第58話 宿命のライバル




「教頭、僕に何か御用でしょうか?」


「ああ、ウィルヴァ君、よく来てくれた。ここに招いたのは初めてだね? 迷わなかったかい?」


「はい、イザヨイ先生からルートを教えて頂いたので……ユエル? それにクロックくん……どうしてキミ達がここに?」


「俺達もエドアール教頭に呼ばれて話をしていんだよ……」


 なんでこいつが呼ばれたのか。

 さっきの話の流れで大体予想はついている。


 おそらくは――


「ウィルヴァ君、立ち話もなんだから座りたまえ」


 エドアール教頭が言うと、俺達の時と同様にいつの間にかウィルヴァの真後ろに一人掛けのソファーが置かれている。

 ウィルヴァは戸惑いながらも腰を下ろした。


「つい先程、クロック君にも話していたんだがね。私はキミ達の二人のうち、どちらかを次の勇者パラディン候補として推薦したいと思っているんだ」


 案の定ってやつだ。

 この教頭、俺とウィルヴァを天秤にかけるつもりだ。


 より優秀な『竜狩り』が行える勇者パラディンを選ぶ人材として。


 俺とウィルヴァにとって、それは何を意味するのか――。


「……僕とクロックくんのどちらかが、勇者パラディン候補ですか?」


「そうだ。現時点で、我が国には勇者パラディンがいるが、私が知る限りあと一年かニ年で枠が空くだろう……スキル・カレッジとしてはある程度の目星をつけて置かなければならないのだ。学院の生徒全体を評価する限り、三年と二年には該当者はなし。一年では、キミとクロック君のどちらかが適任だと思っている。その為に、ウィルヴァ君の意見を聞きたい」


「僕は拒む理由は一切ありません。勇者パラディンになるために今まで努力してきたのですから……是非にお願いします!」


 赤色の瞳と紫色の瞳のオッドアイを輝かせ、ウィルヴァは即答で返答をする。


 やっぱりな、この男ならそう言うと思ったぜ。


 ここで俺もイエスと言ってしまえば、必然的にウィルヴァは目標でなく、本当の好敵手ライバル関係となるわけだ。


 ――次の勇者パラディンの座を奪い合うための。


 五年後の未来では難なく確実にその座に君臨した本物の勇者パラディンと、その下っ端の雑用係ポイントとして散々恥辱を受けていいた俺が奪い合いの関係……。


 随分と奇妙な展開になったもんだ。


 だが、やっぱり俺はスローライフを目指したい。

 勇者パラディンになったからって、『竜狩り』ばっかりさせられ下手したら食われてしまう。

 

 一生懸命に戦ったからって何かが変わるかけじゃないし、現に五年後の未来だってそう大きく情勢が変わらなかった。


 結局、誰が勇者をやったって同じなんだ。

 

 それなら俺は当初の目的通り好きに自由に生きてやる。

 SSS級の冒険者になって世界中を観て回るのもありだな。


 とか考えている最中、ウィルヴァはソファーから立ち上がり、何故か俺の前に立った。


 スッと俺に向けて右手を差し伸べてくる。


「クロックくん、これでキミとは本当の意味の好敵手ライバルとなったわけだね」


 何だと? こいつ突然、何を言ってやがる?


「どういう意味だ?」


勇者パラディンの称号を得るために、僕とキミの二人で競い合おうじゃないか?」


「何だってぇ!? ちょっと待ってくれ! ついさっき俺はエドアール教頭先生に勇者パラディンになるつもりはないって言ったばっかりだぞ!」


「いやクロック君、キミは目指してないと言っただけだろ? 推薦するかの意志はあくまで私にある。相当する実力があると判断すれば強制的にも『対竜撃科』に移動してもらう。言っておくが、推薦を拒否するということは自主退学相当の覚悟が必要だと思ってくれ。それがどういう意味を要するか、聡明なキミならわかる筈だ」


 つまり、それまでの掛かった費用を全額返還しなければならなんだろ?

 おまけに逃げ出せば国から叛逆者扱いされるってか?


 クソッ、この教頭。

 痛いところ突いてきやがって……。

 紳士ぶっているが、この作為的な所が他の先生から嫌われている部分かもな。


 ぶっちゃけ俺一人ならこの国から抜け出せる自信がある。


 けど今は無理だ……。


 まだトラウマがあるけど、メルフィとも信頼関係も戻っているし……それにパーティのみんなと離れたくない。


 なんだかんだ、彼女達との関係が心地いいんだ。


 クソッタレ――。


 俺は立ち上がり、ウィルヴァが差し出した手を握った。


「いいぜ、ウィルヴァ・ウェスト……お前の挑戦、受けてやるよ! 後悔してもしらねぇからな!」


「ああ勿論だ。お互い正々堂々と頑張ろう!」


 この爽やか熱血漢め……まぁいい。


 思いがけない幸運とか話の流れで推薦されるなら気も引けるが、真正面から堂々と競い合って実力で勝ち取る分には胸も張れるだろう。


 それに俺は男としてウィルヴァに勝ちたい。


 越えられることを証明したいんだ。


 スローライフは勇者パラディンを引退してから目指しても遅くない。

 どうせ、そう長く続けられない職種だからな。


「それではクロック君も勇者パラディンを目指すってことでいいんだね?」


 エドアール教頭がニヤッと牙を見せながら微笑んでいる。

 すっかり、この吸血鬼ヴァンパイア先生の掌で踊らされているような気がしてきた。


 そう上手く踊らされてたまるか!


「はい……ただ俺からお願いしていいでしょうか?」


「なんだい?」


「さっき言っていた『対竜撃科』には移らず、あくまでもEクラスで在籍したまま、ウィルヴァくんと正々堂々と勇者パラディンを目指したいです。もし、俺に推薦が決まったら、その時は教頭先生の言う通りにいたしますので……」


 エドアール教頭は口元に指を当て考え込む。

 紳士そうな顔をして何を思っているのかわからない。


「なるほど……悪くない話だ。でもクロック君、Eクラスに在籍している限り、キミは不利なことに変わりないよ。何せ『対竜撃科』とは授業内容そのものが異なるからね」


 百も承知さ、そんなこと……。


 ――これはハンディキャップだ。


 俺には五年後の記憶と身に着けた技能スキルがある。

 Aクラスでウィルヴァと同じように学んで勝ったとしてもなんの意味もない。


 お互い後腐れなくフェアに競い合うために平等な条件でなければならないんだ。


 後は……。


 俺は隣に座るアリシア達を見つめる。



 彼女達がついて来てくれるかどうか――。


 未来通り全員がウィルヴァの所に行かれたら、間違いなく俺に勝ち目はないだろう。


 ――けど、今のこの子達は信用できる。


 少なくてもアリシアとメルフィとディネは俺について来てくれる筈だ。


 セイラも信じたいが、ウィルヴァとは中等部からの仲間でもある。

 そこは強制できないし、セイラの一存に委ねたいと思う。


 ユエルは……難しいな。

 きっと実兄であるウィルヴァの方に行くに違いないし、それは当然の話だ。


 俺は立ち上がり、エドアール教頭と向き合う。


「教頭先生、俺はそれで構いません……どうかお願いできますか?」


「わかった、クロック君。私もキミには後ろめたさもある特別に認めよう。但し勇者パラディンの推薦となった場合、私の言う通り『対竜撃科』に移ってもらうよ。それが条件だ」


「わかりました……」


 俺が潔く返答すると、後ろの先生達が拍手をしてくれる。

 特にリーゼ先生がガッツポーズをしているのが気になった。


 アリシア、メルフィ、ディネ、セイラ、ユエルも立ち上がり温かく拍手をしてくれる。


 ありがとうみんな……でもあんまり嬉しくねぇ。

 

 なんだかんだ最終的には、エドアール教頭の思惑通りに事が運んでいるからだ。



 そう――ウィルヴァが来てから話の流れが変わった。


 教頭はこれを狙って奴をこの部屋に招いたのだと俺は思っている。


 きっと、スコット先生から前に拒んだ経緯を聞いて事前に手を打ったに違いない。

 スキル・カレッジの体制に反骨的な俺をどう抑えつけるか……。


 伊達に150歳は生きていない、大した策士ってか?

 しかし、このまま屈服するのもイラっとするけどな……。


「クロックくん、これから正々堂々と競い合おう」


 ウィルヴァは俺と向き合ったまま平和そうに笑っている。

 その言葉に妙な高揚感が芽生え始めてきた。


「そうだな……何かようやく、アンタと同じ高さに立ったような気分だ」


「……? クロックくんは相変わらず可笑しなことを言うね……まぁ、いいか」


「クロウだ」


「え?」


「良かったら俺のこと、クロウって呼んでくれ」


「わかったよ、クロウくん」


 どこまでも爽やかに微笑んでくる、ウィルヴァ。

 気づけば俺も笑っていた。


 この気持ちが何なのかわからない。


 まさか奴と友情が芽生えたってのか?

 

 いや違うな……きっと俺は嬉しんだ。


 今まで歯牙にもかけられなかったウィルヴァ・ウェストに、本当の意味でライバルとして認めてもらったことに――。






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