第59話 女子達の想いと決断
本心じゃ、ウィルヴァこそ
ている。
エドアール教頭の何かしらの思惑があるとはいえ、俺はそれに乗っかることにした。
推薦を蹴って退学処分の借金塗れになってもバカらしい話だしな。
それに、これは好機だ。
俺にとって絶対者である、ウィルヴァ・ウェストという男に真正面から挑めること。
そこに未来の
誰にも邪魔されない、俺とウィルヴァだけの戦い――。
勝っても負けても恨みっこなしだ。
(まぁ、俺が負けたら冒険者としてスローライフ目指すだけだけどな……)
それから教頭室から退出すると、丁度一限目が終わるチャイムが鳴っていた。
考えてみれば、朝からとんでもない目にあったもんだ。
「――僕は教員室に寄ってから教室に戻っているよ」
ウィルヴァは他の先生達と一緒に立ち去って行く。
その場には、俺達パーティとリーゼ先生が残った。
「リーゼ先生は教員室に戻らないんですか?」
「えっとぉ、戻るよ~。でも先生ね、心から嬉しいよ~。クロックくんが
「そ、そうですか……はい」
リーゼ先生は俺に接近し、ぷるんと柔らかそうな朱唇を耳元に近づけた。
「もうポイント上がりまくりだよ……先生、待っているからね」
艶やかな囁き声に、俺は背筋がぞくっとする。
この先生……やっぱガチだ。
どうする? ウィルヴァに勝ったら結婚しなきゃならないのか?
「それじゃ、クロックくんにみんなもまたね~!」
リーゼ先生は離れ、何事もなかったようにテンションを上げる。
「は、はい……」
「それとクロックくん」
「何ですか?」
まだ俺に何か用があるのか?
「――エドアール教頭先生には気をつけてね」
「え? どういう意味ですか?」
「キミも薄々気づいていると思うけど、中々の策士だよ。だから他の先生達に敬遠されているの……」
「……わかりました」
俺が頷くと、リーゼ先生は投げキッスをして教員室に戻って行った。
中々の策士か……そうかもな。
結局、俺もあの
――だが上等だ。
エドアール教頭が俺を利用するなら、俺はさらにそれを利用してやる。
年齢は教頭の方が遥かに上だが、俺には五年後の記憶があるんだ。
俺の身の回りは大分変っちまったが、大局的にはほとんど変わっていない。
この記憶と技能スキル、そして特殊スキルがあれば対抗できる筈だ。
「ぷぅ~っ! クロウ!」
ディネが頬を膨らませながら、顔を近づけてくる。
明らかに怒っている。
「なんだ、どうした?」
「リーゼ先生と何こそこそ話してたのぅ~!? 待っているってどういう意味ぃ~!?」
やばい。このエルフ娘、めちゃ耳がいいんだ。
どうやら会話を聞かれていたらしい。
「何でもないよ……教室で待つって意味だろ? 俺がEクラスから移動しないって言ったから……」
「本当? ならいいけど……」
ディネは腑に落ちないながらも納得している。
危ねぇ……とりあえず上手く誤魔化したぞ。
いくらその気がなくても、決して知られていい内容じゃない。
それこそ女子達にブチギレられ、みんなでウィルヴァの所に行かれてしまいそうだ。
案外、運命の歯車的にそうなっているのか?
考えてみりゃ、関係性が変わっただけで、みんなこうして揃っているわけだしな。
けど、もう後には引けない。
――たとえ一人になっても俺はウィルヴァと勝負する。
その意志だけでも彼女達に伝えるべきだ。
「みんな……俺はこれから
「兄さん、何が言いたいの?」
メルフィが尋ねてくる。
「――冒険者ギルドだ。俺は精力的にギルドでクエストを請け負ってこなしながら、実戦経験で成績を上げる。今回のクエストで学院から評価が上がったように、内部からじゃなく外部で動くことで自分の地位を確立したいんだ」
「クロウ様、朝のホームルーム前に仰っていたやり方ですね?」
「そうだ、アリシア……ここからが本題なんだが、ギルドでクエストを請け負うということは仲間が必要となる……みんなの力を借りたいんだ」
「私は教頭の前で話した通り、クロウ様の想いのままで良いと思います。それに、これは天命なのかもしれません。貴方様が
アリシアらしい返答だ。
女騎士として揺るぐことのない忠誠心を俺に向けてくれる。
「ありがとう……アリシア」
嬉しすぎて思わず目頭が熱くなってしまう。
アリシアが味方になってくれるだけで、こうも心強く不安が解消されるとは――。
本当、あの糞未来での鬼畜ぶりはなんだったんだと思えるくらいだ。
「クロック兄さん、私も同じです。兄さんと一緒にいられれば何も怖くはありません」
「にしし~♪ ボクも同じだよ~、クロウ! 絶対に勇者にしてあげるからね~」
「メルフィ、ディネ……嬉しいよ。これからもよろしく頼む」
信じていた通り、この三人は俺について来てくれる。
正直、ホッとしている……もし未来通りなら、ウィルヴァに勝つどころか今度こそ心が折れてしまいそうだ。
「アタイは――……」
セイラは言葉を詰まらせる。
「セイラ、無理しなくていいからな……これは俺の戦いだ。お前はウィルヴァと中等部からの付き合いだし仲間なんだろ?」
「そうさ……アタイはウィルに
「セイラ……」
「……ウィルは優秀な男さ。きっとアタイの力がなくても問題ないだろう。でもクロウ、アンタはどうだい?」
「え? 俺か?」
「アンタにとって、アタイは必要ないのかい?」
「正直に言うよ――俺はセイラが必要だ。そして、ここにいるみんなの力が必要だ。ウィルヴァに勝つためだけじゃない……俺はみんなを誰よりも信頼しているから……ずっと、みんなと共に歩みたいと思っているんだ」
俺はここまで胸の内をさらけ出すのは珍しい。
――いや初めてだ。
ましてや未来で散々因縁のある女子達に向けて……。
これまで一緒に戦って過ごしてきたからだろうか。
勝負に負ける怖さよりも、みんなを失う怖さの方が強い気がしてならない。
この想いだけは絶対に口には出せないけど……。
「クロウ様、勿論です」
「兄さん、私もです」
「ボクもだよ、クロウ」
「なら答えは、はっきりしたよ――アタイはクロウについて行く。アンタが必要としてくれる限りね」
「セイラ……みんなもありがとう」
これで俺のパーティがほぼ揃った。
後は――。
俺はチラッとユエルを見つめる。
彼女は俯きずっと黙ったままだ。
無理もないのはわかっている。寧ろ当然の反応だと思う。
心優しい彼女が尊敬する兄に対して障害になるような事を望むわけがない。
それこそ天秤にかけるまでもない筈だ。
特に俺のような万年
五年後の未来だって、そうだったじゃないか?
永遠に接点のない片想いってやつだ。
まずい……違う方向でトラウマスイッチが入りそうだ。
ユエルは顔を上げる。
その綺麗な
「ユエル、どうした?」
「クロウさん、わたし決めました――」
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