアリシアやセイラに言われた通り、一応は次期
しているつもりさ……ウィルヴァに勝つためにな。
けど、
こればっかりは譲れない。
てか、このパーティで俺がやらなきゃ、一体誰ができるってんだよ?
料理とかだって、できそうな人員もメルフィかユエルくらいじゃないか?
無事に作業を終え、俺は安全そうな場所でテントを張って火を起こした。
解体した『竜』を素材に夕食を作り、川の水を
その間、女子達は「誰が俺の隣で食べて、テントで寝るのか」など相変わらず、しょーもないことで揉めていたが、俺は無視して
なんか、この仕事をしている時が一番落ち着くかもしれない。
彼女達が唯一やったことといえば、簡易テーブルと椅子を並べたくらいだ。
そして食後。
「そういえば、兄さん。明日誕生日ですね」
メルフィが嬉しそうに微笑みを浮かべて見せる。
「そうだな、16歳だ(精神年齢は21歳だけどな……)」
「な、なんと!? それは本当ですか、クロウ様!?」
「ああ、アリシアそうだけど……何故、そんなに驚くんだ?」
「当然ではありませんか!? 私、何も用意しておりません……」
ん? ああ……ひょっとして祝ってくれるってのか?
「いいよ、別に……俺のガラじゃないし」
「でも、アリシアじゃないけど前もって知ってたら、ボクだってプレゼントくらい用意したかったよ~」
「そうだよ、水臭いね。アタイだって、クロウの誕生日、ちゃんと祝ってやりたいよ」
ディネとセイラも不満も漏らしてくる。
「みんなの気持ちだけで十分さ……ここ数年、誰にも祝ってもらったことないしね」
「兄さん! 去年、私と二人でお祝いしたではありませんか!?」
「え? ああ……そっか、ごめん……そうだよな。みんなにとっちゃ、そういう事なんだよな」
危ねぇ……。
つい、21歳の感覚で言ってしまった。
何せ五年ぐらい、まともに誰からも祝ってもらってないからな。
一人で祝うのもアホみたいだし、歳だけ数えてずっとスルーしてたんだ。
けど、メルフィにとっては去年の話だし、怒ってしまうのも当然か……。
どうもまだ、この辺が抜けきれないようだ。
「とにかく、俺に気を遣わなくていいからな。いつまでも子供じゃあるまいし――」
「――クロウさん、それは違うと思うわ」
珍しくユエルがきつい口調で言ってきた。
「ユエル、どうしてだい?」
「皆さん、心からクロウさんのお誕生日をお祝いしたいのよ。パーティのリーダーであることと日頃の感謝を込めてです。わたしも同じなのですから……」
ユエルに言われ、チラっとアリシア達の顔を一瞥した。
みんな、とても寂しそうな表情で俺を見据えている。
思わず胸の奥辺りが、ぎゅっと絞られてしまう。
「……ごめん、みんな。俺の感覚が麻痺していたようだ。そうだな……じゃ、明日ギルドで、みんなで食事会でもしないか?」
「ボクいいけど、プレゼントは?」
ディネは寂しそうに聞いてくる。
「みんなが、こうして傍にいてくれることが俺にとって一番のプレゼントさ。だけどお祝いだけでもしてくれると嬉しいな」
俺は自分で言っていて恥ずかしくなり、照れ笑いを浮かべる。
その表情に、みんな気を良くしたようで笑顔になった。
「うん、わかったよぉ、クロウ!」
「プレゼントはご用意できませんが、飾りつけやケーキくらいは私達でご用意いたしましょう!」
「おっ、アリシアにしては、たまにはいい事言うねぇ! アタイも拳によりをかけるよ!」
「おい、セイラよ! 貴様は私に決闘を申し込まれたいのか!? それにケーキを作るのに、拳は一切使わんぞ! 一体、貴様は何をするつもりなのだ!?」
「私もケーキ作り手伝うわ……アリシアさんとセイラだけだと、なんか嫌な予感してくるし……」
ユエルはじゃれ合う二人を眺め、気遣わしい感情を抱いているようだ。
「私はちゃんとプレゼントを用意していますからね、兄さん」
メルフィは自慢げに言ってくる。
そもそも唯一俺の誕生日を知っていたお前が、他の子に前もって教えてあげりゃ、良かった話じゃないか?
今更ながら、そう思えた。
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